ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
第69話『輝く大地を超えて』
俺は“漆黒のオーディン”、果てなき道を同志と共に歩み行く、選ばれし闇の呪術士だ。
リーガン公爵領都デアドラには、円卓会議が開催されるまで滞在できた。
デアドラ視察という名の観光で『フォドラの夜明け』のみんなも羽を伸ばせたみたいだ。
円卓会議にはヒルダのお父さんのゴネリル公爵、リシテアのご両親のコーデリア伯爵と伯爵夫人、マリアンヌのお養父さんのエドマンド辺境伯は現れたが、娘のヒルダたちは来なかった。
会えなくて残念だったが、一応親御さんたちに挨拶して顔を合わせることができてよかった。
円卓会議に臨むクロードとローレンツに別れを告げて、デアドラを立った俺達『フォドラの夜明け』は、同盟のダフネル侯爵領を抜けて王国のガラテア伯爵領へと向かった。
ガラテア伯爵領では伯爵の娘であり級友でもあるイングリットが俺たちを出迎えてくれた。
「みんな、久しぶりですね! 元気でしたか?」
「イングリット、会えて嬉しいです! ほら、デアドラのお土産を持ってきましたよ」
「あら〜お化粧してるのイングリット? ⋯卒業してもお化粧に興味を持っていてくれて嬉しいわ~」
「グリットちゃん、どうしたの。もしかして、誰か好きな人とかできたの?」
イングリットと会えて特に嬉しそうにしているのは青獅子で一緒だったアッシュとメルセデスと黒鷲だったドロテアだ。
⋯同学級だった二人はわかるけど、ドロテアとも仲が良かったのか、意外だな。
「この化粧には、少し訳があって⋯いえ、そんなことより、みんなに会えて嬉しいです。セイロス教団で最強と名高い『フォドラの夜明け』がわざわざ挨拶に来てくれて父も喜んでくれるでしょう」
「王国でもあたしたち教団最強なんて言われてるの? ⋯ふふふ悪い気はしないわね」
「教団の精鋭騎士団からの選りすぐりで再編成したから当然と言えば当然だよな」
「率いるオーディンはともかく、“紅蓮のルーナ”の帝国軍第15軍団長討伐、“正義の一矢”の神技狙撃、戦火で苦しむ人たちをその優しさで癒す“慈愛の聖女”、“戦場の歌姫”が歌う敵軍への葬送曲⋯吟遊詩人の口から謳われる物語の数々が全て友人の名前だった時、羨ましいと同時に凄く誇らしい気持ちになりました」
俺はともかくって、なんでだよ! ⋯まあ、イングリットとは特別仲良くしてたわけではないから俺の活躍はそこまで嬉しくはないってことか⋯
褒められたルーナ、アッシュ、メルセデス、ドロテアも嬉しそうにしている。
「まあ! わたくし、“純白のフレン”は吟遊詩人さんにどう謳われてましたの? イングリットさん、教えてくださいましてよ!」
「フレンさんはまだ『フォドラの夜明け』に入って少ししか経ってませんから⋯あまり知られてないのではありませんか」
「ま! そんなぁ⋯」
「オデはどんな風に言われてるんだあ? 『一番デカい筋肉!』とかなら嬉しいなあ」
「僕もどういう風に謳われてるのか⋯恥ずかしいけど気になるね」
俺もどんな風に謳われているのか、大変気になる話だ……
最近、妙に『フォドラの夜明け』が有名になってると思っていたら、吟遊詩人が歌を作っていたのか。
「いいえ、私が吟遊詩人から聞いた歌を語るより、私はみんなの口からどんな出来事があったか知りたいです。貴方たちの口から語られる実体験はきっとどんな物語よりも瑞々しく、素晴らしいものでしょう」
「フフフ、そこまで言うなら仕方ない……まずは“漆黒のオーディン”の激動の記録を語って聞かせよう……」
「あんたは早くガラテア伯に挨拶に行ってきな! 喋り出すと長いんだから」
「あっ、私もオーディンと一緒に父に会ってきます。歓待の準備を進めるので、みんなはゆっくり待っていてくださいね……」
レオニーから急かされたのでガラテア伯に会いに行こうとしたら、イングリットも一緒についてきた。
ガラテア伯とは初対面だし、気を遣ってくれてるのかな?
