ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
エーデルガルト視点
「ほ、報告します! ディミトリ国王と交戦し、軍務卿ベルグリーズ伯戦死! 軍務卿、戦死です!」
上がってきた最悪の報告に、私は反射的に頭を抱えてしまいそうになる。
その衝動をなんとか抑え込み、努めて冷静に声を出した。
「東部軍の他の状況は?」
「人工魔獣はすでに壊滅……第4軍団長と第7軍団長は戦中行方不明、軍務卿傘下のベルグリーズ戦団は現在も最前線に残り、崩壊を防いでいる状況です」
東部の帝国軍はすでに敗戦したとみていいだろう。
他の前線の状況も極めて悪かった。
中央の丘を防衛していたベルナデッタ率いるヴァーリ伯爵領軍はオーディン率いる『フォドラの夜明け』により壊滅。
中央の丘を奪われた時、火計で焼き尽くして使用できなくする作戦も、オーディンに氷魔法で冷静に消火されてしまった。
……私はベルナデッタの覚悟と犠牲をただ無駄にしてしまっただけだ。
中央を取り戻すために送ったペトラ、カスパル、リンハルトも作戦失敗し戻ってきた。
彼らが生きて戻ったことに安堵したが、中央の丘を奪われたことにより戦況は悪化した。
同盟軍と戦っているヘヴリング伯爵領軍は盾として使っていた人工魔獣が徐々に討ち取られていき、押され始めた。
前線を維持するために投入した死神騎士も、ベレスの持つ“英雄の遺産”天帝の剣によって負傷し、既に撤退していた。
「笑えない状況ですね……陛下、如何されます?」
私の従者であり、腹心。
宮内卿のヒューベルトは不機嫌そうに私に聞いてくる。
人工魔獣、四聖人の血を持つ貴族たち、中央の丘の弓砲台、火計……そして、オーディンの信号魔法〈華炎〉を妨害する策……全てを使って勝利を目指した。
それでも、連合軍の力には届かなかった。
切れる手札はあと一枚のみ……私の力、それしか残っていなかった。
「ここでベレス先生とオーディンを討つ、それしか勝つ手段はないわ」
「正気とは思えませんが、我が主がそうおっしゃるのなら従いましょう」
闇に蠢くものが開発した“英雄の遺産”とは似て非なる武器、魔斧アイムール。
セイロスの紋章と一致することで力を発揮し、その力は現存する全ての“英雄の遺産”を超えるとまで言われている。
「ヒューベルト、貴方は全軍撤退の準備を……撤退先はメリセウス要塞」
「わかりました。陛下のこともいつでも救出できるように転移魔法を準備しておきます」
これで私が負けたとしても戦争はまだ続く。
私が戦死して戦争が終わるのと、フォドラにとってどちらが良い未来になるのだろうか?
ヒューベルトと別れると紫髪の女傭兵……シェズを呼び寄せた。
「私が前線に出るわ……“灰色の悪魔”か“漆黒のオーディン”、どちらかを押さえて援護してほしい」
「私が“灰色の悪魔”と戦うわ」
シェズは士官学校の同級生ではない。
彼女は私が士官学校にいた時にスカウトした傭兵だ。
軍務卿ベルグリーズ伯が戦死し、死神騎士は負傷撤退している。
黒鷲の同級生たちを除けば現状最も強い武力を持つ人物である。
そして彼女は、ベレス先生、オーディンとは因縁がある。
「シェズ、貴女は勝つ必要はないわ。“灰色の悪魔”を押さえてくれればいい」
「別に勝ってしまってもかまわないでしょ? 私は今まで“灰色の悪魔”を倒す為に鍛えてきたんだから」
「ふふっ……危なくなったら、貴女の能力で逃げてね」
彼女は自己転移する特殊な能力を持っている。
生存能力の高さは信頼できる。
シェズを引き連れてグロンダーズ平原の中央部へ向う。
見覚えのある集団が中央の丘を降りてくるのが見えた。
“漆黒のオーディン”、私の宿敵にして友人だ。
「久しぶりね、オーディン。貴方はあまり変わらないわね」
「フッ……やっと会えたな、我が“闇の同胞”エーデルガルトよ。その頭の飾り……かっこいい角だな」
軍師風の黒衣に身を包み、銀髪で自慢気に笑っている顔、左手を前に突き出した独特のポーズ。
私の良く知るいつものオーディンだ。
ちなみにこの角飾りを褒められたのは初めてだ。
仲間からは、可愛くないだのダサいだの似合わないだの散々言われていたが、わかる人にはわかる意匠をしているのである。
旧友との会話に気が緩んでしまいそうになる気持ちを引き締める。
「エーデルガルト。私は“灰色の悪魔”と戦ってくるわ」
「ええ、シェズ。気をつけて」
