ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
俺は“漆黒のオーディン”、数多の世界越え、英雄たちと今ここに現れた、選ばれし闇の聖騎士だ。
朝のちょっとした戦争を終えた俺は、ガルグ=マク大修道院のセイロス騎士団長室で戦争の後処理をしていた。
軍団長のランドルフ将軍が倒された帝国軍第1軍団は敗走を確認。
帝国軍の捕虜を大量に獲得し、教会軍の損害は軽微……『フォドラの夜明け』の死者数は『いつも通り』ゼロだった。
「オーディン、入るぜ」
「こうして騎士団長室を見ると、本当にオーディンが騎士団長なんだって実感するね」
報告用の書類を作っているとクロードとベレス先生が部屋にやってきた。
士官学校も閉鎖されたままなので、先生は目覚めたばかりということもあり、大修道院の中を見て回っていたらしい。
「ははは、忙しそうだな騎士団長サマは……ん、この駒、盤面遊戯用の駒だよな? ……えらく具体的に並んでいるような……」
「盤面遊戯の駒なのに、赤や青まであるんだね」
クロードと先生は、部屋の中央の机に広げられた地図と駒を覗き込んだ。
地図の上には、赤、青、緑、黄色、白、そして黒……六色の駒が並んでいた。
「フッフッフッ……よくぞ聞いた。これはフォドラの軍勢を現している……赤が帝国軍、青が王国軍」
「黄色が同盟軍で、白が教会軍か。元々の教会兵力はそんなもんってわけだ」
「この一つしかない、ガルグ=マクの黒い駒と帝都の緑の駒は?」
「黒い駒はもちろん、この俺"漆黒のオーディン"だ!」
帝都にある緑の駒はレア様だ。
捕虜となっていることがわかるように駒を倒している。
ちなみに黒と白は盤面遊戯でもともと使っている駒だが、他の四色はわざわざ色を塗ってもらった特注品だ。
「でも、どうして軍の位置が分かるの?」
「フッ……ここからが本題だ。俺が人探しの呪術を使えるのを覚えているだろう? あれを応用して、各軍の位置を把握している」
以前、アネットのお父さん……ギルベルトさんを探した時に使った呪術だ。それを応用し、帝国軍の各軍団長、王国軍や同盟軍の要人、各方面の教会軍の位置を常に把握している。
「おいおい……あの呪術は髪の毛とかがいるんじゃなかったか?」
「フッフッフッ……俺の呪術は常に進化しているのさ、クロード。今は名前や経歴を知っていれば、おおまかな位置くらいなら割り出せる」
「ランドルフ将軍に詳しかったのは呪術の精度を上げるためだったんだね」
先生の言う通り、その対象に詳しければ詳しいほど精度の上がる術だ。
俺に呪術を教えてくれた人は名前と誕生日だけで正確に位置を調べることができるが、流石に俺はまだその領域には至っていない。
ちなみに闇に蠢く者とされ、帝国で賞金首となっているアランデル公の位置も調べてみたが、位置を割り出すことができていない。
「……帝国からしたら悪夢みたいな能力だ」
「悪夢を見せる呪術は別にあるんだがな」
「オーディンは五年間で呪術の技能を伸ばしたんだね」
やっと先生も俺の成長を認めるようになったか……ラズワルドとルーナに比べて微妙に扱いが悪かったのを気にしているわけじゃないぞ……。
「……なあ、その呪術、俺にも教えてくれない?」
「フッ……断る。クロードは絶対悪用する。俺の呪術は清く正しい選ばれし呪術士にしか教えない」
「信用ねえなあ……頼むぜ、きょうだい」
『三日間鼻水が止まらなくなる呪術』程度の呪術ならギリギリ教えてもいいが、こういう悪用されかねない呪術は、クロードには教えないようにしている。
しかし、なんか最近クロードは俺を『きょうだい』呼びしてくるが、フォドラでは親しい相手をそう呼ぶ文化でもあるのだろうか?
