ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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第74話『勝利は我らに』

 

 

 ディミトリ視点

 

 

「こんなに人が」

 

「みな、殿下の無事なお姿を見たいのでしょう」

 

 

 俺の言葉にギュスタヴが答えた。

 

 王宮から広場を見下ろすと王都中から集まった人々が俺の姿を見ている。

 群衆は俺の姿を見つけると歓声を上げて喜んでいる。

 笑顔で俺の名前を叫ぶ者や手を振る者たち……かつて、子供の頃に父が民衆の前に姿を現した時と同じように。

 

 

「み、見ろ……!」

 

「……なんだあれは!?」

 

「殿下のお姿が大きく王宮に……!!」

 

 

 なぜか喜びと歓声が、困惑のどよめきに変わり始めた。

 後ろを見ると、俺の姿をした大きな幻影が王宮の上に映し出されていた。

 隣で幻影魔法を使って満足そうにうなづいているオーディンに頭を抱えそうになった。

 

 

「オーディン、何をやっている……王国の民はこのような魔法に慣れていないんだ、動揺してしまうから……」

 

「静まれ、王都の善き市民たちよ!! 我が名は“漆黒のオーディン”、セイロス教団聖騎士、フォドラ最強にして偉大なる選ばれし闇の呪術士だ! ……これは、ファーガス神聖王国ディミトリ=アレクサンドル=ブレーダッド殿下のお姿を我が呪術で映し出している! この、ご威光を目に焼き付けよ!」

 

 

 俺の言葉を無視したオーディンは民衆に対して語りかけている。

 オーディンの声は魔法で大きくしているのか、広場全体に響き渡るような大声だが不思議と聞き取り辛くはなかった。

 

 

「さて、ディミトリ。お前の声も魔法で大きくしてやるから、お前の言葉を王都の民に聞かせてやれ。⋯貴様の闇の言霊で民衆の心を支配してやるのだ⋯」

 

 

 今度は魔法を使わなかったのか、普通の声量でなぜか得意げな顔をして話しかけてきた⋯俺に演説をしろと言うのか⋯オーディンが目立ちたがり屋なのは士官学校時代と変わらないな。

 

 

「⋯まずは、皆に心配をかけたことを謝りたい」

 

 

 俺の言葉か⋯どう伝えればいいのだろうか、こういうことには慣れていない。

 

 俺は彼らに報いてやることはできるだろうか……

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 王宮前に集まった民への演説を終えた俺たちは、王宮の会議室へと移動し話し合うことにした。

 ギュスタヴ、アネット、フェリクス、シルヴァン、イングリット、そしてオーディン。

 ちなみに、アッシュとメルセデスはセイロス騎士団の部隊指揮に戻り、ドゥドゥーは回復魔法で治癒されたものの重症を負っていたこともあり大事を取って既に休ませている。

『ダスカーの悲劇の真の首謀者』、『摂政イーハ大公暗殺』、『コルネリアの正体』様々な情報を皆と共有する必要がある。

 

「捕えた貴族たちの情報によると、ダスカーの悲劇の首謀者はやはりコルネリア⋯リファス様を含めた摂政派貴族、……捕えた三人のエリデュア、マテウス、クレイマン、彼らをはじめ、西部の有力諸侯の多くが先王陛下の暗殺に加担したと考えられます」

 

「あの三人の話だと、伯父さん⋯ドミニク男爵は関わってはいないってことだけど⋯ううん、駄目だね……西部の貴族については私情は挟まず後でちゃんと調査しないとね」

 

 

 まずは、ギュスタヴとアネットからコルネリアと共にいた三人の貴族を尋問した情報の報告を受ける。

 確固たる証拠は押さえていなかったが、伯父上たちが父上を暗殺したことについては薄々感づいていた⋯西部の貴族たちが多く関与していたのは予想外だったが、父上の急進的な改革は実はかなり不満に思われていたのだろう。

 

 

「しかし、なぜコルネリアは今の時期に摂政を暗殺したんだろうな? 殿下を王位に就けたくなかったってのは、判るけど……コルネリアと摂政はずっと組んでたんだろ?」

 

「組んでいただけで、あの女狐からしてみれば摂政も邪魔だったのだろう……そこの猪に罪をなすりつけるついでに始末したと考えるのが妥当だ」

 

「殿下の元へ駆けつけるのが、後一歩遅かったらと考えると背筋が凍ります……きっと、女神様の加護があったのでしょう」

 

 

 シルヴァン、フェリクス、イングリットが話す。

 確かに、伯父とコルネリアはダスカーの悲劇以降ずっと手を組んでいたはずだ。

 俺を始末する以外にも別の思惑があったのかもしれないが、伯父上の暗殺もコルネリアの仕業であることは間違いないだろう。

 

 

「それで……俺はコルネリアが死ぬ前にディミトリと話していた継母と義姉がどうのって話が気になっているんだが……教えてくれないか」

 

「ああ、その話か……」

 

 

 オーディンがコルネリアと最後に話した会話について聞いてきた。

 ⋯皆には話しておかなければならないな。

 

 

「皆には話していなかったが、俺には継母がいた。政争で帝国を追われた継母を、父が見初めて娶った。物心つく前に母親を亡くした俺にとっては……本当の母のような存在だったよ。その継母もまた、9年前、父と共にダスカーで命を落としたのだが、な」

