「戻ってきたぞ、この野郎ぉおおおおおおおおおおおッ!!」
「んっーーーーーーー!!」
「……眩しいわね。やっぱり。」
「やっと本物の太陽だな。」
ハジメとユエは当然の流れのようにそのまま抱きしめ合い、くるくると廻り始める。
俺と優花も少し頰を緩ませ嬉しさを噛み締めながら軽くハイタッチをするほどだった、
優花は少し目に涙をこぼしていたのだが。
ようやく全員の喜びが収まった頃には、すっかり……魔物に囲まれていた。
「はぁ~、全く無粋なヤツらだな。……確かここって魔法使えないんだっけ?」
「あ〜。こりゃ俺も結構辛い。上級魔法でも簡易の詠唱がないと分解されちまうかも。」
「それじゃあ私たちがやるわよ。」
「いや。詠唱込みなら初球魔法ならなんとか使えるな。100発くらいしか打てないけど。」
「十分だろ。隼人はそれで」
「私も力ずくでいく。」
ライセン大峡谷で魔法が使えない理由は、発動した魔法に込められた魔力が分解され散らされてしまうからである。もちろん、ユエの魔法も例外ではない。しかし、ユエはかつての吸血姫であり、内包魔力は相当なものであるうえ今は外付け魔力タンクである魔晶石シリーズを所持している。
つまり、ユエ曰く、分解される前に大威力を持って殲滅すればよいということらしい
「力づくって……効率は?」
「……十倍くらい」
「それきついだろ。適材適所。隼人もやっぱりいいわ。」
「あいよ。まぁ近くにある石でも投げておくか。」
「ん……わかった」
ユエが渋々といった感じで引き下がる。せっかく地上に出たのに最初の戦いで戦力外とは納得し難いのだろう、少し矜持が傷ついたようで唇を尖らせて拗ねている。
そんなユエの様子に苦笑いをしながらハジメと優花はおもむろにドンナーを発砲した。相手の方を見もせずにごくごく自然な動作でスっと銃口を魔物の一体に向けると、これまた自然に引き金を引いたのだ。
あまりに自然すぎて攻撃をされると気がつけなかったようで、取り囲んでいた魔物の一体が何の抵抗もできずにその頭部を爆散させ死に至った。辺りに銃声の余韻だけが残り、魔物達は何が起こったのかわからないというように凍り付いている。確かに十倍近い魔力を使えばここでも〝纏雷〟は使えるようだ、問題なくハジメはレールガンを発射できた。
俺も適当に石を投げていくがなんというか石でも一撃で死んでいくのだ、
そして全てが終わるまで5分もかからなかった。
ドンナー・シュラークを太もものホルスターにしまったハジメは、首を僅かに傾げながら周囲の死体の山を見やる。
その傍に、トコトコとユエが寄って来た。
「……どうしたの?」
「いや、あまりにあっけなかったんでな……ライセン大峡谷の魔物といやぁ相当凶悪って話だったから、もしや別の場所かと思って」
「……ハジメが化物」
「ひでぇいい様だな。まぁ、奈落の魔物が強すぎたってことでいいか」
「当たり前でしょ。ヒュドラだっけ?ヒュドラも隼人のご飯がなければ多分倒せてないわよ。」
「あんなの正攻法でどうやったら倒せるのか解放者に聞いてみたかったな。」
みんなが確かにと頷く。
「さて、この絶壁、登ろうと思えば登れるだろうが……どうする? ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると考えられている場所だ。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか?」
「……なぜ、樹海側?」
「いや、峡谷抜けて、いきなり砂漠横断とか嫌だからね。」
「樹海側なら町も近そうだしな、それに樹海にも大迷宮があるからな」
「……確かに」
俺とハジメは、右手の中指にはまっている〝宝物庫〟に魔力を注ぎ、魔力駆動二輪を取り出す。
それに跨ると後ろに優花が乗り俺の腰にしがみ付く
地球のガソリンタイプと違って燃焼を利用しているわけではなく、魔力の直接操作によって直接車輪関係の機構を動かしているので、駆動音は電気自動車のように静かである。ハジメとしてはエンジン音がある方がロマンがあると思ったのだが、エンジン構造などごく単純な仕組みしか知らないので再現できなかった。ちなみに速度調整は魔力量次第である。まぁ、ただでさえ、ライセン大峡谷では魔力効率が最悪に悪いので、俺以外はあまり長時間は使えないだろうが。
