樹海の中で人間族と亜人族が共に歩いている。
その有り得ない光景に、目の前の虎の亜人と思しき人物はカム達に裏切り者を見るような眼差しを向けた。その手には両刃の剣が抜身の状態で握られている。周囲にも数十人の亜人が殺気を滾らせながら包囲網を敷いているようだ。
「あ、あの私達は……」
カムが何とか誤魔化そうと額に冷汗を流しながら弁明を試みるが、その前に虎の亜人の視線がシアを捉え、その眼が大きく見開かれる。
「白い髪の兎人族…だと?……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め!長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは!反逆罪だ!もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員かッ!?」
「風球。」
虎の亜人が問答無用で攻撃命令を下そうとしたその瞬間、隼人が無詠唱で虎の亜人のリーダー格の男を吹き飛ばした。
「ガハッ。」
「それは宣戦布告か?」
威圧を使い俺は虎の亜人族を全員に強烈なプレッシャーを与える。
「言っとくけどお前ら程度数秒あれば殺せる。俺たちは魔物を食って魔力操作が出来るからな。無詠唱で魔法を唱えることが出来るしそれじゃなくてもアーティファクトを多く所持している。」
「……っ!」
「殺るというのなら容赦はしない。約束が果たされるまで、こいつらの命は俺たちが保障しているからな……ただの一人でも生き残れるなどと思うなよ」
俺の忠告に全員が黙りこんでしまう。泡を吹いて気絶する亜人族もいたことからそれが本当のことだと理解したのだろう。
「いいか?引くなら今のうちだ。蹂躙されるか家に帰るか選べ。」
虎の亜人は確信した。攻撃命令を下した瞬間、無詠唱の魔法が一瞬で自分達を蹂躙することを。その場合、万に一つも生き残れる可能性はないということを。
虎の亜人は、フェアベルゲンの第二警備隊隊長だった。フェアベルゲンと周辺の集落間における警備が主な仕事で、魔物や侵入者から同胞を守るというこの仕事に誇りと覚悟を持っていた。その為、例え部下共々全滅を確信していても安易に引くことなど出来なかった。
「……その前に、一つ聞きたい」
虎の亜人は掠れそうになる声に必死で力を込めて俺に尋ねた。
「なんだ?」
「……何が目的だ?」
「樹海の深部。本物の大迷宮のところに行きたい。」
「本当の迷宮? 何を言っている? 七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」
「それはない。オルクスの大迷宮と魔物の強さが同じだったら亜人が生き残れるはずがない。明らかに弱すぎる。それに大迷宮というのは、〝解放者〟達が残した試練なんだ。亜人族は簡単に深部へ行けるんだろ? それじゃあ、試練になってない。だから、樹海自体が大迷宮ってのはおかしい。」
隼人の話を聞き終わると首をかしげる虎の亜人。本当に知らないのかと思っているともしかして目即は外れなんじゃないかと思ってしまう。
「……お前が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」
「了解。妥当な線だろう。それよりもそこに行くまでのハウリア族の安全と、もし襲ってきた時の反撃する権利くらいはくれ。さっきから気配を消して俺たちの首を狙っているやつが四人いるからな。」
「っ!」
すると冷や汗が垂れる虎の亜人。近距離であれば俺にも樹海でも人がどこにいるかくらいは分かる
「わ、分かった。だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前の話も、長老方なら知っている方もがおられるかもしれない。お前に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」
「ん〜。」
「いいぞ俺らは。」
ハジメは隼人の目線に気づき了承する。虎の亜人からすれば限界ギリギリの譲歩なのだろう。樹海に侵入した他種族は問答無用で処刑されると聞く。今も、本当は隼人達を処断したくて仕方ないはずだ。だが、そうすれば間違いなく部下の命を失う。それを避け、かつ、危険を野放しにしないためのギリギリの提案。
