異世界料理人   作:孤独なバカ

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ブルッグにて2

翌日、隼人と優花、シアとユエは街に出ていた。昼ごろまで数時間といったところなので計画的に動かなければならない。目標は、食料品関係とシアの衣服、それと薬関係だ。武器・防具類はハジメがいるので不要である。

 

町の中は、既に喧騒に包まれていた。露店の店主が元気に呼び込みをし、主婦や冒険者らしき人々と激しく交渉をしている。飲食関係の露店も始まっているようで、朝から濃すぎないか? と言いたくなるような肉の焼ける香ばしい匂いや、タレの焦げる濃厚な香りが漂っている。

 

「……やっぱ本質的にこっちの肉も地球の肉もあんまり変わらないな」

「あの、隼人?いつも思うけどいつのまに買ってきているのよ?」

 

隼人が手にしているのは串焼き肉であり思いっきりタレがかかっているものが5本近くある。隼人の食事は普段の料理の研究でかなりたくさん食べられるのでこのくらいは余裕に食べられることを優花は知っているのだが。

 

「ん?適当に空いてる店から買ってくるだけだ、朝早くに肉系統は入らないしな。一ついるか?」

「いるけど……ちゃっかりしてるわね」

「ほれ」

 

隼人が串を一本向けると優花がそれを食べる

 

「う〜ん、思っていたよりもちょっと甘い?」

「そうだな少し甘みが効いている。砂糖が多いのかもな、あと恐らく隠し味にケチャップが入っているんだろうな」

 

この世界には醤油があることは王都にいた時から知っているのでそれを軸にしたものだろう。屋台にしたらかなり美味しいと俺は感じていた。

 

「あの、隼人さん」

「はいはい」

 

と予想はできていたので串を差し出す。わ〜いと言いながらシアが串の肉を食べる。

 

「シア。顔にタレがついているわよ」

「あっすいません、優花さん」

「そういう優花もな、ほれ」

 

と隼人達は軽くいちゃついているのに対し、ユエは仕方ないなぁっと苦笑している。

道具類の店や食料品は時間帯的に混雑しているようなので、二人はまず、シアの衣服から揃えることにした。

 キャサリンさんの地図には、きちんと普段着用の店、高級な礼服等の専門店、冒険者や旅人用の店と分けてオススメの店が記載されている。

早速、とある冒険者向きの店に足を運んだ。ある程度の普段着もまとめて買えるという点が決め手だ。

その店は、流石はキャサリンさんがオススメするだけあって、品揃え豊富、品質良質、機能的で実用的、されど見た目も忘れずという期待を裏切らない良店だった。ただ、そこには……

 

「あら~ん、いらっしゃい♥可愛い子達ねぇん。来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~、た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん♥」

 

 化け物がいた。身長二メートル強、全身に筋肉という天然の鎧を纏い、劇画かと思うほど濃ゆい顔、禿頭の天辺にはチョコンと一房の長い髪が生えており三つ編みに結われて先端をピンクのリボンで纏めている。動く度に全身の筋肉がピクピクと動きギシミシと音を立て、両手を頬の隣で組み、くねくねと動いている。服装は……いや、言うべきではないだろう。少なくとも、ゴン太の腕と足、そして腹筋が丸見えの服装とだけ言っておこう。

ユエとシアは硬直する。シアは既に意識が飛びかけていて、ユエは奈落の魔物以上に思える化物の出現に覚悟を決めた目をしている。しかし

 

「あ〜このシアの服を何着か見繕ってもらうことってできます?俺そういうの苦手なんで」

「あっこの服かわいい。隼人どうかな?」

「ん?あ〜でも布地少なくないか?俺はこっちの方が似合うと思うんだけど」

「そ、そう?」

 

と接客に慣れている隼人と優花はその化け物に対しても耐性をすでに持っているのもあり普通に買い物をし始めている。金銭的には余裕があるので優花の服を見繕っていた。

 

「あの二人なんで平気なんですかぁ!!」

「……凄い」

 

とユエとシアが唖然としたようにしているさながら隼人と優花は普通に買い物を楽しんでいた。

 

 

