IS 一夏も自分も嫌い   作:ヌタ夫

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今回も閑話です。出てくるのはあの子です。
5/1:ティナ・ハミルトンの容姿を変更しました。


第七話 First time Tinas

 ここは一年生寮、十階にある食堂。まるで、おしゃれなレストランのようなモダンな内装をしたここには、夕食時には少し早い時間にもあるに関わらず、夕食を食べに生徒が現れ始めていた。

 

 その中を劇場マナーのショートムービーで出演する頭がビデオカメラの映画盗撮者のように、優介は入口から食堂内を覗き込んだ。彼は、即刻に心臓へアイアンクローを咬ましてやりたい相手、一夏がいないか警戒していた。真耶の話で一夏も今日入寮した事を知った優介は、自室への通電処理をしてもらった後、総合事務受付へ行ってIS貸出申請書類を記入し提出すると、夕食時に一夏に出会ってしまわないように早めの夕食を取りに来ていた。もし出逢ったのならば、一夏は一緒に食事を取ろうとするだろう。いや、取るだろう。彼は食事はみんなで一緒に食べた方が美味しくなるという小学生並みの、純粋すぎる感性の持ち主だ。悪徳金融業者の借金取りの如く、嫌がっても空気を読まずに近くに座り込んでくる。 そうなれば、一夏が嫌いな優介にとってみれば最悪である。食事中にストレスによる胃潰瘍が発症し、食べ終わる頃にはスプリンクラーの様に吐血し始めることになるだろう。

 

(よしっ! 一夏はいない!)

 

 幸い、一夏はまだ来ていないようで、早めに夕食をとりに行くと言う自分の判断を優介は正解だったと喜び、券売機へと向かった。

 

 IS学園の食堂は食券制である。これは本校舎でも寮でも同じ。先進技術の塊とも言えるIS学園にとって唯一のローテクとも言える。 IS学園での食事は基本、昼食以外は有料メニューを除き、無料で提供される。朝食はビュッフェ形式、いわゆる朝食バイキング。昼は売店で買うもよし、食堂で食べるもよし、事前に学園内の生協で材料を購入して弁当を作り持参するのもいい。夜は無料の日替わりメニュー三種類の他、有料メニューから選べる。

 

 優介は券売機の上空に投影されているメニューを見て券売機上部にあるA、B、Cと書かれた三つのボタンのうち、Aのボタンを押すと、ボタンが点灯し購入可能状態となった。優介が券売機の貨幣と硬貨投入口の下にある、駅の券売機にある非接触型カードリーダーと同じ物に学生証をかざすと、「Aセット」と書かれた券が取出し口から印刷されて出てきた。

 

 無料メニューを購入するときには必ず学生証が必要である。これは、券売機への支払いの変わりである一方、生徒が過度なダイエットによる絶食などを行わないように記録、監視する為である。その為、朝食バイキングの時は食堂に入る時に、夕食の有料メニューでは代金を投入した後に学生証をかざす必要がある。昼食に関しては食堂、売店は機械を設置すれば、購入時に学生証による記録ができるが、弁当を持参する生徒の把握が難しかったのでこれは必要なくなっている。

 

「すみませーん。Aセット、ご飯でください」

 

 出てきた食券を持って、厨房とフロアを隔てるようにある受け取りカウンターにいた調理員へと渡した。

 

(……甘やかし過ぎじゃねえかと思ったけど、普通の寮なら飯はタダだろうし、有料メニューがある点を除けば普通なのか?)