シェズは近くにいたベレス先生を見つけると、そのまま離れていった。
互いに、邪魔の入らない場所で決着をつけたいのだろう。
「その人数でここまで来たから……降伏しにきたんじゃないのかよ……」
「違うわ、オーディン。私は貴方を殺しにきたのよ」
「……!」
オーディンの顔に明らかに動揺が浮かぶ。
本気で私が降伏しに来たと思っていたらしい。
「待て、エーデルガルト……俺はお前に降伏を勧める」
「それは飲めないわ。私は連合軍には降伏しない」
「……じゃあ和平だ。大司教レア様を返還してくれたら俺たちは撤収する」
「レアを返すことはできないわ。レアを返したら再び彼女を大司教の座に据えるでしょう?」
「なんでだよ!? お前だってレア様を南方教会の運営を手伝わせてるんだから。大司教に戻すのは別にいいだろ?」
そんなことまで知っているのか……。
呪術の力か単純な情報収集能力かは知らないが、オーディンはアドラステア帝国の政情にも詳しいらしい。
だが、オーディンは何もわかっていない。
レアが南方教会の運営に関与しているのは、私が管理した上での利用、協力関係。
オーディンは、私とレアが普通に仲良くやっているとでも思っているのだろう。
それはとんだ思い違いだ。
「貴方は私のことをわかっているつもりで何もわかっていないわ」
「それは……お互い様だろう。言ってくれなきゃその人の本心なんて誰もわからない」
「いいえ、私は貴方のことを理解しているわ」
オーディンは甘い男だ。
戦争を終わらせたいのなら、ここで部隊で私を総攻撃して殺してしまえばいい。
甘くて優しいお人好しのオーディンにはそれができない。
手に持つアイムールに力を込める。
「だから、貴方は私に殺されることになるわ」
「……!」
「私の前に立ち塞がるのなら、その血がすべて流れ出るまで斬り刻んであげる!」
炎の紋章が浮かび上がる。
解放王ネメシスの持つ紋章。
私の覚悟の証。
――戦技〈狂嵐〉。
アイムールの持つ最強の奥義。
敵に反撃の隙を与えることなく永遠に攻撃できる極技。
オーディンが紙一重でそれを躱した。
「やあっ!!」
――戦技〈狂嵐〉!
二度目の戦技。
今度はフレスベルグ皇帝家に代々伝わる、セイロスの小紋章が浮かび上がる。
オーディンは反撃もできずに再び回避した。
私とオーディンの目線が僅かに交差する。
「これでっ!!」
――戦技〈狂嵐〉!
三撃目。
セイロスの小紋章が発動するが、また躱された。
何故、オーディンはここまで回避できる?
この男……最初から、当たらないことがわかっているのか?
「…!なんで!」
――戦技〈狂嵐〉!
四撃目。
再び炎の紋章が浮かび上がる。
当たらない…!
敵が反撃できない究極の奥義も、紋章による効果も、当たらなければ意味がない。
「〈斧殺し〉だよ…お前と戦う時はいつもセットしてるんだ」
「…!!」
――戦技〈狂嵐〉!
五撃目。
アイムールを地面に叩きつける……戦技を使いすぎた代償でアイムールは粉々に砕け散った。
「悪いなエーデルガルト……0%は当たらないんだ」
オーディンはどこか気まずそうに声をかけてくる。
私の認識はある意味正しかった。
オーディンは私を殺すつもりは全くない。
ただ優しく……そして、残酷に力の差を見せつけただけだ。
「俺の勝ちだ、エーデルガルト……降伏、和平……なんでもいいからとにかく話し合えないか?」
「……嫌よ」
合図を送る。
周囲を転移魔法〈レスキュー〉の光が包み込み、気が付けば撤退する帝国軍の軍中にいた。
決死の覚悟で戦いに来たのに……。
殺せたはずなのに、殺さなかった。
私を傷つけることすらせず、ただ私の切り札をすべて空振りさせた。
私の全てをかけても、届かなかった。
……これが、“漆黒のオーディン”という男なのだ。
◆◆◆
オーディン視点
俺は“漆黒のオーディン”。
新グロンダーズ平原大戦を闇の力で制し、連合軍を勝利へ導いた、選ばれし闇の聖騎士だ。
新グロンダーズ平原の戦いは、連合軍の勝利という形で決着した。
連合軍の損害は軽微。
これほどの規模の戦いにしては、重傷者や戦死者は少なく、王国・同盟・教会のいずれの勢力も、主だった将官に死傷者は出ていなかった。
逆に敗北した帝国軍の損害は甚大だった。
軍務卿ベルグリーズ伯爵はディミトリに討たれ戦死、教務卿ヴァーリ伯ベルナデッタは捕虜となり、他の軍団長をはじめ、多くの上級士官が戦死、あるいは捕虜となった。
