ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
俺は“漆黒のオーディン”、聖獣の試練を乗り越え数多の神器を手にした選ばれし闇の聖騎士だ。
俺たち『フォドラの夜明け』はトータテス湖を離れた後、ガルグ=マク大修道院に帰還をした。
『フォドラの夜明け』の任務は、王国と同盟に出向き教団との連携を強化するという結構大雑把な内容だったけど、十分に結果は出せたと思う。
特にディミトリが処刑されかけてたのを救出して、その後アリアンロッド要塞奪還、ディミトリ新王の戴冠まで手伝ったのは、かなりの成果だと我ながら思っている。
数か月、その中で年も越してしまうような長旅だったが、ガルグ=マク大修道院に帰れて正直ホッとしている。
嗚呼、ガルグ=マク大修道院……俺の魂の居場所よ……
ガルグ=マクに戻って最初に行った所はセテスさんのもとだ。
手紙で近況の報告は結構していたが、数か月もガルグ=マクに戻らないのは流石に心配しているみたいだ。
セテスさんから来る手紙の内容の九割がフレンに対する心配だったので、いい加減に戻らないとヤバそうだったというところもある。
フレンも俺と一緒にセテスさんの部屋まで報告に来ていた。
「フレン~! 心配していたぞっ! こんなにも離れ離れになるとは思わなかった……私は……私はっ!」
「ちょっと、お父様! オーディンさんの前でこんなにくっつかないでくださいましてよ! それに、髭で擦れて痛いですわ!」
セテスさんは心配が過ぎたのか、俺が見ているにも関わらずフレンに過剰にくっついてウザがられている。
友達が見ている前で親にそんなことされるのは恥ずかしいだろうな。
「お父様、わたくし、おじ様に会いましたわ!」
「ほう……あの者は元気だったか?」
「元気でしたわ。相変わらず、空気をお読みにならないところも変わっていませんでしたわ」
「そうか……懐かしいな……」
セテスさんはフレンの報告に感慨深そうにしている。
……ただ、そういう会話は俺のいないところでやってもらえませんかね……この人たち正体を隠す気あるのだろうか……
四聖人の一人、聖セスリーンの父親は同じく四聖人の聖キッホルとされている。
セテスさんはキッホルの大紋章を持ってるし、これはもう……そういうことだろう……まあ、言わないけど。
ちなみに、聖キッホルと聖インデッハは大親友だったらしい。
フレンとセテスさんの感動の再会が終わった後は、今までのことに関する報告だ。
ほとんどの内容は手紙で報告しているので、セテスさんもだいたいのことは把握している。
リーガン公爵領とグロスタール伯爵領の街道の賊徒討伐、グロスタール伯爵家に潜伏し暗躍していた闇に蠢くものを見つけたが逃げられてしまったこと。
グロスタール伯爵に味方しフレゲトン子爵との抗争を解決、親帝国派のグロスタール伯爵に貸しを作って、クロードが新公爵就任する時には後押しの取り付け。
フラルダリウス公爵領とゴーティエ辺境伯領の山賊殲滅。
あとは、ディミトリ王子が処刑されかかっていたのを救出して、アリアンロッド要塞奪還、新王子戴冠の手伝い。
「……というわけで、同盟と王国との連携強化はかなり順調と言って良いですね」
「正直に言って見事だ。ここまでやってくれるとは思わなかった」
「フッ……“ガルグ=マクの伝説の男”、この“漆黒のオーディン”の辞書に不可能という言葉は無い!」
その言葉が俺を気持ちよくする……もっと大きな声で褒めてくれ……
「君のその根拠の無さそうな自信がどこから分からなかったが……今ではその態度さえ頼りになるものに見えてくるぞ」
「そうですわ! オーディンさんは、やる男ですわ!」
「フッフッフッ……そうだ! もっと褒め称えてくれ」
「そのすぐ調子に乗り過ぎるところは如何かと思うがな……」
俺は褒めると伸びるタイプですよセテスさん……
そういえば、セテスさんに聞きたいことがあったんだ。
聖獣様が言っていたことを、セテスさんにも聞いてみる……『聖人マクイル』と『聖人インデッハ』が知ってることだったらセテスさんも……あとはこの場にいるフレンも何か知っているかもしれない。
「そういえば、聖獣様が言ってましたけど『“闇に蠢くもの”には世界を滅ぼすような力はない。私が知る世界を滅ぼすような力を持った人物は一人だけだ』『詳しくはマクイルに聞け』とか言ってましたけど……セテスさんは心当たりがありますか?」
「あの者……聖獣はそのようなことを……“闇に蠢く者”ではない世界を滅ぼす力を持った人物……うーん……
「え? 心当たりがあるんですか」
「あっ、いや、なんでもない……私は何も知らないぞ!」
セテスさんは嘘をついている……今の『あっ!』は知ってる人の反応だぞ!
