ありふれない生まれで、世界観光   作:ぴんころ

6 / 9
第六話

 ミレディのもとでの訓練は、頭がおかしいのではないか、と思わせるような内容となった。

 

 一日目は、魔法の行使が追いつかず肉体を延々とすり潰された。

 死への恐怖で動けなくなった時には、魂魄魔法によって感情に干渉されて、死への恐怖を一時的に打ち消されて、さらに続行。

 おまけで、戦場に出る前に死への恐怖を飼いならすか、あるいは消失させるかしておけ、と言われて死への恐怖をぶり返させられて、もはやみっともないというレベルではすまなかった。

 

 二日目は、一日目終了時点ではどうにもならなかったのか、気絶し(ねむっ)ている間にまた死への恐怖を消されていた。

 その状態のまま、前日と同じような配列で重力魔法によるブロックが無数に飛んでくるという事態。

 少なくとも、前日よりはマシになった、と思いたい。

 最初の数回分程度ならば重力魔法で強制的に止めることができたし。

 

 三日目は、前二日よりもブロックの配列がひどくなった。

 というのも、飛んでくるブロックに常に近いものから順に番号を割り振ったことで、『1番が2番にぶつかる』などのイメージでやることで、前二日よりもまともな対処ができるようになったためだ。

 そのため、これまでは直線で飛んできたブロックが、カーブを描いたり、急に止まったりするようになって、とっさの対応ができずにすり潰された。

 

 四日目は、考え方を変えた。

 前三日間はブロックを迎撃することだけを考えていたのだが、よくよく考えてみれば足元を囚われた状態から脱すれば、迎撃ではなく逃げ回ることも可能になるのではないかと考えたのだ。

 とはいえ、足だけを異界に繋げ、さらに異界へと囚われたがために異界とトータスの間で発生する世界の壁によって寸断されてもおかしくない状況で、肉体の連続性だけを保たせた状態へと固定させているという高等テクニックを簡単に破ることができるはずもなく。

 重力魔法による迎撃は可能だったが、そもそも今回の訓練は”神代魔法のコツをつかむこと”だったことを思い出して、どうにかこうにか空間魔法を使っての脱出、及び武器の回収による迎撃を試みることにした。

 

 そうして、五日目、六日目と空間魔法を使用しての脱出の訓練をして。

 

 今、七日目は最後の総仕上げ、ミレディ・ライセンとの戦いの中で神代魔法を使用して戦闘を組み立てることができるのかの訓練となっていた。

 

「ほいほい。まずはこれかな〜」

 

 空間魔法による無制限の転移と、重力の方向を調整したことによる複数の方向に対する同時の”落下”でブロックの軌道はひどく複雑になる。

 それらすべての動きを見切るのは無理だと切り捨てて、空間魔法による擬似的な結界を張り巡らせた。

 全方位、均等の距離に空間魔法による別所との強制連結が行われたことにより、その内側には何人たりとも入ることのできない、まさしく異界と呼ぶべき空間が擬似的に作り上げられる。

 けれど、油断は禁物。

 この程度、突破できないような人物が後の歴史に”伝説”として名を残すことなど不可能なのだから。

 

「ふむふむ。少しは空間魔法をうまく使えるようになったみたいだね〜。でも、それは繋ぐ場所を全く選ばなかった場合の話だから……今度はこれだね!」

 

 己が美少女である、ということをしっかりと理解して、それすらも武器として扱っているのか、ペロリ、と舌を出して茶目っ気を見せながらも行われる攻撃は、まるで可愛らしくはない。

 フレイル型のモーニングスターを、持ち手の部分をヌンチャクのように振り回しながら、どこから攻め込んでくるのかを掴ませない。

 その速度はすでに音速を超えソニックブームを巻き起こしている。

 生み出された残像には空間魔法が仕掛けられ、その全てが実態へと変化したことでその全てが無視してもいいものではなくなり、破壊力を乗算していた。

 

「こん、のぉ!」

 