「いや~、最初はどうなることかと思いましたけど、意外にいい人でしたね。店長さん」

「ん……人は見た目によらない」

「ですね~優花さんもその服似合ってますよ」

「そ、そう」

「結構高くついたけど、まぁ必要経費だろ。次は道具屋でいいか」

 

シアと優花が左右の腕を組んでいる。視線が多く集まるが昨日シアの母親の話を聞いた隼人は断ることはできなかったのだ。

……正直隼人自身シアのことを嫌いではないのでそう強くは当たれないのだが

としばらく雑談して歩いているとすると気がつけば数十人の男達に囲まれていた。冒険者風の男が大半だが、中にはどこかの店のエプロンをしている男もいる。

隼人は首を傾げているとその内の一人が前に進み出た。

 

「優花ちゃんとユエちゃんとシアちゃんで名前あってるよな?」

「? ……合ってる」

 

何のようだと訝しそうに目を細めるユエ。シアは、亜人族であるにもかかわらず〝ちゃん〟付けで呼ばれたことに驚いた表情をする。

ユエの返答を聞くとその男は、後ろを振り返り他の男連中に頷くと覚悟を決めた目でユエを見つめた。他の男連中も前に進み出て、ユエかシアの前に出る。

 

「「「「「「ユエ(優花)ちゃん、俺と付き合ってください!!」」」」」」

「「「「「「シアちゃん! 俺の奴隷になれ!!」」」」」」

 

あぁそういうことかと隼人は理解する。優花とユエとシアで口説き文句が異なるのはシアが亜人だからだろう。奴隷の譲渡は主人の許可が必要だが、昨日の宿でのやり取りでシアと隼人達の仲が非常に近しい事が周知されており、まず、シアから落とせば隼人も説得しやすいだろう……とでも思ったのかもしれない。ただ隼人が側にいるのが予想外だったのだがそれを気にしてはナンパできないと思って突撃していたのだろう。

で、告白を受けたユエとシアはというと……

 

「……シア、道具屋はこっち」

「あ、はい。一軒で全部揃うといいですね」

「隼人私たちは食材を選びに行こう」

「そうだな」

 

 何事もなかったように歩みを再開した。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 返事は!? 返事を聞かせてく『『断る(ります)』』……ぐぅ……」

「私は隼人がいるから」

「あ〜ずるいですよ〜優花さん」

 

隼人の腕に抱きついてくる優花にシアが文句を言いながらも反対の腕に抱きつく。隼人が軽く苦笑する。

しかし、諦めが悪い奴はどこにでもいる。まして、優花やユエ、シアの美貌は他から隔絶したレベルだ。多少、暴走するのも仕方ないといえば仕方ないかもしれない。

 

「なら、なら力づくでも俺のものにしてやるぅ!」

 

 暴走男の雄叫びに、他の連中の目もギンッと光を宿す。四人を逃さないように取り囲み、ジリジリと迫っていく。

 

「……ふ〜ん」

 

その冷たく低い声が笑顔だが全く笑っていない隼人から出され、急に周辺の空気が冷える。

そして親しくない人間でも分かるだろう。

隼人がブチギレていることを

それに怯まず最初に声を掛けてきた男が、雄叫びを上げながら優花に飛びかかろうとした時だった。

一瞬で移動した隼人はうまく手加減をしてその男の股間を蹴り上げる

 

「がはっ!」

 

グシャッと変な感触が隼人に伝わるが気にせず隼人の威圧により大量のプレッシャーが周辺の男性陣を襲う。

 

「…ひぃ」

「……てめぇら、女に手を上げてまで自分のもんにしたいのかよ」

 

隼人の威圧にそこにいる全員が冷や汗が垂れる。

決して手を出してはいけない奴に手を出したのだと

 

「いい加減にしろよ?敵でもない女に手をだす男は最低だ。そんな奴に自分の女を奪わせると思ってんのか?……警告しておく。今度力づくで俺らの女や仲間を奪おうとしたのなら」

 

隼人は見せしめに最初に襲ってきた奴を風の魔法で空に浮き上がり

そして股間を風魔法で狙い撃った。

 

「生きていることを後悔させるぞ」

 

