微かな、微かな温もりを感じていた。
自分ではない誰かの微かな温もりを。
その温もりに気付く暇もなく、ほんの一瞬で、視界が移り変わるのが分かった。
ここ数時間でやけに慣れ親しんだ──、
3度目の景色が──。
──視界を埋め尽くしていた。
⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎
「……戻って、きたのか。」
ベッドにうつ伏せになりながら現状を確認する。場所はここ何時間かで慣れ親しんでしまったベットと物置場所がある前世界のホテルの一室のような場所──。
──何故、戻れたのだろうか。
先程まで状況を整理しようと頭をフル回転させる。結果として戻れた事から仮にもロードは1回限りの能力ではなかった事となる。
ならば何故あの瞬間使えなかったのだろうか。
何かトリガーがあるのかそれとも別の理由が──、等と考えながら一つの検証を思い付く。
「ここで1回試してみるか──。」
結局のところ何も分からないこの能力を少しでも知る為にもと、もう一度世界の繰り返しをしようと試みる。
「さぁ……鬼が出るか蛇が出るか。」
ゆっくりと右下のマークを押すとシンプルな文字が浮かび上がってくる。上にはアビリティとだけ書かれ、下にはセーブ・ロードと書かれたシンプルな文字が。
息を飲みながらゆっくりとロードを押したその瞬間──。
──世界が変わった様な気がした。
感覚的にどこか別の空間に切り離される様な、微かな違和感。疑問だけが浮かびその疑問すらも打ち消すかのようにして──。
世界を覆う被せるかのように一つの術式が発動される──。
──°¿¿✿¿♪⇢ フルフィルメント・ロード。
瞬間、感覚が途切れ、ゆっくりと深い深い深淵に落ちてゆくような気がしながら──。
先程のベッドに1人の青年がうつ伏せになっていた──。
「もど……って、きた、のか?」
違和感を噛み締めながらあまりにも変化のない周りを見渡す。全てが当たり前のようにある空間で、全てが先程と同じだった。
なら何故──、と頭を悩ませる。
「なんで、使えなかったんだ?」
これまでの傾向からロード、すなわち繰り返したのは巨人に身体を切り裂かれた(?)時と、勇者と共にしていた騎士に峰打ちを食らわされて悶えていた時と、何かしら危機的状況に陥った場合に発動していた。
それが今回、全くといって違った。
危機など全くとしてないし、ましてや何かしら展開を起こしている訳でもない。なのに繰り返す事ができたのだ。
そんな状況にうんざりといった顔を浮かべながら青年は──、
「少しくらい説明書いといてくれよ……。」
能力の結論を結び付けてた時と全く同じ愚痴を零したのだった。
⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎
納得のいかない結果だったがつべこべ言っていても仕方がない。結局繰り返そうが繰り返さまいがあの巨人は必ず現れて、必ず沢山の命を奪うのだから。その対策を練る為にも──、と
「──着いた。」
前回の数少ない情報を頼りにまた噴水へとやってきたのであった。
前回のループは一見無駄のように思えるが運がいいのか悪いのか最大の問題である戦力の確保、その筆頭となる──。
「逃げてた身とはいえミア……勇者の場所が分かったのはデカい。」
全く予想していなかった行方が分からなかった探し人の場所が意図せぬ形分かったのだった。
「たしか、この道を通って……。」
走っていた瞬間の微かな記憶を頼りに道を進んでゆく。生憎、逃走用に選んだ道だった為複雑に入り組んでおり何度も迷い込むのだった。
「あれ、この道さっきも見たような。。」
何度目かも分からない確認をし、道を分かる所 まで引き返す。ややこしい…ややこしすぎる。幸い、前回は方針を練ってたり避難を促したりで時間を使っていたので時間に余裕はあった。
なんとか宛にならない記憶を頼りに前回偶然出くわした騎士がいた場所まで辿り着くことはできたが、
「……意外と、近かったな。」
焦っていたせいか走った距離は案外短くそこまで時間はかからなかった。なんなら全く頼りにならない記憶のせいで遠回りしたぐらいだ…。
「さてと……。」
と肩を竦めながら彼女達が来る事を待つ事とする。迷った時間も含めればそう遠くない内に──、
そんな推測を立てているとちょうどタイミング良く通りから話し声が聞こえてきた。
「だから言ったじゃないですか……これからどうするつもりですか?」
「いやぁ、ハハハ……野宿とか、ダメ?」
「何が嬉しくて勇者様が野宿をしなきゃいけなくなるんですか……。」
勇者と呼ばれた人物は白と桃色を特徴とした服装に、肩までかかった薄桃色の髪の毛、加えて眩しいとすら言える美貌の持ち主だった。
「こういう日もあるよ〜、エメは立ち位置に拘りすぎなのです。」
そう言いながら野宿をしようと考える勇者の横を歩いているのはエメと呼ばれた女性は全身が赤を特徴としている騎士だった。髪から鎧まで赤に染まっており腰には長年愛用している両手剣を鞘に収めている。
と、そんな話をしていると、
「──あれ?」
見間違えじゃなかろうか……?昼頃に出会ったやけに印象深い1人の青年が目の前に立っていた──。
「ぁ、きた──」
「そこで何してる。」
来た事に気付き声を上げようとするも咄嗟に遮られてしまった。赤髪が特徴の女騎士──。2回目のロードを行う時に死ぬレベルの峰打ちをいきなり食らわされた因縁深い相手だった。
よくも先程は!!、と声を荒らげたい所だがグッと声を抑える。あくまでも自分は繰り返している身、つまりこの世界線ではまだ彼女と会っていないのだ。きっとここで声を荒らげようともなんだコイツ程度で終わることだろう。
深呼吸をしながら息を整える。変わらずコミュ障はこういう時でも発揮されるらしい。なんとなく話す内容は決めている筈だがなんとも気持ちが落ち着かない。。
どうしようか迷っていると彼女の横側──、昼間ミアと名乗った勇者(?)が真っ先に声をかけてきた。
「──すっごい偶然……!え、もしかして宿代足りなかった感じ……?」
「──へ?」
咄嗟に疑問を返していた。まさか第一声が彼女から来るとは。全く予想していなかった事態に思わず困惑する。
「ミア様、こちらの方と知り合いなんですか……?」
驚きを隠せないように騎士が口を開く。そんな状態の彼女に事情説明も兼ねて説明をしだす。
「昼頃に宿探しで一旦別れたでしょ?その時に出会ったんだよ〜、なんか彼宿泊まるお金がなかったらしくてかわりに渡したんだけど多分足りなかったっぽい。」
と、勝手に宿代が足りなくて出くわした事に変換されている事が気に食わないがいい口実に使えると考えそのままにしておく……。
「──ミア様、それひょっとしてクレクレ詐欺と言うやつでは?」
お?なんか展開違わね……?