「イングリット、別に一緒に来なくても……みんなと話しててよかったのに」
「いえ、貴方は大修道院ではシルヴァンとフェリクス以上の問題児でした⋯父相手に問題を起こされても困りますから」
普通に問題を起こさないか心配されてるだけだった⋯
俺も学校を卒業して少しは落ち着いた大人になってるぞ!
「ガラテアの領地はあまり裕福ではありませんから⋯歓待と言っても質素な料理しか出せませんけど、みんなは喜んでくれるでしょうか?」
「そういえば、ガラテア領はあんまり作物が採れないんだったな⋯ならば俺の宴会用呪術〈ピュアジンク・キュイジーン・トメイトゥ〉でトマトを召喚して盛り上げるか⋯」
「やめてください! 学生の時、舞踏会をトマトまみれにした呪術でしょう、それ! ⋯ですが、ガラテアの食料事情を改善するには良いかもしれませんね、その呪術」
「いや、残念ながら〈ピュアジンク・キュイジーン・トメイトゥ〉はなぜか俺にしか使えないんだ⋯」
何故かはわからないがトマトの召喚呪術は他の魔道士たちに教えても習得させることができなかった⋯おそらく彼らにはトマトとの絆が足りず、トマトを召喚する血の定めが無いのだろう⋯
『フォドラの夜明け』の連中は食料節約の為にいつも俺の呪術で召喚したトマトを食べさせられてるから、宴会でトマト料理が追加されたとしてもたいして喜ばないだろう。
「そうですか、それは残念です」
「代わりに、ガルグ=マクで使っている作物の収穫が早くなる魔法を教えてやるぜ。そっちは魔法水晶と魔道士が何人かいれば出来るからな」
「本当ですか!?」
イングリットがおおげさに見えるくらいに驚いて喜んでいる。
たぶん、山岳地帯が多いガラテア領の地形はガルグ=マクとあまり変わらないだろうから、一定の成果は期待できるだろう。
『植物の成長を早くする魔法』を開発したコンスタンツェもこの魔法が広まることを望んでいるから、『開発者コンスタンツェ=フォン=ヌーベル』と大きく書かれた資料をガラテア伯に渡しておこう。
「最後にガラテア領の娘として、学生時代の友人を迎えることができて本当に良かったです⋯」
「⋯最後?」
「いえ、なんでもありません。⋯父の部屋はこちらです」
◆◆◆
俺がイングリットと挨拶に行った時、ガラテア伯爵は俺たち『フォドラの夜明け』が訪れてくれたことを大変喜んでくれた。
特に『植物の成長を早くする魔法』に関する資料を渡した際には、感極まって泣きそうになってもいた⋯いや、どれだけ領地の食料事情が苦しかったのかは知らないが、喜んでくれてなによりだ。
ガラテア伯爵への挨拶は終わり、イングリットが催してくれたささやかな歓迎会が開かれていた。
準備中にルーナやレオニーたちが鹿や猪を狩ってきてくれたので、ちょっと豪華になったみたいだ。
「ええ!? イングリット、結婚するんですか?」
「あら~? これは、おめでとう⋯でいいのかしら?」
「はい、すでに多額の準備金を用意してくれてると聞きますし⋯ガラテア家の為になる結婚と、思います」
「ちょっと、何の話してるの?」
「ま! ご結婚と聞こえましたが、本当ですか?」
イングリットがアッシュとメルセデスと話している内容が気になる内容だったので、みんなイングリットの周りに集まってきた⋯特に女性陣は興味津々のようだ。
「お相手は誰なのグリットちゃん」
「商人の身から爵位を得た、同盟領の新進貴族です。恐らく、家名に箔をつけるため、私の持つダフネルの紋章が欲しいのでしょう」
イングリットはそう言って、縁談の話が書いてある手紙をドロテアに見せた。
俺もそれを覗き込んで見てみる、その同盟貴族はガラテア領から煉獄の谷アリルを挟んだ同盟側の領地を持っている子爵らしい。
ドロテアは何か得心がいったように何度か頷いているが……
「ふうん……ああ、やっぱり。……まあ、そうでしょうねえ」
「どうかしたのですか、ドロテア?」
「グリットちゃん、私、この人知ってるわ。歌姫だった頃に言い寄られたもの。ろくな男じゃないから、絶対にやめといたほうがいいと思う」
この貴族のことをドロテアは知っているようだ。
結構な言われ様だが、実際に会ったことがあるドロテアが言うのならそうなのだろうか?
