異世界料理人   作:孤独なバカ

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メッセを送って来た人に王宮サイドの話を見たいと言う人がいたので急遽書きました
メッセは基本返答は書きませんが閑話など要望などが会った場合はなるべく受ける方向で。
それと大晦日はバイトが忙しく書く暇がないので明日は出せないと思います


閑話1 その頃王宮にて

私は目を逸らし続けていた。

 

隼人、ハジメ、優花が奈落に落ちてから五日が過ぎた。

クラスメイトはもちろんのこと、王都内でも多くの人が悲しみに包まれた。

特に隼人の死。

それはクラスメイトたちだけではなく王都内のギルド、商人、町人にもたった二週間で多くの物を残していたらしい。

隼人は商人や料理人に地球の食生活や料理についての技術を教えていた。

携帯食料や非常食が発達し雫に作ってくれたうどんも研究の一つだったのだろう。乾麺や錬成師と協力して缶詰が店頭に並んでいるらしい。今や隼人の死は冒険者や医療関係者から多く悲しまれて惜しまれていた。また地球の家庭でも作れるレシピを本にしてまとめていたらしく。主婦や多くの人に今も大事に読まれていた。

一度教会は無能扱いをした。しかし町人や冒険者は隼人が残したものを知っていたので猛反発を食らったのだ。おかげで今や教会でも力を持った愛ちゃんのおかげで王宮に残る選択をした生徒達の帰還を願うように調べ始めたのだった。

 

「あなたは私たちにどれだけの物を残してくれたの。」

 

愛ちゃんの言葉は光輝や檜山を除いてのクラスメイトの総意に違いなかった。

 

遺言書。

隼人はしっかりクラスメイト全員に向けての遺言書をリリィに渡していたらしい。

もちろんハジメや優花にも書いていたのだがそれは読まれることはないだろう。

 

日本語で書かれた手紙には教会が怪しいことや様々な思い出について書かれていた。一人数十ページにも及ぶ言葉に全員が一言一言噛みしめるように。涙を流しながら読み進めた。

その中でも一番反響が大きかったのは最後の一節だろう

 

『俺の家族に『家族でいられて幸せだったと。』俺以外の全員が生きて帰って告げてくれると俺の死も報われます。ありがとうございました。みんなは生きて帰れるように祈っています。みんなの好きだったレシピを添えて最後の手紙とします。』

 

その一言でクラスメイトの多くが息を飲んだ。いや目が覚めたといってもいいだろう。

今まではトータスの住民を救うために戦っていたのだが。隼人の目的は帰還であったことを伝えていたのだ。

それは多くのクラスメイトにも伝わり、今や自分たちが帰ることに力を入れ始めた。

 

二人の少女以外は

二人の少女は未だに奈落の底に落ちた二人の少年の死を受け入れてなかったのだ。

一人目は白崎香織だ。

あれから一週間一度も目覚めてはいない。

どうやら命に別状はないが眠り続けているらしい。

だが彼女は眠り続けているだけまだマシだっただろう。

もう一人の少女は未だ死を受け入れてはなかった

 

それは雫だった。

 

「須藤くん。」

 

その名を口にしただけで胸が痛く、雫は涙が溢れてくる。

雫は迷宮から帰った後、一度も部屋から出てはいない。

食欲はなく、光輝たちが会おうとしても一言で追い返すほどふさぎ込んでいた。

 

私たちが戦争に参加するって言わなければ。

私が光輝に賛同しなければもしかしたら三人は生きていたのかもしれない

須藤くんは生きていたのかもしれない

自分を責めずっと苦しみ続けている雫は暗闇の中で今日も初恋の少年の姿を想っていた。

 

「……なんでよ。なんで死んじゃうのよ。」

 

今となっては遅すぎる。どれだけ後悔しても仕切れない。

須藤くんの言葉でどれだけ救われていたのか

初めて自覚したこの気持ちを言葉に出すのだったら

 

「私は須藤くんのことが好き。」

 

認めるのも、声に出すのも遅かった。雫の手にはたった一枚のクシャクシャになった手紙。

認めたくない、

須藤くんが死んだなんて認めたくない。

 

「会いたいよ、須藤くん」

 

声が漏れる。

一人の少女のつぶやきはどこかに消えていった。

今日も返答がないまま時はすぎていく。

 

 

