ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
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第81話『目覚め』
ベレス視点
「やはり貴殿だけは始末しておくべきでした」
「エーデルガルトは君をずっと気にしていた。まったく……羨ましい限りだよ、先生」
「先生……わたし、思う、です。フォドラに、わたし、来たのは……あなた、止めるため、だと……!」
「あっ……先生じゃないですかああ! あれ!? 敵なんですか!? ってことは、殺し合うんですかああ!?」
「いつかこういう日が来ると思ってましたよ。はあ……面倒だなあ……」
「気にすんな……負けたら死ぬ……そういう喧嘩だろ……?」
「先生と殺し合うのが運命だというのなら、やっぱり女神なんてろくでもないわ」
「二人で……歩きたかった……」
王国、同盟、教会。
どの道を選んでも、誰かを救うたびに誰かを失った。
「地獄に堕ちろ……エル」
「……残念だ。お前ならば陛下を理解してくれると…………おれは、そう思っていた」
「帝国の所業を知りながら、与するとは……。先生には、心の底から失望しました」
「俺の剣は……届かない、か……」
「よう、先生、5年ぶり。祝杯でも挙げたいところだが…………あんたには、死んでもらわなきゃいけないんでね」
「先生、ごめんなさいね~。私は……あなたの味方にはなれないわ」
「その顔を、僕に見せないでください。狙いが、定まらなくなってしまう」
「どうして、戦わなきゃいけないんですか? あたしたちが戦わない道も……きっと、あったはずなのに……!」
「何であんたは帝国についた!? 答えろよ! この裏切り者め!!」
「先生が帝国に味方するというのなら戦うしかないんです!」
「殺すつもりなら、早く殺してください。ほんと、散々な人生でしたから……」
「せーんせ! 久しぶりすぎー! ……なのに敵なんだー。残念だなー」
「お母様……わたくしも……そちらに……」
「我が野望、潰えたり、か……」
帝国と共に歩んだ時。
私は、最も多くの教え子たちをこの手で葬った。
「僕、死ぬんだ……死ぬのは……嫌だ、な…… 」
「う……やっぱりボクじゃダメだったか……」
「ここで……終わりかよ……師匠、わたし頑張ったんだけどな……」
「僕の死体は丁重に葬ってくれたまえよ……貴族に相応しく……な……」
「あ……ごめん、なさい……。ディミトリ……私……もう、立てない……」
「クロードくん……妹を……それに、同盟も……」
「エーデルガルト様……契り、果たせない……許す、願います……」
「ハッ……こんなところが……俺の、死に場所か……」
「死ぬなら……部屋の中が……良かった……こんな、平原の……ど真ん中でえ……」
「エーデルちゃん、ごめんね……。もう私には……」
「父さん、母さん……親不孝な娘でごめんなさい……」
「うう……痛いよ……助けて……父、さん……」
「クロードくん、楽しかったよ……ありがと……お先……にぃ……」
「殿下……どうか……あなたは……」
「今はただ……我が主の勝利を信ずる……のみ……」
どの未来を選んでも、誰かは死んだ。
誰かを救えば、別の誰かを救えなかった。
それでも私は、その時々で最善だと信じた道を選んできた。
……なのに。
何度夢を見ても。
何度思い返しても。
全員が笑顔で終われた未来は、なかった。
だが、この夢には嘘がある。
ルーナがいない。
ラズワルドがいない。
オーディンがいない。
この夢の中にも。
父との記憶はある。
ジェラルト傭兵団の仲間たちとの記憶もある。
それなのに、あの三人だけが世界から切り取られたように存在しない。
違う。
そんなはずはない。
──あの三人は確かに、私の傍にいた。
『……ベレス、ベレス。いつまで眠っておるのじゃ』
「ソティス?」
暗闇の中に小さな少女が浮かび上がる
翡翠色の髪を揺らした彼女は、呆れたように腰へ手を当てていた。
『お主の身体はとうに目覚めておるはず。その目を見開き、その足で立つのじゃ』
「まだ眠い」
口をついて出たのは、そんな気の抜けた一言だった。
『はあああ、まったく大馬鹿者め! まこと相変わらずじゃの、おぬしは』
「あと少しだけ……」
『あと少しで済むか! 五年も眠っておいて、まだ寝足りぬと言うのか、この怠け者め!』
まだ夢の底へ沈んでいたい。
そんな思いが、素直に言葉になってしまった。
それに……夢の続きを見れば、皆を笑顔で終わらせられる未来へ辿り着く手掛かりが、あるかもしれない。
『疾く、目を覚ませ……お主を待っている者たちがおるじゃろう』
「……!!」
その一言で、胸の奥に眠っていた記憶が熱を帯びる。
そうだった。
この夢には、あの三人がいない。
ルーナ。
ラズワルド。
そして、オーディン。
彼らは今も、現実で私を待っている。
もう、待たせるわけにはいかない。
──そろそろ、目を覚ます時のようだ。
────
──
―
目を覚ますと、私はいつもより感触の良いベッドの上にいた。
そういえば──これまでは、川の上流から流され、ガルグ=マクの麓の村で親切な村人に助けられて目を覚ますことばかりだった。
……だが、今回は違う。
ここは、ガルグ=マク大修道院の大司教レアの私室だろうか?
