異世界料理人   作:孤独なバカ

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閑話 過去を超える戦い

隼人達がユエに初めて出会った日のこと

 

光輝達勇者一行は、再び【オルクス大迷宮】にやって来ていた。但し、訪れているのは光輝達勇者パーティーと、それに永山重吾という大柄な柔道部の男子生徒が率いる男女五人のパーティーだけだった。

理由は簡単だ。話題には出さなくとも、ハジメの死が、多くの生徒達の心に深く重い影を落としてしまったのである。〝戦いの果ての死〟というものを強く実感させられてしまい、まともに戦闘などできなくなったのだ。一種のトラウマというやつである。

しかし帰ることを諦めてない生徒はずっと書物庫に篭っているのだが。

 当然、聖教教会関係者はいい顔をしなかった。実戦を繰り返し、時が経てばまた戦えるだろうと、毎日のようにやんわり復帰を促してくる。

 しかし、それに猛然と抗議した者がいた。愛子先生だ。

 愛子は、当時、遠征には参加していなかった。作農師という特殊かつ激レアな天職のため、実戦訓練するよりも、教会側としては農地開拓の方に力を入れて欲しかったのである。愛子がいれば、糧食問題は解決してしまう可能性が限りなく高いからだ。まぁ隼人の派生技能に魔物を食べられるようにする派生技能があることは知ることもないとは思うのだが。

そんな愛子はハジメ達の死亡を知るとショックのあまり寝込んでしまった。自分が安全圏でのんびりしている間に、生徒が死んでしまったという事実に、全員を日本に連れ帰ることができなくなったということに、責任感の強い愛子は強いショックを受けたのだ。

しかしリリアーナから隼人の遺言書を渡されたことにより一転した。隼人は本当に信用できる二人に絞って隼人の遺言状にこの世界の考察と今後の展望を書いていたのだ。

 愛子の天職は、この世界の食料関係を一変させる可能性がある激レアである。その愛子先生が、不退転の意志で生徒達への戦闘訓練の強制に抗議しているのだ。関係の悪化を避けたい教会側は、愛子の抗議を受け入れた。

これは雫宛の遺書にも書いてあったのだが、それでも涙で全て消えてしまって見えなくなったのは仕方がないだろう。

その雫のポニーテールには小さなダイアモンドみたいな滴形の鉱石がついたヘアゴムがついていた。

これは読めなかった遺言状の中に入っていたヘアゴムでリリィ曰くグランツ鉱石ほどではないが婚約指輪でよく使われるベール鉱石と呼ばれる鉱石だった。

戦闘の効果も何もない鉱石であったがそれでも隼人が誰よりも女の子っぽい雫に向けてのプレゼントなのだが。それを見て雫が号泣したことにクラスメイトは驚いていた。

また、雫は光輝からも少し距離を取るようになっていた。雫もそれだけの余裕がなかったのだ。

雫の弱さが露見し、誰のことを想っているのかが明らかになったせいで檜山は追い詰められざるを得なかった。あの日、王都に戻ってしばらく経ち、生徒達にも落ち着きが戻ってきた頃、案の定、あの窮地を招いた檜山には厳しい批難が待っていた。

 

 檜山は当然予想していたので、ただひたすら土下座で謝罪するに徹した。こういう時、反論することが下策以外のなにものでもないと知っていたからだ。特に、謝罪するタイミングと場所は重要だ。

 檜山の狙いは光輝の目の前での土下座である。光輝なら確実に謝罪する自分を許しクラスメイトを執り成してくれると予想していたのである。

しかし

 

「ふざけないで。」

 

と香織の言葉で斬られたのだ。香織だって責任を感じていたのだ。あの時、私がグランツ鉱石を綺麗って言わなかったら。浮かれてなかったら。三人は奈落に落ちなかったのかもしれない。雫ちゃんを悲しませちゃったのは私だ。須藤くんがやっていたように、今度は私が雫ちゃんを支えるんだと。香織は前みたいにポアポアした幼稚さが少なくなった。大人びて物事を最初に考えるようになったせいで檜山の魂胆に気づいたのだ。

