大学が始まって半年も経つと、此処がどういった場所なのかにも大凡見当がつき、入学前の、あのわくわくは何処へやらと。短期間で随分と雰囲気の変わって行く周囲の同期を眺めながら、陰鬱になってしまう。
誰が誰々と付き合ったとか、誰が誰々と寝たとか、やれバイトが忙しいやら、やれ朝は起きられないやら、昨日は酒を何杯飲んだかとか、畑の肥やしにもならないような、どうでもいい話ばかりが、時間を憚らず飛び交う。
講義中であってもそれは変わらず、耳を塞いで突っ伏してしまいたくなる所、どうにか講義を受ける体裁を保っていられるのには、私の二つ前の机、斜め右に座るひとりの男子学生の姿があるからだ。
一見、背筋を伸ばして真面目に講義を受けているかのように見えるが、手元に置かれた二枚のルーズリーフ。詳しい内容までは見えないが、そのうち一枚は確実に、講義とは関係無い内容で埋め尽くされていて、自分で書いては自分でくすくす笑ったり、時に怪訝な顔をしたり、ころころと表情がよく変わる。
普通そんな風にひとりでしている人がいれば、少し気味悪がってしまうであろうが、そうで無いのは彼の容姿が整っている事と、彼が纏う雰囲気がひどく柔らかく、暖かいものだからだと思う。見ていて飽きないとはこの事か。
ルーズリーフの上を、彼の細い指と、銀のシャーペンが踊るように走り、その動きは表情とリンクしていて、それは漫才とか、演劇とかを彷彿とさせるコミカルさを持つ。
カチカチと芯を伸ばしたかと思えば、紙面に押し付けて戻していったり、トントンと拍子を打ったり、食い入る様に書き殴ったかと思えば、その一切を消してしまったりと、どんどんぼろぼろになっていく一枚のルーズリーフ。
しかし、毎度講義の終わる頃になれば、何だかごちゃごちゃとしたもので一杯になりつつも、どこか纏まりを得て完成し、満足気に一瞥するとこれまで散々作られてきたお仲間と共に、黒いA4のファイルに収められた。
それから間も無くして、教授の話は今日の講義のまとめへと入り始める。不思議な事だが、彼の一連の創作活動の終了に伴って講義が終わる事が多い。講義が長引く日も、短く終わる日もそれは変わらず、彼は何やらそういうものを察知する不思議な能力でも持っているのだろうか。若しくは教授が彼の手元に合わせて抗議しているのだろうか。それとも、彼は私だけに見える、時間を知らせてくれる非科学的な存在だったりするのだろうか。
今日も今日とて、彼がファイルを鞄にしまうと、教授から終了宣言が言い渡される。
教授が、とん、と資料を教卓で纏める音が響くと、既に彼は、講堂を出る所であった。