「お父様、その反応は何か存じているのではないのでして? 世界が滅びる危機なのですわよ!」
「そうですよセテスさん! 知ってるなら教えてくださいよ!」
「いや、私は知らない……本当だフレン!」
「お父様は嘘が下手なので、すぐわかるのですわ! わたくしの聖なる瞳は誤魔化せませんわよ!」
セテスさんは心当たりはあるのに教えてくれない……フレンが聞いているのに答えてくれないのは、その人物を知られるのがよほど都合が悪いのだろう。
しかし、この反応だとフレンは“世界を滅ぼす力を持つ人物”を知らなそうだな。
「インデッ……いや、聖獣は聖人マクイルに聞けと言っていたのだろう? 彼に聞くのが一番良い、彼を探して聞いてくれ」
「お父様はマクイルおじ様がどこにいらっしゃいますのかご存知ですの?」
「知らないな……聖人マクイルがどこにいるかなんて私が知りたいくらいだ」
セテスさんも行方不明のマクイルに説明を押し付けやがったな……
『聖人インデッハ』と『聖人マクイル』、セテスさんは知っていて、フレンは知らない人物……一体誰なんだ。
「レア様に聞けば『聖人マクイル』の居場所がわかるかも……というよりレア様なら“世界を滅ぼす力を持った人物”を知ってるかもしれないですね」
「やめろォ!!」
「うわっ!?」
「ひっ……! お父様! 急に叫ばないで下さい、驚いてしまいますわ」
「いや、すまん……その……レアに聞くのはやめてくれ……。教団としては、帝国に捕えられたレアを救い出す事は最優先事項だが、この話は別件として扱ってくれ……繊細な話題なのだ……」
セテスさんの勢いにビビってしまう。
別件で繊細な話題ね……めちゃくちゃ怪しいな……教団はまだ何か隠し事があるのだろうか?
「少し話題を変えよう。帝国のフリュム領で暴動があったみたいだ」
「……帝国領ですか?」
「ああ。情報によるとその暴動では死人のような怪しげな兵士たち……君たちの言う“屍兵”のような者たちの姿が確認されたらしい」
はぐらかすように話題を変えられたが、まあいいか。
フリュム領は、アミット大河を挟んで同盟と国境を接する帝国貴族領だ。
フリュム子爵家は数年前、同盟への参画を図ろうとして失敗して本家は断絶、現在は分家出身の養子が領主になっているみたいだが、ずっと帝都にいて領地には一度も姿を見せておらず、隣のエーギル公が統治し……エーギル公が失脚した後は、
アランデル公といえば、クロードが“闇に蠢く者”の関係者として名前を上げていた人物で、エーデルガルトの伯父にあたる人物だ……一気にきな臭くなってきたな。
「暴動の鎮圧は、各領地から要請があった場合のみセイロス騎士団が対応するが、フリュム領からは要請は来てはいない」
「現れたのが屍兵だったら、“闇に蠢く者”がいる……様子を見に行きたいですね」
「その通りだ。民を救援する活動とはいえ、帝国軍と教団は現在敵対関係にある。現場でどう動くかは君の判断に任せる」
フリュム領の様子を見て、帝国軍と協力できそうなら協力してことにあたる可能性もあるのか……誰か知り合いが帝国軍を指揮していると良いが……
「戻ってきたばかりの君たちに頼むのは心苦しいが、自由に動ける戦力は君たち『フォドラの夜明け』くらいだ。準備ができたら向かってくれ」
「……任せろ、“漆黒のオーディン”が闇に蔓延る刺客どもを殲滅してやる!!」
「“純白のフレン”率いる、『フォドラの夜明け』出撃開始ですわ! ……乙女心が躍動しますわ!」
「……フレンは慣れない遠征に疲れただろうから、ガルグ=マクに残っても良いのだぞ……」