そしてそのことをクラスメイト全員のいるところで話したので檜山の糾弾はもはや止められる者がいなくなった。王宮が王都から永久に追放せざるを得なかったのである。まぁ路銀をかなり持たされたのでしばらくは生きていられるとは思うが。

ついでに檜山パーティーの小悪党組は檜山を失ったせいかやけにおとなしくなったのは言うまでもないが。

 

今日で迷宮攻略六日目。

現在の階層は六十層だ。確認されている最高到達階数まで後五層である。

しかし、光輝達は現在、立ち往生していた。正確には先へ行けないのではなく、何時かの悪夢を思い出して思わず立ち止まってしまったのだ。

そう、彼等の目の前には何時かのものとは異なるが同じような断崖絶壁が広がっていたのである。次の階層へ行くには崖にかかった吊り橋を進まなければならない。それ自体は問題ないが、やはり思い出してしまうのだろう。特に、雫は、奈落へと続いているかのような崖下の闇をジッと見つめたまま動かなかった。どこか体も震えているように見える。

雫は前よりも感情を表に出すようになった。優しい雫は相変わらず健在だったしオカン体質だって変わっていない。しかし恐怖に関しては人一倍敏感になっていたのだ。その姿はいつしかナイトというよりも本当のお姫様のように見え同性でさえ見とれてしまうような可憐な姿だった。

 

「大丈夫だよ雫ちゃん!!」

「香織。」

「南雲くんも優花ちゃんも隼人くんも生きているから。だから一緒に迎えにいくんだよね。」

 

また気を使わせたかしら。と雫は少し弱々しい笑みを浮かべる。香織と雫の本質が明らかになっていた。

三人はとあることがきっかけで奈落に落ちた後生きていることがほぼ確定になっていた。

それは優花のアーティファクトだ。優花のアーティファクトは投げた後に手元に戻ってくるナイフなのだが、

 

遺品だと思われていたナイフの片方が消えていたのだ。

 

どれだけ探しても見つからない。じつはこれは隼人が優花にすぐにアーティファクトを回収させなかったことが功を奏していた。生きていることを知らせるために隼人はわずかな希望に掛けたのだ。隼人の賭けが成功して、香織が精神的に持ち直したのはこれが一番の原因だった。だからそれならと特訓に力を入れなおしたのは言うまでもないのだが。

 

須藤くん。帰ってきて雫ちゃんをもらってくれなかったら絶対許さないよ。

と少し病んでいたのに鈴は胃痛を覚えていたのだが。

しかし、そんな励ましを無下にする輩がいた。それは当然まだ生存の可能性を信じているなどと露ほどにも思っていない光輝だ。

 

「雫……君の優しいところ俺は好きだ。でも、クラスメイトの死に、何時までも囚われていちゃいけない! 前へ進むんだ。きっと、南雲も園部もそれを望んでる」

「っ!」

「ちょっと、光輝くん……」

「香織は黙っていてくれ! 例え厳しくても、幼馴染である俺が言わないといけないんだ。……雫、大丈夫だ。俺が傍にいる。俺は死んだりしない。もう誰も死なせはしない。雫を」

 

悲しませないと言おうとした時だった。パチンと音がする。雫が光輝の頰を叩いたのだ。

 

「良い加減にしてよ!!そんなことは私が一番わかってるわよ!!」

 

心からの叫びに雫は崩れ落ちる。

分かってはいるのだ。ただ信じたくない。須藤くんが死んだなんて信じたくない。

それが涙になって溢れてくる。

 

「雫ちゃん。」

 

本当は迷宮内で油断するべきではないことは知っている。それでも香織は抱きつかないといられなかった。

それはとても弱く儚い少女の夢。

生きている可能性は明らかに低い。それでも光輝は一番言ってはいけないことを言ったのだ。

雫も香織も、鈴も恵里も

好きな人が生きていると信じて迷宮潜っているのだ。

 

「ごめん。光輝くん。シズシズから離れて。」

「えっ?」

「大丈夫だよ。雫。絶対須藤くんは生きているから。」

「……光輝。さすがに今のはないぞ。」

 

