ギャグ回にしようとしたのに……どうしてこうなった。
第八話
優介は放課後、解放されているアリーナにて借りてきたIS、ラファール・リヴァイヴで自主訓練を行っていた。昨日のうちに貸出申請を行い、授業が終わると同時にアリーナへ行き、昼休み中に総合事務受付でもらった許可証を提示して機体を借りて練習をすぐに開始した。放課後になって間もないためか、アリーナが貸切状態である。
(よし、なんとか、いい感じに動けるな)
優介は、ラファール・リヴァイヴの基本操作は拉致合宿において、基本動作訓練を行わされたおかげで覚えていた。が、それだけでクラス代表決めみ挑むのは格闘ゲームでチュートリアルが終わった段階でオンライン対戦に挑むのと同じぐらい無謀な事だと、自分が合宿の時にボコボコにされたのを思い、出来うる限り対策としてISの操縦を練習していた。
教科書と一般閲覧用学園データベースにある動画をラファール・リヴァイヴを通して観ながら、一通りの操作と動きを練習し終えて、射撃訓練をしようと地上に降りた。学園の貸出用装備のアサルトライフル、レッドバレットを呼出し、手元へ投影されたコンソールを操作してアリーナの管理システムへ射撃訓練設備を要請すると、ホログラムを利用したターゲットがアリーナの壁側へ出現、限定的にシールドバリアが左右に壁のように出現して簡易射撃場が出来上がった。早速レッドバレットを合宿で教え込まれた通りに構えた時、彼の中で不幸の代名詞が付いたIS学園に来てから発生した一夏以外の優介を貶める原因である高飛車お嬢様風金髪ロール、セシリアがアリーナの地上出入り口から優介の元へ歩いて来るのが目に入った。
(なんで、よりによって時間がかち合うんだよ……)
一見すると競泳水着に見えてしまいそうな青いISスーツを着ているところを見ると、彼女も優介と同じく自主練習をしに来た事は容易に想像がついた。
(今日は運がいいと思ったのに……)
昨日はIS学園登校初日は事前に一夏から連絡があった為、隙を見せるたびにケツに蹴りを入れたくなるのを我慢しながら一緒に登校するという苦行をさせられ、休み時間中は尻込みした女子が一夏に話しかけなかった所為で一夏が話しかけてくることになり、その度に一夏の開いた口に右ストレートをぶち込みたくなるのを我慢しながら過ごす羽目になり、一夏の安請け合いに巻き込まれてセシリアとクラス代表をかけて模擬戦をする事になり、放課後には優介が自室への通電を頼みに職員室へ行った時に副担任の真耶に涙目で怒られて謂れのない罪悪感を感じさせられ、夕食には噛み締めたミックスフライという幸せをセシリア・オルコットという不幸が踏み躙って来るという優介にとって散々な不運のオンパレードであった。
一方、それに比べると今日という日は彼にとって幸福である。
去年から受験勉強のリフレッシュと体力作りのために始めた早朝ジョギング。すっかり習慣付いたそれを優介は誰にも知り合いに会わず、穏やかな心でジョギングを堪能できた。朝食には一夏やセシリアと言った彼を惨めにする元凶達に遭遇せず、静かで救われている朝食を楽しめた。学校ではいちいち一夏が休み時間の度に話しかけてきて、思わずその口に拳をぶち込んで黙らせたくなったが、他の女子クラスメイトが一夏に話しかけていたので優介は心救われた。昼休みは、まるで花の香りに釣られる蝶のように一夏の下に来た箒を出汁にして一夏との食事を回避した。一般的には、ぼっち高校生の日常だろうが、優介にとって一夏との交流が最小になれば幸福といえるのである。
(ちくしょう、人生楽ありゃ苦もあるか……)
「あら……ここで何をしていますの」
どこかの日本中を行脚し世直しをする先の副将軍の主題歌のワンフレーズみたいな事を考えつつ苦い顔をする優介に、セシリアは若干の怒気を孕んだ声で問う。
