異世界料理人   作:孤独なバカ

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雫に負けない少女たち

オルクスの大迷宮から帰還して三日後、帝国の使者がやって来る中で二人だけが別行動をしていた。

 

「……えっと、お二人は参加しなくてもよろしいのでしょうか?」

「リリィ。一応私たちが君を攫ったことになっているんだよ。」

「そうそう。シズシズには悪いけど私たちだって優花っちに負けられないんだから。」

 

と王都にお忍びで出てきているのは鈴と恵里、そしてリリアーナ姫の三名である。

この三人はこっそりと王都の冒険者ギルドに登録していることもあって休暇の時はパーティーを組むことが多かった。

それは鈴とリリアーナの天職が同じ鈴の特訓であるからだ。

 

あれから王都はかなり教会への不信感が増していた。

いわゆる反教会派が街中の勢力として現れたのだ。

その中心にいるのがまさかのリリアーナ姫である。

 

リリアーナ自身この世界の異常さについて気づかせられた一人だ。

隼人はリリアーナにとっての初恋相手に似たものであった。

隼人はリリアーナをお姫様として扱っていたわけではない。雑で時々ツッコミを入れたり逆に突っ込みを入れられたり、少し女子っぽくない扱いをしていたのも確かだ。

でも隼人の料理をする場所に付き添い、様々な文化を作りあげていったのは事実だった。

王国では小麦はパンを中心としたものが多かったが、麺料理という新たな食文化が入ったことにより大きく王都が賑わった。

何故ならばそのボリュームだろう。

パスタやうどん、ラーメンは一皿で炭水化物が多くとれ、さらに食べやすさで有名な食料だ、

作るのに手間はかかるが麺を専門に作ったり、麺を作る魔道具をハジメが制作していた。

食事を作る魔道具を考案したのである。

大量生産はこの世界では難しい、

特にこの世界は魔法と魔道具に頼っているので尚更だった。

科学が発達していないこの世界はほとんどの品が手作りである、機械という概念がない以上は大量生産はかなり難しいのである。

 

アーティファクトに頼る時代から魔道具を作る世界に

 

それが隼人がリリアーナに面白そうに話した事だった。

人は考えそして何かを発明する。

アーティファクトだけではなくちゃんとした技術と経験を武器に。王都では既にその考えが浸透している。

その一つに缶詰がある。

 

隼人は蓋を締めるだけの道具をハジメと一緒に作りそれを商人に提供。

これがどれだけの利益になるのかは予想もしていないことだった。

たった一手間考えればそれは大きな発明になることをリリアーナは知ったのだ。

そして今王都は今まで以上に賑わっている。

自分の意思で。そして自分の正しいことを信じて。

 

「……また会えるのが楽しみです。」

 

少し頰を赤くしてリリアーナも訓練に励む。

気持ちに気づくのはもう少しかかりそうだが。

 

 

そして同時刻。

王宮では勇者対帝国使者の護衛という模擬戦の開催がされようとしていた。

帝国は光輝を人間族のリーダーとして認めさせることは簡単だが、完全実力主義の帝国を早々に本心から認めさせるには、実際戦ってもらうのが手っ取り早いと判断したのだ。

光輝の対戦相手は、なんとも平凡そうな男だった。高すぎず低すぎない身長、特徴という特徴がなく、人ごみに紛れたらすぐ見失ってしまいそうな平凡な顔。一見すると全く強そうに見えない。

 刃引きした大型の剣をだらんと無造作にぶら下げており。構えらしい構えもとっていなかった。

しかし雫は光輝では敵わないということを気づいていた。

恐らくステータス上では光輝の方が上であろう。しかし、最初の構え。あれは誘うための構えだと。

隙だらけに見えてすぐに剣を振り上げられる位置に接している。そして剣士ならわかる実力の判断。恐らくメルド団長と同じ、もしくはそれ以上の実力。

 

光輝では敵わない。

 

それを一瞬で見抜いたのだ。そしてすぐにそれが正しかったことに気づく。

 

「ガフッ!?」

 

〝縮地〟により高速で踏み込むと豪風を伴って唐竹に剣を振り下ろした光輝だったが護衛の方は剣を掲げるように振り抜いたまま光輝を睥睨している。光輝が寸止めのため一瞬、力を抜いた刹那にだらんと無造作に下げられていた剣が跳ね上がり光輝を吹き飛ばした。

そしてその後も何度も繰り返し迫るが届かない。

それもそのはず護衛の男は実際に殺す気で迫っていた。

模擬戦であるが自分の攻撃に対応できないくらいなら、本当の意味で殺し合いを知らない少年に人間族のリーダーを任せる気など毛頭なかった。例えそれで聖教教会からどのような咎めが来ようとも、戦場で無能な味方を放置する方がずっと耐え難い。それならいっそと、そう考えたのだ。

しかし、そうはならなかった。

ズドンッ!

