ドット秘書長と呼ばれた男は、片手の中指でクイッとメガネを押し上げると落ち着いた声音でハジメに話しかけた。
「話は大体聞かせてもらいました。証人も大勢いる事ですし嘘はないのでしょうね。取り敢えず、彼らが目を覚まし一応の話を聞くまでは、フューレンに滞在はしてもらうとして、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが……それまで拒否されたりはしないでしょうね?」
「あの約束があるんだけど。」
「ウルの街でですね?聞いてはいますが君たちは本当に奈落に落ちた三人なんですか?」
「ステータスプレートは見せただろうが。」
隼人が地味に焦っているのが分かる。隼人と優花はさっきからそわそわしているのがハジメにはわかっていた。
こいつら愛ちゃん好きすぎるだろ。
実際、隼人が優花以上に信頼をおいている人物が実は愛子だったりする。
愛子は思い込みが激しいが自分の理念を曲げずにただ必死に奔走することが隼人と愛子は似ていると隼人自身は思っている。同族嫌悪というよりも隼人自身は愛子のことは結構気に入っている。
実際お客として愛子のことを特別扱いしていることや、結構味見に愛子を頼っていることから信頼関係が見てとれるのだ。
「ふむ、いいでしょう……そちらの方達のステータスプレートはどうしました?」
「……あんな迷宮攻略者のステータスをギルドとはいえ作るわけにはいかないだろ?俺たちは日本に帰るために旅をしているんだ。教会の連中にバレたら面倒だろ?ただでさえ教会としたら俺を追い出したいだろうし。」
「……」
もはや隠す気のない隼人に全員が苦笑している。というのも恐らく隼人自身これを交渉のカードに使っていることが分かったのだ。
恐らくウルで愛子に会うのだったら教会にもバレるだろう。
そのことを予想しギルドに自分たちの価値を見せているのだ。頭が賢ければそのことが神が日本に戻すことがないと伝えていることが解る。そしてドットはそのことを理解してしまう
教会と対立。
隼人は一歩ずつその道を踏み込んでいるのだと。
迷宮で何を見たのかそんなことこの五人しか分からない。
そして隼人自身リスクを負ってギルドに支援をお願いしているのが口調が悪いがもし教会に通じている人間がいたためのギリギリなラインだろう。
「……ハジメ、手紙」
「? ああ。あの手紙か……」
ユエの言葉で、ハジメはブルックの町を出るときに、ブルック支部のキャサリンから手紙を貰ったことを思い出す。ギルド関連で揉めたときにお偉いさんに見せれば役立つかもしれないと言って渡された得体の知れない手紙だ。
「身分証明の代わりになるかわからないが、知り合いのギルド職員に、困ったらギルドのお偉いさんに渡せと言われてたものがある」
「? 知り合いのギルド職員ですか?……拝見します」
ハジメ達の服装の質から、それほど金に困っているように思えなかったので、ステータスプレート再発行を拒むような態度に疑問を覚えるドットだったが、代わりにと渡された手紙を開いて内容を流し読みする内にギョッとした表情を浮かべた。
そして、隼人達の顔と手紙の間で視線を何度も彷徨わせながら手紙の内容をくり返し読み込む。目を皿のようにして手紙を読む姿から、どうも手紙の真贋を見極めているようだ。やがて、ドットは手紙を折りたたむと丁寧に便箋に入れ直し、隼人達に視線を戻した。
「この手紙が本当なら確かな身分証明になりますしあなた方を信頼出来るだけと思いますが……この手紙が差出人本人のものか私一人では少々判断が付きかねます。支部長に確認を取りますから少し別室で待っていてもらえますか? そうお時間は取らせません。十分、十五分くらいで済みます」
ドットの予想以上の反応に、「マジでキャサリンって何者なんだ」と引き気味のハジメ達。
しかし感心した隼人の言葉にハジメたちは驚くことになった。
「さすが元王都の秘書長だな。」
「は?」
「お前らは知らなかったか?彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだとよ。その後、ギルド運営に関する教育係になって、各町に派遣されている支部長の五、六割はキャサリンさんの教え子だってさ。その美しさと人柄の良さから、当時は、僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった。その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。彼女の結婚発表はギルドどころか、王都が荒れたらしいぞ。」
「はぁ~そんなにすごい人だったんですね~」
「……キャサリンすごい」