 

 優介が学園の食事に色々と思案している内に料理が出来上がり、カウンター上に置かれた。その匂いに食欲をそそられた優介は思わず、鼻をひくつかせる。

 

 Aセットはミックスフライのライスセット。脇にトマトとレモン、タルタルソースが添えられ、千切りキャベツの小山に寄りかかるようにエビフライと白身魚フライ、コロッケ、そしてなんと小振りながらも丸々のホタテフライまでもが置かれている。主食は多国籍の生徒が集まるIS学園らしく数種類の主食のセットから選べ、優介はライスを頼んだ。ライスセットと言っていたからファミレスのように、平皿に盛られたご飯を彼はイメージしていたが、ご飯は茶碗に盛られている。傍らには大根の味噌汁と確実に着色料が使われている黄色い沢庵が乗った小皿。これらがトレイに乗せられている。後々優介は知るが、カウンターで「ライス」と言えば、ファミレスで出てくるようなライスとスープのセット。「ご飯」と言えば、和食レストランで出てくるようなご飯と味噌汁、漬物のセットが提供される。

 

 一夏が食堂に入ってきても見つかり難そうな手近な席に座り、手を合わせ「いただきます」と言うと、優介はすぐさま箸を取り、エビフライにかぶりついた。

 

(うんまい!)

 

 小麦色をしたパン粉の衣がサクッと、海老の身がプリっとしており、ファミレスやスーパーの惣菜のそれとは雲泥の差があった。添えられていたレモンとタルタルソース、卓上に置いてあったソースを駆使して、どんどんと食べ進めていく。あっという間に食器は空になった。腹と心は満ち満ち、幸福であった。

 

「ごちそうさまです」

 

 食べ終えた優介は食器を返却口へ返すと、一夏が来る前にさっさと部屋へと戻ろうと食堂の出入口へ向かった。

 

「あ」

 

「あら」

 

 そこで優介は不幸と出くわしてしまった。食堂から出たきた所でお嬢様風金髪ロールな不幸こと、セシリアと優介はばったりと会ったのだ。 

 

(ナ、ナゼイルンディスカ!!)

 

 優介は驚き、ベルトで変身する特撮シリーズの、滑舌が悪いことに定評がありトランプをモチーフにしたある作品の主人公のような訳の分からない叫びを心の中で上げた。

 

「邪魔ですわ。さっさと、御退きなさい」

 

「す、すみません……」

 

 クラス代表決めの時と変わらぬ態度と睨みで制服姿のセシリアは優介に命令した。優に4人は通れる食堂の入口。自分を避けたり、すれ違うようにして通ればいいのに、なぜ自分が退かなければならないのかと思う優介であったが、触らぬ神に祟りなし。もう、教室の時のような惨めな思いはしたくないし、譲り合いは大切とも考えた彼は、彼女を怒らせないように大人しく従った。

 

 しかし、セシリアは彼女が望んだ通り優介が脇にどいたにも関わらず、足を進めようとしなかった。それどころか、整った綺麗な顔が歪むほど彼を睨みつけた。芳香剤級だった不機嫌オーラが、優介が退いた瞬間にラフレシア級の不機嫌オーラに変化し、醸し出され、優介はこれは地雷を踏んでしまったと後悔した。

 

「……なんですの」 

 

 キッと目の鋭さを更にキツくしたセシリア。優介には、彼女が言葉遣いと容姿だけがお嬢様なチンピラにしか見えなくなった。もちろん、目の前の彼女は中身もお嬢様だろう。けれど、優介にはそう見えるほど恐怖が沸き起こったのだ。

 

「なんで、自分が悪くもないのに謝りますの?!」

 

(は? わけがわからん……)

 

 優介は混乱した。セシリアを傷つけるつもりなど毛頭なかった。ただ自分へ被害が出ないように彼女の言うことを聞いて脇へズレた。その筈なのに、なぜ自分は怒られているのだろうか。そこまで考えて優介は言い掛かりだと気が付いた。言い掛かりに理由はいらない。相手は縮こまり涙を流す自分を見たいだけだ。ここは堂々としなければ、これからは一夏だけでなく、彼女にも蔑まれるようになる。優介はそう考えて彼女の目を睨んだ。

 

「何か言いたそうですわね?」

 

 優介がセシリアを睨むと、彼女はそれに対して睨み返した。

 

(なんか……悲しんでる気がするな)

 

「……すみませんでした……」

 

