呼吸が乱れているのが分かった。
血が滴り、生命の灯火が消えてゆくのを実感していた。
苦しさのあまりに声を出す事すら忘れ、『死』の瞬間を待ちわびてすらいた。
どんなに頑張ろうと、どんなに足掻こうとこれはもう無理だ。
幾つもの骨が軋み、折れ、あまりの呆気なさに嗤いすら込み上げてくる。
──人はこんなにも弱かったのだ。
あまりにも無知で、無力で、無価値だ。
だってそうだろう?さっきまで愉しく会話に勤しんでいたのにこうも呆気なく危機的状況に陥る、なんとも救いがたい。
いや、この場合は自分にも欠点があったのかも知れない。無茶苦茶な自論を持ち出し、怪しさを醸し出したのだから。斬られたとて何も不思議ではないか。。
どちらにしろもうどうでもいいことだ。
自分が死のうが生きようが結局のところは眼前の青年に全て託されているのだから。
どんなに足掻こうと、どんなに嘆こうと何も変わりはしない。自分はこの世界でのただの一般人…モブキャラに変わりないのだから。
諦めて、それでいいじゃないか。
精一杯自分は頑張った…そうさ、頑張ったじゃないか。
今まで何もやってこなかった自分だ。
少しくらい休んだって誰も文句なんか言ったりしないさ。諦めて、朽ち果てて…それでいいじゃないか。
視点が合わない。
少しずつ世界から色が喪われていくような感覚に陥る。段々と周りの声すら聞こえなくなってゆく。
何も考えられなくなりとてつもない虚無感に包まれる。いっその事消えて無くなりたいと全身が激しく主張していた。
吐き気が込み上げ抑えることが出来ない。
「ぉえ…」
と短い嗚咽音と共に口から血だらけの原型の留めていない異物を吐き出す。
全身に寒気がし、皮膚がやき焦げるほど熱くなっていた。なんで、なんで、なんで…。
脳が考える事を放棄し、わけもわからず涙する。それは痛みに対してなのか、それともこの場における自分自身の無力さに対してなのだろうか。
──幾ら望もうともその答えがでることは決してなかった。
命の灯火が消える。
あと何分、何秒自分はこの世界を生きてゆくことが出来るだろうか。
自分がずっと心の底から望んでいた、この素晴らしい世界を。あとどのくらい──。
呼吸をする音が消こえなくなってゆく。
肺という器官が潰れ呼吸すらままならなくなってゆく。どうやらここまでらしい。
結局何も成すことのできない人生だった。
あまりにもつまらなく、なんの刺激もない人生だったが後悔はしていなかった。
まぁ、次にもう一度人生を始められるのならこんな終わり方だけは避けたいところだ。
こんな死に方情けなさすぎて前世に申し訳ないしね。
心臓が停止し、世界から音が消えてゆく。
それを実感し、いよいよ終わりを噛み締める。
きっと大丈夫…な筈だ。
この世界を脅かす❀¿¿✟¿♛は我等が勇者様がきっと打ち倒してくれる筈だ。
自分はなんの心配もせずにゆっくりと死を味わっていればいい。
そうだ、きっとそうだ。
この世界は彼により永遠の安泰を取り戻すのだから。自分はここで朽ちるのが懸命だ。
ゆっくりと休もう。今日は雲一つないいい天気なのだから。休んで、貴方様の行き先をいつまでも見守らせていただきます。
──いつまでも、いつまでも。
──頑張ってください、勇者様。
そう告げた瞬間、自分自身の灯火が完全に消失してゆくのが分かった。