エーデルガルト率いる帝国軍残存兵力は、メリセウス要塞へ撤退し、防衛体制を整え始めているようだった。
エーデルガルトのことは……まあ、逃がしてしまったのは仕方ない。
ちなみに先生はシェズと呼ばれていた紫髪の女傭兵を倒して捕まえている。
かなりの使い手だったから、帝国軍は更に強力な手駒を失ったようだ。
「ディン……おつかれー、物資の搬入終わったよー」
「よくやったハピ、流石は我が“闇の同胞”」
「えー、ただ物資運んできただけじゃん」
開戦に勝利し、現在連合軍はグロンダーズ平原に野営中だ。
後方部隊のハピがガルグ=マクから届いた物資の搬入を報せていた。
「しかし、灰狼の学級のみんなには悪いな……裏方仕事ばかり押しつけてしまって」
「ハピは全然いいよ。むしろ戦いたくないし。コニーとバルトが『前線に出せ』ってうるさいだけ」
灰狼の学級のユーリス、バルタザール、ハピ、コンスタンツェの四人には後方部隊で裏方の仕事をやってもらっている。
この四人は、“ドローミの鎖環”“ヴァジュラ”“魔書フロッティ”といった“英雄の遺産”に匹敵する武具や、神聖武器“タロスの書”を所持している。
そのため、予備戦力としても非常に優秀だ。
「物資の運搬は今のところ問題ない感じ……大修道院以外の同盟と王国からも、物資はしっかり届いてるよ」
「同盟領と王国領のどこから物資が来ているんだ?」
「えーと……どこだっけ? 別に届いてるんだから問題ないじゃん」
ハピは適当だな……後で確認しておくか。
物資がどこから来ているのかは、ある程度予想できる。
同盟領からは、リーガン公爵領、ゴネリル公爵領、グロスタール伯爵領、コーデリア伯爵領、エドマンド辺境伯領の五大諸侯を中心とした補給線に加え、“ダフネルの烈女”ジュディットさんが治めるダフネル侯爵領からも支援が届いている。
王国領からは、フラルダリウス公爵領と、コンスタンツェの開発した魔法によって食料事情を回復し、『王国の新たな食料生産地』とまで呼ばれるようになったガラテア伯爵領から食料物資が送られているはずだ。
あとは、勝ち目の高い連合軍に恩を売ろうとする商人たちの支援もある。
「それでさー、ディン。祝勝会はするの?」
「ほう……選ばれし者たちの闇の宴が気になるのか?」
「なにそれ? 選ばれた人しか参加できないの?」
「いや、そんなことはない……士気を上げるためにも、小規模だが全軍でやろうと思う」
「やった! 流石、ディン、やるじゃん」
ハピが喜んでいる。
戦闘には参加していないのに、祝勝会には参加したがるとは現金なやつだ。
まあ、後方部隊として十分働いてくれているんだから、別に構わないんだが……。
「じゃあ、またあのダブルなんちゃら……っていうカカオのケーキが食べれるかな?」
「〈ダブルブラックビターグラスラント〉だな……お前もメルセデスたちの手伝いで作ったんだから名前くらい覚えろよ」
「えー……その名前長いじゃん。もっと短くチョコケーキとかでいいよ」
その『チョコ』はどこからでてきたんだ?
ハピは俺のことを『ディン』と呼んだり、勝手に名前を短くしたあだ名を付けるからな……ネーミングセンスだけは、どうにも噛み合わない。
「カカオ豆はアンナさんの専売だからな〜聞いてみないとわからないな」
「ハピはチョコケーキをまた作りたいし食べたいかな……めっちゃ美味しかったからフォドラでも絶対流行るよ」
「カカオ豆の原産はモルフィスとかダグザとか南の方らしいからな……まあ、フォドラで栽培できないか考えてみるよ」
ハピが食べるだけでなく、作ることにも乗り気なのは少し意外だった。
それだけ、俺の〈ダブルブラックビターグラスラント〉の味に衝撃を受けたのだろう……リシテアもフォドラ大陸で広がれば良いとか言ってたしな。
「とにかく、〈ダブルブラックビターグラスラント〉については闇の宴では約束できないな」
「ふーん、祝勝会では出さなくても、カカオ豆があったらハピにだけこっそり教えてね」
「フッ……約束しようハピ、お前は俺に闇魔法を教えてくれた“闇の同胞”だからな……」
俺の“闇の同胞”はそう多くない。闇について深く理解する者など、この世にはほとんど存在しないからな……フッフッフッ……。
グロンダーズ鷲獅子戦争編終了。
完結まで残り少なくなってきました。
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