IS 一夏も自分も嫌い   作:ヌタ夫

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短いですし、話は大して進みません。閑話みたいな物だと思ってください。


第六話 入寮

「え、えっと……」

 

(怒ってるかな、怒ってるよね多分……)

 

 一年一組副担任、山田真耶は大声で謝り、職員室の空気を凍りつかせ、優介の背筋を冷え上がらせた後、とある部屋を優介とともに訪れ、部屋を見回す優介が言葉を失っているのをケージの隅で怯えているハムスターめいた様子で怖がっていた。

 

「も、元は予備の二人部屋だったんですけど、倉庫がいっぱいになったので物置として使ってたんです。これでも整理して使えるようにしたんですが……ごめんなさい、こんなところしか用意できなくて」

 

 一年生寮の二階の一番奥。非常口と荷物運搬用の大型エレベーターの近くにあるルームプレートのない扉の部屋。ここは苦肉の策で作り出した元物置の一人部屋。優介へ割り振った寮の部屋である。

 

 通常の間取りは入ってすぐ左に靴とコート類をしまうためのクローゼットがあり、その隣には洗面所とシャワールームへと続くドア。入って右側には冷蔵庫とクッキングヒーター等が備わった壁付タイプのシステムキッチン。奥へと向かうと一世代前のPCが備え付けられた壁付タイプの勉強机、クローゼットとベッドがあるリビング。奥には景色を一望できるベランダが備わっている。備え付きの家具はオーダーメイド品。冷暖房完備。高級ビジネスホテルと遜色ない設備が揃っている。

 

 一方、この部屋は間取りこそ同じだが、本来、ベランダ側のベッドがあるべき場所には、学園へ卒業生の置き土産という名のガラクタがわんさと入ったダンボール達が陣取っており、部屋の三分の一を占拠。入ってくる日光はそれらのダンボールに阻まれて、通常の部屋の三分の二程度。クローゼットは卒業生が置いていった金字で誠と書かれた浅葱色のダンダラ模様のハンガークローゼット。勉強机は流石になかったので発注しようと考えたが、予算と入寮までの日程の都合上頼むことができず、急遽ホームセンターで購入したセール品の収納ラック付きデスクとOAチェア。システムキッチンは壊れていたクッキングヒーターを撤去して調理室に余っていたカセットコンロを代わりに置いている。そして、ベッドは緊急用の折りたたみ式ベッドが置かれている。その他の家具も統一性のない卒業生の置き土産で、唯一通常の部屋と同じなのは洗面所とシャワールーム、冷暖房が完備されている点だけである。まるで、ディスカウントストアにとりあえず設けてある家具売り場の一角のようである。

 

(自分たちで用意しておいてなんですが……流石に、ひどすぎですよね)

 

 PCだけはなんとか他の部屋と同じものを用意したが、それ以外はあり合わせで間に合わせたため、統一性もなく、調和も取れていない酷い組み合わせだった。学校側としては卒業生の置き土産で予算をなるべく使わずに用意できたので助かったが、優介にとってみればたまったものではないだろう。真耶は教師として彼に罪悪感を感じていた。本来であれば、他の生徒と同じ設備の二人部屋で一夏と住まわせる筈だった事を考えると殊更である。

 

 安全を考慮して急遽決められた男子学生の入寮。一時的な策として無理やり部屋割りを変更してなんとか受け入れ態勢を作ったのだが、ある問題が発生した。

 

 中国から急に転入生来ることになったのだ。

 

 なんとか部屋割りを工夫して、二人部屋を1つ捻出。なんとか一夏と優介両名をその部屋に住まわせる事で受け入れが可能となった矢先に来た連絡。今の状態ではすべての部屋の定員はいっぱいで中国からの転入生が溢れてしまう。けれど、もし彼女を優先して部屋割りを決めると、男子学生が片方溢れ、入寮させることができない。男子一名ならば、女子と相部屋にさせれば受け入れることは可能だが、真耶は教師として流石に女子と相部屋させる訳にはいかないと考えていた。政府の担当へその事を相談すると「そんな事は私の管轄外だ」と言って聞く耳を持たず、それどころか必ず両方入寮させるよう釘を刺されてしまった。真耶は悩んだ挙句、一年生寮寮長千冬と相談し、片方だけは女子との相部屋。もう片方を物置で受け入れることにしたのだ。