「余計なお世話ですわ、お父様。わたくしの伝説の幕開けはこれから始まるのですっ!」
フレンは遠征中ずっと、セテスさんの過保護から解放されて楽しそうだったからな。
しかし、フリュム領といえば、国境を接している同盟側の領地はコーデリア伯爵領だったな。
コーデリア伯爵は、同盟の円卓会議の五人の議員の内の一人でリシテアのお父さんだ。
久しぶりにリシテアに会えるかもしれないから楽しみだ……
◇◇◇
「どうして教えてくれなかったんですか!」
コーデリア伯爵家の一室でリシテアの怒鳴り声が響き渡った。
帝国フリュム領の調査に向かった俺たち『フォドラの夜明け』は、そのフリュム領の隣にあるレスター諸侯同盟のコーデリア伯爵家でリシテアの両親(品の良さそうな貴族の夫婦だった)に迎えられて、リシテアとの再会も祝った。
今回、フリュム領の暴動で屍兵らしき者たちが確認されていて、そういえばリシテアには“闇に蠢く者”が世界を滅亡させる可能性があり、俺たち三人がこの世界に来た使命についてとかそういう話をしていなかったので、話すことにしたのだ。
ちなみに、ルーナは歓迎会で飲んだくれて寝てしまって、ラズワルドはルーナの介抱でいなくなったので、リシテアとは二人きりだ。
そして、話をしたら案の定怒られていた。
もしかしたら、リシテアなら除け者にされたと思って怒るかもしれないと思ったが、想像以上の勢いで怒られていた。
「つまり、あんたたちは世界を救うためにフォドラに来て……それを、同じ学級では私とマリアンヌにだけ言ってなかったと……ありえないですよ!」
たしかに、金鹿の学級の平民たちや領主を継がない貴族たちはほとんどスカウトした時に説明したので、結果的に言っていないのはリシテアとマリアンヌの二人だけになってしまった。
マリアンヌにも申し訳ないな……今度会えたら俺たちの使命について言っておこう。
不確定の“闇に蠢く者”より危険な、世界を滅ぼす力を持った人物についてはラズワルドとルーナ(と既に話してしまったフレン)以外には、まだ話すつもりはないけどな。
「本当、すまなかった……ただ、リシテアはいつも忙しそうだったし『そんなこと両親に話しても、困られるだけなので迷惑です!』とか言いそうだったから……」
「私の声真似ですか? 気持ち悪いからやめてください……しかも、私が本当に言いそうなことを……」
「ほら、どっちにしろ怒られてたじゃねえか」
「だとしても! ……知りたかったですよ……私は、そんなに頼りなかったですか……」
リシテアは大きな目に涙を浮かべ泣きそうになっている。
話さなかった理由は、他にもコーデリア家の推薦で書庫番のトマシュがガルグ=マク大修道院に来ていたり、リシテアではなくコーデリア家を信用できなかった部分もあるが、これを話すとまたショックを受けると思うから、黙っておくことにする。
リシテアは学生時代から年がちょっと経って、少し背も伸びてほんの少し大人びたように見えるが、中身はあまり変わっていないようだった。
「私、あの“闇に蠢く者”とは因縁があるんですよ……」
「えっ、そうなのか?」
リシテアが話してくれた“闇に蠢く者”との因縁は、想像以上に重い話だった。
コーデリア家は昔、帝国の内乱に関与したことがあり(実際は救援要請に応じただけで政治的関与はなかった)、内乱の鎮圧後に責任の一端を負わされた。
その時にコーデリア家の重臣はみんな殺され、帝国の人間に牛耳られた。
そして、その中に青白い肌をした不気味な魔道士たち“闇に蠢く者”に、リシテアはとある実験をさせられた。
