ファイアーエムブレム風花雪月 異伝 漆黒のオーディン 作:すすすのすー
俺は“漆黒のオーディン”、闇に蠢く者たちに闇の裁きを下す、選ばれし闇の呪術士だ。
ゴネリル公爵領とコーデリア伯爵領の領境付近に存在する、闇に蠢く者たちの本拠地シャンバラ。
地下都市の制圧を終えた俺たちは、その内部を調査していた。
本来ならすぐにグロンダーズ平原へ帰還したいところだ。
だが、この規模の敵拠点を碌な調査もせず放置するわけにはいかない。
同盟のゴネリル公爵領軍とコーデリア伯爵領軍が到着するまで、俺たちはシャンバラの調査を続けることになった。
ヒルダなんかは不気味がっているが、俺からすればこれほど心躍る場所もない。
闇に蠢く者たちの拠点にしておくには、あまりにも惜しいほどの闇の気配に満ちていた。
「くっ……俺の中の『真の闇の力』……眠りし、血が騒ぐ……!」
「ちょっと、オーディン。真面目に調査してください、あまり時間はないんですよ」
一緒にいるリシテアに注意される。
今回の遠征には優秀な魔道士が何人もいる。 だが、その中でもリシテアは間違いなく筆頭の実力者だ。
そんなリシテアと、フォドラでも屈指の闇魔法研究者である俺は、一緒に調査を進めていた。
「調査は真面目にしているぞ、魔導砲台のような兵器はヴィスカム。こっちの巨大な人形兵器はタイタニスだ……ガルグ=マクの地下都市アビスにもゴーレムという似た機構の兵器があって……」
「あー、はいはい。分かりました。……というか、その名前、本当に敵が呼んでいたんですよね? 勝手に名付けたんじゃないでしょうね?」
「戦闘中に普通に呼んでただろう。聞いてなかったのか?」
「そ、そんな余裕有りませんでしたし……」
「まあ、俺も〈神軍師〉の能力で最初からわかっていたのもあるが」
「じゃあ、ズルじゃないですか!」
ズルじゃねえよ!
能力を正しく使っただけだからな!
〈神軍師〉の能力は〈戦術師〉の能力のほぼ上位互換だ。
見たことのない敵の兵器の名称や
「……しかし、この都市には俺の知識をもってしても理解できないものが多数ある……」
「解読には時間が掛かりそうですからね。この地下都市がコーデリア伯爵領の近くで良かったです」
このシャンバラの地下都市は、ヒルダの実家であるゴネリル公爵領と、リシテアの実家であるコーデリア伯爵領の領境付近にある。
厳密にはどちらの領地にも属していないらしい。
ヒルダによれば、ゴネリル公爵家はこうした古代遺跡や魔法研究にはあまり明るくないらしく、産業基盤の薄いコーデリア伯爵家に譲られる可能性が高いそうだ。
「……この地下都市にいた魔道士たちの中には私に実験をした者たちの姿もありました……一応、オーディンには感謝しなくてはいけませんね」
「フッフッフッ……感謝は受け取っておく。むしろみんなの前で大々的に俺に賛美を送っても良いんだぞ」
「そんなことやらないです!」
素直じゃないなあ……
しかし、リシテアの因縁に決着がついたことは良いことだ。
後は実験の結果、2つの紋章を得てしまった代償をなんとかできれば……
「ハンネマン先生との、紋章を消す研究は進んでいるのか?」
「はい、流石は“紋章学の父”と称される権威。研究はだいぶ進んでますよ。戦争が終わる頃には、奴らに植え付けられたグロスタールの紋章を取り除くことができそうです」
それは良かった。
紋章を消すことが出来ればリシテアが抱えている短命の問題も解決できそうだ。
「さっきも言いましたが……あんたには本当に感謝してるんですよ。闇に蠢く者たちのことも、ハンネマン先生に相談する助言をくれたことも、クロードには教えていない呪術だってわたしには教えてくれますし……」
「リシテアは悪用しなさそうだからな。それに闇魔法も一緒に研究してくれている……フッ、俺たちは士官学校以来の“闇の同胞”ではないか」
「……士官学校に入学したばかりの頃は、私は魔法が使えないオーディンに冷たくしてたじゃないですか。オーディンが独自の闇魔法を開発してから、一緒に研究するようになっただけでしょう?」
そうだっけ?
