ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
(竪琴の節 四日)
俺は“漆黒のオーディン”、剣と魔導を極めし闇の魔法剣士だ。
「やあ、オーディン」
「なんか用か? ラズワルド」
午後の講義が終わって、自由時間になったとき、ラズワルドに呼び止められた。
書庫でも行こうかと思ってたんだが。
だいたい、コイツから話かけて来るときはろくなことがない。
「ちょっと、これから僕と出掛けない?」
「嫌だよ。どうせナンパでもしにいくんだろ」
「うっ、なんでわかるんだい」
バレバレなんだよ!
コイツは前の世界にいた時に、男の仲間といっしょにナンパしようとしていたことがある。
まあ、その仲間を出しにして自分のナンパを成功させようとしていたが、逆にその仲間がモテてしまうという、情けない話なんだが。
俺を出しにしてナンパしようだなんて、そうはいかないぞっ!
「どうせ、学校中の女子に声を掛けまくってフラれまくったんだろ」
「そんなこと無いさ。ここではいつもより成功しているさ」
「嘘つけ、昨日
あのときは、たしか学級模擬戦に出てたドロテアだったな、あっさり断られてたけど。
「そ、そんなことろまで見てたのかい」
「とにかく、ナンパなんてしている暇があるなら、時間をもっと有意義なことにつかうんだな」
「それなら、君は時間を有効につかえてるのかい?」
「フン、当たり前だ。俺は今から書庫に行って、伝説の武器と言われる英雄の遺産やそれを使っていた英雄の伝承について調べてくる。俺たちの使命に関わりがあるかも知れないからな」
「単に、君が伝説の武器や英雄のことが気になってるだけじゃないの?」
「趣味と実益を兼ねた、最高の時間の有効活用だろう」
完 全 論 破 !
ぐうの音も出ないほどの正論で叩きのめしてやったぞ。
「僕のナンパだって、趣味と実益を兼ねた、有意義なものだ」
「はあ? なに言ってるんだお前……」
「だって、この士官学校や大修道院には貴族や有力者の子弟が多くいる……そういう人たちと人脈を作ることは、今後の僕たちの使命にとって非常に有意義なことだと思わないかい?」
「むっ、たしかに一理有ると言えなくないが……」
コイツは本当に、ああ言えばこう言うやつだな。
しかし、この士官学校にいるうちに世界の危機に挑む選ばれし仲間を増やしておくことは、たしかに有用だな。
今季の生徒は、三学級の級長を始め高位貴族の子どもや紋章持ちの生徒が異常に多いらしい。
コイツに言いくるめられるのは癪だが、人脈を作っておくのも悪くないかもしれない。
入学したばかりだから、友達作りも大切ってやつだな。
「しょうがないなあ、今回だけだぞ」
「本当かい? さっそく女の子を探そうよ!」
やっぱりコイツ、人脈とか全然考えてねえな、女の子のことしか頭にない。
◇◇◇
俺たち二人は中庭に来ていた。
食堂から訓練所へ向かう時に通るくらいだったで利用したことはなかったが、歓談の場所として生徒や修道院の人達に使われてるらしい。
「こういうときは二人組に声をかけるのが一番だね。二人組は……」
「いないぞ。あっちの三人組でいいんじゃないか?」
「ダメだよ! ちゃんと人数を合わせないと成功しないよ……あっ、あっちに二人組がいる。声をかけて見よう」
「あいつら、ウチの学級じゃねえか。人脈作りはどうした!」
「同学級の子たちと仲を深めるのも立派な人脈づくりさ」
「それなら一人で行ってこいよ、どうせ成功するだろ」
「はぁ……君はわがままが多いね」
同じ学級のやつに声を掛けて、お茶するのなんてただ雑談するのと大して変わらないだろ。
「そういえば、エーデルガルトとはお茶したのか?」
周囲に二人組の女の子がいないので、ラズワルドに聞いてみる。
「一回だけお茶したよ、ただ……」
「ただ?」
「従者のヒューベルトが僕の後ろにずっと立って威圧してきてね。あまり話せなかったよ」
「ははっ、なんだそりゃ、笑えるぜ」
実に居心地が悪かっただろうな、それは。
ヒューベルトは俺と同等に闇の雰囲気を纏わせている、エーデルガルトの従者だ。
主に失礼な態度をとった人間に、脅しをかけることもあるらしいから、ラズワルドはそういう扱いをされたのだろう。
「笑いごとじゃなかったよ、あのときは。帰り際に小声で『
多分、正面から戦えばラズワルドのほうが強いだろうけど、ああいうやつは何してくるかわからないからな、近寄らないほうがいいだろう。
「あっ、ちょうどあっちに二人組がいるね。声をかけてみよう」
やっとか……あれは、
隣の背の小さい女の子はわからないが多分、
メルセデスと仲良く歩いてるのを何度か見かけたことがある。
「ねえ、君たちこれから僕たちといっしょにお茶しない?」
「えー? もしかしてナンパ?」
「あらあら?」
「僕は
なにがナンパじゃないだよ、ナンパ野郎のくせに。
俺が魂が震える、自己紹介を見せてやる。
「……俺は“漆黒のオーディン”、秩序と混沌の狭間で暗黒なる供物を創生せし、闇の呪術士だ」
「えぇ? ……そういう自己紹介、本当に言うんだね。あたしはアネット、よろしくね。で、こっちが親友のメーチェ……」
「アンの親友のメルセデスよ、この士官学校に来る前はね~王都の魔道学校に通っていたのよ」
