ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン   作:すすすのすー

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黒夜の章 1181~1184年 EP.15 黄昏を連れて
第75話『神々の住まう場所』


 

 俺は漆黒のオーディン、選ばれし闇の聖騎士だ。

 

 アリアンロッドからファーガス神聖王国の王都フェルディアへ戻った俺たち『フォドラの夜明け』は、ディミトリの戴冠式を手伝った後は、王都を離れガルグ=マク大修道院へと帰還することにした。

 ディミトリは俺たちと別れることを惜しんでいたが、フェリクスたち幼馴染は王都に残るみたいだし、アネット親娘もいるので彼らがディミトリを上手く支えてくれるだろう。

 

 

 王都からガルグ=マク大修道院に戻る前に、俺たち『フォドラの夜明け』一行は、ディミトリの許可を取り王国西部にあるトータテス湖の調査に来ていた。

 

 トータテス湖には“動かざる重きもの”と呼ばれる聖獣が存在している。

 その聖獣は数百年前に、試練を破った者に“尽きざるもの”という神聖武器を預けたとされていて、その“尽きざるもの”は使い終わった後ご丁寧に聖獣の元に返却されたらしい。

 その後も、何度か聖獣の試練に挑戦した者はいたが突破できた者はいないとのことだ。

 

 

「試練を突破したら、伝説の武器がただで貰えるんだろ。やるしかないよな!」

 

「レオニー、その伝承って何百年も前の話なんでしょ? 貰えるって決まったわけじゃないわよ」

 

「しかし、“尽きざるもの”ですか……神聖武器は英雄の遺産と違って紋章を持ってなくても使えますからね、戦力増強には良いですよね」

 

「部隊長だけでも弓術A以上は6人いるから強力な弓はいくつあっても良いね」

 

「僕はそんな価値のある武器を使うなんて恐れ多いから……普通の武器で良いよ」

 

「あらあら〜アッシュ、貴方の好きな騎士物語に出る人たちはみんなカッコいい武器を持ってるでしょう。貴方も本当は使いたいんじゃないの?」

 

 レオニー、イグナーツ、アッシュと『フォドラの夜明け』には一流の弓使いが多い。

 メイン武器として使ってないがルーナとラズワルド、メルセデスも弓を得意としているので、“尽きざるもの”は誰が使っても良いだろう。

 俺は弓術は苦手なので全く育ててないので扱えないが、伝説の武器には凄く興味がある。

 現在の『フォドラの夜明け』が所有する伝説級の武器は、俺の“封魔剣エクスブレード”(ファルシオン)、ラズワルドの“オートクレール”、ルーナの“グラディウス”……そして、何故かフレンがずっと私物として使っている聖セスリーンが使ったとされる聖遺物であり神聖武器の“カドゥケウスの杖”の四つ……“尽きざるもの”が手に入れば五つ目の伝説級武器となる。

 この感じだと、レオニーが使いそうだから、十人の部隊長のうち半分が伝説級武器を持つことになるのか……『フォドラの夜明け』がどんどん物語に出てくるような最強の集団っぽくなってきてるな……血が騒いできたぜ……! 

 

 そんなことを考えつつも、トータテス湖に着くと予想外の人物が湖の入り口近くに座っていた。

 その人物に気が付いたドロテアが声をあげる。

 

 

「ねえ、あれってリンくんじゃない?」

 

「あれ? ……ドロテアとセイロス教会の……なんで君たちこんなところにいるの?」

 

「それは、こちらの台詞だリンハルト! 帝国人の貴様が何故此処に……ファーガス神聖王国の諜報活動でもしに来たか!?」

 

 

 湖の入り口に居た人物は学生時代、黒鷲の学級で同級生だったリンハルトだ。

 リンハルトはエーデルガルト派の内務卿ヘヴリング伯の息子で帝国貴族……そんな人物が王国のトータテス湖にいるなんて、どう考えてもおかしい! 