「只者じゃないとは思っていたが……思いっきり中枢の人間だったとはな。ていうか、そんなにモテたのに……今は……いや、止めておこう」
「私たちも村長さんから聞いた時驚いたわよ。」
と少しばかり雑談をしている。ついでに優花もしらないことだけど村長さんはそのキャサリンさんの夫であることを俺は村長さんに聞いていた。
「……あの~、私はどうすれば?」
「……あ〜悪い。依頼料少し弾むから少し話が聞こえないところで待ってくれないか?必要にならなくてもちゃんと報酬は払うから。」
「ん?どういうことでしょうか?」
「……悪いけどここからは本気で危険になるんだよ。結構訳ありなのは会話で分かっているだろうしこれ以上はさすがに巻き込むわけにはいかないからな。」
ハジメがそう告げる。隼人と念話で会話の内容はずっと交換していたのだ。ハジメ自身ギルドを味方につけるという案には賛成なこともあり二人でどこまで話すかをずっと試行錯誤していたのだった。
息を呑みカフェの奥にある座席に向かうリシー。おそらく本当に危険であることがわかったのだろう。
隼人達が応接室に案内されてから、きっかり十分後、遂に、扉がノックされた。ハジメの返事から一拍置いて扉が開かれる。そこから現れたのは、金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性と先ほどのドットだった。
「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。隼人君、ハジメ君、優花君、ユエ君、シア君……でいいかな?」
簡潔な自己紹介の後、隼人達の名を確認がてらに呼び握手を求める支部長イルワ。隼人も握手を返しながら返事をする。
「ああ、構わない。名前は、手紙に?」
「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目をかけられている……というより注目されているようだね。将来有望、ただしトラブル体質なので、出来れば目をかけてやって欲しいという旨の内容だったよ」
「トラブル体質……ね。確かにブルックじゃあトラブル続きだったな。まぁ、それはいい。肝心の身分証明の方はどうなんだ? それで問題ないのか?」
「ああ、先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせるほどだし、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ」
キャサリンを〝先生〟と呼んでいることからかなり濃い付き合いがあるように思える。おそらくイルワも教え子の一人なんだろうと隼人は予想を付けた。
さてここからが本番だ。
「んで、身元の確認は取れたらしいんだけどそっちの希望を聞いていいか?」
「えぇ。実は少し困ったことがあってね。君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている。」
「……魔物の大量発生についてか?」
「おや?知っていたのかい?」
とイルワが少し驚いたようにしているが隼人が首を振る
「いや。あっちの世界じゃ接客業をやっているせいで耳がいいんだよ。そういうことをギルドに入ってから耳にしていたからな。ちょっと盗み聞きさせてもらった。」
「だらけていると思ったらそういうことだったのね?」
「あぁ。丁度ウルの方面だったからな。確か冒険者が1組帰ってきてなかったんだよな?」
「あぁ。君も大概だと思うけどね。さて、今回の依頼内容だが、そこに書いてある通り、行方不明者の捜索だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻ってこなかったため、冒険者の一人の実家が捜索願を出した、というものだ」
最近、北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられ、ギルドに調査依頼がなされた。北の山脈地帯は、一つ山を超えるとほとんど未開の地域となっており、大迷宮の魔物程ではないがそれなりに強力な魔物が出没するので高ランクの冒険者がこれを引き受けた。ただ、この冒険者パーティーに本来のメンバー以外の人物がいささか強引に同行を申し込み、紆余曲折あって最終的に臨時パーティーを組むことになった。
この飛び入りが、クデタ伯爵家の三男ウィル・クデタという人物らしい。クデタ伯爵は、家出同然に冒険者になると飛び出していった息子の動向を密かに追っていたそうなのだが、今回の調査依頼に出た後、息子に付けていた連絡員も消息が不明となり、これはただ事ではないと慌てて捜索願を出したそうだ。