ハジメはこの状況で中々理性的な判断ができるヤツだと、少し感心した。そして、今、この場で彼等を殲滅して突き進むメリットと、フェアベルゲンに完全包囲される危険を犯しても彼等の許可を得るメリットを天秤に掛けて……後者を選択した。大樹が大迷宮の入口でない場合、更に探索をしなければならない。そうすると、フェアベルゲンの許可があった方が都合がいい。もちろん、結局敵対する可能性は大きいが、しなくて済む道があるならそれに越したことはない。人道的判断ではなく、単に殲滅しながらの探索はひどく面倒そうだからだ。
「……らしい。さっきの言葉、ちゃんと伝えろよ?」
「無論だ。ザム! 聞こえていたな! 長老方に余さず伝えろ!」
「了解!」
「虎の亜人族も不用意に武器を構えるなよ。臨戦態勢をとらないといけなくなるからな。」
俺の忠告に苦虫を噛んだようにする。そうしながらも交渉のカードを切っていったのだった。
「一体どういうことかね?」
と霧の奥からは、数人の新たな亜人達が現れたとき、隼人達と虎の亜人族はというと
飯を食べていた。
優花がそういえば今日何もまだ食べていないことに気づき虎の亜人族に許可をとり料理を作っていたんだが、
改めて言うが異世界チートの料理人である。ハウリアや虎の亜人から作っている間にギュルルとお腹が減った声が聞こえたので俺が全員に腕を振っていたのだ。
最初は遠慮していた虎の亜人族も結果的に食べることになったんだが
「こんなおいしいもの食べたことない。」
「うますぎる。」
「……」
と号泣している虎の亜人族もいるくらいの出来前。
ちなみに魔物は使っていないしさっき通りすがりのイリヤベアーを狩って簡単に調理したのだ。
「ついでに全員振るまったものはハウリアも虎人族も同じだから安心してくれ。一応天職が料理人だから腹が減っている奴を見過ごせなかったんだよ。」
「あ、あぁそれならいいが。」
「少し食べるか?募る話もあるだろうし安全性を確保できるまでは外で待機しながら話した方がいいだろうしな。」
「ふむ。それじゃあ頂こう。」
ととりあえず簡単に作った料理を入れる
「ん。とりあえず簡単に帝国兵から奪った食材が結構あったからな。簡単なもので悪いが。」
と俺は干し肉を技能で元の状態に戻しそれをミンチにした後生成魔法で作ったオーブンの中に入れる。もちろん生成魔法でオーブンにつけたのは俺の纏火だ。牛パティとした状態で、風魔法で水をしっかりきったレタスやトマトを使い、さらに迷宮から採ってきたカレー風味のソースをかけパンに挾む。カレー風味の特性バーガーを手渡す。
「手慣れておるの。」
「まぁこれでもこっちが本職だからな。まぁ俺のステータスにも天職は料理人って書いてあるし。」
「……?しかしお主は魔法を使ったじゃないか。」
「あ〜。それ含めちゃんと説明するよ。まず俺らはこの世界の人間ではない。それをしっかり頭に入れておいてくれ。」
と俺たちがこの世界に来てからのことについて説明する。そして魔物を食べるしかない状態しかなかったことやハジメの腕や俺の目を失った話。ヒュドラ戦の話など話せる限りの真実を亜人たちに話していった。
そして
「これが一応証拠になるのかな?オルクスの指輪だよ。」
そう言って、見せたのはオルクスの指輪だ。アルフレリックと呼ばれるおそらくエルフ族の長老は、その指輪に刻まれた紋章を見て目を見開いた。そして、気持ちを落ち付かせるようにゆっくり息を吐く。
「なるほど……確かにお前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが……よかろう、取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」
アルフレリックの言葉に周囲の亜人族達だけでなく、カム達ハウリアも驚愕の表情を浮かべた。虎の亜人を筆頭に猛烈に抗議の声があがる、それも当然だろう、かつてフェアベルゲンに人間族が招かれたことなど無かったのだから。
