異世界料理人   作:孤独なバカ

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バイト先から帰ったら返信しますんで。


ベヒモス

 橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は一メートル位の大きさだが、その数がおびただしい。

 小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物〝トラウムソルジャー〟が溢れるように出現した。空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は、既に百体近くに上っており、尚、増え続けているようだ。

しかし、数百体のガイコツ戦士より、反対の通路側の方がヤバイと俺は感じていた。

 十メートル級の魔法陣からは体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が出現したからだ。もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスだろう。ただし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているという付加要素が付くが……

メルド団長が呟いた〝ベヒモス〟という魔物は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。

 


「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

 

隼人は息を飲むと全てを理解する

ここは一歩間違えたら全滅すると

 

「紅蓮の焔を咲き乱れ。全ての大地に焔よ渦巻け。渦火。」

 

隼人はそういって呪文を唱える。初級の範囲技だがチートの魔力はすごいらしくすぐに炎に包まれる。

 

「園部。戦えないのなら俺の後ろに隠れてろ」

「は、隼人?」

「……やるしかねぇか。」

 

隠しておきたかったが、俺はホルスターから銃を抜く

 

「ハジメ。」

「うん。」

 

ハジメも同じタイミングで銃を抜きトリガーを合わせ

 

 

ドォンッ!ドォンッ!と二発の銃声が聞こえ一撃で骸骨を葬る

 

「「「えっ?」」」

 

近くにいた園部のパーティーが隼人とハジメの方を見る。

王都で稼いだ金で作った一品だ。

二つしかないがそれでもハジメが作っただけあって威力は十分だ

その間も周りを気にせず銃を撃っていき、合間を見計らって隼人が指示を出す。

 

「とりあえず天之河が来るまで待機だな。隊列組むぞ。さすがと俺とハジメだけじゃちょっときついし。」

「お、おう。」

 

隼人の銃撃でどうやら目が覚めたらしく隊列を組み直していく

銃、それは俺たちの世界でも有力な武具で、よくFPSなどの娯楽でも登場してくる。

ハジメは作業スペースでしか撃ったことはないが、俺はフィールドに出て実験として魔物を狩っていた。銃二丁をたった2週間で完成させたのはハジメの物作りの才能があってこそだろう。

でも本当に辛いと判断しざるを得ない、

誰も彼もがパニックになりながら滅茶苦茶に武器や魔法を振り回したり発動している。このままではいずれ死者が出る可能性が高い。騎士アランが必死に纏めようとしているが上手くいっていない。そうしている間にも魔法陣から続々と増援が送られてくる。

必要なのは強力なリーダーと道を切り開く火力。調子に乗らせたくないけど、天之河しかやっぱりいないか。

 


「ちょっと天之河のところに行ってくる。前線頼む。」

「お、おう。」

「私も行くわ。」

 

どうやら優花もついてくるらしい。

まぁ今はこっちは回りそうだし、それなら説得を頼んだほうがいいだろう。

 

「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」

「雫ちゃん……」

 


苛立つ雫に心配そうな香織。

勇者パーティーは隼人が思っていたよりも現実が見れてないようだった。

 

「天之河くん!!」

「おい。天之河さっさと引け。」

「なっ南雲!?」

「南雲くん!?」

「隼人と園部も?」

 

 驚く一同に南雲は必死の形相でまくし立てる。

 

「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」

「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて君たちは……」

「「そんなこと言っている場合かよ!」」

 

隼人たちを言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした天之河の言葉を遮る。今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。

 

「見てよ。みんなを、あれが見えないの!?みんなパニックになっているのよ!」

「リーダーがいないからだ!一撃で切り抜ける力が必要なんだ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て」

 

優花とハジメが後に続く

元々同じリーダータイプの優花の言葉と元々いつも苦笑いしながら物事を流す大人しいイメージとのギャップはかなり効いたらしい

呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る光輝は、ぶんぶんと頭を振るとハジメに頷いた。

「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ――」

「下がれぇーー!」

 


〝すいません、先に撤退します〟――そう言おうとしてメルド団長を振り返った瞬間、その団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。


暴風のように荒れ狂う衝撃波が俺達を襲う。咄嗟に、ハジメが前に出て錬成により石壁を作り出すがあっさり砕かれ吹き飛ばされる。多少は威力を殺せたようだが……


 舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われた。

 

「ぐっ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」

 


天之河が問う。それに苦しそうではあるが確かな足取りで前へ出る二人。団長たちが倒れている以上自分達がなんとかする他ない。


 

「やるしかねぇだろ!」

「……なんとかしてみるわ!」

 


 二人がベヒモスに突貫する。

 


「香織はメルドさん達の治癒を!」

「うん!」

 

隼人の指示で香織が走り出す。

恐らくだけど今のレベルでダメージを与えられるのであれば、メルド団長が倒しているはずだ

今どうやったら逃げ切れる?