「え。詐欺なの?でもほんとに困ってそうだったから……」
「いえ、そうやって善人の心に付けんこんでくるんですですよ!何故か渡さないと罪悪感を感じてしまうというあるあるのやつです!」
ん、ちょっと待て。少し話し合おうじゃないか。
「なるほど……ありがとうエメ。危うく2度も詐欺られる所だったよ。」
「いえ、構いませんよ。ミア様のような善人が付け込まれるのは側近の身として許せませんので。」
と、納得した様子でその場を立ち去ろうとする2人を見ながら──、
「ちょっと待って!?!?」
どう解釈したらそうなるの!?と疑問を隠せずに気付けば2人に向かって声を荒らげていた。
⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎ ⚠︎
「──つまりこの街に巨人が来ると?」
詐欺の疑いを晴らし、助けを求める為に事情を説明する。何故かエメと名乗った騎士は悔やんでいたが……まさか本当にクレクレ詐欺だと思っていたのだろうか。
事の説明を終え、巨人の討伐を依頼する。一発で悶え苦しむ程の威力を繰り出せる騎士と勇者と謳われる人……普通に考えて戦力に問題はないだろう。そう考えながら告げた彼女達の答えは──、
「──無理だな。」
「……だね。」
──予想と反した言うならば絶望の回答だった。
「……ぇ、?は。?戦力的には問題ない筈じゃないのか?勇者なんて呼ばれているんだから巨人なんて容易く──。」
「口を慎め、勇者様だ。頼んでる身でその言葉遣い、ミア様がお前の事を知っていなかったら今頃斬り殺されていたところだぞ 。」
どうやら自分が思っている以上に勇者の存在は大きいらしい。勢いに呑まれ思わず口を噤んでしまう。しかしながらそこまで大きい存在なのに何故巨人如きに無理だと告げたのだろうか。
「──いいか、巨人自体は大した脅威じゃないし、我々なら一瞬で塵にだってできるだろう。」
「だったらなんで──。」
「問題はその巨人が一つ目と言うことだ。普通巨人の目は二つあるのだが一つ目となるとこれがまるで違う。」
「違うって身体能力が高かったりとかか?」
「いや、存在そのものが別と考えていい。奴等は他の巨人と違い異形と呼ぶに等しい見た目をしている。能力だって他と比較できないほど差がある。」
なるほど……と頭を悩ませる。初めて見たら確実にトラウマとなるであろうあの歪な形は一つ目の特徴の一つだったのだ。
「それになにより──、」
この戦いが無理だと決定打にする様に騎士の言葉を遮るようにミアと名乗った女性が口調を強めながら──、
「──あれは〝純愛の姦物〟が造ったまがないものだしね。あんな気の狂った狂人に思想に関わる気すらおぞましい……。」
と、淡々と嫌がるように彼女は述べる。
純愛の姦物が何かは分からないが怪訝そうにする彼女らの姿を見るときっと碌でもないものなのだろう。正直彼女頼みだったのだがまさか断られてしまうとは……。
どうしたものか、と途方に暮れていると、
「──行かないの?」
「───。」
咄嗟にそう言われ振り返るとそこに彼女らの姿はなく、先程の声の主を探そうと前方を見やると。
先程まで討伐を拒んでいた2人の女性の姿があった──。
「いや、行かないもなにも……さっきまでの話聞いてる限りだと戦わないんじゃ……」
「──?街が崩れ落ちるかもしれないないのに死ぬかもなんて理由でホッとける訳ないし、それに元々〝純愛の姦物〟は犯罪人として根絶やしにしなきゃいけないからね〜。」
「───。」
理解が、出来なかった。自分の命がたとえ尽きようとも人々の為に動こうとする彼女達が。訪れる脅威を知って尚、抗おうとする彼女が。
「───。」
それでも、少しだけ報われた気がしていた。
誰にも理解されないこの世界で、唯一の理解者が現れたような気がしていた。
彼女のその優しさに何度救われた事か、と。その優しさに何度安堵した事か、と。
そう思い詰めながら小走りで後ろを辿る。先程までどことなくやるせない気持ちだったが微かな希望を見出していた。
そんな浮かれた青年を怪訝そうに見つめている影がある事にすら気付かずに──。
・・・
──一度目の巨人討伐が開始される。