 

「……いや待て。そんな話は初めて聞いた。そもそもお前に継母がいたことも……親父殿は、それを知っていたのか?」

 

「ああ。ロドリグやギュスタヴを含めた、父に近しい者の間では、知られていることだった。だが、言ってしまえばただの醜聞だからな。民衆に継母の存在は伏せられていた」

 

「で、義姉というのは? その継母さんの実の娘か?」

 

「エーデルガルトだ。オーディンの言う通り、継母はエーデルガルトを産んだ母親にあたる」

 

 

 俺の一言に皆が驚きの声をあげた。

 エーデルガルトは今回のフォドラ大陸の戦争を引き起こした帝国の皇帝だ。

 そんな人物と王国の王子の俺が義理とはいえ姉弟関係だったのは驚愕に値することだろう。

 

 

「猪とあの皇帝が義理の姉弟!? ⋯それでお前はエーデルガルトをあんなに意識していたのか!」

 

「えっと、でも、別の国で生まれ育ったのなら姉弟でも面識はないはずですよね。でも意識してたってことは殿下は子供の時にエーデルガルトと会ったことがあるんですか?」

 

 

 アネットが鋭く聞いてくる。

 たしかに、義理の姉弟とはいえ生まれ育った国が違うなら面識もないし、さほど意識することもないだろう。

 だが、エーデルガルトは継母とは別にアランデル公に連れられて王都に来ていた期間がある……ややこしい話だろうな。

 

「⋯エーデルガルトは僅かな間だが王都で暮らしていたことがある。数年間の話ではあるが、彼女とは友人というか面識があったというか⋯」

 

「あ! 思い出しました! あれでしょ? 殿下が短剣あげたって女の子!」

 

「わ、私も思い出しました⋯殿下が子供の頃に遊んでいたエルという女の子⋯エーデルガルトのことだったんですか!?」

 

 

 そういえば、シルヴァンとイングリットには少し彼女の話をしたことがあった⋯その頃のシルヴァンは年上で頼りになったし、婚約者のいるイングリットは年の近い女性としていろいろと相談を⋯今思い出すと恥ずかしい、俺の顔は赤くなっていないだろうか……

 

 

「子供時代の思い出は、まあ置いといて⋯コルネリアはその継母さんは『娘の手にかかって死んだ』って言ってたよな」

 

 

 オーディンが脱線しかけた話を戻してくれた⋯あの珍妙な話し方をしない時のオーディンは本当に頼りになる。

 コルネリアは『エーデルガルトが自分の実母である、俺の継母を殺した』と言い残して死んでいった。

 それが真実なのか、俺に対する謀のつもりで言ったのかはわからない。

 

 

「ダスカーの悲劇で殿下の継母⋯パトリシア様の遺体は見つかっておりません、彼女の乗っていた馬車に争った形跡はなく⋯ダスカーの悲劇に関わった貴族たちもパトリシア様の存在自体知らないようでした」

 

「ギュスタヴ、そうだな⋯コルネリアが死んで、この件の真相を知る者はもうほとんどいないだろう⋯エーデルガルトに直接聞くしかあるまい。あの女狐の遺言通りにするのは癪だがな」

 

 

 結局『ダスカーの悲劇の真の首謀者』『継母を殺した犯人』の二つの容疑からエーデルガルトを除くことはできない。

 今、帝国との戦いの中で彼女と直接話す機会は来るのだろうか……

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「急報です!! アリアンロッド要塞で反乱が発生! ローベ伯が要塞を占領して、司令官のフラルダリウス公が囚われの身になったとのことです!」

 

「な、なんだってー!!」

 

 

 会議の途中に連絡兵が駆け込んできて、信じがたい報告をいれてきた。

 オーディンが変に大げさに驚いているが、それにつっこむほどの余裕もないほどの悪い知らせだ。

 

 

「チッ、何をやっているのだ親父殿は⋯」

 

「おいおい、アリアンロッドが落ちるとか、まずいとかいう次元じゃねーぞ!」

 

「ローベ伯……あまり良い噂は聞かない方でしたが、まさか裏切るとは……!」

 

 

 フェリクス、シルヴァン、イングリットが驚き顔色を悪くしてる。

 

 アリアンロッド要塞は帝国との国境近くにある、王国最大の要塞だ。

 今現在で最も多くの王国軍が駐留する要衝でもある。

 

 

「アリアンロッドからフェルディアまで、飛行兵がどれだけ早く飛んできても二日か三日はかかります……つまり、裏切りは二日以上前の話のようです」

 

 

 ギュスタヴが情報を分析してくれている。

 アリアンロッド要塞はフォドラ大陸の中西部にあり、ブレーダッド領王都フェルディアは大陸の北部にある。

 飛行兵が休まず限界まで飛び続けても二日以上はかかる距離だ。

 

 王国国境の少砦は既に数か所、帝国軍によって落とされており、軍務卿ベルグリーズ伯が率いる西方面軍もアリアンロッドまで数日の距離のギリング男爵領に駐留していたはずだ。

 

 今すぐに王国軍を動かすにしてもアリアンロッドにたどり着くまで()()()はかかる。

 こちらが着く頃にはすでにアリアンロッドの裏切り者は帝国軍を迎え入れて、迎撃の準備も終わらせているだろう。

 

