遠くに町が見える。周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町だ。街道に面した場所に木製の門があり、その傍には小屋もある、おそらく門番の詰所だろう、小規模といっても門番を配置する程度の規模はあるようだ、それなりに、充実した買い物が出来そうだとハジメは頬を緩めたのだが。
「……隼人、目を輝かせすぎ」
とユエが隼人に突っ込む。
明らかに隼人のワクワクした子供みたいにテンションが上がっているのを優花とハジメは苦笑せざるを得なかった。席で前のめりに身を乗り出しているところはちょっと子供っぽく見える。
「だって、せっかく調味料や普通の料理を作れるようになるんだぞ。さすがに肉ばっかもなんだし、魚や野菜を使った料理とかパン粉を作って揚げ物だってできるようになるんだぞ」
「……まぁ私も少しこっちの世界の食材は少し見てみたいわね」
「……お前ら、少しは町並みとかそういうのには興味ないのかよ」
呆れたようなハジメだが
「んじゃ、ハジメには調味料は抜きでこれからも料理作るからな」
「すいません、食べたいです」
「素直でよろしい」
と食事にはハジメでも勝てなかったらしい。
「シアはごめんな、今はこうするしかないから」
「いえ、隼人さんが今度デートに連れて行ってくれるので」
シアの首にはめられている黒を基調とした首輪は、小さな水晶のようなものも目立たないが付けられている、かなりしっかりした作りのもので、直接魔力を加えないと外れないようになっているし、念話石と特定石も組み込んである。
奴隷でもない亜人族、それも愛玩用として人気の高い兎人族が普通に町を歩けるわけない、ましてやシアは白髪の兎人族で物珍しい上容姿もスタイルも抜群、誰かの奴隷だと示していなかったら町に入って十分も経たず目をつけられるだろう、後は絶え間無い人攫いの嵐にあうことはすでに分かっていたのだ。
隼人と優花は正直奴隷扱いするのはかなり気が引けた。シアが仲間になった以上はちゃんと対等に扱いたかったのだ。
そんな二人の優しさを知っているからこそシアは自ら奴隷のフリをすることを受け入れた。隼人にデートをしてもらうことを条件として頼むのはちゃっかりしていたのだが。
「ん、まぁそのくらいならな」
「はい。隼人さんとデート♪」
「……たく」
なんでそんなに俺がいいんだろうなと隼人は思ってしまう。
「てか優花が認めるって結構複雑なんだけど」
「私は別にいいわよ。隼人が女たらしなんて誰が見ても明らかだから、それに隼人はその性格直せないでしょ?」
「……そうだけどさ」
「隼人の誰にでも優しいところが好きになったんだから別に他の人が同じ理由で隼人を好きになってもおかしくはないでしょ?私だって少し他の女子に厳しくしてほしいとかもうちょっと二人きりの時間が欲しいって思ったりユエやハジメみたいに甘えたりしたいわよ」
優花だって女子だ。隼人が人気なのはわかるけどもう少し恋人らしいことをしたいと思っているし、隼人だって本当なら優花と一緒にデートをしたり、もう少し甘えたいと思っている。
「でも、隼人って優しいから多分親しい人が告白してきたら断れないと思うのよ。例えば雫が告白してきたら隼人は断ることできる?隼人だって気づいているんでしょ?雫の気持ち」
「……はぁ、だからか、お前が進んでハジメに二人と付き合えばっていったのは」
こいつ逃げ場を塞ぎやがったと隼人は小さく舌打ちをしてしまう。
「……雫も女の子って隼人は言っていたでしょ。だから隼人が思うように自分の言葉で返事してほしいの。私がいるからダメってことじゃなくてちゃんと理由があって振らないと納得がいかないのよ。シアのことも雫のこともちゃんと考えて気持ちに応えてあげて。もし、隼人が好きならこっちの世界じゃ重婚はできるでしょ?」
「ブッ!!」
隼人は軽く吹き出してしまう。
「あ、あんなぁ」
「……お願い、私にとったら雫もシアも同じ友達なの。鈴も恵里もね。だから」
「……」
はぁと隼人は小さくため息を吐く。
「たく、お前な、浮気推奨とか聞いたことないぞ」
