「起きてください。朝ですよ。」
と、毛布を揺らしながら朝を伝える女性の声が聞こえた。そんな様子をぼんやりと見つめながら先程起きたばかりの青年は、
「……ふぇ?」
──そんな間抜けな返事を咄嗟に返していた。
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体感からして5時くらいだろうか。元々寝起きが悪いのに更にこの時間帯ときた……。顔を洗いながら目を擦り必死に起きようと欠伸を噛み締めていた。
無論先程まで気持ち良く眠っていた青年は一言文句を言おうと言葉を発するも──、
「もうすぐお祈りの時間ですよ。」
言葉を遮られる様にそう言われ咄嗟に、
「時間早すぎませんかね……?」
──愚痴を零さない訳がなかった。
「朝5時起きとか真面目にいつぶりだ…?夏休みに虫取り行こうとしてやめた以来だぞ。」
そう文句を呟きながら青年は朝食にありついていた。場所は食堂の様な場所で大きなテーブルに見合わなく2人だけがポツンと座っていた。
食器に置かれている食べ物の見た目はパンそっくりで昨日から何も口にしていないのは思わず涎が零れ落ちそうになる。
数十年生きてきてここまで食べ物に感謝したことはあるだろうか。いやない。感謝、感謝…この世の生き物に感謝を……。(パンの原料は小麦だけど。)
「……じゃあ、早速いただきま──。」
そう言いながら抑えきれずパンを口に運ぼうも──、
「ちょっと待ってください。行儀が悪いですよ。」
と注意を受けた。
「え……作法的なのがある感じなの?」
と驚きを隠せない。
元々作法的を全く知らないせいかパンに対しての作法など挨拶だけでいいと軽く考えていた。
そんな彼に対しての彼女の返答はやけに真剣味が帯びてて──、
「とうっぜんですよ!!食材を!生命を頂いているんですから!感謝を込めての作法も当然必要ですよ!!」
感情を露わにしながら必死に訴える。(尚、食材は小麦です。)そんな必死の訴えに思わずうろつき、
「へ、へ──……」
──そんなぎこきない返答しかできないのであった。
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「まず食材に向かって一礼をします。」
「……はい?」
「まず食材に向かって一礼をします。」
「いや、聞こえてるよ……。」
「次にこのパンを作るのにあたった方々に──。」
「ちょっと待った。」
「……なんですか?」
なんですか?じゃないだろと心でツッコミをする。いくら作法を知らないとはいえこれはいくらなんでも過剰すぎるだろ…と言いたくなる自分を褒めて欲しいくらいだ。そんな過剰をすぎる礼儀に対して──、
「それ、毎回やってるの?」
そんな疑問を聞かずにはいられなかった。
「……勿論ですけど。」
無論、彼女は即答で当然の様に答えていた。
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「なんだこのモヤモヤとする感じ……。」
そんな気持ちを言葉にしながら青年は呟いていた。──場所は先程の教会を離れ街並みへと出ていた。
「色々と近いようで違うこの感じ……。」
ウームと街並みを眺めながら頭を悩ませる。折角異世界に来たのだ。前世界の事は綺麗さっぱり忘れてこの世界観に没頭したいもこれときた……。
昨日からだが色々と近いようで遠い。遠いようで近い。そんななんとなくこの世界に馴染めてない事に違和感を感じながら歩いていると昨日道を尋ねた鍛冶屋に通りかかった。
寄っていくか迷い店前でウロウロしていると自分の手持ち金の無いことに気付き慌ててその場を後にした。
「よく考えたら俺絶望的な状況だった……。」
と遅すぎる理解をし、思わず項垂れる。
項垂れた目先からは噴水が生き良いよく噴き出し幻想的な景色を醸し出していた。恐らくここが中央なのだろう。周りの噴水を囲む様に住宅街が建ち並んでいた。
「どうするかな……これから。」
資金0。アイテム・装備0。
これでどう生活しろと言うのか。鬼畜にも程があるってものだ……。
「そもそもこの世界がRPG風ならモンスターどこよ。」
❀¿¿✟¿♛の討伐が目標な事から世界観はRPG風と見ているが大方怪しい点も幾つかあり現状はなんとも言えない。そもそもギルドの様なもの自体がないから根本的に違う可能性だってある。
「少しでもいいから聞いとくべきだった。。」
自身のコミュ力の無さを怨みながら辺りを見渡す。中世風の建物が建ち並ぶその世界は間違えなく自分が憧れていた世界そのものだった。アニメやゲームでしか見ることのなかった世界。
それを今自分がこの場にいると実感するだけで活力が湧いてきた。
「やってやりますか。」
そう意気込みながら立ち上がる。
まずはこの世界について色々と知ろうと昨日会ったこの世界における勇者、ミアの所に行こうと足を傾けようとすると──、
──声がした。
否、ただの声なら良かった。
明らかに違うその声を聞き思わずその声の方角に目を向ける──。