先生も俺とクロードを見比べて首を傾げている。
「地図を見るとわかると思うけど、ガルグ=マクの近くに青い駒が何個かあるだろう」
「王国軍だね。もしかして近づいてきてるの?」
「ディミトリたちだ。千年祭に招待してある。予定通りなら、もうじきガルグ=マクへ着く」
俺の呪術での調べによると、ディミトリは既にフェリクス、シルヴァン、イングリットと合流してこちらに向かってきている。
ディミトリの元にはドゥドゥーとアネットも既にいるし、青獅子の学級は千年祭にはみんな参加できそうだ。
「ディミトリ……大丈夫なの?」
「どうした先生、心配そうにして?」
「王国と教会の関係は良好……もちろん同盟ともな」
先生はなぜかディミトリのことを心配していて、クロードも不思議そうに聞き返した。
五年間眠っていた先生は、王国との関係まで悪化したと思ったのだろうか。
だが、その心配はいらない。帝国以外の三勢力の友好は今も保たれている。
「先生が眠っている間に、ディミトリを巡る処刑騒動があったんだが、この“漆黒のオーディン”の活躍により全てが万事解決したのだ!!」
「ついでに反ディミトリの摂政派や王国西部の貴族たちもまとめて一掃。王国はディミトリにとって一気に統治しやすい国になったわけだ。羨ましい限りだぜ」
「……そうなんだ」
本当はディミトリ救出作戦での、この俺の華麗なる活躍を詳しく語りたいところだが……今はその時ではない。
後でディミトリ本人も交えて、先生にじっくり聞かせてやるとしよう。
「そろそろ王国軍が到着する頃だ。出迎えの準備をしよう」
先生やクロードたちと共に、ガルグ=マクの城門前へ向かう。
同盟軍と『フォドラの夜明け』の面々に加え、ハンネマン先生やマヌエラ先生、セテスさんをはじめとする教会幹部も集まっていた。
王国軍を迎えることは、セイロス教団にとっても重要な行事だ。
明日の千年祭を盛り上げるためにも、盛大に出迎えなくてはならない。
「オーディン! みんな! 久しぶりだな!」
「フッ……貴様も変わらぬ様だな、ファーガス神聖王国の新たなる獅子王ディミトリ……」
ディミトリたち王国軍一行が現れる。
新王を先頭に青獅子の学級のみんなも勢ぞろいだ。
「青獅子のみんな、おはよう」
ディミトリの背後にいたドゥドゥーが目を見開く。
「……! お前は……」
「先生! 目が覚めたんですね! 相変わらずお綺麗だ!」
「シルヴァン……貴方ねえ、先生に会って最初に言うことがそれ?」
「フン、久しぶりにお前と剣を交えられるか……」
「フェリクスも剣じゃなくて、先生とはまずお話でしょ! あっ、ハンネマン先生もお久しぶりです!」
「うむ、みな息災そうでなによりだ」
ドゥドゥー、シルヴァン、イングリット、フェリクス、アネット……皆の視線は、一斉にベレス先生へ集まっていた。
ベレス先生は金鹿の担当だったのに青獅子の生徒たちにも慕われていたんだな……本来の担任であるハンネマン先生より、先生の周りの方がよほど賑やかだった。
「今日は行軍で疲れただろう? 明日は千年祭だ。しっかり休んで宴に備えてくれ」
「いや、今日はもう前夜祭だぜ今から飲み明かすべきだ」
「豪華な食事……楽しみだね」
「ははは……金鹿も先生も相変わらずだな。俺たち王国も楽しませてもらうとするよ」
◆◆◆
千年祭──それは、ガルグ=マク大修道院の落成から、ちょうど千年を迎えることを記念した祭りだ。
本来なら落成記念日は、士官学校の生徒たちが大広間で舞踏会を開き、各国の要人たちが大修道院に集まって晩餐会を催す一日だった。
だが今は士官学校が閉鎖されたままのため、大修道院全体を会場として、千年を祝う盛大な祭りが開かれることになった。
前夜祭も大いに盛り上がったが、やはり本番だけあって、料理も菓子も飾りつけも数段豪華になっている。
大広間の一番目立つ場所には、五年前の舞踏会でも絶賛された、俺の究極のレシピから生まれたカカオ風味のケーキ──『ダブルブラックビター・グラスラント』が大量に並んでいた。
今回はアネットとメルセデスだけでは人手が足りなかったため、灰狼の学級のハピとコンスタンツェにも手伝ってもらっている。
「思っていた形とは違うが、五年前の約束通りこうして同窓会を開くことができて何よりだ」
クロードが酒の入った金杯を掲げながら満足そうに言った。
「こんなに豪華な晩餐を食べられるなんて、オーディンのおかげだね……今までで一番だよ」
先生は、すでにデザートの『ダブルブラックビター・グラスラント』を頬張りながら、嬉しそうに話している。