「拷問のような実験の後、ある日目が覚めたらこんな髪の色に……そして、私の身体には……」
「それで、リシテアは紋章が二つあったのか……」
「……! 知っていたんですか、オーディン⋯」
「いや、わかる……〈戦術師〉の能力でな……」
リシテアにはカロンの小紋章とグロスタールの大紋章、2つの紋章が宿っていた。
ハンネマン先生とリンハルトは、紋章学では紋章を2つ持つことは
「実験で生き残ったのは私だけでした……仲が良かった貴族の子も、名前も知らないけどお互いを励ましあっていた平民の子たちも、みんな……みんな、奴らに殺されました……」
「……」
「2つの紋章を得た代償は髪の色を失っただけじゃないんです。“闇に蠢く者”たちからは、長くは生きられないと宣告されました。もってあと数年の命です……」
「……」
数年の余命宣告をされた、特別な力を持つ天才魔道士。
ただの『設定』ならば、羨ましいとさえ思ってしまうものだが、実際に目の前にいる『事実』には言葉が出ない。
リシテアに比べて、なんて薄っぺらい『事実』しか持たないんだ、俺は……
「なんとか長生きする方法はないのか? ……2つの紋章を消すとか……」
「あんたにしては冴えてますね……士官学校時代、紋章学の権威ハンネマン先生にそれを相談しようと思ってましたが……その……」
「その?」
「言えませんでした……実験台にされるかもと思ったら、怖くて……」
そこは、ちゃんと相談しようぜ……ただ、ハンネマン先生は紋章のことになるとマッドサイエンティストみたいになるので気持ちはわからなくもないが。
一度“闇に蠢く者”たちに実験台にされているので、実験自体がトラウマになっているのだろう。
リシテアの寿命についてはハンネマン先生に相談して任せることにした……リシテアにはガルグ=マク大修道院に戻ってもらわなければいけない。
「なあ、リシテア。紋章を2つ持つことは通常はあり得ないことって話だけど、エーデルガルトが2つの紋章……それも、セイロスの小紋章と
「えっ、エーデルガルトが? ……たしかに、あの髪の色……それに、“闇に蠢く者”は急に私への興味を失くして去っていきました。今から……7年ほど前です」
エーデルガルトが2つの紋章を持っていることは、〈戦術師〉になった後に気づいたことだ。
紋章学では、2つの紋章を持つことは通常はありえないことらしいが、身近に二人もいたから、意外に例外も多いんだな……程度に思っていた。
なにより、俺自身が聖痕と邪痕の2つ持ちだしな。
うーん……7年くらい前なら、1175年か1176年頃か……ダスカーの悲劇が1176年だから、その頃にエーデルガルトが実験されていたとしたら、エーデルガルトがダスカーの悲劇に関わっている可能性は低いかな? これは、ディミトリに伝えた方が良いかもしれない。
しかし、このような残虐な実験をする“闇に蠢く者”となぜエーデルガルトは手を組んでいるのだろうか?
「とにかく、今回から私もあんたたちに協力しますよ……私にはコーデリア伯爵家に伝わる、コレがありますからね」
「魔道書? ……なんだそれ……英雄の遺産なのか?」
「ええ。カロンの紋章に対応する英雄の遺産……魔道書の“ストゥングの神秘”です!」
英雄の遺産、魔道書“ストゥングの神秘”。
魔法の連続使用時のクールタイムの半減効果。
カロンの紋章一致時は、最強の黒魔法〈アグネアの矢〉を使用可能になる。
……英雄の遺産として魔道書があったことは知らなかったけど、これめちゃくちゃ強くないか?