「……俺のことが噂になっているのか?」
「う、うん。金鹿の学級に凄く怪しい傭兵が入学したって、みんな話してたよ」
「書庫で一人ごとを言いながら手を抑えてたり、温室で叫びながら魔力を注いでた、みたいな噂がいっぱいあるのよね~」
「オーディン、またやらかしてるのか、君は……」
……心当たりは有るんだが、怪しいかそれ? 結構ショックなんだが。
「でも、殿下とアッシュやドゥドゥーは、悪い人じゃないと思うって言ってたよ」
「本当か? あいつらやっぱりいいやつらだなー」
「怪しいってところは否定しなかったのよね~」
そこも否定してくれよ! 頼むぜ、おい。
二人はこれからお茶をするところだったので、俺たちも混ぜてもらい四人でお茶をすることになった。
俺のおかげだな! 感謝しろよラズワルド。
◇◇◇
「あたし、士官学校に入学したのは父さんを探しにきたからなの」
アネットのお父さんは王国で国王直属の騎士を勤めていたが、4年前にあったダスカーの反乱で国王を殺害されてしまい、自責の念からか誰にも言わず、行方をくらませたらしい。
アネットは、敬虔な信徒だったお父さんはガルグ=マク大修道院に必ずいると思い、士官学校に入学した。
士官学校に入るために、王都の魔道学校で優秀な成績を修めて推薦をもらったりして苦労しながら、ここまでたどり着いたそうだ。
めちゃくちゃいい子だなー。
ここまで努力して、自分の運命を切り開いてきたなんて……
「僕たちも君のお父さんを探すのに、協力するよ」
「フッ、この闇の呪術士オーディンに任せておけ!
「二人とも、助かるよー、ありがとう!」
「ふふっ、アン、良かったわね~」
ついでに、あの呪術を試してみるか。
「あとアネット、髪の毛を何本か欲しいのだが……試したい呪術があるんだ」
「か、髪の毛? 呪術、なにそれ? ……怖いんだけど」
「オーディン、あんまりアンに変なことしないでね」
「フフフッ、この漆黒のオーディンの呪術の神髄を見せてやる!」
呪術の準備に時間がかかるから数日後に改めて会うことにした。
◆◆◆
(竪琴の節 九日)
「来たかっアネット! 俺の呪術を味わいに!」
「あ、あたしが呪術を味わうのっ!?」
「気になったから、ついてきちゃったけど、大丈夫かしら~」
「僕も不安だなー、そもそも君は呪術なんか使えたっけ?」
ラズワルドとメルセデスも来たのか……まあ、いい。
そこで、俺の呪術が炸裂する瞬間を指を咥えて見てるがいい!
これは、俺が考えた呪術じゃなくて人に教わったものなので、成功はするはずだ。
今回、作ってきた呪術道具を取り出す。
紐を通した蓋がしてある小さな小瓶の中は、漆黒に染まった物質が入っている。
「これ……小瓶に紐、首飾り?」
「中は真っ黒ね~何が入っているの?」
「……中身は秘密だ。厳重に封印しているが、開けるなよ、この世界に厄災が降り注ぐぞ……」
「や、厄災!? 大丈夫なの、それっ!?」
アネットがびっくりしているが大丈夫だ。
ただ開けたら変なにおいがするだけで害はない。
「……だがこの呪術道具にはあるものが無いんだ」
「何がないの?」
「……それは、名前だっ! ……考えなければならないのだ、血が疼き……魂が躍動する……名前を」
「えー、名前なんて後でいいんじゃないか、とりあえず使ってみてよ」
ラズワルド、お前は本当にわかってないな。
呪術道具は名前を付けることで完成するのに……
まあ、使えるかどうか試してみる必要があるし、あとで考えるか。
「使い方は簡単だ。魔力を少量込めればいい。アネット、やってみてくれ」
「えっ? あたし」
「この呪術道具は俺が込めても意味が無いんだ……」
「じゃあ、やってみるね」
アネットが魔力を込めると小瓶が大広間の方向に浮き上がった。
「この反応は……近いぞっ!」
「えっ、うそっ!?」
「とりあえず、浮いてる方向に向かって行ってみよう」
めちゃくちゃ近い反応だ。
この呪術道具は対象の距離によって小瓶の浮き上がり方が変わる。
これ大修道院の中にいるだろう。
大広間のまで行くと、今度は真上を示している。
でも、この上っていうことは……
「とりあえずこの上だな」
「ねえ、本当に父さんがこの上にいるのっ?」
「こんなことが、できる魔法があるなんてびっくりしちゃったわ~」
「フッ、ついてみたら、わかるさ」
大広間の二階へ小瓶の示す通りに行って見ると、やっぱり騎士団長の部屋、ジェラルトさんの部屋の扉の前まで来ていた。
「……アネットのお父さんってジェラルトさんじゃないよな?」
「違うよ! でも、父さんは騎士だったから……」
「騎士団長と会っていてもおかしくないと……」
ノックをして、呼んでみる。
「ジェラルトさん、今いいですかー」
扉が開いて、ジェラルトさんが出てきた。
「オーディン、今は人と会ってるんだ、ちょっと後にしてくれ」
「あっ、父さんっ!」
中に居た人物を見て、アネットがジェラルトさんの横をすり抜け部屋に入っていく。
アネットが言っていた、よく似た髪色の暗い顔のおじさんだ。
「……父さん、ずっと、ずっと探してたんだからねっ!」
「ア、 アネット……なぜっ?」
「どうしてっ!? 何も言わずに出ていっちゃったの? なんで……あたしは……」
よしっ! どうやら、当たりだったようだな!
