「まじでありがとうっ」
そう言い心からの感謝を彼女に伝える。
場所は先程の教会から離れ街中に移っていた。
街中は賑わっていて、すれ違う人々の笑顔が絶えることはなかった。
そんな情景をぼんやりと眺めていると、ふと、彼女が口を開く。
「あれくらいでお礼なんて言わなくていいよ〜。それより困ったな…結局泊めさせてくれないとは…。」
──そう、結局彼女は泊めることを拒否されていた。こんな汚いところに泊められないです、などと言い一方的に追い出される形であの教会を後にしていた。
そもそも何故そこまで彼女の事をリスペクトするのか分からなかった。自分が知らないだけで彼女は有名人なのだろうか。ふと、そんな事を考えていると1人の男性がこちらに近寄ってきた。
「あの…これガラクタ物ですが売れば多少の金になると思います。是非とも旅のたしにしてください。」
そう言い幾つかの骨董品を渡す。
それを彼女は申し訳なさそうに受け取り深く頭を下げる。
そのまま男性が去ってゆくのを見ながら先程までの一連の流れを思い出し声を張り上げる。
「──ナニモノ…!?」
あまりの理解できない一連の流れに対し、自身の症状すら忘れる。
「いや…アハハ、人違いかな?」
と、彼女はそんな疑問に対し恍ける。
「いやいや、人違いで骨董品を渡す人なんかいないから…さっきの宿の件といい説明してもらわないと。」
珍しく噛まずに言えた!と内心でガッツポーズをする。
「だから、たまたまだよ。うん。」
とことんシラをきるつもりらしい。その後も聞き出そうとしようも知らない、分からないの一点張りだった。
まぁ、こちとら助けて貰ってる身だしあまり口出しするもんじゃないよな。と思い、素性についての追求をやめる。そのことにホッとしたのか彼女は胸をなでおろしていた。
と、そんな風に安心したも束の間、そこに小さな少女が駆けてきた。それも声を大にして、思いっきり彼女の素性を晒しながら──。
「勇者様!勇者様だああ!この街に来て下さっていたんですね!頑張ってください!!!」
──今、なんて?
そう思ったのも束の間、彼女に声に気付き次々と人が集まってゆく。
「勇者様!?」「勇者様だ!!」「嘘、勇者様!?」
「勇者様ってあの伝説の?」「おい、誰か竜車を持ってこい!」「勇者様!!!」「マジ!?!?」
────。
あっという間に彼女の周りに人溜まりができてゆく。そんな状況を見ながら嘘でしょ…とただただ呆然としていた。
「──隠しててすいません。。」
そう言い、彼女は項垂れる。
先程の人溜まりからなんとか抜け出し彼女は隠し事について詫びていた。
「いや…ことがことだったし…」
と、曖昧な返事をする。
正直、何がなんだか分からなかった。勇者と言えばRPG上の勇者を思い浮かぶがまさか彼女がその勇者というのだろうか。
そんな疑問を浮かべていると、彼女は自身の素性を改めて晒す。
「私の名はミア…拙いことながら国王に魔王討伐を任された勇者の1人です。」
そう自身の素性を晒したミアと名乗る女性は申し訳なさそうに頭を下げる。
なるほど、と理解をする。つまりは国王から令をもらったれっきとした勇者…と。
──それ召喚(?)された自分の役目じゃないの!?!?
と、思わず納得いかずに心の中で叫ぶ。
しかしこれで辻褄は合った。
確かに勇者だなんて言われてる人を自身が経営している宿に泊めることなんてできやしないだろう。
そりゃ無理矢理にでも追い出すわな…と顔を顰める。自分でも勇者を泊めることなんて到底できやしない。で、と残りの情報を整理する。
──目標は❀¿¿✟¿♛の討伐。どうやら世界観はRPG風と見て間違えないらしい。
問題はその次の1人という言い方だが、どうやら令をもらったのは彼女1人だけではないらしい。
──なら、と拳を握り締める。
なんとなく決めていた事をを改めて意識する。宿代まで貰ったのだ。そこまでしてもらって自分は何もしないなんて選択肢はなかった。
そんな方針を決めた途端、彼女がこちらに言葉を投げかける。
「難しい顔してどうしたの…?隠してた事は謝ります。でもその方が揉め事に巻き込まれない分いいかなって。。」
なるほど、と理解する。
これまで自分の素性を隠していたのは自分に迷惑をかけたくなかったからということらしい。
──その在り方に思わず嘆息する。
常に自身よりも他人を思うその在り方は流石としかいえなかった。間違いなく自分ならできないその在り方に。
「──そりゃ、反則だよ。」
「…?何か言った?」
「いや、ちょっとね。宿代のお礼に何かしたいなと。」
「あれはしたくてしたことだから礼なんて要らないよ。」
「それじゃ俺の…気がすまないよ、そうだな…いつか必ず倍にして返すよ。」
「いいっていってるのに…。」
「まぁまぁ、聞き流す程度でいいからさ。」
と笑いかける。
先の方針をまるで決めていない自分の最初の目標が今、決まった。
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──すっかり遅くなってしまった。
そう思い彼女は急いで足を向ける。これから宿を確保しなければならないのだ。既に日は沈み始めており夜へと移り変わろうとしていた。
歩きながら先程の青年を思い浮かべていた。
変な青年だった。急に倍に返すなどと一方的に決め、スタスタと帰ってしまった。一体なんだったのだろうか。
と、そんな青年の事を考えているととふと、
──名前、聞くの忘れたな……。
先程の青年の素性を何一つとして知らない事に思わず息を咎めた。
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やっちまったぁぁあああああ!!!