 

 

「諜報活動? 僕はそんな面倒なことする人間じゃないよ……この湖の調査に来たのさ。この湖の主である“動かざる重きもの”は聖インデッハ説があるからね。調べたくなって一人で来たんだよ」

 

「たしかに諜報活動なんて、あの面倒くさがりで昼寝好きのリンくんがするわけないと思うけど……」

 

「一人で此処まで来たのか……?」

 

「うん、そうだよ。今代の皇帝陛下は紋章学の発展には興味が無いらしくてね……皇室宮廷魔導局も帝国魔法研究所も、僕の個人的な研究には予算も人員もつけてくれなかったから、一人で帝国を抜け出して研究してるのさ」

 

 

 一人でこんなところまで研究しにくるイメージがリンハルトには全然無いんだが……

 いや、そういえば思い出してみると、リンハルトは一人でアビスの地下を散策したり興味を持ったことに対しては無駄にアグレッシブに動くやつだった。

 

 

「聖獣に何度か会いに行ったんだけど、その度に試練を受けるように言われるから逃げてきたってわけさ」

 

「何やってんだお前……」

 

「リンくん、受ければいいじゃない試練を」

 

「嫌だよ。僕が戦いを苦手なこと知ってるだろう」

 

 

 実際に“動かざる重きもの”は存在して聖獣の試練もあるらしい。

 目の前のリンハルトのおかげでそのことは確実となった。

 

 しかし、聖獣=聖インデッハ説か……昔ハンネマン先生が同じことを言っていたな。

 “尽きざるもの”は聖インデッハが愛用した弓で、それを所有する聖獣は聖インデッハ本人であるという説。

 セイロス教会の大司教レア様が“白きもの”に姿を変えたこともあって、一気に信憑性があがってるんだよなあ……

 ちなみにハンネマン先生が言っていたが、“白きもの”は聖セイロスと同一視されている説が一番根強い。

 

 

「あっ、丁度いいや。僕の代わりに君たちが試練を受けてきてよ、貰える武器は君たちに譲るからさ」

 

 

 おい、何を勝手に決めてんだお前は……いや、もともと受けるつもりで来たんだけど、リンハルトに言われて決めるのはなんか嫌だ。

 返事もしていないのにリンハルトは入口の方へ歩いてトータテス湖の方へ行ってしまった。

 

 トータテス湖の周囲を囲むように建てられた遺跡のような神殿。

 その中央にひときわ巨大な亀のような“動かざる重きもの”が鎮座していた。

 

 デカァァァァァいッ説明不要!! なんだあのサイズは!? “白きもの”より遥かに大きいぞ! あんなのに勝てる人間なんかこの世にいるのか!!? 

 

 ……いや、そういえば前の世界で俺たちが倒した邪竜ギムレーと比べると流石に小さいか……ギムレーは大きすぎて背中の上が戦場になったりしたからな……

 

 

『……汝……いや、お前また来たのか?』

 

「うわ、あの魔獣、喋った!」

 

「デッケえな何喰えばあんなにデカくなれんだあ?」

 

「声も大きいですね……此処から結構距離もあるのに」

 

「やあ聖獣様、また会いましたね。試練はこの人たちが受けますよ、セイロス教会の聖騎士たちです」

 

 

 リンハルト! 勝手に決めるのやめろおおお!! 

 “動かざる重きもの”は俺たちに興味を持ったのか、身体の向きをこちらに向け『フォドラの夜明け』を正面から見据えた。

 

 

『ほう、汝らは教団の……大司教はまだセイロスがやっているのか?』

 

「いや、今の教団の大司教はレア様という方が……」

 

『なんだ、その()()をまだ使いまわしているのか、セイロスめ』

 

 

 偽名とか言っちゃったよ……セイロス教会が隠していることを簡単に言っちゃうのは、いくら聖獣様でも良くないと思いますよ……“白きもの”=レア様=聖セイロスかぁ……まあ、そんな気がしてたのはそうだが、どんどん知ってはいけないことを知ってきている気がする。

『フォドラの夜明け』の他のみんなもリンハルトも聞こえていたのか、みんなで微妙な表情を浮かべて目を合わせている。

 

 

「お、おじ様! そんなこと大声で言ったらダメですわ! しっーですわよ!」

 

『……おお、お前も来ていたのか、セスリーン。いたのなら早く顔を見せてくれればいいのに』

 

