「だぁー、ちくしょぉおおー!」
「……ハジメ、ファイト……」
「ユエはお気楽ね。」
「魔法特化が三人いてなんで押し負けるんだよぉ!!」
猛然と草むらの中を逃走していた。周りは百六十センチメートル以上ある雑草が生い茂りハジメの肩付近まで隠してしまっている。ユエなら完全に姿が見えなくなっているだろう。
そんな生い茂る雑草を鬱陶しそうに払い除けながら、俺たちが逃走している理由は、
「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」
二百体近い魔物に追われているからである。
ハジメ達が準備を終えて迷宮攻略に動き出したあと、十階層ほどは順調に降りることが出来た。ハジメの装備や技量が充実し、かつ熟練してきたからというのもあるが、ユエの魔法が凄まじい活躍を見せたというのも大きな要因だ。
全属性の魔法をなんでもござれとノータイムで使用し的確にハジメと俺を援護する。
ただ、回復系や結界系の魔法はあまり得意ではないらしい。〝自動再生〟があるからか無意識に不要と判断しているのかもしれない。もっとも、俺たちには神水と俺の回復魔法があるのでなんの問題もなかったが。
「邪魔。」
俺はまた花が生えたモンスターを、魔法で葬る。
最近またレベルが上がっているので最早人間というのもバカらしくなってきた。
そして近頃ストレスを抱えることが多い。というのも
「あ~、ユエ? 張り切るのはいいんだけど……最近、俺、あまり動いてない気がするんだが……」
ユエは振り返ってハジメを見ると、無表情ながらどこか得意げな顔をする。
「……私、役に立つ。……パートナーだから」
どうやら、ただハジメの援護だけしているのが我慢ならなかったらしい。
確か、少し前に一蓮托生のパートナーなのだから頼りにしているみたいな事を言ったような、と、ハジメは首を傾げる。
その時は、ユエが、魔力枯渇するまで魔法を使い戦闘中にブッ倒れてちょっとした窮地に陥ってしまい、何とか脱した後、その事をひどく気にするので慰める意味で言ったのだが……思いのほか深く心に残ったようである。パートナーとして役立つところを見せたいのだろう。
「はは、いや、もう十分に役立ってるって。ユエは魔法が強力な分、接近戦は苦手なんだから後衛を頼むよ。前衛は俺の役目だ」
「……ハジメ……ん」
「あの、いちゃつくのやめてくれませんかね?気が抜けるんだよ!!」
「……」
このバカップルである。ハジメに大事なものができたのはいいんだけど、戦闘中にも関わらずいちゃつくのは勘弁してほしい。
そうして、生い茂った木の枝を払い除け飛び出した先には、体長二メートル強の爬虫類、例えるならラプトル系の恐竜のような魔物がいた。
頭からチューリップのような花をひらひらと咲かせて。
「……かわいい」
「……流行りなのか?」
「そんなわけないでしょ」
「……」
ユエが思わずほっこりしながら呟けば、ハジメはシリアスブレイカーな魔物にジト目を向け、有り得ない推測を呟く。
ラプトルは、ティラノと同じく、「花なんて知らんわ!」というかのように殺気を撒き散らしながら低く唸っている。臨戦態勢だ。花はゆらゆら、ふりふりしているが……
「シャァァアア!!」
ラプトルが、花に注目して立ち尽くすハジメ達に飛びかかる。その強靭な脚には二十センチメートルはありそうなカギ爪が付いており、ギラリと凶悪な光を放っていた。
俺たちは回避するとハジメは 〝空力〟を使って三角飛びの要領でラプトルの頭上を取った。そして、試しにと頭のチューリップを撃ち抜いてみた。
ドパンッという発砲音と同時にチューリップの花が四散する。
ラプトルは一瞬ビクンと痙攣したかと思うと、着地を失敗してもんどり打ちながら地面を転がり、樹にぶつかって動きを止めた。シーンと静寂が辺りを包む。ユエもトコトコとハジメの傍に寄ってきてラプトルと四散して地面に散らばるチューリップの花びらを交互に見やった。
