ギルドは荒くれ者達の場所というイメージから、ハジメは、勝手に薄汚れた場所と考えていのだが、意外に清潔さが保たれた場所だった。入口正面にカウンターがあり、左手は飲食店になっているようだ。何人かの冒険者らしい者達が食事を取ったり雑談したりしている。誰ひとり酒を注文していないことからすると、元々、酒は置いていないのかもしれない。酔っ払いたいなら酒場に行けということだろう。
ギルドに入ると、冒険者達が当然のように注目してくる。最初こそ、見慣れない5人組ということでささやかな注意を引いたに過ぎなかったが、彼等の視線が優花やユエとシアに向くと、途端に瞳の奥の好奇心が増した。
「こんにちは。ギルドで買取はできますか?」
隼人はカウンターに立っているおばちゃんに声をかける
「おやおや。珍しい男の子だね。普通ならそこの男の子みたいに美人の受付を期待している人が多いんだけどね。」
「生憎両手に花なもんで。これ以上花があったら一本くらい毒のある花があってもおかしくはないでしょ?」
「おやおや。返しも上手ときた。十分満足しているんだね。」
「生憎俺にはもったいないくらいの女性ばかりなもんで。」
そうやって返すとおばちゃんはこりゃ面白い少年が現れたと笑っている。
「さて、じゃあ改めて、冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」
「ああ、素材の買取をお願いしたい」
「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」
「ん? 買取にステータスプレートの提示が必要なのか?」
ハジメの疑問に「おや?」という表情をするオバチャン。
「あんた冒険者じゃなかったのかい? 確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」
「そうだったのか」
「あ〜俺らはよそもんなもんで。そこらへんちょっと疎いんですよ。」
「あ〜そうなのかい。他にも、ギルドと提携している宿や店は一~二割程度は割り引いてくれるし、移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするね。どうする? 登録しておくかい? 登録には千ルタ必要だよ」
「んじゃ三人分。金銭はこれで。」
と前に稼いだ黒コイン3枚を載せる
「はいはい。」
オバチャンは、ユエとシアの分も登録するかと聞いたが、それは断った。二人は、そもそもプレートを持っていないので発行からしてもらう必要がある。しかし、そうなるとステータスの数値も技能欄も隠蔽されていない状態でオバチャンの目に付くことになる。
戻ってきたステータスプレートには、新たな情報が表記されていた。天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに〝冒険者〟と表記され、更にその横に青色の点が付いている。
青色の点は、冒険者ランクだ。上昇するにつれ赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化する。……お気づきだろうか。そう、冒険者ランクは通貨の価値を示す色と同じなのである。
ちなみに、戦闘系天職を持たない者で上がれる限界は黒だ。辛うじてではあるが四桁に入れるので、天職なしで黒に上がった者は拍手喝采を受けるらしい。天職ありで金に上がった者より称賛を受けるというのであるから、いかに冒険者達が色を気にしているかがわかるだろう。
「男なら頑張って黒を目指しなよ? お嬢さん達にカッコ悪ところ見せないようにね」
「ああ、そうするよ。それで、買取はここでいいのか?」
「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」
おばちゃん有能すぎる。俺はそれでいくつかの素材をバックから取り出す。
「こ、これは!」
恐る恐る手に取り、隅から隅まで丹念に確かめる。息を詰めるような緊張感の中、ようやく顔を上げたオバチャンは、溜息を吐き隼人に視線を転じた。
「とんでもないものを持ってきたね。これは…………樹海の魔物だね?」
「一応な。生憎連れもいるし俺たちはそこそこ強いからな。もしかして買い取れなかった?」
「いいや。樹海の素材は良質なものが多いからね、売ってもらえるのは助かるよ」
「ならよかった。」
「しかし、そこの少年はこりないねぇ。」
「なんのことかわからないな。」
とハジメがジト目でユエから睨まれていたことを隼人はスルーする。それからオバチャンは、全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は百二十八万七千ルタ。かなりの額だ。
「これでいいかい? 中央ならもう少し高くなるだろうけどね。」
「いや、この額で構わない。できれば地図のお金を差し引いて簡易な地図をもらえると助かるんだが。」
「それなら私が書いた地図があるよ。無料で配布しているからね。」
と手渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。これが無料とは、ちょっと信じられないくらいの出来である。
「おいおい、いいのか? こんな立派な地図を無料で。十分金が取れるレベルだと思うんだが……」
「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」