隼人は考えるとさっきの洞窟で使っていた錬成を思い出す。

 

「……南雲、お前地面を変化できたよな?錬成で天之河たちが来るまでベヒモスを抑え込めるか?」

「……やっぱりそうするしかないよね?」

「あぁ。それで逃げ出す時に俺の氷魔法で上書きすれば逃げ出せる可能性は高いんじゃないか?」

 

ハジメは少し考える。成功するかはわからない

だけど隼人たちだけが危ない橋を渡ろうとした

 

「……うん。やってみる価値はあると思うよ。」

「私も少し水属性の適正はあるから手伝うわよ。」

「えっ?園部さんも?」

「私も隼人に頼ってばっかりじゃいられないし、そうしたいから。」

 

恐らくもう覚悟は決めたのであろう。

正直隼人はあまり変わらないと思っていたが、それでも隼人と優花のグループを見るとしっかりと統制がしかれているのを見て頷く。

 

「ボケッとするな! 逃げろ!」

 


メルド団長の叫びに、ようやく無傷というショックから正気に戻った天之河達が身構えた瞬間、ベヒモスが突進を始める。そして、天之河達のかなり手前で跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下した。

天之河達は、咄嗟に横っ飛びで回避するも、着弾時の衝撃波をモロに浴びて吹き飛ぶ。ゴロゴロと地面を転がりようやく止まった頃には、満身創痍の状態だった。

どうにか動けるようになったメルド団長が駆け寄ってくる。他の騎士団員は、まだ白崎による治療の最中だ。ベヒモスはめり込んだ頭を抜き出そうと踏ん張っている。

 


「お前等、動けるか!」

 

とどうやら勇者パーティーも騎士たちも動けそうにない

 

「メルド団長。俺たちが引き継ぎます」

「えっ!ダメだ逃げろ!」

「いいから作戦を聞いてください」

 

そして俺はメルド団長に作戦を伝える。

するとぎょっとしていたがそれが最善手であることがわかったのだろう。

 

「やれるんだな?」

「やります。」

 

決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくるハジメに、メルド団長は「くっ」と笑みを浮かべる。

 


「まさかお前達三人に命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」

「はい!」

 


 メルド団長はそう言うとベヒモスの前に出た。そして、簡易の魔法を放ち挑発する。ベヒモスは、先ほど光輝を狙ったように自分に歯向かう者を標的にする習性があるようだ。しっかりとその視線がメルド団長に向いている。

 

そして、赤熱化を果たした兜を掲げ、突撃、跳躍する。メルド団長は、ギリギリまで引き付けるつもりなのか目を見開いて構えている。そして、小さく詠唱をした。

 


「吹き散らせ――〝風壁〟」

 

 詠唱と共にバックステップで離脱する。


その直後、ベヒモスの頭部が一瞬前までメルド団長がいた場所に着弾した。発生した衝撃波や石礫は〝風壁〟でどうにか逸らす。大雑把な攻撃なので避けるだけならなんとかなる。

再び、頭部をめり込ませるベヒモスに、ハジメが飛びついた。

 

「「冷やせ、冷光」」

 

元々温度調節する魔法であり軽い冷気で赤熱化の影響を消していく。そしてハジメも詠唱した。名称だけの詠唱、最も簡易で唯一の武器。

 

「錬成」

 

石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、ハジメが錬成して直してしまうからだ。

ベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとするが、今度はその足元が錬成される。ずぶりと一メートル以上沈み込む。更にダメ押しと、南雲はその埋まった足元を錬成して固める。

サポートできない部分は魔法陣を書きながら水を出す魔法と凍らせる魔法を隼人と園部が分担して逃げ出せないようにしている。

ベヒモスのパワーは凄まじく、油断すると直ぐ周囲の石畳に亀裂が入り抜け出そうとするが、その度に錬成をし直して抜け出すことを許さない。ベヒモスは頭部を地面に埋めたままもがいている。中々に間抜けな格好だ。

