IS 一夏も自分も嫌い   作:ヌタ夫

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短い上に読者の方々からはどこかの学校で合宿を行なう女生徒のバイオハザード的なゾンビパニック漫画のアニメOP並みの詐欺だといわれると思いますが、書きます。


あ、別にゾンビものになるとかそういうわけではないので安心してください。



第十三話 ちょっとした変化

第十三話 

 

 

 

「初試合の上、連戦して疲れただろう。今日は早く休め」

 

「ありがとうございました」

 

 管制室に来た優介へ千冬は学園側からの諸連絡を伝え、試合に対する評価を簡単に伝えると労いの言葉を掛けた。試合は総合的に良いと評価を下した。セシリア戦では第三世代兵器であるブルー・ティアーズに最初は翻弄されたものの、弾道型以外はすべて撃墜した点と瞬時加速を使って見せた点の二点を選評。エネルギー残量の把握を怠った点を批判。一夏戦では相手の虚を衝く攻撃などを評価したものの、一夏に奇襲を躱した後の反撃に気を取られ壁に衝突した事を批判し、状況確認を改善点と上げた。優介は無表情な彼に珍しく、若干感情を表情に出しながら、それを聞いていた。

 

(模擬戦で得るものがあったようだな)

 

 千冬は彼のその表情に安堵した。優介はクラス代表決めの際、自薦も他薦もされていない。それなのに、千冬がどさくさにまぎれてクラス代表決めの模擬戦へ含んだのには彼の性格を何とかできないかと考えたのと、彼を見極めようと思ったからである。優介のような弱弱しい態度ではIS学園での生活は負担にしかならない。IS学園では女尊男卑の考えに関しては何も提言していない。けれど、入学者は女尊男卑の世の中で育った少女達。生徒によって、その度合いは違い、まったく女尊男卑などを気にしていない者もいる。しかし、IS学園には女性差別の憂さを晴らすように女尊男卑を提唱する保護者を持つ生徒がいる。そういった生徒は大概常識であるように男を低く見ている。クラス代表決めのときに見せたような弱弱しい態度のままで優介がいれば、格好の鴨となる。一夏が千冬と言う後ろ盾を持っている分、なおさらである。そうなった場合、できることならば、責任の一端を負うものとして優介を助けたいと思っている。一夏もそう思うだろう。けれど、相手も馬鹿ではない自分や一夏がいない時を狙ってくるに違いない。最後に自分を守れるのは自分だけ。懇願しても、正義だと思い、その考えに縛られたものを止める手立ては抵抗しかない。あきらめずに抗い続けるしか道はない。模擬戦に参加させて、彼を変えるかどうかは博打だったが、良い結果となって千冬は内心ほっとしていた。

 

(だが……)

 

 一方である疑念が沸き起こった。優介は勝負には負けたが、操縦と射撃技術に於いてかなりの成果を残している。代表候補生のレベルまでは到達していないが、一夏や一般生徒よりも上の技術を身につけている。それが不可解であった。対戦相手であるセシリアと放課後の訓練を行なっていた事は優介とセシリアの試合中に管制室で真耶達から聞いてはいる。だが、一週間放課後に練習した程度ではできるものではないと感じていた。政府から日本IS委員会を通して渡された公式の記録では優介のIS搭乗記録は学園が行なった機体搭乗テストのみでIS稼動時間は長く見積もっても40分程度である。放課後と休日の訓練時間は記録に残っていた稼働時間で合計15時間程度。これでは足りない。一般生徒と比べれば多い方だが、第三世代型ISブルー・ティアーズを使う代表候補生であるセシリアへダメージを与えるには不十分だ。

 

(まぁ、ビット破壊に関しては運に助けられたのが大きいかもしれんが……問題は射撃と回避だ)

 

 ビットの破壊は優介が偶然的に瞬時加速を試合中に発見したおかげでセシリアの虚を突くことに成功。だが、それはビギナーズラックが引き起こしてくれた成功である。格闘ゲームで適当にコントローラーをガチャガチャいじっていたら超必殺が放たれたのと大差ない。それよりも千冬が疑問に思っているのはレーザー攻撃回避と序盤の撃ちあい。相手行動報告と射線予測はISがしてくれるが、それを元に実際に機体を動かして射撃を回避するとなると初心者の反射神経では間に合わない。

 

 

もしかすれば、一夏と同じ類の才能を元から持っていたのではないか。千冬は彼を疑っていた。普段の弱弱しい態度は演技でどこかの組織が送り込んできたスパイなのではないかと。