 

「間に合わないな……ファーガスはこれからだというのに……ままならないものだな」

 

 

 アリアンロッド要塞は諦めるしかない。

 駐留させていた王国軍の兵力を考えると失った戦力も痛すぎる。

 コルネリアの裏切りに日付を合わせて、ローベ伯も裏切ったのだろうか? あれもこれも全てがエーデルガルトの策略だとしたら、ただの猪武者の俺では勝てるはずがない。

 

 

「漆黒隊と純白隊、朱殷隊、紫苑隊で移動魔法持ちが何人だっけ? えーと……そういえば紺碧隊の〈ホーリーナイト〉の人も使えたな……あと翠緑隊にも〈トリックスター〉がいるから……〈ビショップ〉の資格持ちは全員変更して……いや、これで回転させるにはちょっと足りないか? ……うーん」

 

 

 オーディンが顎に手を当て独り言を呟きながら考え始めた。

 

 

「アネット、たしかディミトリの救出作戦で魔道学院の〈ワープ〉と〈レスキュー〉が使える人たちを集めれるだけ集めてるんだよな?」

 

「えっ、あっ、うん……一応調べて書留めもしてるけど……」

 

 

 オーディンは考える時間を終えたと思ったら、アネットに話かけている。

 たしかアネットが俺を助けるために転移魔法を使った作戦を立てていたことは聞いているが……何をするつもりだ? 

 

 

「ほう流石はアネットだ、どれどれ……おっ〈ワープ〉持ちも結構いるな……これなら行けそうだな。アネット、この人たち借りて行って良いか?」

 

「えっ、オーディン……何するつもりなの? まさか、移動魔法を使ってアリアンロッドまで行くつもりじゃないよね?」

 

「フッフッフッ⋯そのまさかだよアネットくん……“狂気の天才”軍師オーディンを嘗めるなよ? 移動魔法は密集すれば一回で百人くらいの部隊は運べる、〈ビショップ〉と〈グレモリィ〉の兵種スキルで使用回数を増やして、あとは使用回数の回復時間を考えたら……ペガサスやドラゴンよりも早く行軍できるのだ!!」

 

「り、理論上はできるかもしれないけど……本当に“狂気”の発想だよ……!」

 

 

 オーディンとアネットが話していることがよく理解できない……魔法でアリアンロッドまで行くと言っているみたいだが、あのよく使われる転移魔法の〈ワープ〉を使って大陸北部の王都から中西部のアリアンロッドまで行くのだろうか? 

 それとも、ガルグ=マクを奪還した時のようなオーディンが隠し持っている大呪術を使うのだろうか? 

 

 

「……というわけで、今からアリアンロッドまで行きたい奴はいるか?」

 

「俺は行く!」

 

 

 オーディンの提案に即決する。

 俺には作戦を考えるほどの能力は無いが、決断することは上に立つ者の勤めだ。

 もし間に合わなくても、全ての責任は俺が取る。

 

 オーディンとアネットの会話を聞いていなかったフェリクスたちは「何を言ってるんだ」と言わんばかりの呆けた表情でこちらを見ている。

 

 

「……あたしは〈ワープ〉も〈レスキュー〉も使えないから応援することしかできないね」

 

「いや、アネットは応援しなくていい。応援はイングリットがしてくれ」

 

「えっ?」

 

「アネットは代わりに歌っててくれ」

 

「⋯えっ?」

 

 

 オーディンが考えていることは、本当に良くわからない。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 ……オーディンが考えていた行軍計画は常軌を逸したものだった。

 

 転移魔法の〈ワープ〉で一つの部隊百名程度を転移させ、転移した部隊が〈レスキュー〉で〈ワープ〉を使った部隊を近くに引き寄せる。

 オーディンの指揮で複数の部隊が、それをただひたすら繰り返す……ただ、それだけだった。

 

 一聞すると以前ダスカー人が起こした反乱の時、オーディンが使っていた山岳地帯で素早く移動する転移魔法の便利な使い方のようなものと思っていたが……ただ、ひたすらに〈ワープ〉と〈レスキュー〉の使用回数に頼ったものだった。

 

 途中、個人の魔力量の違いや地形差で出る行軍速度の誤差は、〈魔力の応援〉スキルが使えるイングリットたちや、〈踊り子〉のラズワルドと〈歌姫〉のドロテアと……新しく〈歌姫〉になったアネットの再行動スキルで微調整しながら転移魔法で進み続けた。

 

 オーディンの〈戦術師〉という兵種は周囲の様子を空から俯瞰的に見るような能力があるからこそできる芸当だが……思っていた以上に力技だったというか、頭を使った力技というか……とにかく、常人がやろうとしても不可能な行軍だった。

 

 ……いや、正確に言うと行軍ですらなかったのかもしれない。

 歩兵のほとんどは歩いてすらいなかった……夜通し魔法で転移し続けて戦場に向かうため、転移魔法を使う者とそれを補助する者以外は体力を温存するようにオーディンに指示を受けていた。

 

 昨日の戦いで重症を負い、先に休ませていたドゥドゥーを一人王都に置いていくのもどうかと思ったので、起こさないように俺がベッドごと運んできたのだが……ドゥドゥーが目を覚ましたら、アリアンロッドの前にいるのを知って困惑していた。

