ブルックの町から中立商業都市フューレンまでは馬車で約六日の距離である。
日の出前に出発し、日が沈む前に野営の準備に入る。フューレンまで三日の位置まで来ていた。道程はあと半分である。ここまで特に何事もなく順調に進んで来た。隼人たちは隊の後方を預かっているのだが実にのどかなものである。
「優花、シア。料理できたからストリーさんとスロウさんに運んで。」
「は〜い。ちょっと待ってね。」
「あの〜隼人さん。優花さん。いつもお二人はこういうことをやっていたんですか?」
と簡易型厨房を使い料理を作っていた隼人とそれを配膳に回る二人に声をかける
「ん?これが日常だけど。」
「えぇ。この程度でヒィヒィ言うのだったら私の家で働けないわよ。」
「……」
ついでにシアのうさ耳がしゅんとなっている。毎日のように配膳や同じ料理を作る隼人とフォローと客の気配りを回す優花。女性客には逆になるのだが、お互い高校生のレベルをゆうに超えていた。
「……あのユエさんハジメさん。」
「諦めろ。あいつらは将来設計がきちんとしていて高校でも自分の家の手伝いのほかに忙しい時はお互いの家のヘルプにも入れるくらい優秀なんだ。シアも慣れないとあいつらの家は厳しいぞ。あいつらお互いに人気店の長男と長女だからな。」
「……」
「ついでに恵里もできると思うぞ。あいつ俺の家に住み込みで働いているし。」
「……へ?そうなの?」
「あいつの家の都合でな。あいつも結構筋がいいけど。多分あいつはパティシエ向きだな。母さんがベタ褒めするほどセンスあるし。」
と隼人たちは話しながらも完全に流れ作業のように調理していく。
シアも家庭力はある方なのだが、未だにこの二人に追いつける気がしないのだ。
「……そういえば皆様は違う世界から来られているんですよね?皆様の世界について聞いてみたいのですが。」
「ん?まぁそれくらいならいいぞ。どうせこの後俺たちが警備だし。」
「あっ俺も聞いてみたい。」
とワイワイ盛り上がる隼人と優花を見てハジメは思う
やっぱり隼人と優花がいてよかったと。
俺一人だったらこんな笑顔は見られなかったかもしれない。
優花も隼人も自分の意見をはっきりはいうのにできるだけ他の人の要望も答えている
「すげぇな。」
ハジメは遠目で冒険者と話している二人を見て呟く。
それは憧れでもあり、いつのまにか目標になっていた二人の姿をしっかりと刻みこんでいた。
そして二日後
「ん?シア。」
「はい。私にも感じました。」
隼人とシアの気配感知に何かが引っかかったのでのほほんとした表情を一気に引き締めて警告を発した。
「敵襲です!数は百以上!森の中から来ます!」
その警告を聞いて、冒険者達の間に一気に緊張が走る。現在通っている街道は、森に隣接してはいるが其処まで危険な場所ではない。何せ、大陸一の商業都市へのルートなのだ。道中の安全は、それなりに確保されている。なので、魔物に遭遇する話はよく聞くが、せいぜい二十体前後、多くても四十体くらいが限度のはずなのだ。
「くそっ、百以上だと? 最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか? ったく、街道の異変くらい調査しとけよ!」
護衛隊のリーダーであるガリティマは、そう悪態をつきながら苦い表情をする。商隊の護衛は、全部で十八人。ユエとシアを入れても二十人だ。この人数で、商隊を無傷で守りきるのはかなり難しい。単純に物量で押し切られるからだ。
「ん〜まぁ何とかなるだろ。ユエだけでも大丈夫そうだけど。一応撃ち漏らしは俺と隼人で対応すればいいか。」
「……へ?」
まるでちょっと買い物に行ってこようかとでも言うような気軽い口調で、信じられない提案をしたのは、他の誰でもないハジメである。ガリティマは、ハジメの提案の意味を掴みあぐねて、つい間抜けな声で聞き返した。
「だから、なんなら俺らが殲滅しちまうけど? って言ってんだよ」
「い、いや、それは確かに、このままでは商隊を無傷で守るのは難しいのだが……えっと、出来るのか? このあたりに出現する魔物はそれほど強いわけではないが、数が……」
「数なんて問題ない。すぐ終わらせる。」
「てかオルクスの大迷宮に比べたら楽だろ。200の寄生した魔物に追いかけられていたこともあったしな。」
「……君たちは本当にオルクスの大迷宮を攻略したんだね。」
「後はライセンの大迷宮もな。」
隼人のオルクスの大迷宮とライセンの大迷宮を攻略したことについてはこの小隊には伝えてある。というよりもユンケルは隼人たちが奈落に落ちたことを知っているのでそれならなるべく本当のことを伝え抑制力として使った方がいいと判断したのだ。
教会の牽制と意味もなしていることはユンケルも分かっていた。
そして数十秒後敵が現れると数100匹の魔物が襲いかかってくるのだが
ユエは、右手をスっと森に向けて掲げると、透き通るような声で詠唱を始めた。
「彼の者、常闇に紅き光をもたらさん、古の牢獄を打ち砕き、障碍の尽くを退けん、最強の片割れたるこの力、彼の者と共にありて、天すら呑み込む光となれ、〝雷龍〟」
ユエの詠唱が終わり、魔法のトリガーが引かれた。その瞬間、詠唱の途中から立ち込めた暗雲より雷で出来た龍が現れた。その姿は、蛇を彷彿とさせる東洋の龍だ。
「な、なんだあれ……」
それは誰が呟いた言葉だったのか。目の前に魔物の群れがいるにもかかわらず、誰もが暗示でも掛けられたように天を仰ぎ激しく放電する雷龍の異様を凝視している。護衛隊にいた魔法に精通しているはずの後衛組すら、見たことも聞いたこともない魔法に口をパクパクさせて呆けていた。
そして、それは何も味方だけのことではない。森の中から獲物を喰らいつくそうと殺意にまみれてやって来た魔物達も、商隊と森の中間あたりの場所で立ち止まり、うねりながら天より自分達を睥睨する巨大な雷龍に、まるで蛇に睨まれたカエルの如く射竦められて硬直する。
そして、天よりもたらされる裁きの如く、ユエの細く綺麗な指に合わせて、天すら呑み込むと詠われた雷龍は魔物達へとその顎門を開き襲いかかった。
ゴォガァアアア!!!
「うわっ!?」
「どわぁあ!?」
「きゃぁあああ!!」
ユエの魔法はもはや蹂躙といったそんな類で数分後にはに雷の顎門に滅却され消えていった。
隊列を組んでいた冒険者達や商隊の人々が、轟音と閃光、そして激震に思わず悲鳴を上げながら身を竦める。ようやく、その身を襲う畏怖にも似た感情と衝撃が過ぎ去り、薄ら目を開けて前方の様子を見ると……そこにはもう何もなかった。あえて言うならとぐろ状に焼き爛れて炭化した大地だけが、先の非現実的な光景が確かに起きた事実であると証明していた。
「ん〜威力弱くねぇ?魔力の消費量的にもうちょい威力伸ばせるだろ。」
「…ん。要改良。」
「二人とも、やりすぎって知っているかしら?……確かに私でも魔力消費が過剰気味ってわかるけど。」
とこれでも改良点を話し合っている魔法組にハジメとシアが苦笑している
やり過ぎとは思うもののなんとも頼もしい仲間に呆れ半分嬉しさ半分ってところだろう。
まぁもちろんのごとく冒険者仲間は ユエの魔法が衝撃的過ぎて、冒険者達は少し壊れ気味だったのは言うまでもないだろう。