こんなものリシテアが使ったらやばいんじゃないかと思えるくらいのブッ壊れ性能武器だ。
そもそも魔道書自体がガルグ=マク大修道院や士官学校では主流ではなかった。
この世界では前の世界と違い、習得さえできれば魔道書を使わなくても魔法が使えるので、取り回しの悪い書物を持つよりも“魔導の杖”や“癒しの杖”などの装備で効果を底上げするのが一般的だった。
しかし、王都フェルディアの魔道学院生はほとんどが魔道書を持っており、中には“鉄色の魔道書”程度の安価な魔道書でも愛用している生徒もいたので、ガルグ=マク大修道院の方が特殊だったのかもしれない。
なんだか俺も、自分専用の魔道書“オーディンの黒書”を作ってみたくなってきたぞ……!
「さあ、“闇に蠢く者”に闇の裁きの時間だ! ……充分寝て、明日出発したらな」
「“闇に蠢く者”相手に闇の裁きですか……まあ、外道を裁くのにわざわざ光の裁きを下してやる必要もないですね。せいぜいやつらに思い知らせてやりましょう」
◇◇◇
コーデリア領からアミッド大河に架かる橋の一つを渡った俺たち『フォドラの夜明け』は、フリュム領の領都へと到着した。
リシテア率いるコーデリア領軍一の精鋭部隊、コーデリア魔道隊も一緒だ。
「偵察してきたけど、フリュム領軍はいなかったわ。街は屍兵がウロウロしてて、市民はみんな家に閉じこもって籠城してるみたい」
「わたくしとルーナさんの隊で民家を襲っている屍兵たちは一掃しましたけど、数が多いですし、“闇に蠢く者”らしき人たちの姿もありませんでしたわ」
偵察に出ていた飛行部隊のルーナとフレンの話によると、街中に屍兵がうろついているが、帝国軍らしき姿は無いようだ。
〈戦術師〉の能力でも確認できているが、民家や森の中に隠れた敵兵は能力では認識できないので、戦闘の前後に飛行部隊に偵察してもらっている。
そう考えているうちに、戦場で動きがあったようだ。
〈戦術師〉の能力で、現れた帝国軍をすぐに見つけることができた。
「西側に帝国軍が着いたみたいだな。指揮官は……」
「我が名は! フェルディナント=フォン=エーギル!!」
懐かしい名乗り声と共に登場したのは、黒鷲の学級のフェルディナントだった。
相変わらずの大声で元気そうだった。
フェルディナントの他にも知り合いの姿がある。
「おいおい、なんでセイロス教会の奴らがこんなところにいやがる!? もしかして、街を襲ってるのはお前らかっ!!」
「……」
「フェルくんにカスパルくん……それに、死神騎士でメルちゃんの弟のイエリッツァ先生、久しぶりですねぇ」
「エミール……」
「うっ……ドロテアにメルセデスか……なんか戦りにくいな……」
暴動を鎮圧しにきた、帝国軍の指揮官はフェルディナントとカスパル、それに死神騎士だった。
カスパルはいきなり勘違いをしているが、知り合いばかりなのは運が良かった。
「まあ、待てカスパル……ここで暴動を起こしているのは、俺たちが世界を滅ぼす存在と言っていた“闇に蠢く者”が使う邪悪な屍兵だ。俺たちは屍兵を倒しにきたんだ」
「そうか、じゃあ味方か? ……いや、帝国と教会は今敵対してるんだし敵じゃないのか?」
「カスパル、この軍を任されているのは私だ。誰と戦うかは私が決める! ……オーディン、君は屍兵の魔の手から、帝国の民衆を救うためにわざわざこのフリュム領まで来たのか?」
「無論だ……俺は、数多の時を超え、世界が滅びし
「フッ、君のその英雄としての精神は相変わらずだな! ならば我々に協力してくれ、ともにフリュムの街の民を救うぞ!」
どうやら、この帝国軍の総指揮官はフェルディナントだったらしい。
フェルディナントは良いやつなので、あっさりと協力態勢になることができた。
帝国軍としても最優先目標は暴動の鎮圧だろうし、ここで俺たちと戦う意味もない。
しかし、死神騎士はルミール村の時も屍兵に襲われていたし、“闇に蠢く者”たちとはだいぶ違う派閥にいるのかもしれない。
「さあ、一番槍は俺だ! うぉおおおお!!!」
「カスパルくん! オデも行くぞっ!! うぉおおおお!!!」
「ちょっと、カスパルっ! ラファエルもっ! 勝手に突っ込まないで!」
「いえ、アッシュくん、そのまま二人を援護してください。そこを起点に切り崩しましょう」
「さあ、騎兵のわたしらも突撃するよ! えーと……イエリッツァ先生!」
「……先生ではない。……屍が相手など興が乗らぬ……」