 ……すまないドゥドゥー、俺も説明ができないんだ。

 

 

「よし、ついたぞ……流石は俺……“漆黒のオーディン”、……狂気の天才……」

 

「“純白のフレン”の……遥かなる勇戦の……終幕……ですわ……スヤァ……」

 

 

 オーディンはなんでもない風に言ってるが、目は血走って、フラフラして今にも倒れそうだ。

 他の転移魔法が使える者たちも倒れこんで、中にはそのまま寝てしまっている者もいた⋯ただ、フレン、そのベッドは俺が勝手に持ってきてしまったドゥドゥーの部屋の物だから、そこで寝るのはやめてほしい。

 

 転移魔法が使えるからと何もわからず連れてこられて、ひたすら夜通し魔法を使うように命令された魔道学院の生徒たちは気絶した後は抱きかかえられてここまで来た。

 あとで謝罪しておかなければ……

 

 

「半日……半日で、王都からアリアンロッドに到着しやがった……」

 

「私の中の行軍の常識が崩れていく……」

 

 

 シルヴァンとギュスタヴが呆然と呟いている⋯今までの常識では考えられないような移動速度だったので気持ちはわかる。

 全く体力を使っていないのも驚きだったのだろう。

 

 

「うまく声が出ません……一生分の応援を使った気がします」

 

「もう……もう、歌わなくても良いんだよね……」

 

「アネット⋯歌をスキルとして使うなら、いちいち新曲を作らなくてよかっただろう」

 

「フェリクスくん、アネットちゃんの歌ばかり聞いて……歌劇団の歌は好みじゃなかったの?」

 

 

 応援と歌でイングリットとアネットとドロテアは疲労困憊、ただアネットの歌だけ聞いて何もしてなかったフェリクスは元気だった。

 

 

「ごめんなさいね、ディミトリ。アンとイングリット、あとはフレンとドロテアたちは頑張ったから休ませてあげてね」

 

「かまわない、メルセデス。あとは体力を温存していた俺たちの仕事だ」

 

「僕はまだ舞えるよ! 夜通し踊ったくらいで疲れるようなヤワな鍛え方はしてないから!」

 

「ラズワルドがやれるなら、俺だって! 俺こそはガルグ=マクの伝説の男だ!」

 

「オーディンくん、フラついてるじゃねぇか⋯頭も筋肉も休ませることは大事(でぇじ)だぞ」

 

 

 本人の言う通り元気そうなラズワルドはともかく、夜通しで自身も転移魔法を使いながら全体の行軍を指揮していたオーディンは休んでいてもいいのだが⋯アリアンロッドまで連れて来たのは『フォドラの夜明け』と王国魔道学院の者たちのみで、王国軍の兵士は置いてきたのでオーディンは組織の長として責任を持ちたいのだろうな。

 

 

「さっき空から見てみたけど要塞内に帝国軍の姿はないわ」

 

「周辺の確認も終わりました、要塞近くも帝国軍はまだ来ていないようです」

 

「城門はどこも固く閉ざされてるよな、どうする?」

 

「アリアンロッド要塞は抜け道のような穴は一切無いと、昔ロナート様に聞いたことがあります」

 

 

 ルーナ、イグナーツ、レオニー、アッシュがそれぞれ偵察の結果や周辺の情報について教えてくれた。

 どうやら、帝国軍より早くたどり着いたようだ。

 

 

「間に合ったか⋯良かった、と言いたいところだが俺にはここからアリアンロッドを取り戻す作戦が思い浮かばない⋯オーディン、どうすれば良い?」

 

「作戦は行軍の時と同じだな……〈ワープ〉と〈レスキュー〉だ、この二つの魔法があれば城門など無きに等しい……」

 

「行軍とは違い要塞では下手をすれば周囲全てが敵になる可能性もあるぞ、大丈夫なのか?」

 

「問題ない⋯今回のアリアンロッド要塞はローベ伯の反乱によって奪われたのだろう? 要塞内の兵士はみんな王国軍だ。裏切り者のローベ伯の一派だけ倒して、フラルダリウス公を解放すれば元通りだ」

 

 

 理屈はそうだろうが、そんなことが可能なのだろうか……いや、オーディンの〈戦術師〉の能力があれば、要塞内のローベ伯の位置を見つけて転移できるのか……オーディンの言うように簡単に終わってしまいそうだ。

 

 

「帝国軍より早くアリアンロッドに着いた時点で俺たちの勝利は決まってたんだよ」

 

 

 言い切るオーディンの顔はすでに勝ちを確信しているように堂々としていた。

 戦う前に勝利を決めてしまうか……

 フォドラの歴史上、最も優れた軍師は獅子王ルーグに仕えた『軍師パーン』かセイロス教の四聖人の一人『聖人マクイル』と言われているが、オーディンはその二人を超えるような存在なのだろう。

 

 

 オーディンの〈ワープ〉により要塞内に転移する。

 ローベ伯の配下で手強い相手は“灰色の獅子”グェンダル卿だけだとオーディンは言っていた。

 俺なら間違いなく勝てるとも言っていたが、油断はできない。

 

 

「……なっ!? 侵入者だと……は? ……ディミ……トリ、殿下……なぜ、なぜ此処に……」

 

