ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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第73話『光射す彼方へ~楓』

 

 ディミトリ視点

 

 

「オーディン……それに、ダスカーの民たち……なぜここに?」

 

「……言ったはずだ、俺は世界を救いに来たと……ディミトリに死なれたら困る。世界を救うためにはお前のような英雄の力が必要だ」

 

 

 ただの復讐の獣でしかない俺を、お前は英雄と呼んでくれるのか。

 

 

「ダスカーの民たちは、ディミトリを探している時に出会ったんだ。彼らもお前を探していて……お前のことを助けたがっていたから、一緒に連れてきた」

 

「ダスカーの民は受けた恨みも恩も忘れはしない、そう言ったはずだ」

 

「お前は……あの時のダスカーの将か」

 

 

 士官学校時代に王国で反乱を起こしたダスカーの将だった。

 俺の処刑を知った彼がダスカー人を集めて援軍に来てくれたらしい……俺の処刑は昨日に決まったことなので、彼らダスカー人は王都のどこかに潜伏していたのだろう。

 

 

「ダスカーの悲劇を引き起こした黒幕について、我らは確証に近いものを得た……首謀者はイーハ大公を中心としたエリディア子爵、マテウス子爵、クレイマン子爵……そして、あの女魔道士コルネリアだ!」

 

 

 ダスカーの将がコルネリアたちを叫びながら睨みつける。

 コルネリアのそばにはエリディア子爵、マテウス子爵、クレイマン子爵ら三人の貴族がいた。

 彼ら三人は伯父のリュファスと共にダスカーの悲劇に関わっている疑惑があったが……ダスカーの将は王都で証拠を得たのだろう。

 

 

「ディミトリ、ドゥドゥー、もう動けるか?」

 

「いつでも行ける」

 

「ああ、動けるが……武器を持っていない、槍か剣を貸してくれ」

 

「フン……ならばこれを使え、ディミトリ」

 

 

 フェリクスから剣が投げ渡された。

 名匠ゾルタンの剣、学生時代に手に入れたことをフェリクスに自慢された思い出の剣だ。

 

 

「よしっ、俺たちは『フォドラの夜明け』でそれぞれ部隊を率いてるから、ダスカー人部隊はお前たちが指揮してくれ。ダスカー騎兵団はイングリットに任せてるから、ドゥドゥーはダスカー重装兵団、ディミトリはダスカー歩兵団を頼めるか?」

 

「ファーガスの王子よ、我らダスカーの戦士の誇りと命……全て貴様に預ける」

 

「ああ、わかった。任せてくれ」

 

 

 コルネリアがダスカーの悲劇の首謀者だったのなら、なんの迷いもなく斬れる。

 帝国軍との背後関係は後で洗わなければならないが、あの女(エル)はどこまで関わっていたのだろうか……

 

 

「あ〜あ〜獣どもがワラワラと……どこから湧いてきたんでしょうね」

 

「思ったより人望が無かったですね、()()()()。そっちの三人の貴族たち以外の摂政派貴族はあたしたちに協力的でしたよ」

 

「使えねぇゴミどもだね、こんな小娘と老いぼれが王宮で騒いだくらいで旗色を変えるなんて」

 

「それだけ貴様の悪行に耐えかねてたというわけだコルネリア」

 

 

 アネットとギュスタヴがコルネリアと対峙する。

 摂政派貴族はエリディア子爵、マテウス子爵、クレイマン子爵ら三人以外にも多くの有力貴族がいたはずだが……アネットの話では他の貴族は味方になってくれたみたいだ。

 

 

「さて、てめえらは使えるゴミか? ……使えねえなら、どうなるかわかってんだろうなぁ?」

 

「くっ、コルネリア……我らをゴミ扱いとは……」

 

「仕方あるまい、もう後戻りは出来ぬのだ……」

 

「我らは我らの成すべきことがあるのだ! ……殿下、お覚悟を!」

 

 

 エリディア子爵、マテウス子爵、クレイマン子爵ら三人の号令で彼らの手勢が現れる。

 摂政派の王国軍や貴族領軍の兵たちをかき集めてきたのだろう。

 

 

「フッ……そんな弱卒じゃ、経験値稼ぎにもならなそうだな……『フォドラの夜明け』、蹴散らせ!」

 