有能すぎるのがちょっと怖いくらいだ。この人何でこんな辺境のギルドで受付とかやってんの? とツッコミを入れたくなるレベルである。
「そうか。まぁ、助かるよ」
「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その三人ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」
オバチャンは最後までいい人で気配り上手だった。ハジメは苦笑いしながら「そうするよ」と返事をし、入口に向かって踵を返した。隼人達も頭を下げて追従する。食事処の冒険者の何人かがコソコソと話し合いながら、最後まで優花やユエとシアの三人を目で追っていた。
「ふむ、いろんな意味で面白そうな連中だね……」
後には、そんなオバチャンの楽しげな呟きが残された。
もはや地図というよりガイドブックと称すべきそれを見て決めたのは〝マサカの宿〟という宿屋だ。紹介文によれば、料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるという。最後が決め手だ。その分少し割高だが、金はあるので問題ない。若干、何が〝まさか〟なのか気になったというのもあるが……
宿の中は一階が食堂になっているようで複数の人間が食事をとっていた。隼人達が入ると、お約束のように女性陣に視線が集まる。それらを無視して、カウンターらしき場所に行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。
「いらっしゃいませー、ようこそ〝マサカの宿〟へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」
「宿泊だ。このガイドブック見て来たんだが、記載されている通りでいいか?」
ハジメが見せたオバチャン特製地図を見て合点がいったように頷く女の子。
「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」
「とりあえず一泊で。ついでに入浴と食事も頼む。」
「えっ?隼人作らないの?」
「いや最近俺ばっかり作っていただろ?材料が尽きかけているし、今日はゆっくりしたいからな。ちょっと愛ちゃん達に手紙を書こうと思うし。」
「なるほどな。それなら納得だな。」
「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが」
「ん〜とりあえず2時間でいいか。ここからここまでの時間頼めるか?」
「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 二人部屋と三人部屋が空いてますが……」
「二人部屋と三人部屋で。」
即答する隼人にみんながうんうんと納得したようにする。隼人もハジメが武器を作りたいと要望があったので男子部屋と女子部屋に分かれると
「ん。隼人。」
「ダメだぞ。ハジメに俺が用があるから」
ユエが何を言いたいのか分かったがそれを阻止するのだが。
「……隼人。私も隼人と一緒の部屋がいいかな。」
「えっ?」
「最近甘えてなかったでしょ?だから少し甘えたいかなぁって……」
隼人が少し悩む。だからと言ってシアを一人にさせることはできないしな。
「……隼人俺は別にいいぞ。」
「はいはい。分かったよ。ハジメとユエ。俺たちが三人部屋だな。」
「えぇ。」
「は〜い。」
「ん。」
と色々あったが結局その宿の泊まる順番は決まったし後はもう少しゆっくりできると思った矢先だった
「……こ、この状況で三人部屋……つ、つまり三人で? す、すごい……はっ、まさかお風呂を二時間も使うのはそういうこと!? お互いの体で洗い合ったりするんだわ! それから……あ、あんなことやこんなことを……なんてアブノーマルなっ!」
「……」
女の子はトリップしていた。見かねた女将さんらしき人がズルズルと女の子を奥に引きずっていく。代わりに父親らしき男性が手早く宿泊手続きを行った。部屋の鍵を渡しながら「うちの娘がすみませんね」と謝罪するが、その眼には「男だもんね? わかってるよ?」という嬉しくない理解の色が宿っている。絶対、翌朝になれば「昨晩はお楽しみでしたね?」とか言うタイプだ。
さすがにしないと思いながら隼人達は3階の部屋にそそくさと進むのだった。
隼人と優花が手紙を出し終えるとちょうど夕飯の時間になったので階下の食堂に向かった。すると何故か、チェックインの時にいた客が全員まだ其処にいた。
隼人と優花は外に出ていたがユエがツヤツヤしている様子からあぁこいつら構わず襲ったのかと少し呆れながら席につく。シアは我関せずという顔で初めてみる食事に舌鼓を打っている。隼人と優花は軽く話をしながら人目を気にせずいちゃついていて途中シアが乱入してきたので男子陣の舌打ちが聞こえてきたのだがそれもスルーしている。
そしてハジメと風呂は久しぶりにゆっくり入れると思ったのだがユエが乱入してきたのを隼人がブチギレ、風呂場の前にユエを正座させ、風呂場の時間をすぎてまで説教をしていたという面白事情があったのだが、ユエが帰ってきた時に涙目になって帰ってきたことからお察しの通りとことん絞られたらしい。優花もハジメも隼人の恐ろしさを知っている分ユエを助けようとはしなかった。シアさえ顔が引きつっていていたほどだった。
そんな1日を振り返って隼人は寝る前に一言呟いた
「もっとゆっくりしたかったな」
と。