……いや、そうだった気がする。
俺の中では、リシテアは古くから付き合いのある“闇の同胞”というイメージだった。
だが実際に一緒に闇魔法の研究を始めたのは、士官学校時代も終わり頃のことだった。
「まあ……細かいことは気にするな」
「気にしますよ。とにかく、あんたには感謝を伝えたかったんです」
リシテアは少しだけ視線を逸らす。
「……あ、ありがとうございます」
仲間からの感謝はいつでも嬉しい。
特にリシテアのように、普段はあまり素直にお礼を言ってくれないような奴からの感謝は身に染みる……
「もし、永く生きられるようになったら、わたしはこの地下都市を研究したいと思います。そして、魔法開発や領地の発展に生かしたいです」
「ほう……ならばこの地下都市には名前をつけなければならないな。闇に蠢く者たちが呼んでいたシャンバラから生まれ変わらせなければならない!」
「はあ? なんでそうなるんですか!? 絶対に勝手に付けないでくださいね!!」
チッ……俺に名前を付けさせてくれるなら、めちゃくちゃかっこいい名前をつけようと思っていたのに。
「……ただ、この戦争が終わった後、わたしと一緒にこの地下都市の研究をするなら……そういうのも、考えてあげなくもないですよ」
「本当かっ!? ……それは、血が騒ぐ話だなっ!!」
「ふふっ……約束ですよ」
◆◆◆
??? 視点
兄さん、待っててね……仇は必ず討つから。
私は今、ガルグ=マク大修道院へと来ている。
現在、セイロス教会の主要な人物たちは皆、戦場へと出払っている。
セイロス騎士団も、古参の副団長であるアロイスという人物が留守を任されているだけだった。
──好都合だ。
特に今のセイロス騎士団にはシャミアやユーリス、そして私の兄の仇である『あの呪術士』のような、防諜能力に長けた人物がこの場にいなかった。
そのおかげで、私は簡単にガルグ=マク大修道院の内部へ侵入することができた。
兄さんは殺された。
セイロス教会が開催しようとしていた千年祭の前日。
帝国軍の軍団長として任務を果たそうとしていた、その時に……。
先日、グロンダーズ平原で、年の離れた義兄である軍務卿ベルグリーズ伯が討死したと聞いた。
王国最強と謳われるディミトリ国王の手によって、倒されたのだという。
義兄は、戦士として死ねた。
兄さんは、戦士として死ねなかった。
“漆黒のオーディン”という、邪悪な呪術士によって呪い殺されたらしい。
聞いた話では、その魂さえも囚われ、永遠に苦しみ続ける呪いをかけられているという。
必ず助けてあげなきゃ……。
私には、もう兄さんしかいない。
「ランドルフ殿! こちらの壁の修理、見事だぞ! 流石は帝国軍第1軍団長だ!」
「いえいえ、アロイス殿。捕虜としての役割を果たしているだけですよ。ちゃんと働けば、セイロス騎士団と同じ食事を食べられる。それだけでも士気は上がりますから」
壁の修理をしている将校たちの声が聞こえてきた。
その中に、どこか懐かしい声が混じっている気がする。
……いや、そんなはずはない。
聞き間違いだ。
セイロス騎士団への入団希望は断られてしまった。
まだ17歳の私は、子ども過ぎるらしい。
……でも、納得できない。
セイロス騎士団の最精鋭部隊。
あの呪術士が率いる『フォドラの夜明け』には、私と同じくらいの年齢の子どもたちもいたのに……。
だけど、もういい。
覚悟は決めた。
何年かかっても……。
必ず、復讐を果たしてやる。
「ランドルフ殿、そろそろ食事休憩としよう! 今日は大盛りメニューの日だぞ!」
「だっはっはっ! それは良い! この美味い飯を故郷の妹に食べさせてやれないのが残念だ」
懐かしい声が近づいてくる。
……そんなはずはない。
私の覚悟を揺るがすための幻聴なのか?
これも、あの“漆黒のオーディン”の呪術なのだろうか?