 

 協議の結果。女子と相部屋になったのは織斑一夏。彼の幼馴染、篠ノ之箒と一緒の部屋にするという事になった。仕方ないとは言え、真耶は男女が同じ部屋で生活しては問題が起こる可能性があるのでさせたくはなかったが、入寮による安全と、政府からのプレッシャー、一夏の鈍感さと去勢されているのではないかと思える程の無欲さを千冬が保証した為、この部屋割で決定した。

 

(うう、怖いです)

 

 正直なところ、真耶は優介を苦手に思っていた。たまに見せる弱気な所は自分と似ているため共感を覚えたが、教室で一夏と共にいる時でも、不機嫌そうな雰囲気を醸し出しているのと、無口で三白眼で表情のあまりないのに苦手意識を覚えていた。

 

 そんなことを考えていると、部屋の中を一通り見終えた優介が真耶へ声をかけた。

 

「ここは一人部屋で、俺だけなんですよね?」

 

「は、はい……」

 

 普段と変わらぬ表情で言う優介ではあるが、どこか鬼気迫るような雰囲気がある。やはり二人部屋、友達である一夏と同室が良かったのだろうか。真耶は謝罪の気持ちよりも彼への恐怖から恐る恐る、か細い声で答えた。

 

「よしっ」

 

「え?」

 

 真耶は優介が怒鳴るのではないかと思い、身構えていた。けれど、聞こえたのは、ぼそっと優介が発した嬉しそうなつぶやき。なぜ、彼は割り振られた部屋はこんな見窄らし部屋だったのに嬉しそうにしているのか。真耶は安堵すると共に困惑した。彼は真耶へ辛辣の言葉をマシンガンのように浴びせ、水飲み鳥のように頭を何度でも下げさせて謝罪をさせることもできるのに、何故しないのか。

 

「あ……いや、そのありがとうございます」

 

 そんな真耶に気付いたのか、はたまた、つぶやきを誤魔化すためか、優介は真耶に慌てて感謝の言葉を述べた。

 

「え?」

 

「えっと、ほら、男の、自分へ部屋を用意してくれたので……」

 

(もしかして、ちゃんとした部屋を用意してもらえると思ってなかったとか?)

 

 真耶の問いに彼はしどろもどろに理由を言う。どうやら、男と言う理由でもっと見窄らしい場所を提供されると思っていたようだ。

 

 真耶は代表候補生時代に、女性優遇措置に関する女尊男卑を特集したニュースを観たのを思い出した。それは女性優遇制度によってもたらされた社会への利益を大部分で語っていたが、最後に意味もなく迫害されている男性がいるとまとめていた。まさに自分はそれに直面していると感じた。真耶は彼を不憫に想った。彼は男ではあるが、教師である真耶から見れば周りと同じ生徒である。男女の区別はつけ、それぞれに配慮するべきだと考えるが、差別するべきとは思わない。けれど、社会には自分とは違う考え方の人間がいる。きっと彼はそういった人たちの悪意を受けたことがあるのだろう。

 

「い、いえ、私は先生ですから、当然ですよ」

 

 真耶は同情から湧きかける涙をぐっと堪えて、当たり前の事だと言うと優介は頭を下げて「ありがとうございます」とただ一言返してきた。

 

「では先生は職員室に戻ります。荷物はそこにあるから今日はゆっくり休んでね」

 

 そう言って部屋を出ると、かつて少女時代にビデオで世界名作劇場と言う感動物語アニメを見た時と同じように真耶の目に涙が溢れる。この部屋を用意されたら普通は文句の一つでも言いたくなるのが普通だ。けれど、彼は文句など言わず、むしろ部屋を準備してくれた事を感謝していた。今まで辛い目にあってきたはずなのに。

 

(だからあんな無口で無表情な子に……)

 