ちょうどそのころ香織の部屋には鈴と恵里が訪れていた。

クラスが今機能しているのはしっかり者の恵里とムードメイカーである鈴、バランスが取れている二人が指示を出しているからであり、それはまさにリーダーと呼べる才能の一つだ。

 

「香織大丈夫かなぁ。」

「大丈夫だよ。シズシズもカオリンもまた前みたいに笑える日がくるよ。」

 

と鈴が笑っている。しかし恵里は知っていた。鈴が無茶をしていることを

その原因はすぐに思い当たった

 

須藤隼人。

 

私たちの恩人でもあり、未だ諦めきれない初恋の相手だった。

恵里が初めて隼人と会ったのはとある橋の下だった。

その当時恵里は両親からのDV被害にあっていて自殺をしようとしていたのだ。

しかし偶然仕入れで通りすがった隼人に見つかり、料理を頂き、いつの間にか高校からであるが隼人の家で住み込みで働くことになったのだ。恵里自身にすらなんでそうなったのか今でも分からない。ただ隼人も隼人の家族も誰もがお人好しであることは間違いない。一度壊れていた恵里が完全に修復されるほどには。

恵里はその当時、隼人の両親と隼人の妹に会っていて、隼人の妹が原因で隼人の優しさが生まれているんだと思っていた。

隼人の妹はアルビノ個体で髪も肌も色白であることからイジメられていたことを隼人から聞かせてもらったことがあった。

アルビノは先天性の症状で、色素が少ないか全く無いことにより肌の色や髪の毛が白く、瞳の色がグレーやモスグリーンなどになる。他にも視力が弱い、まぶしい、紫外線に弱いなどの症状がある。また、水平眼振といって眼球が揺れてしまう症状が出る人もいるのだが、隼人の妹の美穂もその典型的な例に当てはまっていた。視力は弱くいつもはメガネをかけていて普段は学校にもいけないらしい。過度なイジメにより自殺未遂をした時に足が動かなくなってしまったとのことだった。

だから普段は隼人が車椅子で行きたいところに連れていったり、優花の店で一緒にご飯を食べているとのことだった。

……そしてその時から恵里は一人ではなくなった。

美穂は恵里のことをお姉ちゃんと呼び、恵里とどこかに出かけることが多くなった。もちろんそこには鈴や隼人、時々ハジメや優花がいることもあった。隼人のおかげで私には大事な家族と友達。そして鈴という親友ができたのだ。

恵里や鈴が「私」っていうようになったのもこのころでありそして恋心を覚えたのは丁度このころだった。

 

「あなたは私たちにどれだけの物を置いていったんだろうね。」

 

恵里は小さな声で呟く。

鈴も誰のことを言っているのか分かったらしく苦笑している

 

「須藤くんはこうなることが最初からわかっていたんじゃないかな。だから逃げる先を、二週間の間に作ってくれたんだよ。」

 

鈴はトータスに来てから。いや元々下品なおっさんを仕込ませているのもあるが鈴もリーダーとしての適正はかなり高い方だ。物分かりがよく、観察眼も鋭い。でも理解しあえる者が少なかったと隼人は愛ちゃんに告げていた。

 

「自分に素直にならないと本当の幸せは掴めないぞ。」

 

隼人の言葉が今でも脳裏に焼き付いている

 鈴の両親は根っからの仕事人間だった。幼い頃から鈴は、雇われのお手伝いさんに育てられていたようなものだ。

 それなりに裕福な家ではあったが、お手伝いさんが帰ってしまえば鈴は広い家にポツンと一人取り残されることが常だった。幼子が長い時間一人でいれば、性格的に暗くなるのは必然。保育園や小学校低学年の頃は友達もあまりいない根暗な子供だった。

 別に、両親に愛されていなかったわけではない。与えられるものはどれも吟味されたものだったし、夜帰って来たときこっそり鈴の様子を見に来て頭を撫でてくれたことを鈴は知っている。

 でも、幼い鈴には、それでは全然足りなくて……だから、拗ねた気持ちで、たまに会えた両親に対しても素っ気ない、可愛げもない態度をとってしまったりしていた。そんな鈴が、今の天真爛漫の体現者のような在り方になったのは、ひとえにお手伝いさんの影響だ。雇われて数年が経ち、塞ぎ込んでいく幼い鈴を見かねた恰幅のいいお手伝いのおばさんは、鈴に一つアドバイスをした。