「伯爵は、家の力で独自の捜索隊も出しているようだけど手数は多い方がいいと、ギルドにも捜索願を出した。つい、昨日のことだ。最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練でね、彼等に対処できない何かがあったとすれば、並みの冒険者じゃあ二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けてもらわないといけない。だが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ、君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているというわけだ」
隼人たちはちょっと苦い顔をしている。おそらくだけどそれを頼むのであれば隼人たち以外でもいい。
それを隼人と優花、ハジメは感じ取っていた。
「……それならえっと。さっきの黒ランクのレガニドでもいいんじゃないの?」
優花が聞くとイルワは首を振る
「この依頼を受けた冒険者たちも黒ランクだったんだ。不意打ちとはいえ魔法も何も使わずに瞬殺したとなれば君たちは恐らく黒ランク以上。オルクスの大迷宮を攻略したとなるともしかしたらって思ってね。」
「……恐らく魔物の軍勢も本当と思っていいだろうな。そう考えるとかなり危険な仕事であることには変わりはないか。」
隼人が少し納得したように頷く。
「それで報酬は?」
「依頼書の金額はもちろんだが、私からも色をつけよう。ギルドランクの昇格もする。君達の実力なら一気に〝黒〟にしてもいい」
「いや、金は最低限でいいし、ランクもどうでもいいわよ……」
「なら、今後、ギルド関連で揉め事が起きたときは私が直接、君達の後ろ盾になるというのはどうかな? フューレンのギルド支部長の後ろ盾だ、ギルド内でも相当の影響力はあると自負しているよ? 君達は揉め事とは仲が良さそうだからね。悪くない報酬ではないかな?」
「……魔物の掃討も含めたらどれくらいになるか?」
「っ!」
「おい隼人。」
「いや。ここはなるべく味方につけておいた方がいい。ユエとシアのステータスの発行もしておきたいし。及びギルド内でのトラブルも多くなるだろうし。それに多分意図的な犯行だろうしな。」
「えっ?」
するとその場にいた全員が固まる
実は隼人自身とある推測を立てていたのだ。
隼人自身会いたいのも焦りの原因であるのだがそれ以上に少しまずいことになったのを隼人は感じていたのだった
「魔人族の仕業と考えた方がいいだろうしな。目的は愛ちゃんを殺すためかな。」
「それは本当かい?」
「というよりもおかしいんだよ。俺が知る限り未だに激しい戦闘が起こってないだろ?戦時中にも関わらず。恐らく人間族の動きを見ているんだよ。それにウル付近ってことがよく分からないんだよ。一応こっちの主食ってパンだろ?だから米の収穫どころであるウルであること。さすがに偶然としたらできすぎている。誰かが意図的にしかけているっと考えた方がいいだろうよ。」
「そういえば先生は確か作農師だったな。それもチート級の。」
「あぁ。戦争っていうのはあらゆる面で国力を食い潰す大食らいの怪物のようなものだ。なのに、食糧という面では敵の継戦能力が全く衰えない……そんなの悪夢だろ?俺たちの時代にもあっただろ?水攻め。あれは元々食料を断つことで敵の戦力を奪うことを重点に置いたものだ。戦争ってことは食糧との戦いでもあるんだよ。」
するとシアやユエは感嘆してしまう。
よく来るお客様に聞いた話だ。戦時中の話は本当に貴重なのだ。
「だから助けに行くついでにせっかくだしギルドにも恩を売っておこうと思ってな。」
「魔物の掃討も含めたら……確かに色はつけられると思うけど。……君って本当にいい性格をしているね。」
「あんたに言われたくないんだけど。お互いに詮索はなしな。」
とお互いに隠していることに触れたくないことは分かっているだろう。
危ない橋を渡っていることもお互いに理解しているはずだ
それでも商談相手としてお互いに良い取引相手なのは理解しているだろう。
そして商談を確定させる
ユエとシアにステータスプレートを作る。
そこに表記された内容について他言無用を確約すること、
ギルド関連に関わらず、イルワの持つコネクションの全てを使って、俺達の要望に応え便宜を図ること。
面倒事が起きた時に味方になってくれる
指名手配とかされても施設の利用を拒まないこと
ギルド側は
迷宮で手に入れたものをギルドに売ること
またギルドに危害を加えないこと
冒険者を大事な時以外は殺さないこと
ギルドが教会に対抗するときには味方になること
などという話だった
優花やハジメも口を挟み念入りに話を進めていくのだが
私たちどうすれば
とユエとシアは少し疎外感を覚えるのだった