殺意と威圧をたっぷり載せた警告は脅しになったらしく周辺の男達は涙目で頷き股間を隠す。

この日、一人の男が死に、第二のクリスタベル、後のマリアベルちゃんが生まれた。彼は、クリスタベル店長の下で修行を積み、二号店の店長を任され、その確かな見立てで名を上げるのだが……それはまた別のお話。

また優しさを知っている人もいるので今後隼人様を崇める会として後々王都で国教として崇められることになる宗教ができるのはそれもまた別の話だ

 

「んじゃ、行こうか」

「えっ?あっうん」

「あの、隼人さん?」

「ん?どうした?」

「いえ、なんでもありません」

 

いつも通りの隼人に戻ったことにより優花でさえ少しだけ怯えてしまう。

……二度と隼人を怒らせてはいけない。

それがハジメパーティーの唯一の掟になるのはまた別の話。

 

 

宿に戻ると、ハジメもちょうど作業を終えたところのようだった。

「お疲れさん、何か、町中が騒がしそうだったが、何かあったか?」

 

 どうやら、先の騒動を感知していたようである。

 

「別に」

「……問題ない」

「あ~、うん、そうですね。問題ないですよ」

「あ〜まぁ確かに問題はなかったわね」

 

ハジメは、少し訝しそうな表情をするも、まぁいいかと肩を竦めた。

 

「必要なものは全部揃ったか?」

「……ん、大丈夫」

「ですね。食料も沢山揃えましたから大丈夫です。にしても宝物庫ってホント便利ですよね~」

「ハジメの方は?」

「こっちもできたぞ。さて、シア。こいつはお前にだ」

 

そう言ってハジメはシアに直径四十センチ長さ五十センチ程の円柱状の物体を渡した。銀色をした円柱には側面に取っ手のようなものが取り付けられている。

ハジメが差し出すそれを反射的に受け取ったシアは、あまりの重さに思わずたたらを踏みそうになり慌てて身体強化の出力を上げた。

「な、なんですか、これ? 物凄く重いんですけど……」

「そりゃあな、お前用の新しい大槌だからな。重いほうがいいだろう」

「へっ、これが……ですか?」

「隼人から頼まれたんだよ。それとこれもな」

 

するとネックレスと宝石の装飾を施したブレスレットがハジメからシアに渡される

 

「これは?」

「とりあえず両方に魔力を流してみろ」

「えっと、こうですか? ッ!?」

 

言われた通り、槌モドキに魔力を流すと、カシュン! カシュン! という機械音を響かせながら取っ手が伸長し、槌として振るうのに丁度いい長さになった。そしてブレスレットからは何故か心が落ち着き精神が安定していく効果を持っていた。

 

この大槌型アーティファクト:ドリュッケン(ハジメ命名)は、幾つかのギミックを搭載したシア用の武器だ。魔力を特定の場所に流すことで変形したり内蔵の武器が作動したりする。またハジメにあった用事とはシアも女子だし少しは可愛い装飾品が欲しいだろうと思った隼人がこっそりハジメに頼んでいたのだ。回復魔法をエンチャントしてあるので状態異常にならないおまけ付き。

隼人は思ったよりもシアのことを甘やかしているなとハジメは苦笑していた。元々隼人は本当に認めた人じゃない限りは贈り物をあげたりはしない。隼人自身シアを認めているのと告白されたことに若干照れ臭いと思っていることはハジメは気がついていた。優花がいるから目立たないがシアもかなり料理が上手で隼人の料理を手伝っていた。その様子は恋人と呼べるほど距離に近いし、隼人は優花といないときはシアに構うことが多い。

 

「今の俺にはこれくらいが限界だが、腕が上がれば随時改良していくつもりだ。これから何があるか分からないからな。ユエのシゴキを受けたとは言え、たったの十日。まだまだ危なっかしい。その武器はお前の力を最大限生かせるように考えて作ったんだ。使いこなしてくれよ? 仲間になった以上勝手に死んだらぶっ殺すからな?」

「は、はい」

「まぁ普通に戦えば敵に負けることはないと思うけどな。ユエでさえこの世界では異常なんだし。ユエに攻撃を加えられるようならなんとかなるだろ」

 

お気楽に構える隼人に苦笑しながら宿を出る。宿の女の子は何故か顔を赤く染めていたのだが。

さて旅の再開といきますか。

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