「つまり私は恋をしている」   作:kui_doji

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第1話

‪どーん…どーん…‬

 

‪たーまやー…‬

 

‪どーん…どーん…‬

 

‪かーぎやー…‬

‪〜〜‬

‪今年の花火はには彩が足りない気がする。‬

‪なぜそう思ったのかは分からない、‬

‪ただ去年屋敷で眺めたときは…上手く言葉には出来ないが…ただ綺麗だと思えたのだ。‬

 

‪縁側で一人呑んでいる私を見やり、ぱたぱたと掛けてくる者がいた。‬

 

‪「童子ぎーりさーーん、ちょっとお願いがー…って、あれ?童子切さんが一人で呑むのって、ちょっと珍しいね?」‬

‪両手に皿を持ち‬

‪つけたキュウリを皿にこんもりと乗せているのはウチの中でも古株のやさふろひめだ。‬

 

‪「そうですねー、今日は三日月さんも遠征中ですし…。村正さんや他の呑兵衛集団は屋形船に乗って花火を真下から見上げて来るんだーとかなんとか。だから…」‬

‪今日は一人で飲んでいるんです…とは口には出さなかった。それを口にすると、この花火が映った盃の味まで落ちるような気がしたから。‬

 

‪まるで拗ねた子供のようだな…と自嘲する。‬

 

‪「それで…お願いというのは…お皿の上のものですか?」‬

 

‪「そうそう!さっき来た八百屋のお兄さんにいつもお世話になってるオマケですーって冷やしたキュウリをたっくさん貰ったんだかどね。貰ったまでは良かったんだけど一本丸々の形だとちょっと食べ辛いかなぁって。お願いできます?」‬

 

‪脇に置いた箸を一本手に取り‬

‪「ええ、いいですよー。得物がちょっとコレなので多少は切り口荒れますけども」‬

 

‪「わぁーありがと!うん、大丈夫大丈夫」‬

 

「はいはい…ちょっとお待ちを…」

 

菜箸を片手に空いた手でひょいと一本キュウリを宙に放る

 

キュウリの大きさからして

八分割くらいかな…と考え

 

キンッ!!

 

軽めに腕を振り、箸が折れないように加減をしたが、思い通りの形に切れたキュウリが皿の上に落ちて来た

 

「おー!」

 

ぱちぱちぱちと少し大袈裟な彼女のリアクションに気を良くして二本、三本と次々斬っていく。

 

----

「ありがとー!」

「はいはーい、どういたしまして。私もちょうどおつまみが切れてから良かったです」

 

ぽりぽりと切ったキュウリを食べながら二人で花火とはしゃぐ式姫(こ)たちを見る

 

「うーん、せっかく綺麗な花火なのに…こう、ロマンスが足りないわねぇ…」

 

「ろまんす…ですか?」

 

「そう!ロマンス!たとえばぁ〜…」

 

==

カレと約束した花火大会。

 

可愛ぃって言ってもらいたくて。

 

可愛い浴衣も選んだし新作の簪も買ったの…!

 

でも彼は急な仕事で来れなくなっちゃった!

 

1人寂しく花火を見上げてるアタシ。

 

花火はとってもキレイなのに…

 

なぜだかちっともキレイと思えなかった…

 

花火大会も終わりかけ、悲しみと共に帰ろうとする

 

その時!カレが向こうから走って来てくれるの!

==

 

「それでね!『君に会いたくて…急いで仕事を切り上げて来たんだ…!」』っとか言っちゃってさー!!ーー!!!」

バシ!バシ!と自分の太腿を叩きながら大変楽しそうな感じな彼女を見て『恋に恋するお年頃』っという言葉が頭をよぎる。

 

「綺麗な花火を見るだけでは『ろまんす』ではないのですねー」

 

「そりゃー!そうよ!!『大好きな人』と一緒に見ればそれだけでもぅすっごいロマンスなんだから!」

 

ふんすふんすと鼻息も荒く語る彼女の言うことは、色事に疎い自分でも意味は分かる。

 

世に恋の唄が尽きぬよう

恋の様子を月に花にと例えて唄い続けてきたのが人である。

 

人の使うものに宿る付喪神。

それは人の情念を汲んで生まれてくる。

なれば刀に宿った私にも、同じ気持ちが生まれるのも道理であろう。

 

ただ彼女には身近なロマンスにも目を向けてもらいたい…とも思う

「このキュウリ…美味しいですね」

 

「あー、それ私も思った。ただ冷やしてあるんじゃなくてなんか細工がある気がするんだよねぇー。八百屋のお兄さんも良い仕事するよねぇ」

 

八百屋のお兄さんのポイントが無事上がっていたようで安心した。

 

彼女は気づいていないようだが八百屋のお兄さんがこの屋敷に来るのは決まってやさふろひめが台所番の時なのだ。

 

…まぁそんなことを考えずとも、彼女と話すお兄さんの顔、そして何より彼とと話す彼女の顔を見れば…瞭然である。

 