「ちょっと、なんてこと言いますの!? おじ様!! しっーなんですわよ! 空気をお読みになってくださいましてよ!」

 

 

 この聖獣様、フレンのことを「セスリーン」って呼んだぞ。

 フレンも、お前から「おじ様」って呼ぶのも知り合いだって言ってるようなものだぞ……聖人って俺たちが思っているよりダメな人たちかもしれない……

 

 

『セイロス騎士団が相手なら、我も相手にとって不足はない』

 

「あっ、始める前にちょっと待ってくれよ! 本当にただで武器をくれんのか!?」

 

『試練を乗り越えたならば好きにせよ! 湖にある物全て汝らの物だ!!』

 

 

 レオニーの言葉に“動かざる重きもの”が豪快に返答する。

 “動かざる重きもの”の周りに幻影の兵士たちが現れて、トータテス湖全体が霧で覆われ始めた。

 

 

「オーディン、霧が……マグドレド街道の時と同じような魔法の力かな?」

 

「〈戦術師〉の能力でもこの霧は見通せない……薄闇を照らす闇の呪具『松明』を使うぞ」

 

「備えあれば嬉しいなぁ! ってやつだな!」

 

「『備えあれば憂いなし』よ、ラファくん」

 

「〈警戒態勢〉で回避に徹するとしても弓が怖いわね」

 

「守備の固い前衛で待ち構えよう」

 

 

『フォドラの夜明け』のみんなが松明を使い周囲を照らしはじめた。

 聖獣の試練については、一応下調べしてきたので、アイテムの準備はできている。

 しかし、これで遠距離魔法の〈メティオ〉と〈スライム〉は使えなくなったか、〈戦術師〉の能力も潰されているので、この試練と俺はだいぶ相性が悪い。

 

 ラズワルドの“蒼穹隊”とラファエルの“黄昏隊”を前に出して、イグナーツの“翠緑隊”とアッシュの“紺碧隊”で計略の〈応撃の備え〉と〈聖盾の備え〉を前衛に付与する。

 聖獣に辿り着くまでの道中も何があるかわからないので慎重に進まなければならない。

 

 

「来ました! 幻影兵です」

 

 

 イグナーツの報告に俺も幻影兵の能力を確認する。

 幻影兵は上級職が多く、強さも能力もかなり高い……俺たち『フォドラの夜明け』でも油断すればやられてもおかしくない。

 

 

「ぶっ飛べっ!!」

 

「せいっ! ……倒したら消えるのか……屍兵ほど気味が悪くないから良いね」

 

「これは魔法で生み出された幻影だ。元を断たないと永遠に出てくるだろうね」

 

「この幻影兵ってガルグ=マクの地下にも同じようなのがいたわよね」

 

 

 慎重に倒しながら“動かざる重きもの”のもとへ進んでいるが、リンハルトの言うように永遠に出てきている感じだな。

 “動かざる重きもの”を倒さない限り、この手強い幻影兵が増え続ける……並の挑戦者では試練を突破出来なかったのも頷ける難易度だ。

 

 しかし、士官学校時代にガルグ=マクの地下で幻影兵と戦ったことがあるが、こういう有用そうな謎技術はセイロス教会や他の国は戦争で使わないのだろうか? 

 フォドラの戦争の歴史を見ても幻影兵らしき記述はどこにも載ってないので、使っていない可能性が高いが……この幻影兵が教団で使えないかセテスさんに聞いてみよう。

 

 

「ラズワルド、そっちの〈グラップラー〉は“ドラゴンクロー”っていう強武器持ちだ! 気をつけろ!」

 

「ああ、任せて!」

 

「アッシュ、そこに宝箱があるから開けてくれ」

 

「オーディン、わかった! ……ショートアクスだったよ、そのまま使うね!」

 

 

 しかし、この湖の試練……そこそこ良い武器から見たことないような強武器まで、なんでも手に入るな……試練の犠牲者の落とし物を再利用しているだけかもしれないが、とんでもなく美味しい試練だ。

 

 ……っと、霧の中から切り込んで斬りかかって来た〈ソードマスター〉の幻影兵を、切り返しで斬り倒した。

 

 ……って! この〈ソードマスター〉が持ってるの“メリクル”じゃねーかっ!? 