そう先程彼女の話題に出てきた青年は心の中で叫んでいた。
完全にやらかした…。と嘆くも取り返しのつかない事をしてしまったと全身が猛打していた。
少し考えたらよかったのにあの場の勢いだけで突っ走ってしまった自分の責任だ、と酷く落ち込む。今頃なんだあの変人と思われている頃だろう。
いきなり素性を求めた挙句、意味の分からない約束を取り付けたのだ。なんという暴君、なんという失態。。
次に彼女とあったらどう説明するばいいのだろうか…と必死に頭を悩ませる。場所は先程の教会の一室。驚いた事に部屋にはベットや物置場所があり元いた世界のホテルとさほど変わりはなかった。
折角始まりの1日だというのになんという失態の数々だろうか…思わず先がやられる。
そう落ち込んでいるとコンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「今大丈夫ですか?」
「……大丈夫ですけど。」
そう答えるとゆっくりとドアを開ける音が聞こえ灰色の髪を特徴とした女性が部屋に入ってきた。
「お疲れでしょうが明日の明朝には龍への祈りがありますので参加をよろしくお願いいたします。」
「龍への祈り…?」
「はい、毎日明朝と午刻と夜分にこの世界を創ったとされる幻龍に祈りを捧げるんです。無論この教会も幻龍を信仰対象としているんです。」
「なるほど…その祈りってんのは具体的に何するんですか?」
「特に何か特別な事はしませんよ。ただ時間事の食事の際に両手を合わせていただきますと……」
「ちょっとまったあああああああ!!」
いきなり叫んだ声に驚いたのか彼女は思わず後ろに倒れ込む。
「な…なんですか!いきなり!急にそんな大きな声出さないでください!!」
「いや明らかに今のはそっちが悪い…。」
そう言いジト目で彼女を見やる。明らかにおかしいだろその言葉は…と思わず突っ込まなかった自分を褒めてほしいくらいだ。
「まさかとは思うけど食事後も何か言葉を言う訳じゃないですよね?」
「そりゃ勿論始まりあれば終わりあり!ご馳走様というありがたいお言葉が……」
「あれ!?俺ほんとに召喚されたんだよな!?ここ日本じゃないよね!?」
「その、ショウカン?とやらは分かりませんがここは日本という所ではないですよ。」
「その前の発言から怪しくなってきてるんだよ!!」
よくよく考えてみればおかしな話だ。
何故か日本語が通じるし何かと日本チックなこと多いし…。
「まさかこちらの世界でも食材への感謝の気持ちを伝えるとは…。」
ぶっちゃけ言うこと自体は嫌ではないし食材に対しての感謝も大切だと思うがまさかこんな形になるとは。そう思っていると彼女は席を立とうとしていた。
「とりあえず…起きるのをお忘れなくお願いしますね。。」
「あ、はい。おやすみ。」
「オヤスミ?」
「それは伝わらないのかよっ!!」
──そんな鋭いツッコミが甲高く響き渡っていった。
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「まさかいただきますとご馳走様が通じておやすみが通じないとは…。」
先程の会話を終えた1人の男性がそうブツブツと呟いていた。
「そもそもこの世界に来てから思うが色々と曖昧すぎる。鍛冶屋や勇者(?)がいる事から世界観はなんとなく掴めたが教会があったり若干日本風だったりとゴチャゴチャしすぎてる気がする。なんだこのモヤモヤ感。」
そんな愚痴を呟いているとふとこの世界に関するある疑問を抱いた。
「──もし世界観がRPG風だとしたら俺のステータスはどこに記載されているんだ?」
基本的RPGゲームにはステータス画面がある印象があるが果たして自分にも存在しているのだろうか。と考えているとフッと右下に四角いマークのようなものが現れた。
「ここから見れるのか……?」
怪しく思いつつも手で触ってみる。
すり抜ける。どうやら現実には反映されていないらしい。瞬間ブワッと画面に何かが広がる感覚に陥る。慌てて目を塞ぎしばらくして目を開くとそこには、
──見慣れない画面があった。
「──アビリティ、セーブ・ロード…?」
そこにはアビリティと上に書いており、下にはセーブとロードとだけ書いてある画面だった。
「……アビリティってことは特殊能力みたいなものか?だとして普通に考えたらこのしたらこの下にあるのが能力内容だが…」
と改めて自身の能力を見つめ直す。
「──セーブ、ロードってなんだ…。いや、意味は理解できるけども…使用用途がまるで分からん。というか……」
そう言うとため息をつきながらが愕然とした様子で呟く…
「能力しょぼすぎないか!?!?」
──それはもう怒りだった。
この世界に来てから何かと不自由が続いているが遂には特殊能力まで価値無しときた。
これは召喚者を許すまじ、とふつふつと怒りを溜め込んでゆく。
「──ともかく、セーブ…?は保険でしといてみるか。」
気を取り直しセーブ画面を押す。
それも押しただけでなんの反応もなしときた。
つくづく自身の能力の無必要さに嫌になる。
確認すらできないとは。なんたるゴミ能力。
「なんで確認すらできないんだよ…不憫すぎるだろ。」
そう呟いた途端、身体が急に眠気を感じとったのが理解できた。無論、特にすることもないので睡眠欲を優先するとする。
「……寝るか。」
意外と疲れが溜まっていたらしい。そう意識した途端、眠気が一気に襲ってきた。
「そうキレてても仕方ない…。明日は早いっていってたし、何も焦ることはない。明日から異世界を謳歌したらいいさ。」
信仰のため…と、自身が決めた方針の為に。
それを果たすべくして彼はこの始まりの1日を後にしようと毛布を被り眠りについた。
──長い長い物語の始まりの眠りを。