 優介は言い返せなかった。昼間の事もあり、萎縮した事もあったが、どことなく、睨みつけてきたセシリアの目の奥に悲しみが見えたような気がして、言い返す言葉と意思が頭の中から消えてしまった。

 謝っておこう。もしかすれば、彼女の怒りに触れ、悲しませてしまったのかも知れない。情けないと思いつつ、謝罪の言葉をセシリアに述べた。

 

「だから、どうしてそう―!……あー!もういいですわ!!」

 

 けれど、優介の詫び入れでセシリアは癇癪を起こし、思いっきり床を踏んだ。何かを言いかけようとしたが、優介に見切りをつけたのか、最早無駄だといった感じにそっぽを向き、食堂へと立ち去っていった。

 

「すみませんでした……」

 

 きっと、優介の謝罪の仕方や態度が気に食わなかったのだろう。セシリアに対する誠意が足りなかったのではないかと思う優介であった。けれど、その反面、それは自分に土下座でもしろと言う事だと思うと憤り俯いた。

 

 そんな中、周囲の会話が耳に入ってきた。「かわいそう」や「流石に酷いわ」、「やり過ぎじゃない?」など優介を同情した物や「いい気味よ」に「ざまあwww」などと誹謗した物がごちゃ混ぜになって悠介へと届く。

 

(くそ……なんで……気持ちよく飯食った後に、こんな……)

 

 優介はそんな周りの囁きから逃げるようにその場を後にした。

 

 自室へと向かい寮の廊下を歩きながら、うなだれつつ自己嫌悪しつつ、惨めさを噛み締めていた。変わろうと思ったのに、クラス代表決定模擬戦をきっかけにして今度こそ変わろうと決めたのに、自分は何一つも変われていない、変わろうとしていない。これではただ大口叩いているのと同じだ。今の自分は何も昔と変わっていない。それどころか、悪化している。一夏の存在だけでなく、セシリアの存在が自分を惨めにすると考えている。なんと愚かな事か。なんと惨めな事か。自分の程度の低さを棚に上げて、表では相手にいい顔を見せて、裏では相手を蔑んでいる汚く、卑しく、見窄らしい。

 

(くそっ!くそっ!くそっ!)

 

 考えたくない。見たくもない。聞きたくもない。思わず、目を閉ざし、手で耳を塞ぐ。こんな見窄らしい自分なんて嫌いだ。近くには誰もいないはずなのに、耳を塞いだ筈なのに自分を蔑む周りの声と自分の声が聞こえる。目を閉じた筈なのに自分を蔑む周りの者と自分の姿が見える。

 

 さっさと自室に逃げ込もう。あそこなら誰もいない。音楽を聴いたり、ニュースでも見ていれば、こんなのから逃げれる。そう思った優介は目を開けて歩みを早め、エレベーターを待つか、脇の階段を使ってさっさと二階の自室に戻ろうと、廊下の中頃にあるエレベーターホールへと向かった。

 

「きゃっ!」

 

「あっ!」

 

 廊下から曲がりエレベーターホールへ着いた時、優介は誰かと、朝に食パンを咥えてぶつかるというテンプレ的な恋愛漫画のフラグかと言うぐらい、綺麗にぶつかった。優介は踏みとどまったが、相手は尻餅を付き、学園内の生協からの買い物帰りだったのか、両手に持っていたビニール袋を落とした。

 

「ごめんなさい!大丈夫ですか?!」

 

 優介は慌てて目の前で座り込んでいる相手へ手を差し出した。ネービーブルーのスウェットパーカーにミントグリーンの短パンというラフな出で立ちの彼女は、先程優介に言いがかりをつけたセシリアと同じ金髪碧眼。セシリアと違い、根元がくすんだ髪は少しウェーブがかかっており、一夏の幼馴染、箒よりは短いものの、茶色のリボンで同じポニーテールに纏めてある。  

 

「大丈夫だよ。こっちこそ、ごめんね」

 

 優介の差し出した手を掴み、彼女は引き起こされるとまだ痛むのか打ち付けた部分を摩る。

 

「いやいや、今のはこっちの不注意でした。本当にすみません」

 

 そういって、優介は彼女の落とした限界まで詰め込まれたビニール袋を両方拾い上げた。

 

(なんだ……ポテトチップス?こんなに?)

