──気がついたら異世界にいました。
なんて、誰が信じるのだろう。
たがしかし疑いようもなく煉瓦を積み上げた建物が建ち並び、ドラゴンが空を舞い、街の至る所に人や亜人、獣人が住んでいた。
そんな現状を目の当たりにしながら先程こちらの世界へと訪れた少年が言葉を口にする。
「はぇえ〜…」
感嘆、この一言に尽きる。
なんの前触れもなくいきなり飛ばされた身だ。なんで飛ばされたのか、なんでこの世界に訪れたのか、何も心当たりがなく、ただ
『気がついたらここにいました。』
としか説明出来ない。
そんな現状にいつまでも浸っていては…と、自身の持ち物を漁る。
「異世界特有の初期アイテムの確認タイムだ。本来ならここで聖剣の1つや2つ入っている筈だが…。」
と期待をしながら初期装備の確認をするもすぐに異変に気付く。あまり気付きたくないその異変に──。
「──っそ…だろ。何も無いっっ!?」
そう、何1つとしてアイテムを所持していなかったのだ。無論、服以外なにも。所持金も、食べ物も、水も、ましてや聖剣などある筈がなかった。
「これは…いきなり詰んだのでは。。」
はやくも詰むとは流石異世界!!
などと言っている場合ではない。これから食糧と寝床を確保していかなければならないのである。そして、それがどれほどキツいことか…。
「とりあえず食糧確保からか。空を見た感じ今は真昼だな。とりあえず思い立ったら吉日、早めに行動に移そう。」
そう決め、早速行動に移す。
何事も早いのが1番だ、という考え方は昔からだった。何か気になることがあったら真っ先にそこに駆けつける。いつからだったろうか。
その速さに周りがついて行けなくなったのは。
自分の興味を追いかけているうちに周りはどんどんと成長していった。
気付けば…自分は『邪魔者』となっていた。
──思い出したくない記憶を思い出してしまった、とため息をつく。
とにかく今は優先すべきことがある。それを完遂させてからだ、と言い聞かせて鍛冶屋の前に立つ。
「街を見渡した限りギルド的なものはなかったからとりあえず来てみたけど…やっぱり迫力凄いな。THE・鍛冶屋って感じだな。」
とボヤきながらドアを開けるとそこにいたのは強面の男だった。
「兄ちゃん、何か用かい?」
とこちらに問いかけてきた。
やはり鍛冶屋が色々と教えてくれるパターンらしい。有力な情報を握ってることを祈りながら質問に回答する。
「実は迷ってしまって…それで色々と教えて欲しいんだけど──。」
「迷子とかなら忙しいし、面倒臭いからお断りだ。頼むなら他の人を当たってくれ。」
と、予想外の断りを貰い思わずその場に項垂れる。そんな自分を迷惑そうな目で店主は睨んでいた。つまりは商売の邪魔という訳らしい。
「…邪魔者はどきますよっと。」
と短く告げその場を後にする。
そんな状況に何を思ったのかふと店主がこちらに言葉を投げかけてきた。
「──ここから少し北に向かえば教会が見える筈だ。何か困ってるならそこに向かってみるといい。」
なんで教会?と聞き返そうとしたが生憎これ以上の会話はしてくれなさそうだった。
──そんな店主の言葉を頼りに歩きながら色々と考えていた。そもそもここがどんな世界観すら分からないのが現状だ。
ドラゴンが飛んでいるならまだしも、迷子(?)で何故教会に行くのかが分からない。まさか新手の宗教の勧誘か?なんて考えていると眼前に大きな建物が写った。
周りとは違うその豪華さに思わず嘆息する。ありとあらゆるところに装飾がされ、まるで身分の差を表しているかのようだった。
「──ここまで豪華だとは…この世界はそんなに信仰されているのか?」
と、驚きを隠せずに感想を口にする。
仮に、国一の貴族の当家です。なんて言われても疑うことはないだろう。そのくらいの迫力があった。
無論そんな所にそうやすやすと入れる訳がなかった。入っていいのかと大いに躊躇っているとふと扉の奥から声がした。
──若い、女性の声だった。
何事だろうか、中で何やら揉めている。宿を予約した筈やらなんやら…うん、理由が把握しやすい!!と早くも揉め事の原因を理解し、止めようと扉を開ける。
「──だから、そちらの宿をお借りすると言ったじゃないですか!」
と、入って直ぐに言い争う声が聞こえ、思わず身を竦める。と、その女性に言い返すように、
「いえいえ、貴方様のような御方をこの様な老朽の進んだボロ宿に止める訳にはいきません!」
と見事に働き先をボロい扱いして反論している女性の姿が伺えた。しかしまぁ互いに一歩も引かずに争って…争って…。争って…?