 鷲獅子戦争に名を残す名剣中の名剣“メリクル”……こんなところにあったのか……

 

 この“メリクル”……俺が拾ったからといって俺のサブ武器としてしまうのは流石に勿体無いよな。

 封魔剣エクスブレードは高性能かつ一切壊れることがないので、予備の剣を持つ意味はあまりないし……予備の剣は、俺のもともとの愛剣ミステルトィンをウーツ鋼で作り直した超カッコいい剣がある。

 ……となると、ラズワルドかルーナに渡すことになるが……あいつらは“オートクレール”と“グラディウス”という、この“メリクル”と名弓“パルティア”と並び評され“四種の神器”と呼ばれる武器をすでに教団から貸してもらっている。

 あいつらのどちらかが“四種の神器”を二つも持つのは癪だし、勿体無い。

 

 そういえば、ユーリスには士官学校時代から今に至るまで、色々借りがあったし“メリクル”はユーリスにあげよう。

 ユーリスもきっと喜ぶだろう。

 

 幻影兵を倒しつつ、武器や宝箱を拾いながら、俺たち『フォドラの夜明け』はトータテス湖の中心部である、“動かざる重きもの”、聖獣様のもとへとたどり着いた。

 

 

『我のもとへとこれ程早く来るとはな……人の子らよ、久しぶりに本気で相手してやろう』

 

「お手柔らかに頼みますわよ! おじ様! この選ばれし光の聖戦士、“純白のフレン”がお相手ですわ!」

 

『……いや、やはり顔見知りもおるのでな……少々、加減してやる。……我を倒し、汝らの力を示すが良い!』

 

 

 本気を出すとか言って、すぐに手加減すると言い出している。

 大丈夫かな、この聖獣様……フレンに対して気の良い親戚のおじさん感を出しているが……聖獣としての威厳があまり感じられない。

 

 

「よしっ! 紋章なんかなくったって、戦えるってところを見せてやる!」

 

「蒼穹隊、行くよ! 〈一斉突撃〉!」

 

「この策で、揺さぶってあげましょう! 共鳴魔法〈雷〉!」

 

「〈魔物崩し〉おらっ!! ……これが筋肉の真の力だっ!」

 

「必殺、アウェイキングホーリー!!」

 

『ふっふっふ……その程度か? 効かぬわ!』

 

 

 “動かざる重きもの”はその亀のような巨体に相応しい、防御力と体力だ。

 計略や戦技で障壁を壊して攻撃しても、あまり体力が削れない。

 

 “動かざる重きもの”は巨体に似合わない跳躍力で跳び上がって、地面に着地した衝撃波で前衛たちを吹き飛ばした。

 今の攻撃、真下に誰かいたら即死だっただろ! 本当に手加減してるのか!? 

 

 メルセデスの“紫苑隊”の計略の共鳴魔法〈白〉でダメージを受けた前衛たちをまとめて回復させる。

 

 ここは俺も後ろから魔法を撃ってるより封魔剣エクスブレードで攻撃参加したほうが良さそうだ。

 

 

「〈魔刃〉! 蒼炎剣ブルーフレイムフレイムソード!!」

 

『ほげええええええええ!!! 痛ぁぁぁッッッ!!!?? ……ガッ……グ……な、なんだ、その剣は……そんなものを人に向けて振るうとか何を考えている!? 我を殺す気かっ!!』

 

「ええっ? ……あっ、すいません……」

 

『次にその剣を使ったら賞品全部やらないからなっ! ……本当だからなっ!!』

 

「あっ、はい……すみません……もうしません」

 

 

 めっちゃダメージ入ったけど、めっちゃ怒られた……人じゃなくて獣に向けて振るったんですけど……竜特攻と魔物特攻ですみません。

 レア様も封魔剣エクスブレード(ファルシオン)を異様に怖がっていたけど、このダメージなら納得できる。

 

 怒られたので、封魔剣エクスブレードはもう使えない。

 俺たちも聖獣様を殺したいわけではないので、一線は守るべきだ。

 今まで、この湖で拾った物を全て没収されるのも嫌だし素直に従っておくほうが良い。

 