とりあえず、ジェラルトさんといっしょに部屋の外に出て扉を閉める。
感動の再会を覗き見するほど野暮じゃない。
「おいおい、何の騒ぎだ?」
「アネットのお父さんを呪術で探してたら、この部屋にたどり着いたんですよ」
「……それで、ギルベルトが父親だったと」
ジェラルトさんに、アネットのこれまでのことや経緯について詳しく話すと、ジェラルトさんは難しい顔でずっと聞いていた。
「ねえ、オーディン。あの道具って、お父さん以外も探せるの?」
「うーん、その人の親と兄弟くらいまでかな? 俺に呪術を教えてくれた人は、詳しい情報があれば他人でも位置がわかるくらいの精度で使えるんだが……」
メルセデスは呪術道具が気になったのか聞いてきた。
俺に呪術を教えてくれた人たちは、マジでヤバい呪術の腕を持ってるからな。
あの人たちの呪術に憧れて、かなりの種類の呪術を習ったんだよなー
ちゃんとメモしててよかったわ。
「メルセデスも誰か探したい人でもいるのか?」
「えっ? ……いいえ、大丈夫よ」
扉が開いて、中からギルベルトさんが出てきた。
「ジェラルト殿、今日のところはこれで失礼します。後日、また……」
部屋の中を見ると、アネットがまだ居た。
……泣いてたのか、しかも嬉し泣きじゃない様子だ。
「……あ、ジェラルトさん、勝手に部屋に入ってごめんなさい」
「いや、いい。……話は聞いた、妻と娘を捨てて出ていったんだ。あいつもお前に会わす顔が無かったんだろう」
「……はい」
ジェラルトさんの部屋を出て、大広間まで戻る。
その間、アネットはずっと下を向いて落ち込んでいて、メルセデスはアネットに寄り添っていた。
「とりあえず、その呪術道具はやるよ。それがあれば、いつでもギルベルトさんに会えるさ」
「……本当に? ……いいの?」
「俺が持っていても意味ないしな。でも呪術道具の名前を考えないとな」
「名前はもういいよ! ……アネット、君のお父さんはまだここにいるんだ。時間はたくさんある、ゆっくり話をしていけばいい」
「……うん……そうだね。……オーディン、ラズワルドあなたたちに頼んで、本当によかった。ありがとう! もし、あたしにできることがあれば、いつでも言ってね、なんでもするから!」
「よかったわね~、アン。やっぱり、噂とは違ったわね~。オーディンって、すっごくいい人じゃない」
「オーディンの奇行が役に立ったなんて……それが一番の驚きだよ」
ラズワルドは何もしてないけどな。
アネットも元気を取り戻した様子だし、これにて一件落着だ。
習った呪術はこの世界でも十分力を発揮できるみたいだし、早く自分のオリジナル呪術も作っていかないとな。
「……このオーディンの呪術の力を見たかっ! “狂気の天才”オーディンからすればこの程度のことは造作もない!! はっはっは……!!」
大広間には、俺の高笑いが響きわたっていた……
「父さん、見つけた!今日こそは…!」
「…またか、アネット。なぜ私の居場所を…?」
ラズワルドとのナンパ回を書いてたら、いつの間にかオーディンの呪術回になってた。
補足
ラズワルドといっしょにナンパをした男の仲間
FE覚醒のジェロームとブレディのこと
アズール・ジェローム支援、アズール・ブレディ支援
なお彼らのほうがモテた模様
オーディンに呪術を教えた人たち
FE覚醒のサーリャとヘンリー
肉親の位置を調べる呪術はカラム・サーリャ支援から
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