 

 オーディンの号令で指揮下のセイロス教団部隊が動き出す。

 人数はそれほど多くないが、動きの質が敵兵とは違いすぎる。

 

 

「うおらぁ!! ……筋肉を共にっ!」

 

「いくわよ~」

 

「手加減なんてできないわ!」

 

「可愛がってあげるわ!」

 

「踊らせてあげる!」

 

「正義を貫く!」

 

「勝利を描く!」

 

「必殺! アウェイキングホーリー!!」

 

「必殺! アウェイキングヴァンダー!!」

 

「はははっ……脆い脆い、鎧袖一触だな」

 

 

 信じられないような速度で敵兵を蹴散らしていく『フォドラの夜明け』たち、セイロス騎士団最強部隊の名に偽りはないようだ。

 会わない間に随分と差をつけられてしまったな……

 

 陣形を食い破り三人の貴族たちを取り囲んだ彼らは、労することなく制圧し捕縛してしまった。

 

 

「こんなはずでは……」

 

「我らには我らの正義があったのだ」

 

「ディミトリ殿下! 我らは務めを果たしたまでなのです……」

 

 

 俺に聞くまでもなく、オーディンたちは貴族たちの拘束を選んでくれた。

 奴らには尋問しないといけないことが山ほどあるからな……

 こちらの意志を汲み取ってくれる精鋭部隊がいてくれるのは、これほど助かるものなのか。

 

 

「チッ、王国の奴らは貴族も平民も使えねぇのばかりだね……もっと早く滅ぼすべきだったかしら」

 

「この状況でまだ随分と余裕がありそうだな、コルネリア」

 

「もちろんですわ、殿下。……オメエらみたいなクソガキどもにアタシが負けるわけないだろ」

 

 

 コルネリアは余裕のありそうな様子を一切崩さない。

 まだ、切り札を隠しているとでもいうのだろうか……

 

 

「フン、どうせ屍兵だろう……お前たちの手札などお見通しだ」

 

「あらあら、わたくしの操る亡者を老い耄れソロンと脳無しミュソンのモノと一緒にしないでくださいましてよ……アタシの亡者はなぁ、特別製なんだよ!!」

 

 

 オーディンがコルネリアに話しかける

 屍兵とは、以前金鹿の学級がルミール村や封じられた森で戦った、死人を縛り従属させて兵士にする術で生み出される者たちの総称と以前オーディンが言っていた。

 青獅子の学級の者たちは交戦経験はないが、情報は得ている。

 

 コルネリアの率いる魔法部隊が呪文を唱えると、空に複数の魔法陣が展開された。

 禍々しく眼を赤く光らせたおぞましい姿の亡者たちが魔法陣から次々と降りてくる。

 瞬く間に、数千の屍兵に周囲を取り囲まれてしまった。

 

 これが敵の切り札というわけか……

 

 

「ありゃま、数が多いな……市街地に出られると面倒だ。飛行部隊は先回りして出入口付近を封鎖してくれ」

 

「はい! わかりましたわ」

 

「はいはい、こっちは屍兵なんて見飽きてるって言うのに……」

 

「王国の人たちとダスカーの人たちは一旦下がって僕たちの戦い方を見ながら、やれそうなら戦闘に加わってね」

 

「数は多いし、まあまあ強いのも混じってるみたいだが、指揮官のコルネリアは大した強さ(ステータス)じゃない……我ら『フォドラの夜明け』の敵ではない、蔓延る亡者たちを討ち、闇に蠢く者たちを討滅するぞ!」

 

 

 オーディンたちは屍兵に取り囲まれた状況でも余裕の表情だ。

 フォドラ防衛戦後、常に少人数の部隊で大勢の帝国軍の正規兵相手に戦ってきたものたちからすれば、この程度の状況ではうろたえないのであろう。

 

 

「……この亡者たちの姿を見て、なんとも思わないのは可愛げのないやつらね。王国の皆さまならわかるでしょう……思い出すでしょう? ……この者たちのことを!」

 

「……なっ、まさか!?」

 

 