 封魔剣エクスブレードを鞘にしまって、ミステルトィンを抜き放つ……この愛剣を実戦で使うのは久しぶりな気がする。

 

 

「リンハルト、見てるだけじゃなくて手伝って〜……オーディンが緑で示してるところに〈リブロー〉をお願い〜」

 

「ええ? 僕は聖獣の動きを見ていたかったのに……わかったよ、メルセデス」

 

「紅蓮隊! 〈神速の備え〉よ」

 

「ルーナさん、良いタイミングです! これで回り込んで……〈ブレイクショット〉!」

 

「風林火山! 橘橙隊〈連環馬〉発動!」

 

『ぬう……やりおる……』

 

 

 封魔剣エクスブレードの一撃は“動かざる重きもの”の体力を相当削ったので、戦いの天秤はこちらの有利に傾いた。

 この聖獣様は、間違いなくこの世界に来て一番強かった相手だ。

 

 俺自ら、トドメの一撃を与える! 

 聖獣だろうと聖人だろうと、俺の行く手を阻むものは俺自身が消し去ってやる! 

 

 

「〈秘剣〉! 暁の剣ゴッデスオブドーンブレイド!!」

 

『見事なり、人の子らよ……! 試練はここ……まで……だ……』

 

「あんたの戦い、見事だった」

 

 

 “動かざる重きもの”の巨体が、大きく音を立て倒れる……一瞬、殺してしまったと心配になったが、どうやら気絶してるだけらしい。

 

 

「やったぁ! 勝ったぞ、魔獣殿! ただで貰える伝説の武器は? 早くくれよ!」

 

「やめてあげてください、レオニーさん。どうやら聖獣様は気絶してるみたいですし」

 

「トータテス湖の聖獣を倒したなんて、また吟遊詩人の唄になっちゃうわね。いや、新しい帝都の歌劇の題材にもなるかもしれないわ」

 

「強かったね、もしかしたらこの世界に来て一番の強敵だったかも?」

 

「そうね、ラズワルド。まあ、リンハルトが言ってた聖獣が聖人インデッハ説ってのを考えると妥当な気もするかしら」

 

「なあ、亀って美味えのかな?」

 

「やめなよラファエル! 聖獣様を食べることを考えるなんて……怖すぎるよ!」

 

「アッシュの言う通り、やめといた方がいいと思うよ……直接摂取は適合出来なくて死ぬ場合が多かったみたいだから。ただ、乗り越えることができたら紋章が……」

 

 

 聖獣の試練を達成したことに『フォドラの夜明け』のみんなが歓喜している。

 ただ、一部のやつらがなんか怖い話をしているが……多分冗談だろう。

 

 

「〈リザーブ〉! とりあえず、この巨体に範囲回復魔法をかけとけば衰弱して死ぬなんてことないだろう、フレン、メルセデス手伝ってくれ」

 

「〈リザーブ〉。おじ様の本気はこんなものではなかった気が……引き篭もりすぎて衰えてしまわれたかもしれないですわね」

 

「〈リザーブ〉……聖獣様、体に沢山の武器が刺さって、傷だらけで可哀想だわ〜どうにかしてあげれないかしら」

 

 

 メルセデスの言う通り、“動かざる重きもの”は体中に武器が刺さって痛々しい状態だ。

 多分、今までの試練の挑戦者たちから受けた傷をそのまま放置していたのだろう。

 ……よしっ! 

 

 

「聖獣様が起きるまで、体に刺さった武器を全て抜いて治療してあげよう! 後は、湖の周りを掃除して散らかってる物を持ち帰るぞ! 『フォドラの夜明け』たちよ、『神々の住まいし聖域の浄化作戦』の開始だ!」

 

 

 純粋に可哀想だから、全部の武器を抜いてあげよう! という気持ちだ……まだ掘り出し物が沢山有りそうなんて一切ない! 

 聖獣様は「勝ったら、湖にあるものお前らの物」って言ってたし、何も問題ないはずだ。

 

 早速、体によじ登って調べてみよう。

 

 うひょー!! 〈戦術師〉の能力で何があるか抜く前にわかるぜ! 宝の山じゃねーか!! 