 それは、〝取り敢えず、笑っとけ〟という何とも適当さ溢れるアドバイスだった。それで周りは変わるから、と。今も、鈴の家に通ってくれている鈴にとってはもう一人の母にも等しいお手伝いさんの言葉だ。当時の鈴はわけがわからないまでも、それで寂しくなくなるならと実践した。

 まず、両親に対して素直に喜びをあらわにしてみた。にっこり笑って、飛び跳ねて、頭を撫でられたり、プレゼントをもらった時に全力で嬉しさを表現した。本当は、まだ心にわだかまる気持ちはあったのだが、それを押し込めて接してみたのだ。すると、両親の顔は鈴の記憶にある限り見たことも無いほどデレ~と、だらしのないものになった。

 相変わらず仕事が忙しいのは変わらなかったが、それでも両親が自分を見る度に幸せそうに微笑む姿を見ることが出来るようになった。それは、鈴自身も幸せになるような笑顔だった。

 次に、学校でもよく笑うようにした。本当は楽しいことなんて特に何もなかったけれど、それでも常にニコニコと笑顔を浮かべるようにした。

 すると、いつの間にか鈴の周囲には常に誰かがいるようになった。その誰かは、みんな笑顔で楽しそうに鈴に話しかけるのだ。それを見ていると、今までの学校生活が嘘のように楽しいものに変わった。それで鈴はわかったのだ。たとえ辛くとも悲しくとも、笑顔でいれば釣られて笑顔は増えていく。そうすれば、もう一人にならなくて済むのだと。

 それからというもの、鈴は二度と一人にならない為にどんな時でも笑顔を絶やさないようにした。そう、どんな時でも、鈴の笑顔は常に本心からのものではなかった。むしろ、半分くらいは演技の笑顔だった。長年の在り方が、本心からの笑顔と演技のそれを区別させないほど同じものとしていたのだ。

しかし隼人は接客業のプロだ。それくらいの笑顔をすぐに演技だと気づくのは容易いことだった。

しかし、隼人は鈴の本心を聞き出すのにかなり苦労した。いろんなところに連れまわされたり、どこかに連れていったり、でもめげずに隼人は鈴の本音を自分の弱さをさらけ出すグループを作ったのだ。

恵里、隼人、鈴、ハジメ。

トップカーストとは言えないけどおとなしく優しいグループとしていつも一緒にいて、今までのどのグループよりも居心地がよかった。鈴が自分の本音を恵里の過去を受け入れた場所として隼人という存在はとてもありがたかったのだ。

 

「……本当にどれだけの物を置いていったんだろうね。」

「そうだね。今度会った時は私や鈴、雫をこんな思いをさせたんだからちゃんと責任をとってもらわないとね。」

 

二人はおそらく三人が死んではいないと未だに信じていた。隼人は元々切れ者で頭が回るしハジメは錬成師で逃げ場を作ることができることを二人は分かっている。

そして、隼人の好きな人も薄々気づいている。それが奈落に落ちた優花だとも。

だから隼人の特別になれる確率はかなり低い。だって逃げ切れるはずの隼人が優花の元に残るくらいだったからだ。だから恵里の誘いに鈴は乗ってしまった。もしかしたらみんなに軽蔑されるかもしれない。今までの関係や立場を捨ててしまわないといけない。倫理的にはかなり歪んでいることなのに。鈴と恵里はそれでもいいと思っている。だって隼人の側にいたいから。

ハジメのこともそうだ。ハジメも隼人が連れてきたとはいえ、二人にとっては本性や自分の過去を受け入れてくれた大事な友達なのだ。ハジメは思っていたよりも友達が恵まれていることを自分では気づいていない。でも鈴も恵里も諦める気はさらさらなかった。でも二人では力不足であることには違いはない。迷宮攻略をするとしたら強力な仲間が必要だったのだ。

そして香織や雫もなんとかして二人を探す旅に誘いたかったのだ。

今の二人は鈴も恵里も見てはいられなかった。特に雫はそうだ。

部屋の中でずっと明かりもつけずずっと泣き続けている。

ずっと眠り続けている香織よりも見てはいられなかったのだ。

「お願い。神様がいるのならどうかこれ以上、私たちの優しい友達を傷つけないで下さい」と、誰ともなしに祈った。

 

その時、不意に、握り締めていた香織の手がピクッと動いた。

 