「それならもう少し隼人が女性に厳しくなればいいんじゃないの?」
「無理だろ。そいつ俺たちにも普通に優しいし男女構わず人気があるからな、天之河よりもたちが悪い」
「……てか俺そんなに優しいか?そんなつもり全くないんだけどなぁ」
「本当に無自覚なんですね」
「しかもこいつは言ったらとことんやりきるからな、しかも友達を引き連れて」
「いつのまにか大事になるのも隼人だから」
「褒められてるきしねぇ〜そろそろ降りるぞ」
「……ん」
スポーツカーを宝物庫にいれ徒歩に切り替える隼人達。流石に、漆黒の車で乗り付けては大騒ぎになるだろう。
遂に町の門までたどり着いた。案の定、門の脇の小屋は門番の詰所だったらしく、武装した男が出てきた。格好は、革鎧に長剣を腰に身につけているだけで、兵士というより冒険者に見える。その冒険者風の男がハジメ達を呼び止めた。
「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」
規定通りの質問なのだろう。どことなくやる気なさげである。ハジメは、門番の質問に答えながらステータスプレートを取り出した。
「食料の補給がメインだ。旅の途中でな」
ふ~んと気のない声で相槌を打ちながら門番の男がハジメのステータスプレートをチェックする。そして優花も問題がなかったのだが俺のステータスプレートを見た途端兵士の目が瞬かせた。ちょっと遠くにかざしてみたり、自分の目を揉みほぐしたりしている。
ステータスの隠蔽はしてあるはずなのにと首をひねらせる
「あの、もしかして料理人の須藤隼人様でございますか?」
「……須藤隼人っていうのは俺だけど」
「……」
パクパクと口をパックリ開けている門番の男。そして
「少々お待ちください。もしかして錬成師の南雲ハジメ様と投術師の園部優花様でございますか?」
「……?」
「えっ?」
今度は隼人たちが困惑する側だった。なんで俺たちの名前を知っているんだと思っていたのだが。
その原因がすぐに話されることになる
「実は冒険者ギルドの方で隼人様たちの捜索願いが出されていまして、オルクスの大迷宮で奈落に落とされたと思っていましたが、優花様のアーティファクトが返還されたと聞いておりました」
「……あ〜あれうまくいったのか」
「そんなこともあったわね」
「つまり誰かが俺たちの捜索願を出していたんだな」
「はい。〝豊穣の女神〟愛子様による捜索願が」
「「……」」
愛ちゃんあんたなんてあだ名をつけられているんだ。と思う反面なんか隼人の天職で料理人で断定してきたのになんとなく嫌な予感がする隼人。そして見事にその予感は的中する。
「食神須藤隼人様を筆頭に出されておりました」
「「ぶほっ!」」
優花とハジメが吹き出した。隼人もさすがに顔を引き攣らせる。ユエも少し頬が緩んでいることから笑いを堪えているらしい。
「えっと、どういうことなんですか?」
代表してシアが聞くと
「隼人殿のアイディアで南雲氏と協力して缶詰や油麺、乾麺などを開発し多くの冒険者に美味しい食事を届けたんですよ。ケチャップやマヨネーズなどの調味料を広めたのだと」
「……なるほどな」
「私マヨネーズの大ファンなんですよ!!あれだけの美味しい調味料を知らなかったなんて」
3ヶ月の間にかなりの反響があったらしい。まぁ食文化が似ている分かなり反響があったのだろう。
「相変わらずの食事チートだな」
「食文化の水準が低かったからな。確かに王宮料理も美味しかったことはおいしかったけどどちらかというならば高級料理のフレンチみたいなんだよなぁ」
「まぁ隼人がマヨネーズをクラスに持ってきた時野菜が数倍美味しくなったってリリィたちも言っていたしね」
知識があるのでつくるのは簡単なのだがな。
「えっとつまり俺たちは街に入れるのか」
「はい。隼人様ならばいつでも入ってください」
「……後、その名前やめてね。さすがにゆっくりしたいから」
「は、はい!!」
と敬礼する門番の男に隼人は苦笑してしまう。
「これからは隼人も気をつけないといけないかもな」
とハジメはため息をつくのだった。