 聖獣様の堅い甲羅みたいなところに刺さってる武器だから良い武器であることは予測していたが……ロングボウにスレンドスピア……倭刀! これは……神聖武器の“ウコンバサラの斧”!! 

 しかし、剣と槍と斧が刺さってるのはわかるが、なぜ当たり前のように弓がブッ刺さってるんだ? ……投げたのか? 

 ……って、これ“パルティア”じゃねーか!! “メリクル”もここにあったから“四種の神器”のうち二つはトータテス湖にあったのか……はっ! あっちにあるのはまさか……“タスラムの弓”!? 

 

 

 こんな感じで俺は、聖獣勝利記念無料百連『湖水の伝説』(尽きざるもの確定)武器おみくじを楽しんだのだった。

 

 

 

 

『なんだ、お前らまだいたのか?』

 

 

 おみくじを楽しんだ後、トータテス湖の掃除も進めていると聖獣様が目を覚ました。

 この人も、相手を「汝」と呼んだり「お前」と呼んだりして二人称が安定しない人だな。

 

 

「その、フヒヒ……湖の周りの掃除をしてました」

 

『ほう、感心だな。今どきの若い者にしては珍しい……セイロスの教えか? 流石はセイロス騎士団だな』

 

 

 誤魔化そうとしたら変な笑い方になってしまった。

 しかし、聖獣様は湖の掃除という言葉に喜んで機嫌をよくしている。

 

 

「後は……背中に刺さっていた武器も全て抜き終わりました。刺さっていた傷も回復させてるところです」

 

『ん? ああ、背中の武器か……あれは戦いで刺さった物もあるが、大半は趣味で集めた物だ。大昔に我が自ら作成した物もある』

 

 

 げっ!? やっぱり……戦いで刺さったにしては、妙に傷が少ない綺麗な武器が多かったから収集していたものだったのか……

 余計なことをしてしまったかもしれない。

 

 

『我の古傷に、集めた武器を幻影兵に刺してもらって保管していたのだ。持っていきたいなら持っていけ……どのみち我はもう使わないし、傷を塞いでくれるのならば保管もできん』

 

 

 聖獣様は気にした様子もなく、全部持っていって良いと言ってくれた。

 なんて太っ腹な人なんだ……器も体もデカいよ…… 

 

 

『ただ、“尽きざるもの”は使い終わったら返してほしい……あの武器はたとえ使えなくなったとしても、我の思い出の品なのでな……』

 

「魔獣殿、“尽きざるもの”はわたし……“壊刃の継承者”レオニー=ピネッリが使うことになったんだ! 必ず返すって約束するよ!」

 

『まあ、百年後でも二百年後で構わん』

 

 

 百年後なんて生きてる人はレア様の親戚以外はほとんどいなさそうなので、レオニーには早めに返すように言っておこう……まあ、何人か百年後にも生きてそうな人が思い浮かぶから最悪その人たちに頼めばいい。

 “尽きざるもの”が思い出の品か……聖獣“動かざる重きもの”は聖人インデッハとみて間違いないだろう……そして四聖人の一人インデッハとおじさんと姪っ子みたいな会話をしているフレンは……いや、フレンみたいな小さな少女が、絶世の美女と言われているセスリーンなわけないか……

 

 

「聖獣様〜貴方、大きいから、また〈リザーブ〉かけてあげるわ〜」

 

「今のメルちゃんの魔法である程度は癒えたみたいね。治ってない手の届かないところの傷は〈リブロー〉で治すわ……ほら、リンくんも」

 

「ええ、面倒くさいなぁ……」

 

「〈ライブ〉! わたくしの聖なる力でオーディンさんの闇の剣で傷つけられた傷は癒えましたわ! おじ様!」

 

「〈リカバー〉! しかし、闇の力でそれを塗り替えた! 今後、貴様は聖獣ではなく闇獣として生きるのだ、闇獣様よ」

 

『これは良い、回復魔法なんて何百年振りだ……』

 

 

 聖獣様が起きて会話してるとトータテス湖の周りの掃除をしていたメルセデスたちが戻ってきた。

 回復魔法をかけて上げると聖獣様は気持ちよさそうにしている。

 確かにトータテス湖の幻影兵の中には〈ビショップ〉も〈プリースト〉もいなかった……幻影兵を作るのにも条件があるのだろうか? 