「!?香織!聞こえる!?香織!」

「かおりん?聞こえる?」

 

二人が必死に呼びかける。すると、閉じられた香織の目蓋がふるふると震え始めた。二人は更に呼びかけた。その声に反応してか香織の手がギュッと二人の手を握り返す。

そして、香織はゆっくりと目を覚ました。


「かおりん!」

「香織!」

「……鈴ちゃん?恵里ちゃん?」

 

 ベッドに身を乗り出し、目の端に涙を浮かべながら香織を見下ろす二人。 香織はしばらくボーと焦点の合わない瞳で周囲を見渡していたのだが、やがて頭が活動を始めたのか見下ろす二人に焦点を合わせ、名前を呼んだ。

 

「うん。かおりん、鈴だよ」

「大丈夫?違和感はない?」

「う、うん、平気だよ。ちょっと怠いけど……寝てたからだろうし……」

「そうね、もう五日も眠っていたのだからね」

 

そうやって体を起こそうとする香織を補助し二人はあの出来事を隠そうとしたのだが、

 

香織はそれに反応する。

「五日? そんなに……どうして……私、確か迷宮に行って……それで……」

 

 徐々に焦点が合わなくなっていく目を見て、マズイと感じた鈴が咄嗟に話を逸らそうとする。しかし、香織が記憶を取り戻す方が早かった。

 

「それで……あ…………………………南雲くんは?」

「ッ……それは」


苦しげな表情でどう伝えるべきか悩む鈴。そんな鈴の様子で自分の記憶にある悲劇が現実であったことを悟る。だが、そんな現実を容易に受け入れられるほど香織はできていない。


「……嘘だよ、ね。そうでしょ?鈴ちゃん。私が気絶した後、南雲くんも助かったんだよね? ね、ね? そうでしょ?ここ、お城の部屋だよね? 皆で帰ってきたんだよね? 南雲くんは……訓練かな? 訓練所にいるよね?うん……私、ちょっと行ってくるね。南雲くんにお礼言わなきゃ……だから、離して?鈴ちゃん」

 

 現実逃避するように次から次へと言葉を紡ぎハジメを探しに行こうとする香織。そんな香織の腕を掴み離そうとしない。

恵里は悲痛な表情を浮かべながら、それでも決然と香織を見つめる。

「香織。わかっているよね?……ここに南雲くんはいない。」

「やめて……」

「香織の覚えている通りだよ。」

「やめてよ……」

「彼は、南雲君は……」

「いや、やめてよ……やめてったら!」

「香織!南雲くんは落ちたんだよ!」

「ちがう!死んでなんかない!絶対、そんなことない!どうして、そんな酷いこと言うの!いくら恵里ちゃんでも許さないよ!」

「死んでない!!」

 

恵里の大声に思わず香織は驚く。

おとなしい恵里が大声をあげてしまうという、今まで一度もなかったことに驚きを覚えていた

 

「聞いて。南雲くん以外に須藤くんと優花ちゃんも落ちたの。」

「えっ?」

 

その一言に香織が目の焦点が合わなくなる

 

「嘘だよね。」

「ううん。本当だよ。今須藤くんが残した遺言書をリリィから受けとっているところ。須藤くんはその他にも私たちが町人にも受け入れてもらえるようにあの二週間で多くのことを残していったの。」

「……そんな……っ雫ちゃんは!!」

 

香織が慌てたように悲痛な声をあげる

雫が隼人を好きなことは香織も見ていたからわかっていた。

雫は隼人からはしっかり者扱いされてはなく、どこか面白そうに弄っていたことが印象的だった。

可愛い物好きの雫にはかなり弱点が多いことを知っていて、そしてどこか雫の弱さについて初めて気づいた異性。

しっかりした雫が手のひらの上で転がされていることは小学生から見ていた香織にとっては新鮮だった。

それも雫はまんざらでもなさそうだったから何も言えなかった。

香織は一度隼人のことが嫌いになりかけたことがある。

それはどこか雫が隼人に構うことが多くなったことからの嫉妬だった。

思えば隼人のことを気に入らない光輝も、雫を取られたと勘違いしたのが気にくわない原因であるのだろう。

だけどたった一言で香織は認めなければいけなくなった

 

『皆に頼られて、八重樫が甘えられる場所はどこにあるんだろうな。』

 