 コルネリアの前に展開している屍兵たち……王国近衛兵の装備を身に着けている者たちの中の威容の〈ロードナイト〉……ブレーダッド王家に伝わる魔槍“アラドヴァル”を持った姿……

 

 そして、それを取り囲む者たちも見覚えのある者たちだった。

 

 

「……父上……グレン……ダスカーの悲劇で散った者たちか」

 

「兄上だと……!?」

 

「そんな……グレン……先王陛下」

 

「……おいおい、悪趣味にもほどがあるだろう」

 

「久しぶりに会えて嬉しいでしょう……皆で仲良く死出の行列に加わりなさいな」

 

 

 コルネリアの言葉と共に、魔槍“アラドヴァル”を掲げた父上……ファーガス神聖王国前国王ランベール=エジット=ブレーダッドが突撃してくる。

 

 英雄の遺産の一撃は生半可な武器や防具では防ぎきれない。

 

 俺の盾となるように前に出たドゥドゥー。

 その更に前へ、“破裂の槍”を待ったシルヴァンと“ルーン”を持ったイングリットが躍り出た。

 

 “アラドヴァル”と“破裂の槍”、“ルーン”が激しく火花をあげてぶつかり合う。

 

 父上の膂力でシルヴァンとイングリットが騎乗している馬ごとまとめて吹き飛ばされた。

 

 

「シルヴァン! イングリット!」

 

「チッ……!」

 

 

 助けに入ろうとしたフェリクスを屍兵の〈勇者〉グレンが阻む。

 彼はダスカーの悲劇で惨殺された俺の兄弟子……フェリクスの実の兄だ。

 

 

「……俺はそのまま兄上を抑える! ……ディミトリ、お前は先王を倒せ!」

 

「なっ……!? フェリクス……俺に父上を斬れというのか!?」

 

「そうだ……俺は兄を斬る!! 兄上を斬り、兄上を超える! 誰も邪魔をするなよ! ……お前も父を斬り、亡者の戯言も過去の迷いも振り払え!」

 

 

 亡者となった父上を斬ったところで、父上の無念が晴らされるとは思えないが……

 

 すでに『フォドラの夜明け』をはじめ王国軍やダスカー部隊も屍兵たちと戦闘を始めている。

 オーディンはこちらをちらりと見たが介入するつもりはなさそうだ。

 

 馬上で槍を構える父上と相対する。

 ドゥドゥーは心配そうに俺を見るが手で制すると後ろに退いた。

 

 

「父上……お久しぶりです」

 

「グ……グガァ……」

 

「お労しい姿です……死者を愚弄するあの女狐は必ず討ちます。ですから、どうかまたお眠り下さい」

 

 

 父上のアラドヴァルが俺へと振り下ろされる。

 回避したが、石畳を粉砕し大きな衝撃が地面を揺らした。

 

 父上の二撃目。

 槍の軌道を見切り、穂先を剣で弾き反らす。

 名匠ゾルタンの剣は英雄の遺産と打ち合っても、折れも歪みもしない。

 

 父上の三撃目が来る前に大きく踏み込む。

 

 ──戦技〈剛撃〉

 

 剣を使うフォドラの民ならば、誰もが覚える原点にして頂点の奥義。

 

 王家を継ぐ者の証、ブレーダッドの小紋章が浮かび上がる。

 父上の亡者特有の生気のない顔に僅かに驚きの色が見えた。

 

 鎧ごと骨肉を断つ感触が腕に残り、父上が馬上から崩れ落ちた……

 

 

「ディ……ミトリ、か……大き……く、なったな……」

 

「……父上っ!?」

 

 

 屍兵の狂気を帯びた赤い瞳の中に、僅かに知性の光が宿る。

 まさか、正気に戻ったのか? 