「……死んだ?」
「いや、生きてるっぽいけど……」
ハジメの見立て通り、ピクピクと痙攣した後、ラプトルはムクッと起き上がり辺りを見渡し始めた。そして、地面に落ちているチューリップを見つけるとノッシノッシと歩み寄り親の敵と言わんばかりに踏みつけ始めた。
「え~、何その反応、どういうこと?」
「……イタズラされた?」
「いや、そんな背中に張り紙つけて騒ぐ小学生じゃねぇんだから……」
「やっぱ弱いな。」
「?どういうこと隼人。」
「いや、やっぱり迷宮の敵にしたら弱すぎると思わないか?」
俺の声にハッとする二人
「多分寄生だな。本株があるはずなんだけど。」
「それなら本株があるはずよね。」
「サクッと殺るか。」
と冒頭に戻るんだが
ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
と、地響きを立てながら迫っている。背の高い草むらに隠れながらラプトルが併走し四方八方から飛びかかってくる。それを迎撃しつつ、探索の結果一番怪しいと考えられた場所に向かいひたすら駆けるハジメ。ユエも魔法を撃ち込み致命的な包囲をさせまいとする。
カプッ、チュー
俺が睨んだのは樹海を抜けた先、今通っている草むらの向こう側にみえる迷宮の壁、その中央付近にある縦割れの洞窟らしき場所だ。
なぜ、その場所に目星をつけたのかというと、襲い来る魔物の動きに一定の習性があったからだ。ハジメ達が迎撃しながら進んでいると、ある方向に逃走しようとした時だけやたら動きが激しくなるのだ。まるで、その方向には行かせまいとするかのように。このまま当てもなく探し続けても魔物が増え続けるだけなのでイチかバチかその方向に突貫してみることにしたというわけである。
どうやら、草むらに隠れながらというのは既に失敗しているので、俺たちは〝空力〟で跳躍し、〝縮地〟で更に加速する。
「ユエさん!? さっきからちょくちょく吸うの止めてくれませんかね!?」
「……不可抗力」
「嘘だ! ほとんど消耗してないだろ!」
「……ヤツの花が……私にも……くっ」
「何わざとらしく呻いてんだよ、ヤツのせいにするなバカヤロー。ていうか余裕だな、おい」
「……ねぇ。これ、私たちの隣でずっと続くの?」
「白崎にずっと聞かされていたハジメトークとどっちが辛いんだろうか」
力が抜けるんだが。こんな状況にもかかわらず、ハジメの血に夢中のユエ。元王族なだけあって肝の据わりかたは半端ではないらしい。そんな風に戯れながらもきっちり迎撃し、隼人達は二百体以上の魔物を引き連れたまま縦割れに飛び込んだ。
縦割れの洞窟は大の大人が二人並べば窮屈さを感じる狭さだ。ティラノは当然通れず、ラプトルでも一体ずつしか侵入できない。何とかハジメ達を引き裂こうと侵入してきたラプトルの一体がカギ爪を伸ばすが、その前にハジメのドンナーが火を噴き吹き飛ばした。そして、すかさず錬成し割れ目を塞ぐ。
「ふぅ~、これで取り敢えず大丈夫だろう」
「……お疲れさま」
「そう思うなら、そろそろ降りてくれねぇ?」
「……むぅ……仕方ない」
ハジメの言葉に渋々、ほんと~に渋々といった様子でハジメの背から降りるユエ。余程、ハジメの背中は居心地がいいらしい。
「さて、あいつらやたら必死だったからな、ここでビンゴだろ。油断するなよ?」
「ん」
「……はぁ。コーヒーブレイクしたいなぁ。」
「コーヒー豆みたいな植物なかったの?」
甘ったるくて仕方がない
しばらく歩くと気配感知に反応がある
全方位から緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛んできたのだ。ハジメとユエ、俺と優花は一瞬で背中合わせになり、飛来する緑の球を迎撃する。
「ユエ、おそらく本体の攻撃だ。どこにいるかわかるか?」
「……」
「ユエ?」