 

「失礼しました」

 

 だが、管制室の自動ドアから出て行く優介を千冬は何も言わずに見送った。

 

(今は保留にしておくべきか……)

 

 はっきりとした正体は彼女にはわからず、目的も見当がつかない。彼の物腰が自分が知っているそれとはまったく違う事もあり被害妄想と言う可能性も捨てきれず、IS学園でもあり担任を務めるクラスの生徒である事で躊躇した千冬は今は彼を観察することにした。そして、観察結果で彼がクロとなった時はどのような形になろうと自分が終わらせると誓った。

 

 その時、再び自動ドアが開き優介が姿を見せた。

 

「あの……すみません先生。ちょっとお願いがあるんですが、いいですか?」

 

「なんだ?言ってみろ」

 

 優介が再び姿を見せた事に面食らい、まさか自分の勘が当たっておりそれに気が付いた彼が戻ってきたのではないのかと疑いの目を向けた千冬であったが、この後に彼の口から出た言葉は珍しく感心するものであった。

 

 

 

 

 

 

 

(まったく!なんなのですの、あの態度は!)

 

 自室でシャワーを浴びたセシリアはバスローブ姿で洗面台で水分をタオルで拭き取った髪をトリートメントをつけながら未だに憤慨していた。

 

 原因は試合直後に見せた優介の態度である。

 

 試合において彼はブルー・ティアーズのレーザービット4機を撃破すると言う快進撃を見せたものの、最後はセシリアに負けた。この結果に関してセシリアは特に不満に思ってはいない。むしろ、彼が結果はどうであれ堂々と戦ったと言う事を喜ばしく感じていた。それは放課後に彼の練習に付き合った事で生まれた情によるところも大きいが、彼女が心の奥底で望んでいた弱弱しかった亡き父が亡き母の為に努力をしていた証拠の手がかりになるような気がしたからである。更には優介が試合開始直前に棄権を勧告したセシリアへ彼女に教えてもらったのだから無駄にしたくないという旨を言っていた事もそれに拍車をかけている。けれど、それも最後に優介が行なった行動で台無しになった。

 

(折角、私が手を差し出してあげたというのに。まったく失礼ですわ!)

 

 セシリアはドライヤーのスイッチを入れ髪へ満遍なく温風を当てていく。だが、彼女のドライヤーを操る手つきはやや乱暴であった。それは優介を思い返すたびにまるで石油のように、より強く怒りを燃え上がらせ、より乱暴になる。

 

 自身を押し殺し弱弱しい初日の彼に対して、試合前のセシリアの勧告を震える声でも跳ね返した彼。初めて放課後の訓練で機体操作がうまくいかずセシリアへ突っ込んできた彼と、スターライトmkⅢの攻撃を初弾は食らったものの避け続けた彼。セシリアに叱責され落ち込んだ彼の表情と射撃精度がセシリアの訓練のおかげで向上した時に見せた彼の嬉しそうな顔。セシリアのおかげで彼は若干の成長を遂げられた。

 

(感謝すらされど、あんなスポーツマンシップに反したあんな事される覚えはありませんわ!)

 

 そう思い、再び最後に彼女がフィールドで仰向けになっていた優介へまだまだ実力が付いていないながらも力行した彼の奮闘を賞賛して手を差し出した時を思い出す。一夏に比べて魅力の欠片も無い、唇を噛み締めて堪えている様に見えた情けない彼の顔。思い浮かべただけで苛立ちと怒りが募り出す筈だった。だが、思い出すと途端に彼女の中の怒りは勢いを弱めていき、ドライヤーの荒々しい動きも大人しくなっていく。

 

(いえ……さすがに少し虫が良すぎますわ)

 

 優介が何を思って唇を噛み締めていたのかセシリアには確答出来ない。試合に負けた悔しさからか、セシリアに対する恐怖からか、情けない彼自身への怒りからか。いくつもの候補が挙がり、どれもが彼へ堪えさせれ原因だと思える反面すべてが原因でないとも思えてしまう。しかし、セシリアは自分の言葉が、彼女が優介に浴びせた辛辣な言葉が要因でもあると気が付いていた。放課後での訓練において指導に当たった際に言葉が厳しいものだった事は仕方がないが、それ以外の場面でセシリアは亡き父への憂さ晴らしとして優介を利用していた。それは許されるものではないし、優介も簡単に許せるものでもないだろう。もし自分が優介の立場ならそんな相手にスポーツマンシップに則った行動を取れるだろうか。しなくはないが、かなりの抵抗があるはずだ。