つまりは彼女言う『ロマンス』は既に近くに転がっているのだろう。

 

「うーん、今度お兄さんきた時に教えてもらおうっと。じゃあコレ皆にも配ってあげなくちゃ。またねー」

 

そう言って手をフリフリして、来た時と同じ様にぱたぱたと掛けて外の皆の元へ向かっていった

 

私は手をふりふり彼女を見送り、

また空を見上げきゅうりをつまみ始めた。

 

==

 

どの程度時が経ったか、気付けば花火の音は止んでいた。

外の皆も大方片付けに入った様子だった。

 

その様子をみて、少し残しておいた酒をすべてどぷどぷと杯に注ぎ一気にグイッと飲み干す。体が熱くなるのを感じ、吐き出した吐息にも酒の匂いが多分に含まれていた。

 

「…あなたさまは…うそつきです…」

 

おろしたての簪を右手で弄りながら。

虚空に向かって呟く

 

「あーー、うん。それは…すまなかったな」

 

声が。した。

 

「もう終わってしまったか…?急いで帰っては来たんだが…間に合わなかったか」

 

いつの間に隣に座っていたその人はバツが悪そうに頭をかく。

 

「…今日はお戻りにはならないのでは?」

 

少し、声が上ずっているのが。

自分でもよく分かった。

 

「遠征組の皆が良くやってくれた。急な妖の群れだったが、日が落ちきる前には全て片付けられた。特に三日月の勢いは凄くてなぁ…討伐が終わるなり『早々にお屋敷に戻られますよう』と言われてな」

 

「…『仮にも大隊を預かる身だからおいそれと勝手はできぬ』では?」

 

そう今朝言われた台詞を返す

 

「…む。まぁそう俺も言ったのだがな。『ご主人は今回の討伐にて大きな怪我を負われたのです。だから急ぎ自宅で療養すべきだと考えます』と言う」

 

大きな…怪我。

「っ!?どこかお怪我を!?

あぁ…すみません気付けず!すぐ熊野さんを」

 

「あぁ、いや待て!…そうじゃない!」

ふと彼の体を見やるが、たしかに大きな怪我は見当たらない。

まぁ聞いてくれ…彼は話を続ける

 

「まぁ単純な話だ。私に近づく前に三日月が切ってしまったのだから私が怪我なんぞ負うわけはない。つまりは…ただの方便さ。本当に大きな怪我なら治療院へ向かうのが正当だ。其れを皆…いや何故かは知らぬが他家の者も含めて分かっておった。朱雀のお嬢なぞ『もうここには隊長なんかいらないわ。とっととお帰りなさい』だと。まったく、ひどい奴らよな…」

そう言って笑う彼の顔は…優しいものだった。

 

「まぁ…それでも残ろうとしたら三日月には『では今から大怪我をなさると良いでしょう。丁度私も斬りたい気分になって来ましたので』と笑顔で言われてな。後は信頼できる者に任せて帰ってきたと言うわけだ」

そこまで言うと。

おもむろに皿のきゅうりを手に取り、がりりと齧っていく

 

一本あったキュウリはみる間に半分になり

一欠片になり、無くなった

 

「…もしかしてお前も食べたかったか?」

 

そう言われて…ようやく

この人が隣に来てから

自分がじっと彼を真っ直ぐに見続けていたことに気づいた。

 

「…あぁ…えぇ。そうですね。さっき分けて貰った分ももう無くなってしまいましたね」

 

「よし、実は俺も家で食おうと思っててな。帰りにも何にも腹に入れておらんかったんだ。まぁ…台所ひっくり返せばなんかあるだろう。よし…漁りにいくぞ!」

 

そう言うが早いか立ち上がり、台所へと歩き始めた。

 

「もぅ…怒られますよ?」

そう言いながらも、私の顔には自然と笑みが浮かぶ

 

「今日は台所番はおらんしな、まぁ怒るものもあるまいて。」

 

そう言って私のご主人様は振り返り

 

「そうそう。その簪…綺麗だな。お前の長い髪に、良く合っている。」

 

そう言うと、また前を向き。

此方を振り返る事なく、のしのしと歩み始めた。

 

「もぅ…ほんと…。ずるい…ですねー。」

 

緩む頬を二回ペシペシと叩いて戻し

彼の台所への行軍に加わった。

 

せっかくだ。秘蔵の酒の一つくらいは開けても構わないだろう。

今日は飲んでも良い日に、今なった。

 

今晩の酒は美味い酒になるだろう

 

===

綺麗な花火を見る事がロマンスではなく。

好きな人と何かをするのがロマンスだとやさふろひめは言う。

 

ならば、このなんて事無い『台所漁りからの酒盛り』だなんて可愛げの欠片もない時間がとても大切なものだと思えるのは

 

単純な

とても単純なお話なのだろう。




童子切さんは可愛い。
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