悲鳴だ。悲鳴だった。沢山の叫び声が聞こえ、沢山の助けを求める声が途端に溢れかえった。
「なっ……んだ、あれ。」
──理解ができなかった。意味が分からなかった。視線の遥か彼方、歪な形をした物体に。
ドラゴンの何十倍もの背丈を持ったその生物に。気付けば全身に冷や汗をかいていた。
途端に音がした。それはこの世界の終わりを具現化しているようにすら思えて──、
ぐちょ、と粘膜を垂らすその音がはっきりと聞こえるように感じて──、
──歪な姿をした一つ目の巨人がこちらを覗いていた。
寒気が抑えられなかった。気温に対してではない、全身が震え、慄き、そして硬直していた。この状況の理解よりも先にその場に膝を曲げて座っていた。
理解できない。理解してはいけないと脳が必死に眼前の存在を拒んでいた。
だってあれは──、
「さすがにっ……割に合わねぇ。」
既にこの世界にきて幾つもの苦しみを味わっているがあれだけは反則としか言いようがない。
どう考えてもおかしすぎるだろ。明らかにこの世界にサイズが見合っていない存在を出すなんて。
「に……逃げ。。」
そう咄嗟に立ち上がり足を動かそうとするも震え、硬直したように動かない。やばいと全身が、脳が支配し、焦りだけが高まってゆく。
──瞬間、音がした。
先程と比較できないほど大きな音が。
「──はっ…?」
それは疑問だった。
音に対してではない。その音に次いだ現象に対しての疑問だった。大地を抉とり、建物を一瞬で崩壊させる放物線のようなものが一直線に通っていった。
瞬間、世界が反転した様に思えた。生命の実感がなくなり口をパクパクと紡いでいた。
「え゛…?あ゛……。」
──訳が分からなかった。いきなり起きた怪奇としか呼べない現状を認める気にすらなれなかった。
だって、その放物線は間違えなく自分の左を通過していって──。
「───。」
──自身の身体の部位が欠けている事に気付いた。まるで世界そのものから剥ぎ取られたかのように肩から肘、手首が無くなっていた。
「ぁあ゛あああああぁああ゛ぁ!!!!」
発狂に近い声を荒らげ、必死に悶える。
やばいやばいやばいこれはやばい。マジでやばい。冗談にすらなってない。
痛みなんてレベルじゃなかった。死すら悟り訳の分からない事態にひたすらに困惑していた。
「ぉぇえぁあ゛゛゛!!!」
訳が分からない。訳が分からない。訳が分からない。なんでこうなった。なんで??理解が、できない。脳は痛みを強調する事しかしなかった。
処置を。応急処置をしなければ、と少ない脳で必死に考え左を見やる──。
──血が、身体が鮮血で溢れかえっていた。
日常生活において血を見る機会なんてどのくらいあるだろうか。少なくとも青年はかすり傷と鼻血程度しか見た事がなかった。
──致死量、とも呼べる多量の血が溢れかえっていた。
真っ赤に染まったその部分をみながら青年は息をする事すら苦しくなっていた。悶え、苦しみ、理解のできなさに怯えてすらいた。
どうして、なんで、こうなったのだろうか。
先程まで多少の文化の違いはあると言えど普通だったじゃないか。特別自分が責められる様な事は、なにも。
それが今はこれだ。訳の分からなさに反吐が出る。否、それは血だ。死を噛み締めるかのように口から血が零れ落ちていた。
「いみ……わかん。ねぇ…よ、」
世界が形を変えてゆく。消えゆき、また形を変えて再構成されてゆく。視界の確保すら危うくなり終わってゆくこの世界をただ呆然と眺めている事しかできなかった。
どこで自分は道を間違えたのだろうか。少なくともこんな化け物にいきなり殺されるような生き方はしてない筈だ。
ただ、偶然なのだ。ただ偶然にあの場にいて、あの被害を食らったのが自分だっただけなのだ。あまりの理不尽さに吐き気が込み上げてくる。
「せめ、て……さいご、に。、」
せめて、約束を誓った彼女にもう一度会いたかった。会って話がしたかった。この世界に来て唯一の優しさをくれた彼女に──。
死を噛み締め、生にしがみつき、彼は最後をただひたすらに待ちわびていた。もう痛みを感じる事はなく、視界はぼやけてもうほとんど写っていなかった。
──ただ、最後に文字を見た。
その文字は、昨夜見たものと同じで──、
訳も分からずその文字に微かに動く手を翳しながら──、
一つの生命の灯火が消失していった。
──この世界の別れを惜しむように手を翳しながら、この世界へと招かれた1人の青年突然にして、死した。
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世界が消えゆく。
その全てを変えるために──。
その全てを望むために──。
──移りゆくその世界に1人の女性が嗤みを浮かべていた。
微笑むような、望んでいたかのような、幼い子を見るかのような嗤みを──。
消えゆく世界。移りゆく世界。生まれゆく世界。その全てを無視するかのように──、
──1つの術式が発動した。
──°¿¿✿¿♪⇢ フルフィルメント・ロード。
世界は形を崩して、再び形成される──。