……先生は相変わらず食いしん坊だなぁ。
「ああ……至福のケーキ。オーディン、これのレシピは全世界に公表するべきですよ!」
「はいはい、リシテアちゃん! ヒルダちゃんもその意見には賛成しまーす!」
「たしか、カカオ豆はテフ豆のように暑い地域でしか採れないのではないですかね? レシピを公表したところで普及できるかどうか」
「さすがイグナーツ、物知りだな。しかしまあ、こういう高級品はわたしたち庶民はこんな機会がないと食えないよな」
「ふふ、レオニーさん。こんな美味しいお菓子は、貴族でも食べたことがありませんよ……私は、こうしてみなさんと一緒に食べられることが一番の幸せです」
「というか、君たち……デザートから食べ始めるなんてマナー違反だよ。マリアンヌさんまでこんなことをしだすなんて……」
「こまけえこと気にすんなよローレンツくん! うめえもんから食って楽しむ! それがオデたち『フォドラの夜明け』のマナーだ!!」
「ま! 早くしないと、先生が全部食べてしまうかもしれませんよ!」
金鹿のみんなも、すっかりケーキに夢中だ。
新たな呪術など披露するまでもない……この『ダブルブラックビター・グラスラント』こそが世界中の人々の心を掴み、やがて世界を支配する日が来るのかもしれんな……。
「あれから五年かぁ……長かったような短かったような」
「あたしたちもだけど、みんな成長してるわねぇ」
ラズワルドとルーナ──俺と共に世界を渡ってきた仲間たちも、しみじみと語り合っている。
五年前は今頃とっくに元の世界へ帰っている予定だった。
だが今となっては、この世界に残ったからこそ、みんなとの約束を果たすことができた。
「今日は招待してくれてありがとう、オーディン。俺たちファーガス神聖王国の者たちも楽しませてもらっているよ」
「フッ……楽しんでくれて何よりだ」
ディミトリが笑みを浮かべながら声をかけてきた。
どうやら青獅子の学級の仲間たちの輪を抜けて、こちらへ来てくれたようだ。
「黒鷲の学級……帝国の連中も一応招待したんだけどな……結局、帝国軍は攻めてきたし、どうやら和平の余地はなさそうだな」
「ああ、昨日の朝に戦闘があったと聞いてるよ。よくこうして千年祭を開催できたものだ」
ディミトリは素直に感心したように頷いた。
まあ、実際その通りだ。もし昨日の戦いで敗れていたら、千年祭どころか、この大修道院も戦場のままだっただろう。
「ファーガス神聖王国の国王陛下とセイロス騎士団の団長様で内緒話か? 俺も混ぜてくれよ」
「ディミトリ。料理は楽しんでる?」
「先生にクロードか……俺も千年祭を楽しませてもらっているところだ」
ディミトリと話していると、先生とクロードもこちらへ歩いてきた。
この五年間でディミトリはファーガス神聖王国国王、クロードはレスター諸侯同盟の盟主……そして、この俺“漆黒のオーディン”はセイロス騎士団の団長……みな立場は違えど偉くなったものだな。
そして先生もまた、五年前とは違う立場に就くことになる。
「フッ……各国の要人が丁度集まったところで発表したいことがある。大司教代理ベレス先生を総大将としてセイロス教会軍、ファーガス神聖王国軍、レスター諸侯同盟軍による連合軍を結成しないか?」
「ああ、手紙に記されていた連合軍の話だな。我がファーガス神聖王国は、その提案に賛成する」
「総大将は話し合って決めるつもりだったけど、先生が起きてくれたなら話は早い。俺も異論はないよ」
ディミトリとクロードが俺の提案に即座に同意してくれた。
……だが、当の先生だけは話についていけていないようだ。
突然、自分が総大将と言われたのだから無理もない。
「私ではなく、オーディンがやれば良いんじゃない?」
「それは無理だ、先生。俺はセイロス教会の騎士団長に過ぎない。ファーガス国王とレスター盟主の上には立てない」
騎士団長はあくまでセイロス教会の軍幹部の一人だ。
……というか、立場は別にしてもディミトリ、クロード、俺の三人で何故俺が真っ先にトップに挙げられるかもわからない。
普通に考えれば、ディミトリかクロードだろう……先生は何を考えているんだ?
「セイロス教団の大司教代理であり、三勢力すべてが信頼する存在だ。先生以上の適任はいない」
「私は今回はオーディンがやっても良いと思うんだけど……」
……だから、なんでそうなるんだよ!
闇の理をこれほど懇切丁寧に説いたというのに、まるで届いていないではないか!