「彼等は客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ、それに私たちは隼人殿に一飯を頂いた恩がある、我々を奴隷扱いする人間であれば食事に昏睡薬や睡眠薬が入っていてもおかしくないだろう」
という言葉に全員が黙りこむ、さすがに簡単なものを出したのにそこまで信用されると思わなかったが。
「待て、何勝手に俺の予定を決めてるんだ? 俺は大樹に用があるのであって、フェアベルゲンに興味はない。問題ないなら、このまま大樹に向かわせてもらう」
「いや、お前さん。それは無理だ」
「なんだと?」
あくまで邪魔をする気か? と身構えるハジメに、むしろアルフレリックの方が困惑したように返した。
「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ……亜人族なら誰でも知っているはずだが……」
アルフレリックは、「今すぐ行ってどうする気だ?」とハジメを見たあと、案内役のカムを見た。ハジメは、聞かされた事実にポカンとした後、アルフレリックと同じようにカムを見た。そのカムはと言えば……
「あっ」
まさに、今思い出したという表情をしていた。ハジメと隼人の額に青筋が浮かぶ。
「カム?」
「あっ、いや、その何といいますか……ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか……私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか……」
しどろもどろになって必死に言い訳するカムだったが、隼人たちのジト目に耐えられなくなったのか逆ギレしだした。
「ええい、シア、それにお前達も! なぜ、途中で教えてくれなかったのだ! お前達も周期のことは知っているだろ!」
「なっ、父様、逆ギレですかっ! 私は、父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきりちょうど周期だったのかと思って……つまり、父様が悪いですぅ!」
「そうですよ、僕たちも、あれ? おかしいな? とは思ったけど、族長があまりに自信たっぷりだったから、僕たちの勘違いかなって……」
「族長、何かやたら張り切ってたから……」
逆ギレするカムにシアが更に逆ギレし、他の兎人族達も目を逸らしながらさり気なく責任を擦り付ける。
「お、お前達! それでも家族か! これは、あれだ、そう! 連帯責任だ! 連帯責任! ハジメ殿、罰するなら私だけでなく一族皆にお願いします!」
「あっ、汚い! お父様汚いですよぉ! 一人でお仕置きされるのが怖いからって、道連れなんてぇ!」
「族長! 私達まで巻き込まないで下さい!」
「バカモン! 道中の、ハジメ殿の容赦のなさを見ていただろう! 一人でバツを受けるなんて絶対に嫌だ!」
「あんた、それでも族長ですか!」
亜人族の中でも情の深さは随一の種族といわれる兎人族。彼等はぎゃあぎゃあと騒ぎながら互いに責任を擦り付け合っていた、情の深さは何処に行ったのか……流石シアの家族である。総じて、残念なウサギばかりだった。
青筋を浮かべたハジメが一言、ポツリと呟く。
「……ユエ」
「ん」
ハジメの言葉に一歩前に出たユエがスっと右手を掲げた。それに気がついたハウリア達の表情が引き攣る。
「まっ、待ってください、ユエさん! やるなら父様だけを!」
「はっはっは、何時までも皆一緒だ!」
「何が一緒だぁ!」
「ユエ殿、族長だけにして下さい!」
「僕は悪くない、僕は悪くない、悪いのは族長なんだ!」
喧々囂々に騒ぐハウリア達に薄く笑い、ユエは静かに呟いた。
「〝嵐帝〟」
―――― アッーーーー!!!
天高く舞い上がるウサミミ達。樹海に彼等の悲鳴が木霊する。同胞が攻撃を受けたはずなのに、アルフレリックを含む周囲の亜人達の表情に敵意はなかった。むしろ、呆れた表情で天を仰いでいる。彼等の表情が、何より雄弁にハウリア族の残念さを示していた。
原作との変更点
奈落のことをかなり詳しく話している
休んでいる間にバーガーを食す
魔力操作が魔物を食すことによりをできることが伝わっている