「ローベ伯、裏切り者を斬りにきた」

 

「ひぃっ! ……殿下、これはその……そんな……なぜだ、コルネリアが私を嵌めたのか?」

 

 

 ローベ伯は有力貴族の一人だが、臆病な性格と言われている。

 突然目の前に王都で処刑されるはずだった王子が現れたことは、彼にとっては恐怖でしかないだろう。

 

 ローベ伯の前に護衛の騎士たちが現れ彼の身の回りを守った。

 中心には歴戦の雰囲気を漂わせる老騎士がいる。

 

 

「伯爵、お下がりください、儂が相手しましょう」

 

「グェンダル卿か……」

 

「如何にも。精悍になられましたな、殿下。その魔槍“アラドヴァル”を持つに相応しい威容……先王陛下を思い出しますな……あの方とはずっと戦ってみたかった」

 

「……そうか」

 

「儂の最期の相手に相応しい! 殿下、お覚悟を!」

 

 

 〈グレートナイト〉のグェンダル卿が馬の腹を蹴り駆けだす。

 

 それにタイミングをあわせ前に出る。

 

 ──〈無惨〉

 魔槍アラドヴァルに一致するブレーダッドの紋章を持つ者のみが使用できる戦技。

 全てのものを破壊する、無慈悲な一撃。

 

 グェンダル卿が血霧を吹き出し倒れ伏せる。

 

 この、人を壊す感触には慣れたくはないな……

 

 

「ああ、そんな……グェンダルが……なすすべもなく……一撃で」

 

「ローベ伯を捕らえろ!」

 

 

 グェンダル卿を討った後はローベ伯もその配下もたいした抵抗なく捕らえることができた。

 周囲にいる英雄の遺産を持ったフェリクスたちの姿を見て戦意が消失したのだろう。

 

 

「殿下、ロドリグ殿を解放してきました」

 

「いやぁ殿下、お早い救援に感謝します。私も警戒はしていたのですが、本当にローベ伯に裏切られるとは……しかし、これほど早く助けてもらえるとは驚きです……偶然近くに視察に来ていたのですか?」

 

 

 ギュスタヴが囚われていたアリアンロッドの司令官フラルダリウス公ロドリグを連れてきた。

 ロドリグは囚われの身になって数日しか経っていなかったので元気そうだ。

 

 

「いや、王都でアリアンロッドで反乱があったと報告を受けてきた」

 

「は? 王都で??」

 

「そうだぞ親父殿。そして、こいつは昨日処刑されかかっていたところを俺たちで助けた」

 

「は? 殿下が処刑……ちょっと待てフェリクス、何があったんだ?」

 

 

 まあ、こんなこと言われてもわからないだろうな。

 ロドリグに今まで何があったのかを説明することにした。

 大体のことはオーディンの仕業というかお蔭なのだが……オーディンはローベ伯を捕らえた時点で俺に全てを任せて寝てしまった。

 

 

「はっはっは! 王都で処刑されかけた次の日には私を助けにアリアンロッドまで! ランベールでもそんな無茶はしませんよ!」

 

「チッ……笑いごとではないぞ、親父殿」

 

「ははは、フェリクス、これが笑えずにいられるか」

 

 

 詳細を聞き終えロドリグは大笑いしている。

 この陽気な性格は息子のフェリクスには全然似ていない。

 

 

「しかし、これでエリディア子爵、マテウス子爵、クレイマン子爵、ローベ伯爵、イーハ大公とコルネリア……殿下の戴冠に反対するものは全ていなくなりました。すぐに陛下とお呼びしなければなりませんね」

 

「ああ、アリアンロッドをしばらく視察したら王都に戻って戴冠の準備だ」

 

「私も味方の裏切りには遅れはとりましたが、帝国には負けません。王国の盾の恥じぬ働きを約束します」

 

「ああ、頼むぞロドリグ」

 

 

『雨降って地固まる』というか危うい事態にはなったが結果としてみれば全てが良い方向に向かっていた。

 

 全て、俺を支えてくれる人たちのおかげだ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 エーデルガルト視点

 

 

「アリアンロッドの反乱が失敗したとのことです。……ままなりませんな」

 

 

 帝都アンヴァルの執務室で宮内卿であり従者でもあるヒューベルトの報告を受けていた。

 いつもの渋顔から出る報告の内容は良くないものだった……最近の帝国軍に関する報告は良くないものの方が圧倒的に多い。

 

 

「軍務卿は軍を動かしたけど間に合わなかったようね……数年かけて準備したアリアンロッド要塞の無血奪取計画がローべ伯が逸ったせいで全て台無しになったわ」

 

「情報が錯綜して詳しいことはまだわかりませんな……アリアンロッド要塞に王子が視察に来てローベ伯を捕らえたという話が最も多い情報ですが、王都で王子が処刑されたとか、王子が魔槍で邪悪な魔道士を討ったとか、王子が巨人になって演説したとか……よくわからない話も多いです」

 

 

 巨人になって演説したって何? 