何度かレアに茶会へ招かれた時に訪れた記憶がある。
暗い部屋の中で周囲を見回してみると、天帝の剣やオーディンから預かった緑の宝玉もある。
天帝の剣は、見覚えのない鞘に収まっていた……誰かが、私のために作ってくれたのだろうか?
その時、不意に聞き慣れた少女の声が部屋に響いた。
『……やっと、目を覚ましよったか……世話のかかる奴じゃ』
「ソティス? ……なんで?」
夢ではない。
私は確かに目を覚ましている。
それなのに、ソティスの声が聞こえる。
『小僧から預かったコレに、わしの意思が宿ったことを忘れたか?』
そうだった。
オーディンから託されたこの緑の宝玉には、ソティスの意思が宿っている。
……これも、今までにはなかった変化だ。
『わしはいつでもおぬしのそばにおる……そのことを忘れるでないぞ』
「うん……ありがとう、ソティス」
そう言い残すと、ソティスの姿は静かに宝玉の中へ溶けるように消えていった。
けれど、その気配が消えたわけではない。
この緑の宝玉には、今も確かにソティスの意思が宿っている。
それが、何より心強かった。
大司教の部屋を出て星のテラスへ向かう。
夜空にはまだ星が瞬き、夜明けまでは少し時間がありそうだった。
起きている人間を探して状況を聞かなくてはならない。
常時起きている人間がいるのはガルグ=マク大修道院の門前……門番がいるところだ。
ガルグ=マク大修道院の中を通って、門前へと向かう。
建物は汚れている様子もなく清潔に保たれている。
私を助けてくれた勢力がどこかは知らないが、大切に使ってくれていることはわかる。
修道院の外に立っている門番の様子を伺うと、顔見知りの門番さんだった。
五年前より立派になった鎧姿。
彼は〈兵士〉から〈ハルバーディア〉に昇格しているらしい。
しかし、今日も職務に忠実に門を守っている。
「門番さん」
私が声を掛けると、門番さんはこちらへ振り向いた。
「……せ、先生?」
「おはよう」
一瞬、信じられないものを見るように目を見開く。
「先生……本当に、先生なんですか……?」
「うん。ただいま」
短く頷く。
「……っ」
門番さんの喉が震えた。
「先生……本日も異常……」
そこまで言いかけて、彼は言葉を詰まらせた。
「うっ……うぅ……先生ぇぇ……! 本当に、お帰りなさい……!」
目元を押さえ、堪えきれなくなったように涙を零す。
門番さんの涙を見て、五年という歳月の重さをようやく実感した。
門番さんが落ち着くのを待つ。
「おはようございます、先生。目を覚ましてくれてありがとうございます!」
「こちらこそ、ありがとう」
門番さんは涙を拭い、一つ深呼吸をしてから、いつもの笑顔を浮かべた。
「まだ目を覚ましたばかりですよね? 何か聞きたいことはありますか?」
「今のフォドラの状況を教えてほしい」
門番さんは一つ一つ、私が眠っていた五年間の出来事を語ってくれた。
ガルグ=マク防衛戦で教会軍が敗れ、一時は帝国軍に修道院を占拠されたこと。
しかしその後、オーディンが少数の手勢を率いて呪術を駆使し、帝国軍を撃退してガルグ=マクを奪還したこと。
さらに各国を奔走し、セイロス教会、ファーガス神聖王国、レスター諸侯同盟の結び付きを強めてきたこと。
そして今もなお、帝国に囚われた大司教レアの解放を目指して交渉を続けていること。
私が知る、どの未来とも違う。
教会は滅びかけていない。
王国も、同盟も、まだ手を取り合っている。
……これが、オーディンたちが繋いできた未来。
「しかし、本当に良い時機の目覚めですね、先生。明日は千年祭ですよ」
「千年祭? 実施されるの?」
私が目を覚ますのはいつも千年祭の前の日だが、千年祭が開かれていたことは一度もない。
「はい! 帝国軍との戦いは続いていますが、ガルグ=マクは平穏を取り戻しました。今年はいよいよ千年祭ですからね。例年以上に盛大な祭りを開く予定なんです!」
「例年? 去年も開いたの?」
「去年の九百九十九年祭は小規模なものでしたが例年通り開催できました。これもオーディン殿のおかげですね」
盛大な祭り……美味しい食べ物も並ぶのだろうか。
舞踏会でオーディンたちが作ってくれた、カカオ風味のケーキ──ダブルブラックビター・グラスラント。
あの味を思い出し、思わず涎が出そうになった。
「もっとも……帝国軍が不穏な動きを見せているため、警備は例年以上に厳重ですが」
「帝国軍?」
「ええ。帝国軍を見張るため、女神の塔には『フォドラの夜明け』の部隊長の誰かが立っています。先生も会って話をしてみてはいかがですか?」
女神の塔。
そこなら、今の状況を一番よく知る人物に会えるだろう。
「わかった。行ってみる」
「皆さん、本当に先生の目覚めを待っていました。きっと喜びますよ」
「ありがとう、門番さん」
門番さんへ礼を言い、私は修道院の石畳を踏みしめながら女神の塔へ向かった。
五年前と変わらない夜風が頬を撫でる。
けれど、この世界はもう、私の知るどの未来とも違っていた。
だからこそ──今度こそ、皆が笑顔で終われる未来へ歩いていこう。