しかし、ハジメの質問にユエは答えない。訝しみ、ユエの名を呼ぶハジメだが、その返答は……
「……にげて……みんな!」
いつの間にかユエの手がハジメに向いていた。ユエの手に風が集束する。本能が激しく警鐘を鳴らし、ハジメは、その場を全力で飛び退いた。刹那、ハジメのいた場所を強力な風の刃が通り過ぎ、背後の石壁を綺麗に両断する。
「ユエ!?」
まさかの攻撃にハジメは驚愕の声を上げるが、ユエの頭の上にあるものを見て事態を理解する。そう、ユエの頭の上にも花が咲いていたのだ。それも、ユエに合わせたのか? と疑いたくなるぐらいよく似合う真っ赤な薔薇が。
「くそっ、さっきの緑玉か!?」
自身の迂闊さに自分を殴りたくなる衝動をこらえ、ユエの風の刃を回避し続ける。
「ハジメ……うぅ……」
ユエが無表情を崩し悲痛な表情をする。ラプトルの花を撃ったとき、ラプトルは花を憎々しげに踏みつけていた。あれはつまり、花をつけられ操られている時も意識はあるということだろう。体の自由だけを奪われるようだ。
だが、それなら解放の仕方も既に知っている。ハジメはユエの花に照準し引き金を引こうとした。
しかし、操っている者もハジメが花を撃ち落としたことやハジメの飛び道具を知っているようで、そう簡単にはいかなかった。
ユエを操り、花を庇うような動きをし出したのだ。上下の運動を多用しており、外せばユエの顔面を吹き飛ばしてしまうだろう。ならばと、接近し切り落とそうとすると、突然ユエが片方の手を自分の頭に当てるという行動に出た。
「……やってくれるじゃねぇか……」
つまり、ハジメが接近すればユエ自身を自らの魔法の的にすると警告しているのだろう。
そう魔法であれば
すると俺が放った炎を纏ったナイフと優花が放った氷を纏ったナイフが同時に操っている魔物に直撃する。
俺が投擲専用にしているナイフは解体専用のナイフや料理用のナイフではなく戦闘用に改良されたものである。
俺は調理器具を基本は戦闘に使わない。
本当に命に関わることなら使用も仕方なしなのだが命を頂くものである包丁を殺人や魔物を殺すことに使うのにためらいがあるのだ。だからそれをメルド団長にも伝えて妥協してもらうことを取り付けたのだ。
そしてその隙は大きな穴になる
「明鏡止水。」
俺が唱えると遠距離からラプトルだけを狙い炎が舞上がる。
これは俺が漫画で好きだった某ジャンプの漫画の主人公の技である。
盃はないが魔力が尽きるまで燃え続ける炎は植物性の魔物じゃ耐え切ることなく力尽きてしまう
「……こんな魔法見たことない。」
「まぁオリジナルだからな。」
「……隼人って本当に料理人?」
「料理はもっとチートじみているけどな。っていうよりも最初のナイフは?」
「私たちの投擲術の派生に必中があるのよ。的外れのところに投げても目的のものに当たるのよ。」
こういう頭を使った戦い方をできるのが優花の強みだ。優花と俺の連携はすでに声をかけなくても分かる。
無理やりゴリ押するのではなく、左右からの攻撃で絶対に回避ができないように複数の魔法を展開する。その隙に大型の魔法を打ち込んだのだ。
俺らはもうほぼ脳筋になってきているしな
「さて終盤だ気張っていくぞ。」
「おう。」
「えぇ。」
「…頑張る。」
と俺の声に全員が頷く。なおこの層ではまた香草と香辛料のほかに砂糖と地球ではオリーブに当たるセイラの実が大量に取れたので優花の機嫌がかなりよかったのはいうまでもなかった。
オリジナル魔法。明鏡止水
ぬらりひょん○孫をみていた隼人が真似た魔法。魔力が燃料なので、対象相手の魔力がなくならない限り燃え続ける。火の単体魔法と思われがちだが透明な炎を纏った水魔法で作った花びらを散らせるため火魔法と水魔法の混合魔法である。
なお、隼人曰く漫画やアニメなども魔法のパクリはイメージがしやすいためオリジナル魔法にしやすいことなのでこの○ばのエクスプロージョンはすでに習得している