「あんたは死神なんだから死人を相手にしてるのが、一番丁度良いでしょう!」
「ははは。たしかにその通りだね、リシテア!」
帝国軍と協力して、屍兵の討伐に当たる。
この屍兵たちを召喚した魔道士の姿はすでになく、野放しになっているみたいだ。
こんな最悪の野生生物(?)を召喚したまま、放置するとか迷惑行為すぎる……
『フォドラの夜明け』も帝国軍も、とくに被害も出ずにフリュム領都の屍兵を殲滅することができた。
「君たちの協力のおかげで、わが軍にも被害が出ずに済んだ」
「フッ、この程度の相手に被害を出しているようじゃあ、俺たち『フォドラの夜明け』の敵ではないぞ、フェルディナント」
「これは、手厳しいな……私もエーギル公爵となって、何度か国内の戦闘で繰り出されているが、今日のように被害が出なかったことはない。君の戦闘指揮能力には驚かされるよ」
「フッ⋯“狂気の天才”軍師オーディンにとってこの程度の戦など朝飯前だ」
今回は、そもそも俺はあまり指揮してないからな。
流石に一般団員が死神騎士みたいな強者をどうにかできるレベルには至ってないが、俺やラズワルド、ルーナは当然のこと、今ならレオニーやラファエルでも一騎打ちで死神騎士に勝てる可能性は十分に有る。
「それに、私が貴族に返り咲くことができたのは君のおかげだ」
「えっ、そうなのか?」
「君がいろいろと“闇に蠢く者”の件などで手をまわしてくれた結果、回りまわって私が貴族へと復帰することができたのだよ」
フェルディナントが言うには、ガルグ=マク要塞の攻略戦前に黒鷲の学級の生徒たちの代表となり帝国に帰還させたことから始まって、軍務卿と内務卿へ宛てた“闇に蠢く者”の脅威を伝える手紙、その二人がアランデル公の権力の切り崩しのためにフェルディナントの公爵就任を後押ししてくれたらしい。
「宰相にはまだ指名されていないが、私は宰相になったつもりでエーデルガルトにも臆さず意見していた。それで、ヒューベルトから睨まれてこのフリュム領の暴動鎮圧の指揮官にされて帝都アンヴァルを追い払われたのさ」
「そうだったのか……もしかして、カスパルと死神騎士も帝都を追い払われたのか?」
「いや、死神騎士は今の名はイエリッツァ=フォン=フリュム……どうやら、彼は名目上ではあるが、数年前にフリュム子爵家を継いでいたらしい。今まではアランデル公がこの地を治めていたが、今日から実質的にもイエリッツァ殿が領主となる……彼は統治に明るくないから隣のエーギル公爵領の領主である私に手伝えということだ」
「……カスパルは?」
「カスパルは戦功を立てたかったのではないかな? カスパルの父君の軍務卿もしばらく帝都に留まるそうだから、帝都で戦功は上げられないからな」
軍務卿はしばらく帝都にいるのか……これは王国との戦争はしばらくないかもしれない。
このまま膠着状態が続いて戦争がうやむやになって終わってくれないかなぁ⋯
今のうちに和平交渉ができるように俺からも手をうっておこう……
「フェルディナント、あとでエーデルガルトに手紙を書くから届けてもらっていいか?」
「ああ、もちろん構わないよ。敵同士とはいえ、君からの手紙ならエーデルガルトも無下にはしないさ」
内容はレア様を返してくれたら、今回の戦争行為に対してある程度赦してあげるから返してよ的な内容だ……それを俺の文才を尽くしてカッコよく仕上げる……今回も徹夜になりそうだな……
「……エミール、また会えて……話せて良かったわ」
「……お前と交わす言葉は、ない……」
手紙の内容を考えていると、メルセデスと死神騎士……エミールが話していた。
周囲の人間はみんな固唾を呑んで見守っている。
メルセデスと死神騎士エミールが姉弟なのは『フォドラの夜明け』ならみんな知っている事実なのだ。
「その……ごめんなさい。私、もっと早く、迎えに行ってあげるべきだったわよね……」
「……」
「バルテルス家での暮らしは……とても、つらかったでしょう」
「……」
メルセデスの言葉にエミールは答えない。
髑髏の仮面で表情も読み取れない。
「……大修道院を離れろ、メルセデス……」
「……エミール。私、戦うって決めたの。貴方も知ってる“闇に蠢く者”たちと……そうだわ、エミール。あなたも、私たちと一緒に戦いましょうよ」
「それはできん……。我が心は、すでに捧げた」
死神騎士は何に心を捧げたのだろうか?