「じ、自主練習です……」
昨日のことがトラウマになっているのか、彼女の声に萎縮した優介であったが、チューブの一番最後に残っている歯磨き粉を押し出すようになんとか言葉を絞り出した。
「あら、負けた時に地面へ這いつくばる練習ですの? 殊勝な心がけですわね」
そう言って、アリーナの中心の方へ歩いて行こうとする。
「違うっての……」
一夏ほどではないが、彼女に対して鬱憤が溜まっていた優介はぼそっと、彼女の背中へ否定の言葉を呟いた。
「なにかおっしゃいまして?」
その瞬間、不意にセシリアが優介へ振り向いた。その顔は微量ながら苦虫を噛んだような顔をしており、優介のつぶやきがセシリアへ届いていた可能性を感じさせた。
「負けない為のれ、練習なんですが……」
怒りが残っていたこともあり、途中までは面と向かっていったものの、途中から俯き、ここまで彼女に対して苦手意識を持っていたのかと自分自身驚く程、言葉が途切れ途切れになる。そして、つい言ってしまった本心の言葉が、彼女への反抗と取られ、怒り狂って昨日と同じように自分に当たるのではないかと気が付いた。
(や、やばいぞ)
セシリアがきっと怒っているだろうと予想しつつ、彼女の方をちらっと見ると驚くことに若干しおらしくなっていた。
「そうでしたの……ま、無駄な時間と徒労を消費するだけだと思いますが、頑張ってください」
(あれ? 今日は昨日よりも大人しい?)
しおらしくなっていたセシリアは優介が幻影を見たのかと思うほどにすぐいつもの調子に戻り、嫌味を言うとアリーナの中央へ向かった。優介は彼女の昨日との差異に疑問を抱いた。昼間の授業時間帯ではまったく、目も合わせず、言葉も交わしていなかったからなのか、昨日に比べて優介への叱責が和らいでいる。むしろ、言葉の最後には「頑張ってください」と言っていた。昨日までの印象からたとえ嫌味でも彼女は「頑張ってください」などという言葉を使うようには思えなかった優介は聞き間違いや彼女が間違った日本語の使い方をしているのではないかと疑う。
(まぁ、昨日みたいに難癖つけられて、ごちゃごちゃ言われるよりは良いか……)
昨日吐かれた言葉に比べれば穏やかな方だとして、精神的な自己防衛のために優介はこれ以上、自分へ負の感情を思い起こさせるセシリアについて考えるのをやめて射撃訓練に集中する事にした。
レッドバレットを構え、試射する。ISの射撃補助のおかげで弾はターゲットのど真ん中へと命中する。そうやって何回か射撃を繰り返し、ターゲットが動くように設定したり、複数個が同時に出現するようにしたり、いろいろ設定を変更しながら、ISの設定の方も射撃補正をオフにしたり様々な方法を取りながら練習を続ける。
(銃もいい感じだこれなら……)
結構な時間射撃訓練をしていた優介はラファールのモニターに映っているターゲットの中心部への的中率を見ると、全体を通して平均96.3%。自分の命中精度がなかなかに良い成績だったので、この調子ならば一夏はおろかセシリアにも勝てるのではないかと驕った考えが浮かんだが、その考えは直ぐに消え去った。
(けど、ボコボコにされたしなぁ……)
思い出すのは拉致合宿での模擬試合。特に最終日に行った国産量産機、打鉄を装備した代表候補生との対戦。訓練生と射撃の訓練をさせられた後に、比較的良い成績だったので実戦での射撃精度を計ると言われた。射撃成績が良かったのと、相手の露出部分へのケガの心配をしつつも攻撃ができるようになった頃であったので、もしかしたら勝てるんじゃないのかと若干天狗になりつつ優介は試合に臨んだ。しかし、結果は惨敗。35戦0勝35敗。去り際に相手、大人しそうなセミロングの髪をしたメガネ娘から「……ぜんぜん、ダメ……」と面と言われたのもあり、優介はついさっきの自分を殴ってやりたいと後悔した。
