異世界料理人   作:孤独なバカ

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須藤隼人

ライセン大峡谷に悲鳴と怒号が木霊する。

 ウサミミを生やした人影が岩陰に逃げ込み必死に体を縮めている。あちこちの岩陰からウサミミだけがちょこんと見えており、数からすると二十人ちょっと。見えない部分も合わせれば四十人といったところか。

 そんな怯える兎人族を上空から睥睨しているのは、奈落の底でも滅多に見なかった飛行型の魔物だ。姿は俗に言うワイバーンというやつが一番近いだろう。体長は三~五メートル程で、鋭い爪と牙、モーニングスターのように先端が膨らみ刺がついている長い尻尾を持っている。

 

「みんな~、助けを呼んできましたよぉ~!」

「よっと。優花運転頼む。」

「えぇ。分かったわ。」

 

と俺はイーグレットを取り出し狙いを定める。

これは俺が真面目に頼んだ武器であり、名前も自分でつけたので大丈夫なはずだ。

いわゆる射程距離と狙いやすさ、軽さと手軽さに優れたスナイパーライフルであり、およそ10kmが射程範囲に入る。

 

ダキュ〜ン

 

魔力ではなく弾丸を飛ばしハイベリアの脳天に着弾。確実に殺していく。

スナイパーライフルは明らかに神眼と相性が良く、命を的確に潰していく。

ハジメも同じようにドンナーで殺していき物の数分で全てのハイベリアを殺したのであった。

 

「シア! 無事だったのか!」

「父様!」

 

 真っ先に声をかけてきたのは、濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性だった。はっきりいってウサミミのおっさんとか誰得である。シュールな光景に微妙な気分になっていると、その間に、シアと父様と呼ばれた兎人族は話が終わったようで、互の無事を喜んだ後、俺たちの方へ向き直った。

 

「えっと。どちら様ですか?」

「俺はハジメだ。」

 

とハジメを皮切りに俺たちは自己紹介をすませ、シアが理由を説明していく。

すると人間族が協力してくれると思ってもいなかったのか驚くが俺たちは関係なさげにしている

 

「えっとハジメ殿でよろしいか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」

 

そう言って、カムと名乗ったハウリア族の族長は深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。

 

「まぁ、礼は受け取っておく。だが、樹海の案内と引き換えなんだ。それは忘れるなよ? それより、随分あっさり信用するんだな。亜人は人間族にはいい感情を持っていないだろうに……」

 

シアの存在で忘れそうになるが、亜人族は被差別種族である。実際、峡谷に追い詰められたのも人間族のせいだ。にもかかわらず、同じ人間族であるハジメに頭を下げ、しかもハジメの助力を受け入れるという。それしか方法がないとは言え、あまりにあっさりしているというか、嫌悪感のようなものが全く見えないことに疑問を抱くハジメ。

 

 カムは、それに苦笑いで返した。

 

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」

 

 その言葉にハジメは感心半分呆れ半分だった。一人の女の子のために一族ごと故郷を出て行くくらいだから情の深い一族だとは思っていたが、初対面の人間族相手にあっさり信頼を向けるとは警戒心が薄すぎる。というか人がいいにも程があるというものだろう。

 

「えへへ、大丈夫ですよ、父様。皆さんは優しいですし、何よりも隼人さんがいますから。絶対に守ってくれます。」

「隼人殿?」

「ん?なんで俺?」

「だって隼人さんは優しいですし。何より私を守ってくれましたから。」

 

と隼人は首を傾げるが優花やハジメ、ユエでさえなぜか同じように頷いている。

恐らくクラスメイトや愛ちゃん、リリィがいても同じように頷くだろう。

学校での裏のあだ名は

『神様仏様隼人様』

と呼ばれていることが隼人のお人好しなのが目に見えている。

首を捻りながら何時までもグズグズしていては魔物が集まってきて面倒になるので、堪えて出発を促した

一行は、ライセン大峡谷の出口目指して歩を進めた

 

 

 

 数多の魔物が絶好の獲物だとこぞって襲ってくるのだが、ただの一匹もそれが成功したものはいなかった。例外なく、兎人族に触れることすら叶わず、接近した時点で閃光が飛び頭部を粉砕されるからである。