「全然違った内容だった!!」
と思わず飛び込んでしまった自分自身の失態を嘆く。昔から早とちりの激しい性格だ。今回も互いに争っていると勘違いし入った瞬間これだ。自分の能力の低さを思わず怨みたくなる。
そんな自分の事を怪しげに思ったのか、先程宿を頼んでいた女性は唇を噛み締めていた。そんな女性を外見は白と桃色を特徴とした服装に、肩までかかった薄桃色の髪の毛、加えて眩しいとすら言える美貌の持ち主だった。
そんなに睨まなくても怪しい事なんて何もしませんよ〜、と内心で言い返し、どうしたものかとため息をつく。妙にこの世界に来てからため息が多い気がするが気のせいだ。多分。。
少なくとも状況は最悪だ。
言い争い(?)をしていた2人の女性の所に突如として紛れ込んだ自分。何か言わねばならないと内心が急かしてくる。
そんな状況に釘を刺したのは先程反論していた女性のほうだった。こちらは全体的に華奢な体つきをしていた。灰色が特徴の髪も短く、仕事なのだろうか、正装を身につけていた。
「──何か御用ですか?」
自身の本来の立場を思い出したのかこちらに向かい慌てて告げる。
見たところ彼女はこの教会で働いていると見て間違いない筈だ。そう咄嗟に判断し質問に対して答える。
「あのさ、此処ってどこ…?」
──それは、あまりにも初歩的すぎるものだった。
向こうが話出した瞬間に不味いと感じた。
よくよく考えれば気付く筈だった。その異変に。勢いで飛び出したせいで自身の異変に気付かなかったのだ。
たとえ切っても切れない関係。言うならば呪いと言うべきか…。全ての出会いを台無しにしてしまうその症状に──。
「俺、コミュ障だったぁぁあああぁあ!!!」
完全に忘れていたその症状に思わず嘆く。
産まれてこれまでの17年間何度この症状に悩まされたことか。。
世界が変わった事ですっかりと忘れていたが改めて考えてみたら背筋に冷や汗をかいていた。
(尚、鍛冶屋のおっちゃんは何故か親戚のようなイメージが湧いてセーフだった模様)
「ぇと…ここって言われましても。国ってことですか?」
「コクコク(無言の首振り)」
「ここは三大王国の1つ、『レプティス』と呼ばれる国です。というかこの国にいるから知ってる筈では…。」
「それが…その…なんというか。」
「?」
「つまり…その…。」
迷子(召喚)なんです!なんて言える筈がないと冷や汗を浮かべる。何か別の言い訳をせねばと、脳が焦りを示す。
そのまま勢いに任せて咄嗟に、
「──記憶喪失なんです。」
と、余計誤解を招きそうな言い訳をしたのだった。
「キオクソウシツ…?」
聞き覚えのない単語に頭を悩ませている女性を片目で見遣りながら、脳内は焦りを隠せていなかった。
やばいやばいやばいやばいやばいやばい。何言っちゃってるの俺…!?記憶喪失とか意味不明すぎる!と自身の言い訳の仕方に後悔し、嘆く。今すぐにでも訂正しなければ、と思ったその時だ。
「──あの、キオクソウシツってなんですか?」
「あぁ、何も覚えていない状態ってこと。何も覚えていないんだ、俺。」
「なるほど──。…え?」
──何言ってるの俺!?!?
先程の決意はどこにいったのやら。むしろ誤解を拡大させてしまった。やばいやばいと更に焦っていると横で甲高い笑い声が聞こえてきた。
見れば桃色の髪が特徴な女性が笑っていた。
完全に馬鹿にされてる!!
「クスッ…記憶がないとは…クスクス…記憶がない…クスッ……あれ。ひょっとして、それやばいのでは…。」
笑いながら徐々に焦りを顔に見せ始め、最後はガチトーンで心配しだしていた。
まずい、誤解がどんどん広がってゆく…。
どうしようもない喪失感に頭を悩ませる。
「それでとりあえず宿の確保だけでもしとこうと思って。」
とにかく誤解を招かないために早急に退散しなければと考え、先程の揉め事の話で出てきた宿を求める。ただその返答は、
「あの…」
「?」
「泊まるなら銀貨が1枚必要なのですがお持ちですか?」
──絶望へと変わるのだった。
「銀貨、1枚…?」
「はい、こちらも一応商売なので…。」
そんな甘い筈がなかった。
当然泊まるのにもお金は必要なのだ。
またしてもやらかしてしまった、と項垂れていると先程散々笑い散らかしてきた桃色の髪をした女性が言葉を投げかけてきた。
「あの、もしお困りならお出ししましょうか?」
おずおずとしながら手に1枚の銀色のコイン、銀貨を差し出していた。
その言動は有難いが自分だって1人の人間だ。多少の罪悪感が込み上げてる。金銭関係となれば尚更だ。
「そんな、自分の問題なのに悪い、よ。」
まだコミュ障を克服できないのか途切れ途切れに発言をする。
「いえ、困ったらお互い様って言いますし何より私がお出ししたいんです。」
──なんて、いい子なのだろうか。
だんだんと彼女が自分の中で神格化されてゆく。止めようとしたが止められなかった。だんだんと彼女が女神にすら見え始め──。
ふと、彼女が口を開いた。
「それに、記憶ないの、笑っちゃいましたクスッ、から。クスッ。」
──前言撤回。
その為の罪滅ぼし的なものだったとは!
危うく彼女の罠にかかるところだったと激しく後悔をする。
(無論、この様な誤解を生み出した自分に原因があるのだが…。)
「ぇと、それでいいんですか?」
と、確認をしてきた。
そんな疑問に対しての答えは…
「はい。」
プライドを一切捨てた清々しいほどの返しだった。