驕る平家は久しからず。井の中の蛙大海を知らず。歴史やことわざが語るように、自分の実力を過大評価しても良い事はない。特にクラス代表決めで戦う一夏とセシリアは専用機で来る。日本の代表候補生は量産機で、優介を粉砕し、優介の精神も玉砕し、周りにいたギャラリーから大喝采を浴びていた。専用機を使ってくる二人はかなり手ごわい筈だ。目標を高く持つ方が向上心が高くなり上達するのも早いとどこかで聞いたのを思い出した優介は気を引き締め、より一層精進する事を心に決めて再び射撃訓練を始めようとした。
「調子はいかがでして?」
後ろ声をかけられ、振り向くとアリーナ中央で練習していたはずのセシリアが専用IS、ブルー・ティアーズを纏い、地上にいる優介を空中から見下ろしていた。ISは青を基調としたカラーリング。一つ目を思わせるような円が中央についたハイパーセンサー。IS特有の搭乗者とは少しアンバランスな脚部位。肩の横に浮かぶフィン状のパーツが付いた非固定浮遊部位と腰部アーマーはまるで気高い騎士を思い起こさせるものであった。
「ほどほどです」
(なんでわざわざ来るんだよ、あっちで自主トレしてろよ……)
上にいる彼女に軽く会釈しながら優介は今の調子を答えつつ、毎回某龍のように生きる任侠と夜の町が題材になっているゲームシリーズに出てくる雑魚キャラのチンピラの様に突っかかってくる彼女にうんざりしつつ、一刻も早くここから離れて別のところで練習するように願った。
けれど、優介の願い虚しく、セシリアは優介のもとへと降り立つ。
「あら、見栄を張っていますの? ISどころか、射撃の訓練をした事もなさそうなあなたでは良くてターゲットの端にまぐれ当たりするぐらいでしょうに」
優介が射撃訓練に集中していた頃、セシリアはアリーナ中央で訓練を行っていた。セシリアは彼が射撃訓練を行っていたのは知ってはいたが、ついこの間まで一般人だった彼が、銃の携帯が許されていない日本で射撃訓練をした事はないだろうと考え、その実力は良くて初心者レベルだろうと考えていた。
そうと知らない優介は最初は代表候補生から見て自分の射撃精度はどの程度のものなのか聞き出そうとするつもりであったが、完全に先程の訓練風景を見た上でわざわざ馬鹿にしに来たと思い、溜まっていた彼女への鬱憤もあって、余計にイラついた。
(っけ、勝手に言ってろよ、このクソアマ……)
セシリアの言葉に応えるのも嫌になり、優介は彼女を無視して射撃訓練を始めた。
「ちょっと、聞いてますの? もう!」
射撃訓練を始めた優介の脇に移動して、無反応な彼へ抗議の声を上げるセシリアであったが、ターゲットを射抜き始めると甚だ憤慨とばかりに声を上げる。そして、邪魔になると思ったのか後ろに下がり、優介の射撃訓練を見始めた。
優介がセシリアに見られつつ射撃訓練を開始してから10分前後が経過。
(っしゃおら!!)
訓練が終わり優介は先程よりも良い数字がたたき出せた事に満足し、どうだと言わんばかりにセシリアがいるであろう後方へ振り向き見る。優介の期待通りセシリアは驚きに目を見開きながら顔が引きつらせている。
「どうですか、自分の腕前は?」
(スッゲー顔wwwwww)
平然とした顔でセシリアに感想を求める優介であったが、内面では見たこともない彼女のひきつった顔を笑ってストレスを発散する。セシリアはそんな優介の心の中を知ってか知らずか、顔を引きつらせたまま顔を赤くしている。
「ぜ、前言撤回しますわ。なかなかやりますわね」
「え、あ、ありがとうございます……」
(あれ? 怒鳴らないのか?)