 乾いた破裂音と共に閃光が走り、気がつけばライセン大峡谷の凶悪な魔物が為すすべなく絶命していく光景に、兎人族達は唖然として、次いで、それを成し遂げている人物であるハジメに対して畏敬の念を向けていた。

 もっとも、小さな子供達は総じて、そのつぶらな瞳をキラキラさせて圧倒的な力を振るうハジメをヒーローだとでも言うように見つめている。

 

「ふふふ、隼人さん。チビッコ達が見つめていますよ~手でも振ってあげたらどうですか?」

「アホ。幾ら何でも気を抜きすぎだ。」

 

隼人は軽くであるがシアに向けてチョップをする

 

「いいか?一応ここはライセン大峡谷だ。俺たちは魔物に対応できるがお前らは対応できないだろう?お前らは気配感知能力に優れているだろうが。使えるもんを使わないと簡単に死ぬぞ。」

「……えっ。」

「私たちはそういう場所で戦ってきたから。隼人の目も気配感知で反応しない魔物にやられたのよ。」

 

俺は小さくため息を吐きシアに見えるくらいにだけ眼帯を取る。

 

「……義眼ですか?」

「そうだ。生憎神水で少しは治ったけど視力だけはどうやっても回復しなかった。それに少し不調和が生まれてな。だからハジメに頼んで作ってもらったんだ。あのままだったら俺は足を引っ張っていただろうしな。」

 

接近戦を戦わなければならない以上あれ以上片目が見えないことは致命的だったのだ。

 

「厳しいことをいうぞ。……兎人族が温厚で平和的な種族なのは分かっている。確かに平和的で優しいのは兎人族の長所だろう。でもな、お前らには悪いけどこの世界では亜人族の立場は弱い。森から出たら人間族や魔人族から襲われ、今や亜人族にさえ森を追い出されそうになっているんだぞ。お前らには逃げるしかなかったのか?戦うって選択肢がなかったのか?お前らは気配遮断や気配感知という武器を生かして戦うって選択肢はなかったのか?」

「それは。」

 

シアや他の兎人族が少し目を伏せる。争いは苦手。そんなことは承知の上だ。それでも自分なりの正義を、自分の大切な者を守るにはそれだけの力が必要なのだ。

 

「言っておくが、俺たちもつきっきりでずっとお前らの面倒をみられるわけではない。迷宮の攻略に向かうし、いつかはこの世界を離れる。……もしお前らが戦うって選択肢を持つっていうのなら。俺たちはそれだけの力を持たせる。お前らをせめて樹海で生き残れるだけの力を与えてやる。樹海に着くまでに考えろ。このままやられっぱなしで逃げるのか……それとも戦うのかを。」

 

ハジメもそれに続く。念話石で護衛をしながら話し合っていたことだった。

甘さや弱さを受け入れているからこそ弱者のままなのだ。

弱者のまま、それに目をそらしてきた。

でも現実を知らないといけない。

そうしながらも隼人たちは生き抜いてきたのだ。

裏切られても、腕を食われても。巻き添いにされても。化け物と言われても。

 

優しさとは残酷なことも多い。

自分が傷つくことも多いがそれでも真実を伝えることが優しさなんだと思っている。

それが本当に相手のことを想っているのであればの話だけれど。

 

そうこうしている内に、一行は遂にライセン大峡谷から脱出できる場所にたどり着いた。隼人が〝遠見〟で見る限り、中々に立派な階段がある。岸壁に沿って壁を削って作ったのであろう階段は、五十メートルほど進む度に反対側に折り返すタイプのようだ。階段のある岸壁の先には樹海も薄らと見える。ライセン大峡谷の出口から、徒歩で半日くらいの場所が樹海になっているようだ。

 

何となしに遠くを見ていると、シアが不安そうに話しかけてきた。

 

「帝国兵はまだいるでしょか?」

「ん?まぁいるだろうな。せっかくここまで追い詰めたのだろうし。」

「帝国兵がいたら……隼人さん……どうするのですか?」

「別に。今はお前らを助けることしか考えてねぇよ。それがどうした?」

 

俺は少し苦笑してしまう

 

「今まで倒した魔物と違って、相手は帝国兵……人間族です。隼人さんと同じ。……敵対できますか?」

「シア、お前、未来が見えていたんじゃないのか?」

「はい、見ました。帝国兵と相対するみなさんを……」

「だったら……何が疑問なんだ?」

「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと……」

「…はぁ。だから言ったろ。俺はお前らしか守ることしか考えてないってな。」

 