 そして、その全てが、空間魔法によって作られた聖域へと飛び込む瞬間、一瞬だけその器を幻へと変換させられ、実在の物質を全て飲み込む大口を開けた結界をすり抜けてきた。

 重力魔法での対処は不可能。

 重力魔法による本来ありえぬ方向への”落下”を付け加えられたモーニングスターに携わる重力は、その密度からしてこちらの重力魔法を上回る。

 そして、それを避けるために動こうとした瞬間、とんでもないほどの圧力が身に降り注ぎ、その動きを縫いとめられた。

 

「ぐっ……」

 

 重力魔法の多重行使。

 それも、こちら個人の範囲にまで圧縮された重力空間と、空間魔法による実態を得た合計三十のモーニングスターにのみ作用する、多方向への重力。

 その絶技に対抗するために、こちらも体へと魔力を通す。

 空間魔法によって、この訓練が始まった一週間前に回収されていたアーティファクトを発見して、それを異界から回収。

 同時に、重力魔法によって一瞬だけ重力結界へと対抗して抜け出す。

 

 それでもなお、すぐに標的の位置を再確認して襲いかかってくるモーニングスター。

 それはつまり、この程度すら対処できないようならば、これ以上先に進むことすらできないということを示していて。

 

「舐めるなぁっ!」

 

 向かってくるモーニングスターへの対処に、選んだのは昇華魔法。

 小難しいことを考えていたから完璧な発動ができなかったそれは、この一瞬”モーニングスターを迎撃できるだけの身体能力”という大雑把な考えで放たれたからこそ、イメージに雑念が入らない。

 激突と同時に、嫌な音が双剣状態のアーティファクトから聞こえた。

 

 よって、動きは切り替わる。

 

 昇華魔法によるアーティファクトの強化……不可。

 すでにミシリという嫌な音が鳴ってしまったのだから、耐久力に余裕があるわけではない。

 このアーティファクトの強化版が与えられる、ということでここで使い潰すのも選択肢としてはありなのだが、それがいつ与えられるのかわからない以上、武器を持たない、という期間は作りたくない。

 昇華魔法を使用して、あのアーティファクトにかけられている干渉を排除、然る後にアーティファクトの能力によるモーニングスターを補強用の材料としてのアーティファクトの補修及び強化……不可。

 そもそも大前提となる”ミレディによる干渉を排除”の部分の達成が無理である。

 

 訓練が終わるまで保てば、そのあとは適当な鉱石を使って錬成すればいいので、戦いの間だけ保つように再生魔法によってアーティファクトの傷を補修するという応急修理を行いながら、魂魄魔法を使用する。

 対象は、ミレディの魔力。

 無論、ミレディがその気になれば一瞬で無効化される干渉であるが、干渉を破棄させるには一瞬だけとはいえモーニングスターを操る魔力を途絶えさせなければならないし、無視すればそもそもモーニングスターを操れない。

 どちらをとったとしてもミレディはモーニングスターを自力で操る必要が出てきて、境界をいじったことで残像全てが実態をとっているためにその重量は最初に持っていたそれとはまた違う。

 残像全てが持ち手と繋がったことで奇怪な形状と化したモーニングスターを操るのは、それこそ重力魔法があったからこそできた代物。

 故に、どうあがいても一瞬だけ動きは止まってしまう。

 

「ほっほ〜。そうきたか〜。……なら、次はどうする?」

 

「っ……! こうするんだよ!」

 

 干渉を解除、同時に逆流してきた魔力に痛みが伴い、わずかに声を漏らす。

 ここで干渉返しを行って来なかっただけ有情と言えるだろう。

 これは”神代魔法を使用できるようになる”ことが目的なのだから、まあ当然と言えるのだが。

 解除された痛みと異物感を無理矢理に堪えながら、再生魔法と空間魔法の同時使用。

 

「──アクセラレイター!」

 

 再生魔法で時の流れに干渉、強制的に流れる速度を遅くする。

 範囲は、迷宮の大部屋。

 神代魔法に適した肉体と、蕃神という神に位置する天職がなければ、決して成し得ぬ広範囲の時間干渉。

 それも、個人に対して干渉するのではなく、部屋そのものへと干渉するのだから、急激な魔力減少が発生する。

 発生する虚脱感と頭痛を無視して、同時に空間魔法の使用。

 自分だけを”通常の時間の流れ”に置くことで相対的な加速を得る。

 