顔を赤くしたまま口を開いたものだから、てっきり再び自分へ怒鳴ってストレスを発散するかと身構えた優介であったが、彼女の口から出てきたのは素直な賞賛の声で困惑する。昨日、自分へ散々当たり散らしたセシリアがなぜかと。
「ですが、今の好成績は地上、二次元での事!いわば、児戯で良い点を得たのと同じ!自慢するには早いですわ!」
(あ、好成績なんだ、ちょっと嬉しい。けどムカつくな)
怒らないセシリアに困惑し、何か悪いものでも食べて脳の構造が変化したのかと非現実的な原因を考えていた優介に、セシリアが熱の篭った弁舌で子供でも負け惜しみだと解るようなセリフを言う。優介は好成績だと言われたことに若干喜び、自分の射撃訓練が児戯だと言われた事に若干の苛立ちを覚えた。好成績だと言われた喜びよりも、後から言われた児戯と言われたことに対する不快さから文句を言おうとした優介であったが、また余計な事を言ってまるで一夏のようにトラブルを招くのは愚かだと静かに深呼吸をして心を落ち着かせた。
(なんだか最近短気だな、俺……)
打てば響く鐘の様にすぐさま不満や侮辱に対して苛立ちを起こしやすくなったのはきっと一夏のせいだと考えるも、それは責任転嫁に過ぎないと、俯いてうじうじと自己嫌悪をしていると、やけにセシリアが静かだと気が付く。
どこかに行ったのかと、一分の期待を胸に顔を上げて彼女がいた方を見ると、残念ながらそこには、まだ彼女がいた。顎に指を当てて何かを考えながらコンソールを操作していた。そのコンソール画面がアリーナ管理システムへのアクセス画面だと優介が気が付くと同時にセシリアが「これでいいですわ」と呟き、コンソールを後ろに隠しつつ優介へ目を向けた。優介が目が合い反射的に目を背ける。
「本当の、本物のISでの射撃訓練とはこれですわ!!」
そう言って、高く手を挙げて指を鳴らす。それに合わせて後ろ手で自身の体の後ろに隠したコンソールを操作すると、優介がアリーナへ要請したホログラムのターゲットなどの射撃訓練設備は消えてアリーナ上空に新たなターゲットが出現した。
「……え、えっと、わ、わぁーすごいなぁ……」
「ふふん」
(間を空けすぎだよオルコット)
セシリアは決まったと言わんばかりにご満悦な表情で髪をかきあげる。様になっている見事なまでに彼女にふさわしい美しい仕草である。きっと彼女の中ではかっこよさ満点の演出をしたつもりなのだろう。けれど、優介は素直に感動することはできなかった。先ほどの負け惜しみから直ぐに今のような行動をセシリアがとっていたなら優介も素直に感嘆しただろうが、いかんせん間が空きすぎである。とりあえず彼女の期待したであろう言葉を述べると彼女はさらに機嫌を良くしたようで顔を微笑みからドヤ顔へと変えた。
「ISにおいての真の射撃訓練とはこれ!三次元射撃訓練ですわ!これをやってこ―」
「わかりました、やります」
優介は三次元での射撃訓練こそがISでの射撃訓練だと言うのは納得したので、セシリアが長々と説明と彼への嫌味を言う前にさっさと始めてしまえと彼女の言葉を遮り、彼女の返答を待たずに現れた射撃訓練設備のスタート位置に飛ぶ。
「…………」
「あ、えっと、その、すみません」
そして、きっと用意していたセリフを言えなくなった為にセシリアが拗ねたのを見て、その表情を結構可愛いと思いつつ、空気を読まなかったことに罪悪感を覚えて優介は謝った。
(まだ命中率は良いようですが、何時までもつか……)
セシリアは頭上で自分が用意した三次元射撃訓練で優介が四苦八苦しつつターゲットを射るのを眺めていた。
体をなまらせないようにISの訓練にアリーナへ来ると、クラス代表決めで戦うことになった対戦相手の一人である優介が学園の練習機であるラファール・リヴァイヴに搭乗し彼女に先んじて訓練をしていた。射撃訓練をしようとしていたのか、アサルトライフルを構えている優介にセシリアは彼が努力しているのを知って少し嬉しく思った。父親と重ね合わせた彼が努力をしているならば、自分の父も母に釣り合うために努力していたのではないかと、優介の努力する姿が父の母に対する愛の証明になると思い。
しかし、セシリアはすべての物事を楽観的に見るほど子供ではない。
自分の父と優介は同じではない。彼が努力しているからといって父が愛を持って母の為に努力していたとはならない。それに優介の訓練は彼の周りへのアピールかもしれないと思ったのである。そう思うとセシリアは腹が立った。それは訓練が優介の努力をしていると言うアピール、建前上努力をしていると周りに見せるための物であったとすれば、優介は本気でISについて学ぶ気はないということになり、ひいては父が母の為に努力をしていなかったという証明になるような気がしたからである。
(そんなのは断じて許せませんわ!)