隼人はぶっきらぼうにいうとキョトンとするシアに向けて続ける

 

「一度交わした約束を裏切るほど俺らは腐っちゃいない。お前らが樹海に行って案内をするまではお前らの味方だ。安全の確保くらいはちゃんと責任を持ってやってやる。俺たちが言っているのはその後だ。その後も頼りきってずっと俺たちに甘えたままで暮らすのか?」

「そ、それは。」

「いいか?俺は助けると言ったら絶対にそいつらが裏切らない限りは助ける。元々俺は元の世界では料理人だ。こっちでの天職も料理人だしな。料理人でも商売でも一番大切なのは信用だ。客から信用される。地域から信頼される。だからこそ俺たちは売り物を売ることができるんだ。その信用を失うのは一瞬だ。どんだけ苦悩して積み上げてきた信用もほんの小さなことで崩れ落ちることなんて結構聞く話だしな。」

 

隼人も、ハジメも、優花も両親が企業者であり、分野は違えど第一線で即戦力として立っていた経験があるからこそ分かる。信用を得ることの難しさをよく知っていた。

 

「……ん。残念うさぎは私たちを信じておけばいい。」

「だから、樹海案内の仕事が終わるまでは守る。自分のためにな。それを邪魔するヤツは魔物だろうが人間族だろうが関係ない。道を阻むものは敵、敵は殺す。それだけのことだ」

「過激だとは思うけどそれでも私たちは約束を破る真似だけはしないから。」

 

 シアを含めた兎人族は気づき、そして自分を悔いた。

 本当にこの人たちは帝国や他の亜人族とは違い、自分たちを助けてくれるんだとはっきりと気づいたのだ。

 自分たちを助けてくれる人は人間族や魔人族はおろか亜人族にもいない。

 ただ住処のない絶好の獲物であることに少し警戒していたのだ。いくらシアが連れてきた人だから。自分が見た未来というものは絶対ではないから実際はどうなるか分からない。見えた未来の確度は高いが、万一、帝国側につかれたらひとたまりもないと。

 隼人と優花は信用できないと思われても不思議でもないと思っていた。シアの存在で忘れそうになるが、亜人族は被差別種族である。実際、峡谷に追い詰められたのも人間族のせいなのだ。なので簡単に信用できないだろうと。なので行動で信頼されるしかないと思っていたのだ。元々隼人と優花は面倒見がよく、集団でリーダー役をする機会が多い二人だ。

 

 その信用は二人の行動力からくるものだとハジメは気づいていた。

 クラスでもトップカーストグループにいるわけではないが、クラスの代表人物だったのだ。そして何よりもみんなのまとめ役や突っ込み。さらに話の引き立て役もでき、この二人主導で文化祭や体育際を盛り上げていた。

 ハジメはそんな二人を知っているからこそ今回の件は二人に任せようと思っていた。元々焦る旅ではない。ゆっくりと目の前にいる二人に協力しようと。

 本当に隼人たちがハウリア族のことを考えていることは念話石の会話から分かっていたことだった。他人のために一生懸命になれる。香織に言われたハジメの強さの一つでもあった。

 それに実はハジメは心から二人に感謝していたのだ。二人がいなければ自分は壊れていただろう。

 ハジメが片腕がなくなったのも実はハジメが罪悪感や好奇心からか持ち場から離れたせいでもあったのだ。これも銃があるからの油断だろう。自分のせいなのに。元々隼人が注意をしていたのに。自分の油断のせいで片手を失った。隼人たちは最初は自分を見捨てるだろうと思っていた。元々王宮で無能扱いされてきたハジメが片手を失ったのだ。隼人と優花が助かるには自分を見捨てた方が生き残れる可能性が高いと。もちろんハジメを隼人や優花が見捨てることはなかったのだが。

 元々銃というアイデアを考えたのも隼人だった。誰もがハジメをけなしていた時にハジメの実験のために数百万もの大金を稼いできてまでハジメの技能上げや参考になりそうな本を持ってきたりしてくれた。異世界にくる前も来てからも誰よりもハジメは隼人に感謝をしている。