 

(やはり謝ったほうが……)

 

 ドライヤーのスイッチを切るとコンセントから電源コードを抜き、彼女はリビングの自分の机へと持っていき仕舞うと、IS学園に用意されているベッドよりも数段グレードの高い材料と技術で造られた天蓋つきのベッドへ横になる。ルームメイトが使っているIS学園のベッドよりも一周り大きく、ルームメイトのパーソナルスペースを明らかに圧迫し物理的にルームメイトに優しくないそれは優しくセシリアをベッド内部のスプリングによる揺らしながら受け止めた。

 

 セシリアは正々堂々と戦った一夏には彼の祖国と友人を侮辱した謝罪を言っても良いが、優介に対してはあちらから謝ってくるべきなのではないかと考える。

 

(ですが、正々堂々と戦ってましたわ。それに原因は……)

 

 そもそもの原因は自分である。過去の幻影を彼と重ね合わせ八つ当たりで傷つけたのだ。けれど、それで謝っては自分が尊敬していた母を傷つけた父を、家族の幸せを作ろうとした母や自分の足かせとなった彼を肯定する事となる。もちろん、本心ではセシリアは家族であり、親であり、母が愛した人物である彼を許したい。けれど、弱弱しく何の努力もせず母の愛に答えようともしなかったと言う先入観が、かつてセシリアの母がつくった鍋に同化したのではないかと思えるほど焦げ付いたホットケーキになる筈だった黒い炭素物質のようにこびり付いており、どうしても許せなかった。母を傷つけた父を許せないけれど、母が愛した父を許したい。そんなジレンマを考えながらセシリアは横になって目を瞑った。そして、まるで優介が行なっている自己嫌悪のスパイラルのように思考はループし、再び優介が何故セシリアが差し出した手を取らなかった理由を考察した。

 

(きっと、悔しかったのですわね)

 

 当たり前の事だ。一生懸命に練習すればするほど勝った時は喜べる分、負けた時のショックも大きい。彼は体面を取り繕うだけで本当の努力をしない情けない男では無い、自主練習や放課後の練習以外にも体力作りや勉学に勤しむことができる男だとセシリアは放課後に付き合った練習から感じ取っていた。。それに試合で怯えながらも真剣な眼差しで言い放った意気込み、威勢良く戦って見せた。ただし、彼はそういった努力を出来る人間の様だが、精神的にはまだまだ未熟で弱い。そうなれば、負けた時に努力がすべて無駄になった様な気分になってしまうだろう。

 

 セシリア自身、そういった経験がある。まだ両親が健在な頃、まだジュニアスクールの二年生だったセシリアは貴族の嗜みとしてテニスを習っていた。セシリアの母はどうせやるのならば高みを目指すべきだとセシリアを子供の地域大会へと出場させた。セシリアは母からの期待に応えるべく優勝を目指し大会まで練習に勤しんだ。そして、コーチからお墨付きを貰い自信満々で大会へと出場した。

 

 だが、結果は準優勝であった。

 

 あれ程練習したのに。何がいけなかった。思い返しても問題点と改善点が見つけられぬ。明らかな自分のミスがあれば自分を叱責し、次は改善出来る。

 

 けれど、見つからない。

 

 そこまで努力したのに何故ダメだったのか。セシリアは悔しかった。試合を観に来てくれた尊敬する母に申し訳がなかった。思わず泣き始めてしまったセシリアを母は「良くやったわ」と優しく抱き締めてくれた。胸の中で鼻水と悔し涙を流すセシリアへ「貴方はもっと成長出来る。次は自分をもっと高めれば、きっと大丈夫」と頭を優しく撫でてくれた。

 

(あら?)

 

 その時、セシリアはこの言葉をどこかで聞いた覚えがあった。これよりも後、別の人から。

 

(誰から?)