 ディミトリ絡みの情報が多いのも謎だ。

 学生時代はそんな奇抜な行動をするような人ではなかったはずなのに。

 

 

「計画ではローベ伯の反乱はもう少し先だったはずよね?」

 

「どういうわけか、ローベ伯は反乱の計画を早めたようです……フラルダリウス公がアリアンロッド要塞に入ってから動きを制限されて自滅したのでしょう」

 

「それにしても反乱の鎮圧が早すぎるわ……最初の報ではフラルダリウス公は捕らえることに成功したのでしょう?」

 

「噂では王子とともに、あの“漆黒のオーディン”がアリアンロッド要塞にいたという話もあります」

 

 

 またオーディンか。

 反射的に頭を抱えてしまって、ヒューベルトに冷笑される。

 そこにオーディンがいたのなら、どうせオーディンに計画を邪魔されたのだろう。

 

 アリアンロッドの攻略計画は破綻してしまった。

 ファーガス神聖王国に侵攻するにあたってアリアンロッド要塞は絶対に堕とさなければならない要所だ。

 それを正攻法で陥落させなければならなくなってしまった。

 

 

「軍務卿は王国内から一度撤退するとのことです。すでに国境線の砦で補給線の維持がし難い箇所も放棄してる模様ですな」

 

「軍務卿は流石の判断ね」

 

 

 アリアンロッド攻略計画は再び練り直さないといけない。

 正攻法で要塞を攻略するのなら、今王国周辺に置いている戦力では足りない⋯帝国軍の戦力を結集し、大軍を編成しなければならない。

 帝都からの指示を聞かなくても、こちらの意図を読み取って行動してくれる軍務卿ベルグリーズ伯の存在は助かる。

 

 

「カスパル殿の父君とは思えぬほどの冷静さですね」

 

「貴方も何度も会ってるから知ってるでしょうけど、本来の性格は親子でそっくりよ……軍務卿の場合は経験を積み重ねた結果、それだけの判断力を身につけることができたのよ」

 

「クク……それは、カスパル殿の成長に期待ですな」

 

 

 カスパルは現在、父親の軍務卿ベルグリーズ伯の元で鍛えられているという話だ。

 彼も父親くらい成長してもらえると助かるのだけど……それはまだまだ早いような気がする。

 

 

「王国への侵攻計画は一度白紙に戻すわ。王国方面軍は副司令官に任せて一度軍務卿は帝都に呼び戻して、外務卿ゲルズ公も帝都に呼び寄せて会議を開くわ」

 

「内務卿ヘブリング伯と教務卿ヴァーリ伯ベルナデッタ殿は帝都に居られますが⋯先に会って話しておきますか?」

 

「内務卿はいいわ。ベルナデッタとは話しておかないといけないことが沢山あるから呼んできて」

 

「では、ベルナデッタ殿を呼んでまいります。私は内務卿と今回の件といくつかの案件での打合せがありますのでそのままお二人で話し合われてください」

 

 

 そういうとヒューベルトは退出していった。

 内務卿は現在私の派閥内で伯父のアランデル公派を排除するべく秘密裏に動いてもらっている。

 

 書類仕事を終わらせながら、しばらく待っていると緊張した面持ちのベルナデッタが執務室にやってきた。

 

 

「こ、皇帝陛下におかれましては⋯ほ、本日もお日柄も良く、ベルをお呼びということで⋯」

 

「ベルナデッタ、言葉遣いが変よ⋯無理して変えなくてもいいと言っているでしょう」

 

 

 ベルナデッタは士官学校にいた頃とあまり変わっていない。

 金鹿の学級から黒鷲の学級へ戻ってきた後は、多少は人と交流するようになっていたが、引きこもりの被害妄想癖は相変わらずだ。

 

 そんな彼女を私はアドラステア帝国の重職の一つである教務卿に任じた。

 もともとは彼女の父親の前ヴァーリ伯のグレーゴーア=フォン=ヴァーリが就いていた職で、代々ヴァーリ家が継いで来た役職だが彼女に継がせたのは理由があってのことだ。

 

 

「ベルナデッタには教務卿の仕事のことで話があって呼び出したのよ」

 

「べ、ベルのお仕事は、貴族会議の時に隣で『陛下の意見に賛成です』というだけですぅ!」

 

「⋯今日は会議についての話じゃないわ」

 

 

 会議において教務卿の立場から私の発言に追随させるという役割も期待もしていたが、実際の会議になるとベルナデッタは「なんでそんなことするんですか?」「陛下ぁ⋯怖すぎます! もう少し穏便に」と真っ先に反論してくる⋯自分の仕事をそうと考えているのなら、なぜそれをやってくれないのだろうか。

 

 

「ベルナデッタに会わせたい人がいるの、ついてきて」

 

「えっ、あたしに会わせたい⋯もしかして、また怖い人じゃないですよね?」

 

 

 怖いかどうかはベルナデッタの主観次第なので黙っておく。

 

 アンヴァルの宮城の地下へと居りていく……ベルナデッタは地下牢の雰囲気を怖がりながらついてきている。

 地下牢の一室を訪れる⋯その部屋は牢屋ではあるが貴族等を軟禁するために作られた部屋のため、清潔で調度品の類もある。

 

 

「エーデルガルト⋯今日は来るのが早いですね?」

 

「ええ、今日は貴女に会わせたい人がいたから」

 

「⋯えっ⋯レア⋯様⋯? ⋯⋯??」

 

 

 ベルナデッタは部屋にいた人物の姿を見て驚いて固まってしまった。

 その部屋にいたのはセイロス教団の大司教レア⋯私が宣戦布告した教団の指導者だ。

 