 これは、概念魔法の一歩手前と呼んでもいい。

 新しい概念までは生み出していないために”概念魔法”ではないのだが、七つある神代魔法の特性を複数組み合わせる、というのはそれに近しいところがあるからだ。

 解放者たちが、彼らが手にした神代魔法で行なっている行動を、こちらは身体に最初から搭載されていた神代魔法で真似をする。

 

 相手への干渉は、相手がこちらよりも格上ならばすぐに破られる。

 故に、干渉の対象は相手個人ではなく空間。

 相手が干渉を破る手段そのものを持っていようと、それを使用するまでの時間の流れが遅くなっているので、こちらが動くことでどうとでもできる。

 

 そして、自分を強化しないのは、強化した肉体を使いこなせる自信がないから。

 脚力を上昇させて速度を向上させれば、地面を蹴って走ったところで狙った場所よりも前に進んでしまう可能性だってある。

 なので、速度に関しては自分の身体能力はあげないことにした。

 

 そのために複雑なプロセスを通って発動される魔法であり、魔力消費量はバカにならない。

 体感で、保って三十秒。

 けれど、それだけあれば十分だった。

 

「起動」

 

 アーティファクトがこちらの意思を汲み取って、変形を開始する。

 素材は、干渉を破壊するために一瞬だけ重力魔法が解除され、その状態のままだったモーニングスター。

 ミレディの武器を排除するために、こちらの武器強化の材料にする。

 錬成の速度は、自分と、自分と接触しているものに対して空間魔法がかけられているので普段とほとんど変わらない。

 作る武器は、巨大な砲塔と一発だけの弾。

 

「吹、き、飛、べぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 巨大すぎる砲塔が完成するよりも先に、その砲塔の完成形でミレディの肉体から逃げ場を奪うように、包み込むように、地面に砲塔を突き立てる。

 この程度では死なないという信頼とともに、ただ爆発とともに弾を打ち出すだけの機構を展開して、放つ。

 生まれた衝撃が全身を襲い掛かり、思わず手を離した結果吹き飛ばされる。

 同時に、武装が破壊される様が視界に入り

 

「うん、これぐらいできれば問題ないかな」

 

 その中から、無傷のミレディが出現したのも、また同時に。

 

「はい、それじゃあ、今回の訓練はこれで終わりだよ〜」

 

 そして、その言葉と同時に、全ての魔法が一瞬で無効化された。

 発動していた全ての魔法が解除され、強制的に戦闘終了という事実を叩きつけるという形で実力差を見せつけて、彼女のいう通り、今回の訓練は終わりを告げた。

 

 

 

 

「マルドゥクはどうでしたか、みーたん」

 

「ノイント……いつの間に来てたの?」

 

 気がつけば、後ろにノイントがいた。

 けれど気がついていなかったのは俺だけのようで、ミレディは気にすることなく笑いながら今回の修行の総評をしてくれる。

 

「う〜ん、そうだね。まーくんは多分概念魔法まで使えるようになるにはかなりの時間はいると思うよ。あれ、使うのに極限の意思と複雑なプロセスの明確化が必要だから。アクセラレイターだっけ。あれの発展形になるわけだし。代わりに、単体ごとに使うなら結構自由に使えるようにはしたから、まあ戦場に出てもすぐに死ぬってことはないんじゃないかな」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

「いいってことよー!」

 

 ……いつの間にかこちらにもあだ名をつけられている。

 こちらに確認すら取らずにあだ名を定着させられたことで、なんとなく彼女が解放者のリーダーをやっていた理由が見えて来たような気がした。

 相手との距離をさらっと詰められるのは、純粋にすごいと思う。

 しかも、特殊な能力や立場で相手との距離を測るのではなく、個人の才覚だけで。

 

「そういうわけだから、神代魔法関連で困ったことがあったらミレディさんに任せなさーい。死にながら覚えさせてあげるから!」

 

「うっす……」

 

 できることならば遠慮はしたい。

 ノイントに抱きつき、ぶら下がりながらそんなことを言うミレディに、思わず心の中をそんな言葉がよぎった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。