 

「ガァ!?」

 

 限界突破を光輝が使って護衛が吹き飛んだからだ。護衛が、地面を数度バウンドし両手も使いながら勢いを殺して光輝を見る。光輝は全身から純白のオーラを吹き出しながら、護衛に向かって剣を振り抜いた姿で立っていた。

そんな光輝の様子を見て、護衛はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「ハッ、少しはマシな顔するようになったじゃねぇか。さっきまでのビビリ顔より、よほどいいぞ!」

「ビビリ顔? 今の方が恐怖を感じてます。……さっき俺を殺す気ではありませんでしたか? これは模擬戦ですよ?」

「だからなんだ? まさか適当に戦って、はい終わりとでもなると思ったか? この程度で死ぬならそれまでだったってことだろ。お前は、俺達人間の上に立って率いるんだぞ? その自覚があんのかよ?」

「自覚って……俺はもちろん人々を救って……」

「傷つけることも、傷つくことも恐れているガキに何ができる? 剣に殺気一つ込められない奴がご大層なこと言ってんじゃねぇよ。おら、しっかり構えな? 最初に言ったろ? 気抜いてっと……死ぬってな!」

 

護衛が再び尋常でない殺気を放ちながら光輝に迫ろう脚に力を溜める。光輝は苦しそうに表情を歪めた。

しかし、護衛が実際に踏み込むことはなかった。なぜなら、護衛と光輝の間に光の障壁がそそり立ったからだ。

 

「それくらいにしましょうか。これ以上は、模擬戦ではなく殺し合いになってしまいますのでな。……ガハルド殿もお戯れが過ぎますぞ?」

「……チッ、バレていたか。相変わらず食えない爺さんだ」

 

イシュタルが発動した光り輝く障壁でガハルド殿と呼ばれた護衛が、周囲に聞こえないくらいの声量で悪態をつく。そして、興が削がれたように肩を竦め剣を納めると、右の耳にしていたイヤリングを取った。

その姿を見た瞬間、周囲が一斉に喧騒に包まれた。

 

「ガ、ガハルド殿!?」

「皇帝陛下!?」


実はヘルシャー帝国現皇帝ガハルド・D・ヘルシャーその人である。まさかの事態にエリヒド陛下が眉間を揉みほぐしながら尋ねた。

 

「どういうおつもりですかな、ガハルド殿」

「これは、これはエリヒド殿。ろくな挨拶もせず済まなかった。ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。今後の戦争に関わる重要なことだ。無礼は許して頂きたい」

 

 謝罪すると言いながら、全く反省の色がないガハルド皇帝。それに溜息を吐きながら「もう良い」とかぶりを振るエリヒド陛下。光輝達は完全に置いてきぼりだ。なんでも、この皇帝陛下、フットワークが物凄く軽いらしく、このようなサプライズは日常茶飯事なのだとか。

なし崩しで模擬戦も終わってしまい、その後に予定されていた晩餐で帝国からも勇者を認めるとの言質をとることができ、一応、今回の訪問の目的は達成されたようだ。

しかし裏ではこんなことが話されていた

 

「ありゃ、ダメだな。ただの子供だ。理想とか正義とかそういう類のものを何の疑いもなく信じている口だ。なまじ実力とカリスマがあるからタチが悪い。自分の理想で周りを殺すタイプだな。〝神の使徒〟である以上蔑ろにはできねぇ。取り敢えず合わせて上手くやるしかねぇだろう」

「それで、あわよくば試合で殺すつもりだったのですか?」

「あぁ? 違ぇよ。少しは腑抜けた精神を叩き治せるかと思っただけだ。あのままやっても教皇が邪魔して絶対殺れなかっただろうよ。しかし本当に見たい奴は見られなかったな。」

「……隼人殿のことでしょうか?」

「あぁ、あとは南雲ハジメだな。街中が今まで以上に賑わっている。街の人間に聞くとどうやら二人が開発した道具が町民に知れ渡っているらしい。麺製造機を見たがありゃたった一週間で作れる品物じゃねーぞ。王宮の錬成師が10人集まって二ヶ月以上かかる品物だ。できればスカウトしたかったんだが。」

「……難しそうですね。」

 

と護衛とガハルドたちの意識は奈落におちた二人に目を注がれていたことは光輝たち知る由もない。

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