「……ん? フレーチェか!?」
「……え?」
「なんでこんなところにいるんだ!?」
「兄さん……? ……えっ、ランドルフ兄さん!? なんで生きてるの!?」
◆◆◆
カスパル視点
ベルグリーズ伯爵領に存在するメリセウス要塞。
それは、北に位置する敵国、ファーガス神聖王国とレスター諸侯同盟から帝都アンヴァルを守るために造られた、難攻不落の要塞である。
実際のところ、メリセウス要塞が攻められたのは、過去の歴史を振り返っても数えるほどしかない。
俺の代どころか、親父の代よりも遥か昔の話だ。
……親父は『不沈要塞メリセウスとは名ばかりの古い要塞だ』とよく言っていた。
「リンハルト、お前の親父……内務卿はなんて言ってた?」
「皇帝陛下は帝都アンヴァルへ無事帰還。僕たちはメリセウス要塞の防備に専念してろってさ」
隣にいるリンハルトに尋ねる。
先ほどのグロンダーズ平原の戦いでは、オーディンたち三人組に負けた。
だが、リンハルトの転移魔法のおかげで、俺たちはなんとか退却することができた。
「専念って言ったってなあ……オーディンの奴、ガルグ=マク大修道院とアリアンロッド要塞を少数で落としてるんだぜ。どう守れば良いんだか」
「転移魔法による浸透戦術は昔からよく使われていた戦術なんだけどねえ……実際、ほとんどの場合は失敗してるんだよ。でも、彼ほど上手く使っているのは、歴史上でも稀だよ」
「まあ、城門付近の警備を固めて、入り込んでくる奴らをブッ飛ばすしか、手の打ちようがねえよな」
グロンダーズ平原の戦いは、大敗だった。
軍務卿レオポルト=フォン=ベルグリーズ伯爵は戦死。
教務卿ベルナデッタ=フォン=ヴァーリ伯爵は捕虜となり、各軍団長や帝国貴族たちも、ほとんどが戦死、あるいは未帰還となった。
この決戦のために用意した大量の人工魔獣も、すべて討伐された。
「ベルナデッタは捕虜になって……尊厳が破壊されるような、酷い目に遭ったとかいう噂も流れてるよ」
「オーディンたちがそんなことするか? ちょっと前に会ったけど、あいつら、あんまり変わってなかったぜ」
「あくまで噂だよ。まあ、こういう話を聞いちゃうと、僕たちもあっさり降伏しにくくなっちゃうよね」
少し前にフリュム領で会った時も、さっきの戦場で会った時も、オーディンたちは昔のままのように感じた。
まあ、あいつら三人組は士官学校に入る前から戦場慣れしていた傭兵だ。
戦争を経験したくらいで、そう簡単に変わるような奴らでもないのかもしれない。
「どっちにしろ……戦わずに降伏なんてできねえよ。後ろには帝都アンヴァルと皇帝エーデルガルトがいる。ここを抜かれたら、帝国は滅びる」
俺の手には、神聖武器〈ヤルングレイプ〉が装備されている。
親父が戦死した後、親父の部下たち──『ベルグリーズ戦団』が死に物狂いで取り戻した遺品。
ベルグリーズ伯爵家に伝わる、伝説の籠手武器だ。
「オーディン、ルーナ、ラズワルド、そしてディミトリかあ……戦争って奴は、どんどん宿敵が増えていくな」
「お父さんの仇討ちかい? それにしては、少し嬉しそうだけど」
親父──帝国最強の武人と言われていた軍務卿ベルグリーズ伯爵は、王国最強と謳われるディミトリ国王に挑み、敗死した。
親父は常に言っていた。
『戦場で死ぬことこそ、武人の本懐だ』と。
王国最強の武人に挑み、帝国最強の武人として死ねた。
それは、親父にとって本望だったはずだ。
「嬉しいわけじゃねえよ。ただ、親父は武人として死ねてよかったなって思ってるだけだ」
「『自分の思う理想の死に方』で死ねたのがよかったなんて、僕には理解できない考え方だよ」
リンハルトは昔からこういう奴だ。
お互い理解できない部分はあるが、その考え方を押し付けあったりはしない。
だから、今も幼馴染の親友のままでいる。
俺の親父とリンハルトの親父も幼馴染で、犬猿の仲と言われているが……まあ、それも一つの友情の形だろう。
「オーディンにもディミトリにも恨みはねえよ。ただ、親父の仇は討つ!」
「その二人を討てたら、連合軍の動きも止まるかもね……まだ、先生やクロードもいるけど」
「先生だろうと誰だろうと全部倒す……気合入れろよ、リンハルト!」
今のところ、連合軍に目立った動きはない。
グロンダーズ平原に整然と布陣しているその姿が、メリセウス要塞からはよく見える。
「あの女……来るか……」
「あっ、イエリッツァ先生」
「……先生ではない……」
「エミール、あの女ってのはベレス先生のことか? それとも、メルセデスのことか?」
メリセウス要塞の総指揮官は、死神騎士イエリッツァ=フォン=フリュム。
士官学校では武術教師を務めていたが、死神騎士としてフレン誘拐事件の主犯となり、教会への帝国の宣戦布告後は帝国軍の指揮官として戦場に立っている。
本名はエミール=フォン=バルテルス。
青獅子の学級にいたメルセデスの弟でもある。
「……」
「……無視かよ」
「まあ、先生のことなんじゃないの? グロンダーズ平原では負けてたし」
先生の持つ〈天帝の剣〉をはじめとした、十傑の英雄の遺産。
それらによる被害は、グロンダーズ平原での帝国軍に大きな損害を与えていた。
単純な破壊力だけで言えば、英雄の遺産は神聖武器や名剣・名槍の類を遥かに上回る。
「報告します! 敵襲です! 正面門より転移魔法で、複数の敵部隊が侵入しました!」
ついに来たか、連合軍!
派手に迎撃してやるぜ!
「英雄の遺産だろうが、なんだろうが関係ねえよ! そうだろ、死神騎士!」
「ついに、来た……死神の鎌が、貴様を断つか……その剣が、俺を殺すか……」
「何で僕まで駆り出されてるのかね……面倒臭いなぁ」