 

 彼女はどうにも気になり、優介の事を忘れ記憶を探る。

 

 幼馴染の専属メイドのチェルシーが両親が亡くなった後にセシリアを励ますために言っていたのを思い出すが、セシリアはそれよりも早く、初めて悔しさを覚えたテニス大会の後に聞いた覚えがある。

 

(たしか、……テニス大会の夜…)

 

『情けない僕からの言葉が何の役に立つかわからないけど』

 

 母に慰められてた後、セシリアは泣くのをやめた。家へ帰り、チェルシーへ次は自分を高めて頑張ると言って、あとに誰かが彼女の寝室の前で言ってくれた言葉。

 

『大切な、僕を支えてくれた、僕が支えたいと思った人の言葉だけど』

 

『セシリア、君はもっと成長出来る。次は自分をもっと高めれば、きっと大丈夫だよ』

 

『だって、セシリアはあんなに素晴らしいお母さんの子供なんだから』

 

『僕も頑張るから』

 

『お母さんに愛されるように……』

 

 セシリアは思い出した。そして、後悔した。自分は父が母を愛していたと言う命題に応える解を持っていたのに、それを忘れて父を叱責していた事実に気が付いた。思い返せば父はセシリアと母を気にかける様に声をかけていてくれた。しかし、母は叱咤激励する意味とある種の彼に対する甘えから厳しい口調で接し、セシリアは情けない男の言葉など聞く価値はないと聞き流していた。

 

(そういえば、葬儀でも……)

 

 部下だった人達が言っていた事をセシリアは更に思い出す。社長として働く母を陰ながらフォローしたり、バックアップしていた。激しすぎる情熱は時に周りの人間を疲弊させる。セシリアの母の熱い理想に共感できず、幾度サボタージュやストライキを画策する者たちがいたと。しかし、そんな時は父が交渉と調整を行い未然に防いでいたと。会社と母の為に。

 

 忘れていた。いや、優介を見た時と同じ様にくだらない先入観のフィルター越しでしか父を見ていなかった。

 

 セシリアは両親の不仲を自分が改善できる立場にいながらしなかったのでは無いかと疑い、後悔した。

 

 全ては自分のせい。母親の口調の所為や父親の弱々しい態度の所為では無く、全ては自分のせいだったと思い込み、失意のまま母を逝かせてしまった事を後悔する。更にそれだけでなく、父親を弱々しい態度だけで母の為に何もし無い、弱い人間だと決め付けて怒鳴りつけた事を後悔した。

 

 出来ることなら今から二人に謝りたいセシリア出会ったが、既に謝罪相手はこの世におらず、謝る事が不可能な為、途方にくれる。

セシリアは激しい後悔から贖罪の為にはどうすればいいか考え、優介の事を思い出す。父親の代わりとして八つ当たりをした彼へも謝らなければなら無い。

 

 セシリアは目を開けると優介と一夏へ謝罪を行なう事を決めた。あんな非礼を働くような情けない男に謝る必要はないと囁く自分自身の傲慢さへいくら相手にも非があるとはいえ、優介の行なった行動程度の非礼は水に流してこそノブレス・オブリージュだと反論する。更に彼が望むのであれば再び訓練を共にして関係の改善を計り、更には日常生活を通して立派な一夏のような男になるように調教すればよいのだとセシリアは明らかに謝罪に無関係で余計な計画を考え傲慢さを立てこもり犯の居る建物にありったけの催涙弾をぶち込むようにして無理やり制圧する。セシリアは壁掛け時計で時刻を確認し、試合終了時刻から優介が現在居そうな場所を計算し始めた。そして、バスルームで今頃シャワーでも浴びているだろうと考え、この学園で唯一男子がシャワーを浴びれるのは自室以外にないと推考するとベッドから勢いよく立ち上がり、クローゼットへ向かい制服へ手をかける。一瞬、彼女の脳裏に私服で優介を尋ねた方が彼に無用な緊張を与え無くてすむのではないのかと考慮したが、逆に普段と違う姿をしていては変に警戒される可能性がある上、正装とも取れる制服の方が謝罪の念が伝わると却下。普段学園で見せる制服姿になる。

 

(まずは今までの非礼は謝るべきですわね)

 

すぐさま部屋の出口へ向かいドア付近で室内用のスリッパからローファーへ履き替えると、彼へどのように謝罪を述べるべきか考えながらドアノブに手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 そして、気が付いた。

 

 自分が彼の部屋がどこか知らない事に。

 

 

 

 

 




 
夏のコミックマーケット。まだいったことがないので一度入ってみたいなと考えていましたが、匂いと湿気と温度、混雑などの諸事情により行くのを断念いたしました。
本音としてはオリジナルでパワードスーツ物の小説書きたいなとプロット考えたいのと短い夏季休業で無駄な体力使わず家でゆっくりしていたいと言うのが理由なんですが。
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