 檜山が落としたと隼人から告げられた時に自分のせいで二人を奈落に巻き込んでしまったのにとふさぎ込んでしまったこともあった。それでも仲間だと、友達だと言ってくれる二人の存在はどれだけ感謝してもしきれなかった。一度二人についてユエに話したことがある。二人と会えて、二人が奈落で一緒にいてくれてよかったと。

なお、この話はどこぞの亜人族のインタビューでユエが口を滑らせてしまい全員に聞かれてしまったことで隼人も優花もハジメも全員が撃沈してしまうことになるのはそう遠くはない未来での話。

 

 話は逸れたが、一度引き受けてからは隼人は絶対に見捨てることはない。自分でできないと思ったら断ることもあるが、自分たちでできることはとことん引き受け面倒ごとに巻き込まれていく。ユエも優花もそれを気づいている。だけどそれでもいいと思えるのだ。二人も隼人に救われたことがあるからであり、その優しさは隼人の美点でもあることを二人は知っているからだ。

 だから自ら協力したくなる、そんな魅力が隼人にはあった。困ったら助けてくれる、隼人が困ったら自分を頼ってくれる。

光輝とは違う別のカリスマ性であり、隼人が自分で気づいていない人誑しの才能をとことん発揮していた。

 その間も隼人は階段を登って念話石で会話をしていた、もちろん話題はハウリア族を救う案についてだ。それも的を射た答えをしっかりと答え他人に意見を問おうとする、そこが光輝との大きな違いだろう。

 すると隼人の義眼が捉えた。

 

「やっぱり待ち伏せしているな、敵は30人くらいか?」

「30人ですか?」

「…ん。どうする?」

「俺とハジメで対応しようかな。まぁ話し合いになるとは思えないし基本的には殺す方向で。」

「了解。」

「えっ?私とユエは。」

「ユエはともかく優花は人殺しは無理だろ。自分でも気づいてないかもしれないけどお前軽く震えているぞ。無意識かもしれないが人殺しを怖がっているんだよ。」

 

 すると優花は目を伏せる。どうやら人を殺すことに恐怖を抱いていたことに自覚はあったようだ。

 シアやハウリア族は驚く。優花は今までそんな素振りを見せていなかったのだ。

 けれどシアとユエだけは気づいた。いつの間にか優花と隼人が手を繋いでいたことに。

 隼人は途中から優花の顔色が悪いことに気づき、ずっと安心させるために手を繋いでいたのだ。

 その行為にユエは半分呆れ半分羨ましいと思っていた。

 隼人の観察眼は異常と思うほどに鋭い。

 他の誰かが気づかないことでもすぐに気づきそしてすぐに解決策を用意する。現場でトラブルがあったさいすぐに決断する隼人は、異世界ですぐに行動を移せるほど急成長を遂げている。

 

「ユエにも言ったけど、適材適所だ。まぁ俺たちが人を殺すことになるのは変わりはないけど……。」

 

少し不安げになっていることを優花は気づき軽く俺の頭を叩く

 

「そんなことで嫌いになんてならないわよ、ハウリア族を助けるためでしょ……意味のない殺しをしたら怒るけど、それでも隼人を好きな気持ちは変わらないわ、変な方向に行ったらちゃんと方向修正させるから隼人はやりたいようにやっていいわよ」

 

ちょっと複雑だけどね。っと苦笑いしている。おそらく殺しについて優花は迷っているんだろう。

 

「……ん。あんがと。頼りにしてる。」

 

と少しだけ触れるだけのキスをする。ほんの一瞬だけだったがそれでも気持ちは伝わったらしく。優花も少し照れたようにしているが咎めるような真似はしなかった。

 

「あのお二人さん。私たちがいるの忘れてませんか?」

「「……」」

「こいつら俺らよりも世界に入ると周りが見えなくなるよな。」

「……バカップル。」

「「お前(あなた)たちには言われたくない(わよ)。」」

 

俺と優花は顔を真っ赤にして弁解をし始める。その間も二人の繋がれた手をどちらからも離そうとしはしなかった。




原作との変更点

1 ハウリア族に現実を突き詰める

イーグレット

隼人が考案した実弾のレンスナ
隼人の先読と狙撃能力がなければ通常の人では最初の的にすら当てられないほど扱いが難しく貫通性と連写性に特化している。射程は2キロ
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