関係はないと分かりつつも亡き母が望んでいた父の愛も検証するつもりで、真意を探るために優介の元へ歩いて行った。セシリアが話しかけると彼はまるでセシリアの父親を連想させるように萎縮した。その姿に苛立ち、結局体面だけ取り繕うだけの情けない男だと感じ、辛辣な言葉を浴びせてその場を後にしようとした。
「違うっての……」
その時、立ち去ろうとするセシリアの耳に今までの声音とは違う優介の声が届いた。
「負けない為のれ、練習なんですが……」
また、自身の努力をアピールするのかと怒りがこみ上げてきたセシリアであったが、優介の目が途中俯くまでの間までまっすぐこちらを見据えていた時、その目が嘘を言っているようには見えなかった。
(もしかして、本当に努力を……いえ、そんな……)
セシリアはなんの努力もせずに入学した男である彼がそんなことをする筈がないと考えつつも、彼が本当に努力しようとここに来たのでないかと考えた。貶しているのか、応援しているのか分からない言葉を彼へ贈り、訓練をするために離れたが、訓練中もそのことを考えてしまいどうにも集中できなかった。とりあえず最低限のをやり、気分転換と自分の中で渦巻く考えを解消できればと思い射撃訓練をする彼のもとへ降り立った。
それから、彼の実力を知り、彼への対抗心からその結果にいちゃもんをつけて、自分の作った特別射撃訓練メニューをやる様に仕向けて、今に至る。
(本当に頑張ってますわね……)
姿勢制御と移動がうまくいかず、おかしな動きで四苦八苦しつつも360°にランダムに出現するターゲットに対処する優介の姿をセシリアは滑稽だと思いつつ、彼の真剣さを感じていた。そして、その真剣さに昨日の優介に行なった仕打ちを思い出す。
(ちょっと……いろいろ言いすぎましたわね。謝るべきなんでしょうね……けど……)
昨日は勝手な理由で彼にあたってしまった。これは謝らなくてはダメだとセシリアが反省するが、父親と同じ情けないところやISを操縦できるという理由だけで入学したことがどうにも許せず、彼に行った身勝手な悪しき行いを謝りたいと思う一方、あんな男なんかに謝ってはいけないと思う気持ちが葛藤する。
「うわ、う、うわ!ちょ、どいて!」
「……へ?」
謝るべきか、謝らないべきか思い悩むセシリアの耳に優介の叫び声が近づいてくる。はっとして彼女が見ると機体制御に失敗したのか、自分の方に吹っ飛んでくる彼がいた。
セシリアは咄嗟に右に避けようとするが、優介も避けようとしたのであろう。同時に同じ方向に移動する。このままではぶつかると再び左に移動するが、同じことを考えたらしく優介も同じ方向に移動。再び回避行動を取る時間はなく、セシリアと優介はぶつかり、衝突したビリヤードのように弾けて地上へ墜落した。
「ご、ごめんなさい!せ、制御がきかなくなったんです!本当にごめんなさい!」
「制御がきかなくなったって、あの程度の射撃訓練でどんな無茶な動かし方してますの!!」
セシリアは先程までの葛藤を忘れ、起き上がると直ぐに優介のもとに詰め寄った。二人は地面に追突したものの、ISに備わっている搭乗者防護機能のおかげで無事であったが、一つ間違えば大怪我につながっていたと説教を土下座で謝る優介にし始める。そして、なぜ制御ができなくなったのか問い詰め、思い当たる節が多すぎて混乱する優介からラファールの活動記録を見せるように怒鳴り、それを見るとセシリアはさらに怒鳴った。