 

 拾い上げた時に見えた中身はインスタントコーヒーやポテトチップスやポテトチップス、ポテトチップス、ポテトチップス、ポテトチップス。とにかく、両方ともポテトチップスが中身の九割を占めていた。驚きと呆れで言葉を失う優介であったが、さっさと渡して部屋に帰ろうと彼女に手渡そうとする。

 

しかし、彼女は余程、強く打ったのか、痛そうにまだ尻を摩っていた。

「……これ、良ければ運びましょうか」

 

「え、いいの? ありがとう」

 

 自分がぶつかったせいで怪我をしたのに、このまま手渡して部屋に帰るのは後味が悪い。お詫びの意味合いも込めて優介は彼女の部屋まで持っていくことにした。

 

「さぁ、どうぞ」

 

 彼女の部屋は、ほんの三十メートル先で優介はわざわざ自分が持って行く必要はなかったなと思い、少しだけ後悔した。

 

「お、お邪魔します……」

 

 ドア前でポテトチップスを引き渡しても良かったが、ドア前で渡すと彼女が扉を開けなくなるのと、普通の部屋と自分の部屋との違いを一応見ておきたいと思った優介は、彼女に招き入れられるまま部屋へと入った。

 

(おおう、俺の部屋とはえらい違いだ)

 

 優介は部屋の見窄らしさを再確認した。そして、収まりかけていた優介の中の自分への嫌悪が再び湧き上がってきた。

 

「じゃあ、自分、明日の準備があるので帰ります」

 

「え?!」

 

 そう言って、荷物をシステムキッチンの調理台の上へ置くと、彼女を無視して優介は帰ろうとしてドアへと向かう。

 

「待って、蕪城君!」

 

 ドアノブに手をかけて出ようとした時、優介は部屋の持ち主である彼女に呼び止められた。名乗った覚えは無かったが、きっと、一夏以外の男子学生として彼女は自分の名前を覚えていたのだろう。優介は彼女の方へ振り返った。

 

「はい。えーっと……」

 

「あ、自己紹介まだだったね。私の名前はティナ・ハミルトン。ティナって呼んで」

 

「では……ティナ……さん、なんですか?」

 

「ありがとう。荷物運んでくれて」

 

 再び湧き始めた自己嫌悪と蔑みから早く逃げ出したい。逃げられる筈が無いのはわかっているが、とにかく一人になりたいと考えていた優介にはさっさとこんな会話は終わらせたがったが、自分が怪我をさせた手前、ティナを無下にはできない。

 

「そんな。あれは自分がぶつかったのが悪かったんですから、お礼なんて言わないでください」

 

 とにかくさっさと会話を切り上げて、部屋に戻ろう。ティナには悪いと思いつつ、優介は会話を切り上げるためにティナの感謝の言葉を聞き、返答した。

 

「けど、あたしも少しぼーっとしてたし……」

 

「いやいや、あれは自分の不注意ですよ」

 

「違うよあれは―」

 

「だから、あれは俺が悪いの!」

 

 この後、小一時間程、ティナと優介の押し問答は続き、互いに悪かったということで、互いに名前で呼び合い、タメ口で話すという事で互いに許す事になった。そして、この押し問答があったおかげか、優介が部屋に帰る頃に優介の頭の中には自分に対する嫌悪と蔑みは消えおり、優介は少しだけティナへ感謝した。

 

 

 

 




そういえば、コメントで日常系の主人公はハッピーエンドが少ないので、ぜひ幸せにして欲しいと書かれてました。
大まかに決めてある今後の展開ではこの作品は浦沢直樹の漫画っぽく終わるかもしれません。

5/1:最新刊にティナの立ち絵があったので髪型を変更しました。なんだろう、あのティナはラブライブのあの人や、若返ったスコールさんの様にしか見えるのは自分だけでしょうか?

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