ライセン大峡谷は基本的に東西に真っ直ぐ伸びた断崖だ。そのため脇道などはほとんどなく道なりに進めば迷うことなく樹海に到着する。迷う心配が無いので、迷宮への入口らしき場所がないか注意しつつ、軽快に魔力駆動二輪を走らせていく。車体底部の錬成機構が谷底の悪路を整地しながら進むので実に快適だ。
もっとも、その間もハジメと優花の手だけは忙しなく動き続け、一発も外すことなく襲い来る魔物の群れを蹴散らしているのだが。
しばらく魔力駆動二輪を走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。中々の威圧である。少なくとも今まで相対した谷底の魔物とは一線を画すようだ。もう三十秒もしない内に会敵するだろう。
魔力駆動二輪を走らせ突き出した崖を回り込むとその向こう側に大型の魔物が現れた。かつて見たティラノモドキに似ているが頭が二つある、双頭のティラノサウルスモドキだ。
だが真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女だろう。
「……何だあれ?」
「……兎人族?」
「なんでこんなとこに? 兎人族って谷底が住処なのか?」
「……聞いたことない」
「じゃあ、あれか? 犯罪者として落とされたとか? 処刑の方法としてあったよな?」
「いや……兎人族は確かよっぽどのことがない限り仲間を見捨てない義理堅い種族だぞ?」
「それじゃあ何かあって迫ってきたのが妥当ね。」
「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」
滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。そのすぐ後ろには双頭ティラノが迫っていて今にもウサミミ少女に食らいつこうとしていた。このままでは、隼人達の下にたどり着く前にウサミミ少女は喰われてしまうだろう。
しょうがないなぁ。と思いつつも初級の火魔法の火球を二つ放つ。魔力効率について調べてみたかったのでちょうどよかった。
確かに魔力効率を考えないとすぐに分解されるな。こりゃ。
魔力が抜ける速度が速すぎる。魔力効率を研究して消費魔力をかなり減らしているはずなのに並みの人間の中級魔法並みに魔力が抜かれたぞ。
と思いつつ仕方がないなぁとハジメ達はこっちを見る。まぁ助けたことには理由があるのだが、それは置いておこう。
「へ?」
「大丈夫か?」
俺達がバイクを止めると
「えっ?ダイヘドアは?」
「ん。」
俺が指を指す先には既にご臨終になっている魔物の姿があった。
「死んでます。…そんなダイへドアが一撃なんて。」
正確には二発なんだが、まぁそれはおいておいて。
呆然としたままダイヘドアの死骸を見つめ硬直しているウサミミ少女だが、助かったことに気づいて座り込んでしまう。そしてすぐに立ち上がり
「ありがどうございまず!!」
「お、おい。」
うさ耳少女は俺に抱きついてくる。ぐずぐずと泣きながら大きな泣き声や涙と鼻水で全てが台無しなのだがそれだけ不安だったのだろう。
俺は困ったようにして優花の方を見る、撫でてやりたいのだが一応彼女持ちって立場なので少しどうしようか迷ってしまう。
すると気にしないでと首を横に振る優花に小さくありがとうと呟くとそしてうさ耳少女の頭を撫でる。
ステータスを鑑定で覗き見たんだが色々突っ込みたいところがあったので生かしていたんだが、なんというか残念な妹が俺にもいるので何だか既視感を感じてしまう。
そして数十分後泣き終える
「先程は助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです! 取り敢えず私の仲間も助けてください!」
としがみついて離れないウサミミ少女を横目に見る。そして、奈落から脱出して早々に舞い込んだ面倒事に深い溜息を吐くのだった。
原作との変更点
シアを隼人が助けた