鈍感な龍太郎ですら薄々気づいているのだ。雫が誰を想っているかだなんて。

龍太郎は隼人のことをかなり好意的に思っている分もあってそれに異論はない。そして光輝も雫が誰を想っているのか気づいているのだろう。でも光輝は隼人のことを認めたくはなかったのだ。

何故ならば隼人はクラスの中では光輝以上の人気者であり、そして唯一の思い通りにならない人物だったからだ。隼人は意志を曲げないいわゆる愛ちゃんと同じタイプの人間だ。自分の意見を持ちそれを貫く。そして周りの意見を聞きながらより良いクラスに成長していく。それで隼人はクラスの中心にたっていたのだ。

雫も最初にいた鈴も、そして香織や龍太郎も。全てが隼人に取られたみたいで。自分が隼人に劣っていることを認めるのが嫌だったのだ。

それを無自覚でやっている隼人にも責任がないとはいえないのだが……

光輝はつい歯噛みをしてしまう。全てはあいつのせいでと恨みを募らせていく。

 

ギスギスした雰囲気が蔓延しているが一行は特に問題もなく、遂に歴代最高到達階層である六十五層にたどり着いた。

 

「気を引き締めろ! ここのマップは不完全だ。何が起こるかわからんからな!」

 

 付き添いのメルド団長の声が響く。光輝達は表情を引き締め未知の領域に足を踏み入れた。

 

 しばらく進んでいると、大きな広間に出た。何となく嫌な予感がする一同。

 

 その予感は的中した。広間に侵入すると同時に、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がったのだ。赤黒い脈動する直径十メートル程の魔法陣。それは、とても見覚えのある魔法陣だった。

 

「ま、まさか……アイツなのか!?」

 

 光輝が額に冷や汗を浮かべながら叫ぶ。他のメンバーの表情にも緊張の色がはっきりと浮かんでいた。

 

「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」

 

 龍太郎も驚愕をあらわにして叫ぶ。それに応えたのは、険しい表情をしながらも冷静な声音のメルド団長だ。

 

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ! 退路の確保を忘れるな!」

 

 いざと言う時、確実に逃げられるように、まず退路の確保を優先する指示を出すメルド団長。それに部下が即座に従う。だが、光輝がそれに不満そうに言葉を返した。

 

「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ! もう負けはしない! 必ず勝ってみせます!」

「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ!」

 

 龍太郎も不敵な笑みを浮かべて呼応する。メルド団長はやれやれと肩を竦め、確かに今の光輝達の実力なら大丈夫だろうと、同じく不敵な笑みを浮かべた。

そして、遂に魔法陣が爆発したように輝き、かつての悪夢が再び光輝達の前に現れた。

 

「グゥガァアアア!!!」

 

 咆哮を上げ、地を踏み鳴らす異形。ベヒモスが光輝達を壮絶な殺意を宿らせた眼光で睨む。

雫はただ少し前のことを思い出していた。

須藤くんは誰よりも意志が強かった。この世界にきてからも決して弱いところを見せず、私のことを。クラスメイトのことを守ってくれた。

でも私は何もできなかった。

正攻法で倒すことなんてできないってそんなことは私だって分かっていた。ベヒモスに立ち向かうときも内心敵わないと思っていた

須藤くんは。いえ隼人達は逃げなかった

 

「……。」

「雫ちゃん?」

 

怖い。それは当たり前。昔とは違う 甘えられる友達が今の私にはすぐそばにいる

雫は周りを見る。すぐ近くに香織が、心配そうに私を見ている

そうだ。……私には

すると雫の体から力が湧き出してくる。体が軽く今までの苦しみが消えていったように感じた

 

「…そうよね。逃げてばかりじゃいられないわ。」

 

そう呟くと剣を構える雫。

 

「……今度はあなたの隣に歩けるように。」

「もう誰も奪わせない。あなたを踏み越えて」

 

「「私は彼のもとに行く。」」

 

決意を決め過去を乗り越えらえる戦いが今始まった。

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