その対象が炎帝だとは思えなかったし、忠誠や矜持とは全く違う別の物に捧げたのだろうか?
死神騎士が懐から何かを取り出した。
その2つの何かは、英雄の遺産の適合反応で赤く光っていた。
装飾品と魔道書か……
「英雄の遺産、よね? そうだわ、あなたも私と同じ紋章を……」
「次に会えば殺す……。躊躇なく……」
「……あなたには、殺されないわ~。この“ラファイルの宝珠”が、あるんですもの」
「えっ? オデの宝珠?」
「ラファ
「なんだぁ、すまねぇ……メルセデスさんとイエリッツァ先生、オデに構わず続けてくれ……」
「……先生ではない」
ラファエルのせいで空気が一気に緩んでしまった。
メルセデスと死神騎士を見ていた周囲の人間も軽く笑ったり、溜息をついたりしている。
いたたまれない気持ちで見ていたら、死神騎士と視線があった。
「……」
「この“漆黒のオーディン”にも何か用か? 死神騎士よ……」
「……貴様なら、扱えるかもしれん……」
「えっ! 俺にも何かくれるんですか!? イエリッツァ先生!」
「……先生ではないと言っている」
そう言って、イエリッツァ先生がくれたのは死神騎士として愛用している“サリエルの大鎌”だった。
……ええ~……槍かぁ……俺、別に槍は使わないんだよなぁ……
というか、なぜ俺がこの槍を扱えると思ったのだろう、一応5か月くらい武術師範として指導したんだから、俺が槍を全く扱っていないのは知ってるだろ!
まあ、形はカッコいいから隅々まで見せてもらうが……
『フォドラの夜明け』の中で実際に使うとすれば誰になるだろうか……ルーナは“グラディウス”があるし、レオニーはジェラルトさんが持ってた“白銀の槍”を使ってるから、アッシュはボウナイトだけど近接は斧メインだったから槍に持ち替えてもらったら……
「わたくしが欲しいですわ!」
「えっ、フレンが?」
「……お前が?」
たしかに、フレンも槍術Aだったけど……お前あんまり実戦で槍は使わないだろう。
イエリッツァ先生も不満そうにしているぞ……顔は見えないけど。
でも、欲しいのならあげてもいいだろう……修理はデビル系武器みたいにアガルチウムを使うみたいだから、壊れても修理が難しそうだしあまり使わない人が持っておくのが良いかもしれない。
「これでわたくしを怖い目に合わせたことは許してさしあげますわ!」
フレンが〈ダークペガサス〉の騎乗で“サリエルの大鎌”を楽しそうに振りまわしている。
そうか、鉄の槍と同じ重さだから軽いのか……
「選ばれし光の聖戦士、“純白のフレン”遥かなる勇戦の……開幕! ですわ」
ご満悦なのは良いが、〈ダークペガサス〉と“サリエルの大鎌”だと光の聖戦士っぽくはないぞ……
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メルセデスが『ラファイルの宝珠』を獲得しました!
メルセデスが『イコル文書』を獲得しました!
フレンが『サリエルの大鎌』を獲得しました!
フレンの乙女心が躍動しました!
魔道書関係は風花雪月無双で急に出てきたので独自考察による捏造設定です。