 

「あら、貴女はたしか⋯」

 

「私と同じ黒鷲の学級に所属していたベルナデッタよ」

 

「ベルナデッタ、お久しぶりですね」

 

「あっ、は、はい、レア様お久しぶりです⋯って! 陛下っ! やっぱり怖い人じゃないですかっ!! ⋯フォドラで一番怖い二人と帝都の地下牢で⋯ひえええええええ!! ベルはどうなってしまうのぉ!?」

 

 

 ベルナデッタは士官学校時代は引き籠っていたので、教師たち以外が覚えているか不安だったがレアはベルナデッタのことを覚えていたようだ。

 ベルナデッタは軽いパニックを起こしてブツブツと独り言を言っている⋯いつものことだからつっこまないけど、私のことをフォドラで一番怖いと思っているのか⋯

 

 

「レアはガルグ=マクの戦いの後、捕虜としてここに囚えていたわ⋯安心して、激しい尋問や拷問の類はしてないわ」

 

「今はここで引き籠りのような生活をしているのです⋯本を読んで、女神に祈り、エーデルガルトと話をする⋯それだけの日々です」

 

「えっ、レア様も引き籠り⋯あたしと同じだ、えへへ⋯」

 

 

 急にベルナデッタの機嫌が良くなった。

 レアは引き籠りというより、私が捕えて外に出れないようにしているだけなのだが、ベルナデッタは引き籠りという言葉を好意的に捉えたようだ。

 

 

「今日は⋯まずは、ベルナデッタもいることだし、いつものように歴史や政治の話を貴女に聞くことはしないわ」

 

 

()()()はレアとは、フォドラで起こった歴史上の出来事やセイロス教団が行ってきた政治の意図を私が聞くことがほとんどだった。

 時には激しい口調で口論となったり、心情的に相容れない内容だったこともあったが⋯彼女の話すセイロス教団の考えは、あの伯父の皮を被った怪しげな怪物たちより、遥かに真っ当な考え方だった⋯少なくともそう認めざるを得ないほど、あの“闇に蠢く者”たちの話よりはまともだった。

 組む相手を間違えていたのは、仕方ない。

 どのみち、今のセイロス教団は私の目指す世界には邪魔でしかないことも確かなのだ。

 

 思えばガルグ=マクの戦いから一年以上経っている⋯暇さえあれば、レアのもとを訪れて話をしていたので、私が彼女と会話した回数は従者のヒューベルトに次ぐほど多い。

 捕虜にした当時、レアは話をする気は無いほど憤っていたがそれでもめげずに足繁く通い⋯彼女の同胞に対する最大の非礼を詫びた後は態度を少し軟化させてくれた。 

 

 

「あら、エーデルガルト。では、今日は何をするのですか?」

 

「私が前にオーディンから聞いた話をするわ。オーディンの仲間たちで実際にあった話なのだけど『千年生きた竜の少女と強面の傭兵のおじさん』という話よ」

 

「へえ、オーディンさんのお仲間さんの話ですか、なんだか物語っぽい題名ですね⋯竜の少女というのがどことなく幻想的な感じが」

 

 

 以前、オーディンがフレンと一緒にいるときに私にしてくれた話だ。

 私は当時、千年生きた竜の少女という登場人物が気になってその考察ばかりをしていたが、二人の男女の恋物語としても面白かった。

 

 レアは静かに、ベルナデッタは楽し気に話を聞いてくれている。

 ⋯この世界のひとならざる者たちも普通の人と出会って恋をするようなことがあるのだろうか? 

 友人だったフレンを思い出すと、なんとなくそういうことがあってもおかしくはないと思う気がする。

 

 

「素敵な話ですね! これでおしまいですか? 続きはないんですか?」

 

「私がオーディンに聞いたのはここまでよ……続きが聞きたいなら彼に聞きなさい⋯会う機会が有ればだけど⋯」

 

「えー、残念です」

 

 

 ベルナデッタはこの話が気に入ったようだ。

 続きが気になっているようだけど、オーディンに会わないと続きが聞けないことを残念がっている。

 

 

「彼の世界ではそのようなことがあったのですね」

 

「珍しいことだけど、オーディンのいた世界では受け入れられていたようね」

 

「世界? 国のことですか?」

 

 

 レアは少し考えている様子を見せているが、表情からは何を考えているかは読み取れない⋯この話自体には好感を持っているようだが。

 オーディンの事情のことは知らないベルナデッタは置いておき、レアに問いかける。

 

 

「オーディンたちは何者なの? 彼らは女神の力で世界を飛び越えて、このフォドラに来たと言っていたわ」

 

「⋯わかりません。私は彼らにあまり信用されていなかったようです⋯セテスを通してその話について聞いただけなのです」

 

「女神の力は本当なの? 貴女の話すセイロス教の女神とオーディンの話した小さな女神は本当に存在して、同一の存在なの?」

 

「⋯彼らは確かに小さな姿の女神ソティスによりこの世界へと召喚されたと言っていたと聞きました。女神の真名を知るものは本当に数少ないのです⋯彼らからは僅かに女神の加護を感じましたし、オーディンがあの恐ろしい剣を召喚した後はそれが消えていました。おそらく、彼らが言っていることは正しいのでしょう」