 きっと、周りに波風立たせないように、おとなしくするしかない環境だったのだろう。それでも健気に生きてきたのだろう。そう思うと余計に涙が溢れてくる。

 

(せめて、この学園にいる時だけでも……)

 

 真耶は優介を取り巻く環境を持ち前の重い妄想力で過大解釈し、盛大に勘違いを起こしながら、IS学園にいる間は彼が楽しい学園生活を過ごせるように自分が努めようと決心した。

 

 この後、職員室へ泣き腫らした目の真耶が戻ったのを、ちょうど自宅から入寮する弟のために荷物を見繕って来た千冬が見て、彼女が優介を寮の部屋まで案内していたことを聞き、部屋の事で真耶を責め立てて泣かしたに違いないと、青筋立てて彼の元へ千冬が行こうとするのを真耶を含めた職員室にいた教師総出で止め、真相を聞いた千冬以下教師陣が彼女の妄想癖に呆れ、真耶は千冬に軽めの出席簿アタックを受ける事となった。

 

 

 

 

 

 

 

「っしゃー!!!」

 

 優介は真耶が出て行った後に感極まって雄叫びをあげた。理由は簡単明瞭、一夏と同室でなかったからだ。同じ学校で同じクラスで話すだけでも優介にはかなりの苦痛である。その上、同じ部屋であったなら優介は発狂し、トチ狂いもはや周りの目を気にすることなく、一夏のライフに対して直接的なアタックを敢行してしまっただろう。

 

 けれど、ここならば安心できる。一夏と彼の同性とは言え過剰すぎるスキンシップから身を守る事ができる。

 

(ここには奴の足の小指の爪、髪の毛1μmたりと入れさせねぇ)

 

 この元物置のを一夏シェルターとした優介は自室の所在を明かさない事と、例え一夏がゾンビや宇宙人、殺人鬼に追われてここへ逃げてきて懇願したとしても入室を許可しない事を固く胸に誓った。

 

(そうだ、携帯充電しておこう)

 

 優介はいわゆる三面記事と呼ばれるニュース確認が趣味な為、学校でも暇があればちょくちょく携帯でネットを開いていた。流石に授業中はやっていないが、ネット接続によってバッテリーが早く消耗する。一応、携帯充電用のケーブルと大容量モバイルバッテリーは持っているが、自室にいるのだからわざわざモバイルバッテリーからする事もあるまいと思い、荷物の中から充電器を取り出してコンセントへ差込み、携帯の充電を開始した。

 

(……いつもの充電開始の音が鳴らないな)

 

 いつもならば充電を開始すれば設定している電子音がすぐに鳴るはずであるが、何時まで経っても鳴らない。不思議に思った優介は試しにモバイルバッテリーへ接続してみると、こちらはすぐに充電開始音がなった。一瞬、本体の異常を疑ったが、どうやら杞憂であったようだ。充電器自体が壊れているのかと思い、別のコンセントでも試すがウンともスンとも言わない。

 

(おいおい、マジかよ)

 

 昨日まで使えた充電器が使えなくなっている。優介は新しい充電器を買うまで部屋での充電はモバイルバッテリー用の充電ケーブルを使ってPCからするしか無いと諦め、予想していなかった出費に頭を痛める。

 

 早速、PCを立ち上げてUSBポートから充電をしようと電源を入れるが、何時まで経っても電源がはいる様子がなかった。

 

(ん?……まさか!)

 

 この時、優介は理解した。コンセントへ指しても充電しない充電器。電源を入れても立ち上がらないPC。もしかすると、この部屋は電気が来ていないのではないかと。部屋の明かりをつけようとスイッチを押すと、案の定、明かりは点かなかった。他の明かりもつけようと試みたものの、どれもこれも点くことはなかった。優介はこれは嫌がらせかと思ったが、真耶がするようには思えなかったため、真耶を疑った自分を自己嫌悪しつつ、寮から彼女が戻ると言っていた本校舎の職員室へ行くことにした。

 

 

 ちなみに職員室に着いた優介は真耶が教師陣に囲まれた千冬に出席簿アタックをかまされるのを見た。その後、真耶に「蕪城君のせいですよ!」と怒られた。

 

 

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