「ですが、多額の持参金を用意してくれると」
「言っていますから、多少のことには目を……持参金の出所を聞いたら、グリットちゃん、きっとひっくり返っちゃうわよー?」
「……え?」
「貴女だって、血に塗れたお金で家を建て直したくはないでしょ? ま、噂の域は出ないけどねえ。調べたほうがいいと思うわ。みんなはどう思います? 調べに行きません?」
ドロテアの提案で『フォドラの夜明け』は急遽、ガラテア領を出発することになったのだった。
◆◆◆
思い立ったら即実行ということで、イングリットと婚約した貴族を調べるために煉獄の谷アリルを抜けて再び同盟領に戻った『フォドラの夜明け』は現地で調査活動を開始。
その貴族は調べれば調べるほどに悪事の証拠がでてきた。
とりあえず、一度戻ってガラテア伯爵に報告しようとしている最中に煉獄の谷アリルでイングリットを狙ったごろつきから襲撃されたこともあったが⋯特に苦戦することなく殲滅することができた。
煉獄の谷アリルは灼熱の溶岩が噴き出る火山地帯だった。
伝承では、女神様が堕落した人間たちに裁きを下した、その名残と言われており、かつてこの周囲に広がっていた森は天より降った光の柱によって焼き払われた。
その伝承から、炎によって罪を焼き、清める、煉獄という考えが生まれた⋯と士官学校の授業で習ったことがあるが、別の学者からは火山が噴火しただけではないかとの意見もある。
『天より降った光の柱』と『火山の噴火』は結構違いがあるとは思うが……大昔の話なのであまり考えても意味がないことだ。
言えることは、とにかく煉獄の谷アリルが暑かったので早く戻りたかった……以上です。
「破談になって良かったわね~イングリット」
「私のグリットちゃんをあんな悪徳貴族に渡せるもんですかって」
「はあ、いつの間に私はドロテアの物になったのでしょう?」
ガラテア伯は、今回の件の報告を受けたあとすぐに結婚を破談にしてくれたみたいだ。
メルセデスとドロテアはイングリットの望まない結婚が破談になったことを自分のことのように喜んでいる。
「あんな悪人がお金さえあれば簡単に貴族になれるなんて……同盟も僕が思っているより良い国じゃなかったのかもしれないね」
「まあ、そう怒るなよアッシュ。今回の件は同盟の次期盟主様に報告が行くんだろ? クロードがなんとかしてくれるさ」
「同盟は拝金主義の傾向が高いですからね……でも、商人出身の貴族の中にも立派な方はたくさんいますよ」
「イグナーツ、同盟は背筋主義が多いのかあ……オデ、知らなかったなあ」
今回調べた貴族は普通にお家取り潰し級の悪事をやっていた。
円卓会議に出ている諸侯はクロードやエルヴィン殿以外もまともそうな人しかいなかったので、この件の貴族が赦されることはないだろう。
「みんなには恩ができました。……婚約が破棄され、しばらく暇ができたので私にも『フォドラの夜明け』の活動を手伝わせてもらえませんか?」
「ええ〜? いいの、イングリット」
「お父さんに許可が貰えたなら、構わないけど」
「ラズワルド、ルーナ、もちろん父からは許可を貰っています。むしろ、父は学生時代の友人というだけで私とガラテア家をここまで助けてくれた、みんなとの縁を大切にするべきだと後押しもくれました……この槍です」
「⋯魔槍“ルーン”!!」
“ルーン”はガラテア家に伝わる、ダフネルの紋章と一致する英雄の遺産の槍だ。
ガラテア家にあることは知っていたが⋯“テュルソスの杖”に続き見ることができて嬉しい。
“ルーン”の性能は思ったよりも控え目だな、ルーナの持つグラディウスと似た性能をしているが、投げ槍として扱える分グラディウスの方が使い勝手が良いのかもしれない。
しかし、英雄の遺産持ちが道中に加わる名声は大きい。
「英雄の遺産を持ってる方が『フォドラの夜明け』と共に来てくださるなんて⋯盛り上がってきましたわね!」
「イングリット、運命を共に⋯!」
「はいっ!」
オーディン「見破るか、欺くか…」
ルーナ「三人の中には必ず一人、裏切り者の『闇』が潜む」
ラズワルド「闇?じゃあオーディンだね」剣グサッー
オーディン「ギャァァァ!!?」
『万紫千紅』と『シャドウズ』ファイアーエムブレムの新作ラッシュに驚いています