 

 

 結局、オーディンたちの正体については私が知っている以上の情報は出なかった。

 彼の性格を考えると、開示できるほとんどの情報はジェラルト殿が討たれた次の日の朝⋯私とディミトリとクロードに全て話してしまっていたのかもしれない。

 

 

 ──俺は“漆黒のオーディン”。数多の時を超え、滅びし運命を変えるために戦う選ばれし闇の戦士だ

 

 

 そもそも、普段のオーディンの言動を思い出すと全く隠す気がなかったようにも思えてくる。

 

 

「それに、彼らが言う“闇に蠢くもの”たちが世界を破滅させるとの話についても信憑性は高いです⋯セイロス聖教会はずっとあの者たちと戦ってきたのです⋯いえ、教会が存在するずっと前から」

 

「世界を破滅させる力⋯あの者たちが何をやろうとしているの?」

 

「わかりません。ただ、女神ソティスは時間を超越する力を持っていました⋯その力によって世界の破滅を予期して、異なる世界から彼らを召喚するに至ったのでしょう⋯そう考えるのが辻褄が合います」

 

 

 この一年のレアとの会話の中で、煉獄の谷アリルという場所についての話を聞いた。

 煉獄の谷アリルは王国と同盟の領境にある灼熱の溶岩が噴き出る火山地帯だ。

 伝承では、女神様が堕落した人間たちに裁きを下し『光の柱』によって焼き払われたと言われているが、レアの話によるとその『光の柱』は女神の力ではなく、“闇に蠢くもの”の手によるものだったこと。

 

 もしその『光の柱』を世界中に落とすことができるのなら、確かにそれは世界を破滅させる力となりうるのだろう。

 そして、今まで会ってきた“闇に蠢くもの”たちはそれを躊躇なく実行できる邪悪さしか感じない者たちだった。

 

 

「“闇に蠢くもの”はそれだけ危険な存在なのです⋯あの者たちと手を組むのは止めなさい、エーデルガルト」

 

「それは何度も聞いたから、わかっているわ。今、手を切る準備をしているところなの」

 

 

 準備は着実に整ってきているが、失敗すれば帝国は『光の柱』の脅威に晒されることとなる。

 宮内卿ヒューベルトと内務卿へブリング伯の各貴族への根回しと摂政派の切り崩し、外務卿ゲルズ公の他国の情報調査、そして軍務卿ベルグリーズ伯を呼び寄せて帝都の戦力増強。

 

 教務卿ベルナデッタもその一手だ。

 

 

「ベルナデッタ」

 

「⋯えっ、あっ、ハイ! な、なんでしょうか、陛下!」

 

「何を呆けているの、話は聞いていた?」

 

「あっ、その⋯聞いてたんですけど、オーディンさんが世界を超えたとか、闇に蠢くもの? が世界を滅ぼすとか、ちょっとあたしには難しくて、ついていけてなくてですね⋯」

 

「全てを把握するのは難しいかもしれないけど、覚えておいてほしいわ。貴女の仕事にも関わるかもしれないから」

 

 

 今回ベルナデッタをレアに引き合わせたのは、この話を聞かせたかったわけではないが情報共有しておいて損はない。

 

 

「ベルの仕事⋯そういえば、あたしってなんでここに呼ばれてたんですかね?」

 

「教務卿に就任してもらった時に南方教会を再建するって話はしたわよね。その時にベルナデッタには南方教会の司教に就いてもらうということも」

 

「あーはいはい、その話ですか。⋯えっ、じ、冗談じゃなかったんですかっ!?」

 

「こんな真面目な話、冗談でするわけないわ」

 

 

 教務卿に就いてもらう時もベルナデッタは阿鼻叫喚状態で話をまともに聞いてなかったかもしれないが、そのあとも何度か伝えてるはずだ⋯

 

 

「む、無理に決まってますよっ! ベルは部屋から出たくなくてお祈りをサボるダメダメ教徒ですよ! そんなベルが司教だなんてっ⋯」

 

「そう、経験不足の貴女ではとてもじゃないけど、司教として南方教会の再建なんて無理ね」

 

「で、ですよねー⋯でも、そう思うなら、なぜベルを教務卿に? ⋯あれ、も、もしかして⋯?」

 

 

 今、この場にいるセイロス教会の経験豊富な大司教の存在に気づいてベルナデッタは固まってしまった。

 レアも私の思惑に気づいたのか困ったような顔をしている。

 

 

「ベルナデッタ⋯南方教会のことについてわからないことがあれば全てレアに聞きなさい」

 

「ほげええええええええ!!! や、やっぱりだ~!!」

 

「セイロス中央教会、大司教レア⋯教務卿ベルナデッタを通して南方教会を運営すること認めるわ。それで貴女が統治した千年間の正当性を証明しなさい」

 

「⋯貴女は、本当に初代皇帝⋯大帝ヴィルヘルムにそっくりですね⋯」

 

 

 もちろん全権を握らせるつもりはない。

 私の信念と相容れないことについてはさせないし、横槍も入れる。

 

 このアドラステア帝国の最大の敵の首魁であるレアに政治的権限を与えることは危険なのはわかっている。

 

 それでも私は知るべきだ。

 倒すべき相手、超えるべき相手のやり方を。

 

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