 

 フレンとリンハルトが何度も回復魔法を使ってるのでセスリーンの紋章がたまに浮かんでいる。

 フレンがセスリーンの大紋章を持っているのは知ってたが、リンハルトもセスリーンの紋章持ちだったのか……

 

 それに気づいた聖獣様がリンハルトに声をかけた。

 

 

『なんだ……お前、湖の周りをウロウロしている時から変わり者だとは思っていたが、セスリーンの紋章を持っていたのか……納得したぞ』

 

「ま! ……おじ様! 今とんでもなく失礼なことを言ってますのよ! ……その、セスリーンに対して……その紋章を持つ者に対しても!」

 

「セスリーンが変わり者って言われているのは、色んな文献を調べてみても明らかなので、今更同列に扱われても気にしませんよ、僕は」

 

「リンハルトさんは気にしないかもしれないですが、セスリーンは気にするかもしれませんわ! わたくしもセスリーンの紋章を持つ者として変わり者扱いは断固拒否しますわ! それが、わたくしの血の定めだとしても!!」

 

 

 そうだな、セスリーンもフレンもリンハルトみたいなやつと一緒にされるのは嫌だろうしな。

 ただ、セスリーンについては詳しくないからなんとも言えないけど、フレンは普通に変わり者だと思うぞ……俺が言うのもなんだけど……

 

 

 ……そういえば、もしも聖人がまだ生きていて、実際に会えたら聞きたいことが有ったんだ。

 

 

「すみません……聖獣様、実は大事なお話が……実は俺“漆黒のオーディン”は、女神ソティス様に……」

 

 

 それは、世界の破滅を防ぐための手がかりだ。

 

 みんなに離れてもらって、聖獣様と二人きりで話すことにする。

『フォドラの夜明け』の部隊長や士官学校出身者、元ジェラルト傭兵団員にも俺たちの事情はだいぶ話しているがまだ全員に話してはいない。

 情報漏洩を防ぐために少しずつ知ってる事情を人物を増やしているのだ。

 

 聖獣様に、俺たちが女神様に呼ばれて別の世界からやってきたことや、今までの出来事ついて話す。

 俺は“闇に蠢くもの”が世界を破滅させる者たちだと思っているが、千年以上生きていた聖人の意見はどのようなものだろうか? 

 

 

『……あの地虫どもが、この世界を? ……千年も逃げ回っておった、あやつらにそんな力があれば、とうの昔に世界など滅ぼしておろう』

 

「えっ、聖獣様は“闇に蠢くもの”が世界を破滅させるような者たちではないと考えるんですか?」

 

『違うな、仮にその屍兵の力とやらで()()()を復活させたとしても、精々このフォドラ大陸を滅ぼす程度の力しかあるまい』

 

 

 フォドラ大陸が滅ぶってことは、つまり世界の終わりってことじゃないですかね……? 

 屍兵として解放王ネメシスを復活させるとか、めちゃくちゃヤバいだろ。

 

 

『ソティスははっきりと()()()()()()と言ったのだろう?』

 

「ええ、そうです……聖獣様は他に心あたりがあるのですか?」

 

『我が知る()()()()()()などという力を持つ者は一人のみだ……そして、それは……』

 

「それは?」

 

『……言えぬ』

 

 

 ……言えんのかい!! 

 これだけ、もったいぶって教えてくれないとか、なんだこのおじ様!? いや、聖獣様! 

 

 

『その者が世界を滅ぼすなど、あってはならぬのだ……それに、その者が本当にその力を振るえば、お前たち如きがどう足掻こうと塵芥にしかならぬ……! ……一体何を考えておるのだ、ソティスは……』

 

 

 聖獣様は、独り言をブツブツ言いながら、悩んでいる様子だ。

 しかし、困ったな……世界を破滅させるとしたら“闇に蠢くもの”と思っていたのに違う存在の可能性が出てきた。

 いや、とりあえず今は“闇に蠢くもの”を倒すことを考えるべきか? 