「なんですの、この動きは?!なんでここで加速しますの?!」
セオリーを無視した無茶苦茶な動き。三次元での射撃訓練を初めてするド素人の動きだと、叱責する。
「す、すみません……」
「……まぁ、三次元射撃をさせたのは私ですから……責任は私にもありますわ……」
ひとしきり怒鳴った後、冷静になったセシリアは若干涙ぐんだような声で土下座したまま謝り続ける優介を見て情けないと思った。彼の情けなさはもはや見るに耐えず、何も言わずにこのまま放っておいて帰ってしまおうかと考えたが、三次元射撃訓練をするように彼に言ったのは、ほかならぬ自分。責任の一端は自分にもあると罪悪感を感じたセシリアはその事を優介に伝えると少し躊躇して小さく「申し訳ありませんでしたわ」と呟く。
「……いいですこと、三次元射撃では―」
そのまま涙をこらえているものの未だに土下座したままの優介に顔を上げさせて、罪悪感からの罪滅しなのか、同情からの施しなのか、セシリア自身わからないまま、優介に三次元射撃においてのコツを教え始める。
(なんで私はこんなことを……)
なぜ、自分はこんな情けない男に敵に塩を送るような真似をしているのか。自分の理想に近い一夏ならばまだしも、理想とかけ離れている優介へなぜ教えているのか。セシリアはそんなことを自問自答しつつ、優介をそれから16時のアリーナ使用終了時間が差し迫るまで指導した。
その甲斐あってか、優介は三次元射撃でしっかりと姿勢制御をできるようになり、移動も効率よくできるようになった。射撃精度と命中率も地上での射撃と遜色ないほどになった。理由もわからずに教えたセシリアであったが、彼が自分のおかげでここまで良い結果を残せたと思うと、例え優介が自分の理想とはイギリスとハワイほどかけ離れた存在であったとしても嬉しく感じていた。そして、この短時間にそれらをこなした優介に対して驚きつつ賞賛の念を感じた。
「あ、あのう……」
「なんですの?」
「あ、ありがとうございました」
「こ、言葉だけは受け取っておきますわ」
優介からの感謝されたことに、素直に嬉しく感じてはいたものの、情けない優介の所為で訓練時間がすっかりなくなってしまったので少々ぶっきらぼうに答える。
「も、もしよかったら……練習がかぶった時だけでいいので……いろいろ教えてくれませんか?」
嫌いな、理想とは程遠い、情けない優介からの要望。普段の自分ならば間髪入れずに断るだろうとセシリアは思ったが、なぜだかその言葉に理由もなく、気分が高揚した。
「ま、まあ、あなただけでは危なっかしいですし、それに私はあなたよりも格上の代表候補生ですしね……暇なときでしたら、やってあげないこともないですわよ」
そして、気が付いた時には了承していた。セシリアの了承の言葉に不安で染まっていた優介の顔が一気に明るくなる。
「あ、ありがとうございます!」
「お、男であるあなたに言われても全然嬉しくないですわ!!」
深々とお辞儀し、本当に嬉しそうな声で感謝の意を伝える彼に文句を言いつつも、彼女は満更でもない表情で立ち去る。
その心に父親や優介たちに対する怒りはなく、ただただ優介に言われた感謝の言葉を嬉しく思っていた。
まるで、セシリアの母が父を初めて好意を抱いた日と同じように。
なんだか、しばらく書いてなかった為でしょうか。文章が安定しません。こんな駄文になってしまい申し訳ありません。
どうか、どうか、平に、平にご容赦を。