衝撃だった。雫に頼って当然だった香織の頭を金槌で、いや大鎚で殴られたかのような衝撃だった。

これに関しては隼人にも同じことが言えることだったがそれでも雫にはずっと頼ったり甘えたりする人が誰もいなかった。それは香織も同じでいつも雫に頼っていた一人だ。しかし隼人は雫のことを甘えさせることを遠回しに言っていたのだ。トータスで隼人に甘えている雫を見て香織は隼人に任せてもいいと思ってしまうようになった。

多分雫ちゃんは須藤くんのことが好きになると思う

それを一度雫と隼人に言った時にお互いに鼻で笑われたが。それでも雫が隼人を意識し始めたことは香織は気づいていた。

 

「……雫は今部屋で一人で泣いているよ。あれから五日間ずっと。」

 

その一言で香織はすぐに立ち上がり急いで部屋を飛び出した。

 

「雫ちゃん。」

 

鈴も恵里も止めることはなかった。悔しいけど雫をなんとかできるのは、隼人と香織の二人だけだと気づいていたのだ。

 

「頑張って香織。」

「シズシズをよろしくね。」

 

と二人の親友の姿を祈り恵里と鈴は二人で香織の後を追うのだった。

 

 

 

「雫ちゃん。」

 

香織が雫の部屋をノックする。

 

「えっ?香織?」

 

起きていることを確認すると無理やり香織は雫の部屋に入っていった。

部屋は薄暗く、そして今まで待女が用意していたのだろう冷めた料理が置かれていたが、帰ってから一口も食べていないことはちょっと雫を見ただけの香織でも気づくほどだった。目は泣き続けていたために腫れ、少し痩せたのも気のせいじゃないだろう。

しかし開口一番に告げた言葉で雫は正気を取り戻した

 

「南雲くんと優花ちゃん。須藤くんを探しに行こう。」

 

その一言で雫はぎょっとしたように。そして驚く

 

「香織。須藤くんは。」

「奈落に落ちた。でしょ?」

「……えぇ。」

「雫ちゃん、でも私、信じないよ。南雲くんは生きてる。死んだなんて信じない。優花ちゃんも須藤くんも生きてる。」

「香織、それは……」

 

香織の言葉に再び悲痛そうな表情で諭そうとする雫。しかし、香織は両手で雫の両頬を包むと、微笑みながら言葉を紡ぐ。

 

「わかってる。あそこに落ちて生きていると思う方がおかしいって。……でもね、確認したわけじゃない。可能性は一パーセントより低いけど、確認していないならゼロじゃない。……私、信じたいの」

「香織……」

「私、もっと強くなるよ。それで、あんな状況でも今度は守れるくらい強くなって、自分の目で確かめる。南雲くんのこと。……雫ちゃん」

「なに?」

「力を貸してください」

「……」

 

 雫はじっと自分を見つめる香織に目を合わせ見つめ返した。香織の目には狂気や現実逃避の色は見えない。ただ純粋に己が納得するまで諦めないという意志が宿っている。こうなった香織はテコでも動かない。雫どころか香織の家族も手を焼く頑固者になるのだ。

 普通に考えれば、香織の言っている可能性などゼロパーセントであると切って捨てていい話だ。あの奈落に落ちて生存を信じるなど現実逃避と断じられるのが普通だ。

 おそらく、幼馴染である光輝や龍太郎も含めてほとんどの人間が香織の考えを正そうとするだろう。

でも雫にとっても唯一の希望だった

須藤くんが生きている。

その一言が雫に体温を元に戻すことに違いはなかった。

いや。縋ることしかできなかったのだろう。普通なら馬鹿馬鹿しいときって捨ててもおかしくないくらいだ。

しかしそれはわずかな希望として、隼人が死んだなんて思いたくもなかった雫は水を得た魚のように目に光を灯した

 

だからこそ……

 

「もちろんいいわよ。」

「雫ちゃん!」

 

 香織は雫に抱きつき「ありがとう!」と何度も礼をいう。そして雫も心の中で香織にお礼をいう

 

『ありがとう香織。今度見つけたら絶対に逃さないんだから。』

 

と確かに決意を胸に秘め。




変更場所

ほぼ全部

愛ちゃんとリリィはどっちのヒロインになるか

  • 両方ハジメ
  • 両方隼人
  • 隼人ヒロインに愛ちゃんだけ追加
  • 隼人ヒロインにリリィだけ追加
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