異世界料理人   作:孤独なバカ

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オルクス大迷宮

現在、隼人達は【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた。


俺としては薄暗い陰気な入口を想像していたのだが、まるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まであった。制服を着たお姉さんが笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。

 なんでも、ここでステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。戦争を控え、多大な死者を出さない措置だろう。 

 入口付近の広場には露店なども所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。まるでお祭り騒ぎだ。

 浅い階層の迷宮は良い稼ぎ場所として人気があるようで人も自然と集まる。馬鹿騒ぎした者が勢いで迷宮に挑み命を散らしたり、裏路地宜しく迷宮を犯罪の拠点とする人間も多くいたようで、戦争を控えながら国内に問題を抱えたくないと冒険者ギルドと協力して王国が設立したのだとか。入場ゲート脇の窓口でも素材の売買はしてくれるので、迷宮に潜る者は重宝しているらしい。

 

「……何食べているの?」

 

園部が隼人を見ると隼人の手には大量の串が握られている

 

「ビックビーの串揚げ。いわゆるハチの唐揚げらしい。」

「本当に何食べているのよ!!」

「いや。だってこれうまいんだよ。見た目は良くないけど。サクサクしてなんか殻付きのエビみたいで。軽く塩をかけると余計に美味しく感じるし。ついでにオオスズメバチを針を抜いて食べたら結構美味しいぞ。イナゴなんかは佃煮も販売されているはずだし。」

 

ポリポリと食べる隼人に呆れたようにする園部。

それをすごい勢いで食べ終えると俺はふぅと息を吐く

 

迷宮内に入ると、一転迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁だった。

縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

 灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。

 正面に立つ天之河達特に前衛である雫の頬が引き攣っている。やはり、気持ち悪いらしい。

間合いに入ったラットマンを勇者パーティーの三人で迎撃する。その間に、後衛である恵里、香織、鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。

天之河は純白に輝くバスタードソードの形をしたアーティファクトである聖剣を振るって数体をまとめて葬っている。龍太郎は天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当ての形をしたアーティファクトを装備している。このアーティファクトから衝撃波を出すことができ決して壊れないらしい。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようだ。

雫は言わずもがな〝剣士〟の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。スピードに任せた戦い方とは大違いで洗練された動きだ。

しばらく経つと詠唱が響き渡った。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

 

三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。するとラットマンは断末魔の悲鳴を上げながら灰へと変わり果て絶命する。

時間にして20秒、他の生徒の出番はなしだ。これじゃあ蹂躙といっても過言ではないだろう

……魔石欲しかったなぁ

 

「ああ~、うん、よくやったぞ!次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

メルド団長の言葉に魔法支援組の3人は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

なお、隼人と優花の班もチートの集まりみたいなものなので簡単に撃退していた。

ハジメの方を見ると錬成を使って敵を封じ込め確実に敵を殺していく。

感心しながら大丈夫そうだと笑い少しカバーに入りながらも進んでいき数時間後には20層に到達していた

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 

メルド団長のかけ声がよく響く。

少しばかり休憩した後に二十階層を探索する。

迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だ。

現在、四十七階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはない。トラップに引っかかる心配もないだろう

 二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。少し綺麗だと思うのは自分だけだろかと思いながら進む

そこまで行けば今日の実戦訓練は終わりだ。一行は、若干弛緩した空気の中、せり出す壁のせいで横列を組めないので縦列で進む。

すると、先頭を行く光輝達やメルド団長が立ち止まった。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。どうやら魔物のようだ。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 


メルド団長の忠告が飛ぶ。

 その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 


「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

メルド団長の声が響く。

 

勇者達が相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を坂上が拳で弾き返す。天之河と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。


 龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

 まずいと思った直後、

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

 部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 


体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。ロックマウントの咆哮をくらってスタン状態に前衛陣が陥った。

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ後衛組に向かって投げつけた。咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が後衛へと迫る。

詠唱途中の後衛陣は魔法を唱えようとするがその岩は実はロックマウント。正直隼人でも気持ち悪いと思うほどであったので女子はもっと苦手であろう。詠唱を止めてしまう

 

「こらこら、戦闘中に何やってる!」

 慌ててメルド団長がダイブ中のロックマウントを切り捨てる。

香織達は「す、すいません!」と謝るものの相当気持ち悪かったらしく、まだ、顔が青褪めている。

そんな様子を見てキレる勇者に一応詠唱を始めた

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 


どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。彼女達を怯えさせるなんて! と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする天之河。それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

 


メルド団長の声を無視して、天之河は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まる。雫が頭を抑える


 パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った天之河に笑顔で迫っていたメルド団長は拳骨を食らわせた。

 

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 


メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する天之河。

慰めようとした香織が崩れた壁の方にふと視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 


その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 


グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとかとハジメが言っていたなぁっと隼人が思い出す。。

 

「素敵……」


 

 香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けていた。隼人と雫は気づいて苦笑していたが

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。

 


「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

 しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

 メルド団長は、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

「団長! トラップです!」

「ッ!?」

 


しかし、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップ。

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していく。

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 


 メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが間に合わない。

 部屋の中に光が満ち、クラスメイトの視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

隼人達は空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

尻の痛みに呻き声を上げながら、隼人は周囲を見渡す。クラスメイトのほとんどは俺たちと同じように尻餅をついていたが、メルド団長や騎士団員達、一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

「園部。」

「あっ。ありがとう。ここは?」

「わからん」

 

 転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはある橋は下に川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。隼人達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 


 雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

だけどそんな甘く行くはずがない

階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

――まさか……ベヒモス……なのか……

 

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