 

 

『どちらにせよ我が考えても、仕方ないことだ。我はこの湖から出るつもりはない! だって、引き篭もりだから! ……世界が滅んでも、たぶん我は死なないだろ……へーきへーき……』

 

 

 今、このおっさん開き直ったぞ!? 

 引き篭もりだからとか、たぶん死なないとかなんなんだよ? 

 お前はベルナデッタかっ!! 

 いや、ベルナデッタがコイツなのか……ベルナデッタはインデッハの小紋章を持っていると本人に聞いたことがあるからな……

 

 

『たぶん、今のは全て我の杞憂だ……その地虫……“闇に蠢くもの”だったか? その者たちを倒せば、たぶん世界は滅びないはずだ……たぶん』

 

「めちゃくちゃ曖昧! なら、聖獣様が思いついた()()()()()()()を持った一人の人物を教えてくださいよ! 杞憂だったんでしょ!」

 

『騒々しいやつだ……杞憂でその者に濡れ衣を着せるわけにはいかんだろう……我の勘違いだ、全て忘れろ』

 

 

 これ絶対教えてくれないやつだ……

 ()()()()()()()を持った一人の人物ってセテスさんとかレア様に聞いたらわかるだろうか……? 

 

 

『どうしても、それを知りたいのなら『聖人マクイル』に聞け……その者ならば全てを知っているはずだ』

 

「四聖人の一人マクイルって、まだ生きているんですか? そのマクイルはどこにいるんですか?」

 

『……さあ? 我の方が先に引き篭もったから、あやつの居場所など知らん』

 

 

 この聖人ダメだ、早くなんとかしないと……

 たぶん面倒になってマクイルに丸投げしてるよ、この人……

 

 

「ねえ、話は終わった? 僕も聖獣様に聞きたいことが山ほどあるんだけど」

 

 

 タイミングを見計らっていたのか、リンハルトがやってきた。

 聖獣様と二人きりで話したいから離れてもらっていたのに……こいつ、俺たちの話を盗み聞きしていたのだろうか。

 しかし、俺たちの会話で重要なことは“闇に蠢くもの”が世界を滅ぼすような力を持っていないかも? ということと、世界を滅ぼすような敵が別にいるかも? という話だけなので、あまり意味はないかもしれない。

 

 

『なんだ、セスリーンの眷属の末裔よ』

 

「ふわぁ〜、でも、今日は疲れたから、明日でいいや。また明日来ますね」

 

『えっ、今の流れでやっぱりやめるってするの? なんなのコイツ』

 

 

 それ、散々俺にやってきて人のこと言えるのでしょうか、聖獣様……リンハルトは相変わらず学生時代と変わっていない。

 

 

『明日は誰も来るな……我は疲れた、しばらく訪問者は幻影兵で追い払うことにする』

 

「ええ? じゃあしばらく泊まっていきます。これなら、追い払われなくてすみますよね」

 

『えっ、なんなのお前? ここは我の家だぞ、帰れよ!』

 

 

 リンハルトは聖獣様の元に残るらしく、本当に泊まる準備をし始めた。

 大きなため息をつくと聖獣様はリンハルトを追い返すことを諦めたようだ。

 

 聖獣様は最後にフレンに対してこう残した。

 

 

『セスリーン、お前はいつでも来い、お前に会うと我も元気がでる』

 

「もっー!! おじ様!!」

 

 

 ──ー

 

 

 レオニーが『尽きざるもの』を獲得しました! 

 

 オーディンが『パルティア』を獲得しました! 

『パルティア』をイグナーツに渡しました。

 

 オーディンが『タスラムの弓』を獲得しました! 

『タスラムの弓』をメルセデスに渡しました。

 メルセデスは『タスラムの弓』は使わないのでアッシュに渡しました。

 

 オーディンが『ウコンバサラの斧』と『ドラゴンクロー』を獲得しました! 

『ウコンバサラの斧』と『ドラゴンクロー』をラファエルに渡しました。

 ラファエルとラファエルの筋肉は喜びました。

 

 オーディンが『メリクル』を獲得しました! 

 ガルグ=マクに帰って『メリクル』をユーリスに渡しました。

 ユーリスは困惑しました。

 

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