しばらく同じことを続けていると悲鳴が聞こえなくなり、次第に歓声に変わっていく。

どうやら天之河がアッチに合流したらしくもはや相手にならないようになっていた。

……ハジメの汗がやばいな

もうそろそろタイムリミットが近いので最大限の魔力を伴った詠唱に入っている。

隼人は氷のオリジナル魔法の魔法陣を書き終わると詠唱に入っていた。

ハジメはもう直ぐ自分の魔力が尽きるのを感じていた。既に回復薬はない。チラリと後ろを見るとどうやら全員撤退できたようである。隊列を組んで詠唱の準備に入っているのがわかる。

ベヒモスは相変わらずもがいているが、この分なら錬成を止めても数秒は時間を稼げるだろう。その間に少しでも距離を取らなければならない。それに既に隼人たちが詠唱に入っている

 額の汗が目に入る。極度の緊張で心臓がバクバクと今まで聞いたことがないくらい大きな音を立てているのがわかる。

タイミングを見計らって目を離す。

そして、数十度目の亀裂が走ると同時に最後の錬成でベヒモスを拘束し、ハジメが俺たちの隣を通り過ぎたあたりで同時に、魔法を解き放った

 

「「雪嚢」」

 

すると雪崩のごとく大量の雪が押し寄せてくる

それと同時一気に駆け出す。

隼人はステータスは前衛職ではないので圧倒的に足が遅い。

雫の10分の1くらいといえばわかりやすいだろう。

だからハジメに追いつくのに8秒近くかかり、それと同時に怒りの咆哮を上げるベヒモスは追いかけようと四肢に力を溜めた。

だが次の瞬間、あらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。

夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。ダメージはやはり無いようだが、しっかりと足止めになっている。

十分だろうと思いそのまま足を走らせ躓かないように走る

ベヒモスとの距離は既に四十メートルは広がった。

その時後衛陣にいるはずのない人間を見かける。

 

なんで檜山がいるんだ?

と一つだけ後衛陣の中でつい気になったところを見てしまう。

するとあいつの適正は風のはずなのに火の球が3つ放たれた。

 

「ハジメ。優花。飛べ!!」

 

隼人の言葉に一瞬隼人に視線を集めてしまった

無数に飛び交う魔法の中で、その3つの火球がクイッと軌道を僅かに曲がる。言うまでもない。檜山の魔法であり明らかに隼人たちを狙っての魔法だった

瞬間とっさに三人回避をこころみるが

 

「あぐぅ。」

「「園部(さん)」」

 

魔法の一つが園部の足に直撃したのを見て隼人は自然と優花に駆け寄っていた。

……生きたいとかそんな些細な感情は隼人にはなかった。

 

笑っている優花を見ると胸が熱くなって。

料理している姿を見られていると少し照れ臭くて。

泣いている優花を慰めて

くだらない話で盛り上がって

走馬灯みたいに思い出が僅かの時間で思い出せてくる

自覚するのが遅かった

隼人は園部のことが好きだったのだと

 

だから最後は

何もしてやれなかったから

もう会えないのなら

死んでもいい

でも最後は優花の側でいたい

 

隼人は園部に近寄りからっきしの魔力で余り適正のないが痛みを抑える回復魔法を使う。

 

「隼人。なんで?」

「好きな奴見捨ててまで生きたいと思えないからな」

 

恐らく最後の言葉であろう声に少し園部が驚いたようにして、そして少し恥ずかしそうに小さな声で「馬鹿」といいつつ抱きついてくる

その言葉の通りもう目の前にはベヒモスが接近している。どうやら標的は運悪く優花だ

そして、赤熱化した頭部を盾のようにかざしながら隼人たちに向かって突進してくる。

遠くで焦りの表情を浮かべ悲鳴と怒号を上げるクラスメイト達。

目を閉じその時を待っているところだった。

 

「錬成」

 

声が聞こえるとベヒモスはバランスを崩し転びこむ。衝撃は目の前にいつのまにかできていたと土壁が俺たちを守っていた

 

「南雲くん?」

「園部さんを背負って逃げよう。」

 

隼人はハッとして園部を背負おうとした時だった

ベヒモスの突進した衝撃が橋全体が震動したのだろう。着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走る。メキメキと橋が悲鳴を上げる。

そして遂に……橋が崩壊を始めた。

 

「グウァアアア!?」

 


 悲鳴を上げながら崩壊し傾く石畳を爪で必死に引っ掻くベヒモス。しかし、引っ掛けた場所すら崩壊し、抵抗も虚しく奈落へと消えていった。ベヒモスの断末魔が木霊する。

それは隼人たちも同様で隼人も逃げれると思ったのだが、さすがに優花を置いていくことには違いはなかったので逃げるのを諦めた。

そして落下を始めると暗い笑みを浮かべる檜山を睨みつけ隼人たちは地下へと落ちていった。

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