 倒れた父上は俺をしっかりと見据え何かを言い残そうとしている。

 

 

「……我が……息子……迷うな……お、前は……お前の道を……信、念を……」

 

 

 父上の身体が淡い光と共に消える……

 

 父上が紡いだ言葉は、ダスカーの悲劇の首謀者に対する怨嗟の言葉ではなかった。

 

 俺の道……俺の信念とは……

 

 

「紙一重……では無かったか。剣筋は兄上の物であったが……やはり、ただの亡者か……あるいは、すでに俺が兄上を超えていた?」

 

 

 グレンを斬り倒したフェリクスが渋い顔をして呟いている。

 コルネリアに召喚された屍兵たちも、『フォドラの夜明け』、王国軍、ダスカー部隊に討ち取られ次々と数を減らしていった。

 

 

「クソが! クソが! クソがっ!! 死人も使えやしないのか、この王国のやつらは!! なにが、怪物の獅子王だ、役立たずどもめ! ……もとはといえば、タレスの老いぼれが……」

 

「くらえ、闇の〈リザイア〉!!」

 

「ガッ……クソ……放せっ小僧、アタシを誰だと思ってやがる……!」

 

 

 周りの屍兵を丁寧に排除したオーディンは、『フォドラの夜明け』と共にコルネリアをあっさり拘束してしまった。

 拘束されたコルネリアがそのまま、俺の前へと突き出された。

 

 

「殿下……“聖女”に対して、随分と手荒い扱いですわねえ」

 

「貴様は、貴様らは死者をなんだと思っている。あのような、外法の術を使って……」

 

「死者なんて道具にすぎませんわ……死者も生者も皆、お前たち獣は私たちに従っておけばいいのですよ」

 

 

 俺たち人を獣と呼ぶ連中……コルネリアがこの世界を滅ぼそうとしている闇に蠢く者の一人であることはもう間違いないだろう。

 こいつには聞きたいことが山ほどある……

 

 

「コルネリア。継母をどうした。まだ生きているのか」

 

「ふふ……死にましたわよ。とーっくの昔に……。邪魔な夫を殺し、愛する娘に会いに行って……娘の手にかかって、死にましたわ」

 

「……それは、まさか」

 

 

 継母の娘は一人だけだ、やはりエルは……

 

 

「どうなったかは、お義姉様に……お聞きなさい……! ぐっ……この体も……限界か。脆い……もんだな……」

 

 

 コルネリアはそういうと、意識を手放した。

 

 慌てて周りの者たちが、回復魔法をかけているが……発動せず、コルネリアは事切れてしまったようだ。

 捕らえていた残りの魔道士たちも次々と死んでいく……敵はこちらに、これ以上の情報を与えるつもりはないようだ。

 

 

「チッ、気味の悪い連中だ」

 

「彼女たちが何を企んでいたかは、捕らえた貴族を尋問してみないとわかりませんね」

 

「まあ、この徹底ぶりだ、そいつらから有益な情報がでるかは微妙なところだぜ」

 

 

 フェリクス、イングリット、シルヴァン。

 古い付き合いの友人たちが話しかけてくる。

 彼らには命を救われた。

 

 

「殿下、この戦闘の騒ぎで、王都の民たちが王宮へと集まってきてしまっているようです」

 

「あたしたちが、殿下が処刑されるって噂を流しちゃったんで、心配して見に来たのかもしれないです」

 

 

 そういえば、俺は処刑されかかっていたのだったな。

 展開が急すぎて頭が追いついていなかった。

 ギュスタヴとアネットも俺を助けるために手を尽くしてくれたというが、それで王宮に王都の民たちが押し寄せてきているようだ。

 

 

「そうだ! ディミトリ、王都のみんなに無事だ~って、顔見せしたほうがいいんじゃない?」

 

「良いですね、メルセデス。それなら、みんな安心できますよ」

 

「なら、派手な幻影呪術で演出してやるよ……王子、いや、新たな王の誕生を祝ってな」

 

 

 メルセデス、アッシュ……オーディンたち。

 

 

「殿下、皆の前に行く前にこちらを……」

 

 

 ドゥドゥーが持ってきたのは先ほどまで、父上が使っていたブレーダット王家に伝わる魔槍“アラドヴァル”……英雄の遺産。

 

 

 ──……我が……息子……迷うな……お、前は……お前の道を……信、念を……

 

 

 傍らにはフェリクス、イングリット、シルヴァン、メルセデス、アッシュ、アネット、ギュスタヴ、ドゥドゥー。

 オーディンたち『フォドラの夜明け』と王国兵たち……そして、ダスカーの民たち……

 

 

「王国の民……彼らに会おう……ついて来てくれ」

 

 

 俺の道……俺の信念に。

 

 

 

 

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