ありふれない生まれで、世界観光   作:ぴんころ

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あー……過去トータスで49人の解放者(残りの42人は転生者)がエヒトを倒してしまったようなありふれ世界を書いてみたい


第七話

 剣道三倍段、という言葉がある。

 要するに”剣を持った相手に対して素手の人間が勝つには、段位としては三倍の技量が必要”という意味でよく知られているアレである。

 あとは、槍と剣の間柄でも同じことが言える。

 

 そして、魔人族と人間の間でも。

 

 原作における”解放者”の中には一人、この世界では決して存在しないはずの輩がいる。

 その名をヴァンドゥル・シュネー。

 彼が存在することができない、という理由は至極単純なことで、原作における彼は氷竜の竜人の母と”魔人族の父親”の間に生まれたハーフであるということ。

 つまり、完全に魔人族が敵対している種族であるというこのトータスにおいては、彼という存在は生まれるはずがない。

 だというのに、彼はその名を七人の解放者……協力者の中に連ねている。

 はて、これは一体どういうことなのか、と気になって調べたところ、この世界における彼は、確かに魔人族とのハーフではなかった。

 

 ただし、彼の父親は普通の人間でもなかった。

 

 この世界における彼の父親は、その当時から戦争を繰り広げていた魔人族を倒すために弱点を調べようとしていた科学者だった。

 魔人族の死体を回収し、解剖し、そして自らの肉体に変成魔法をかけることで、魔人族の肉体へと近づけ、当時捕縛することが難しく、たとえ捕縛したとしてもすぐに舌を噛み切って自殺していたせいで行えなかった”魔人族に対しての効果を見込めるか”という実験の被験体代わりになっていたらしい。

 で、そんなことをするような英雄だった科学者が、氷竜の竜人と結ばれた結果生まれた、”人類よりも強靭な肉体を持った新人類のサンプル”とでも呼べる、ヴァンドゥルだった……というのが記載されていた。

 

 そうして生まれた彼は、人類の戦線を押し上げて、英雄と呼ばれるようになった、らしい。

 

 同時に、魔人族の殺し方を確立した、という記載もあった。

 敵方と同等の身体能力を持つヴァンドゥルの存在があったおかげで、本当の意味での”対魔人族”用の戦術が彼を相手に試されることとなり、そうして生み出された原型(アーキタイプ)の戦術が、実際の戦場で使用されて、洗練されてきた、とのこと。

 

 ミレディのところから戻ってきた俺が次に学ぶべきことは、それだった。

 

「と、言いたいところですが、さすがにみーたんのところでの訓練の心労がそろそろ出始める頃でしょう。一旦、あなたには生家に戻ってもらいます」

 

「うっす……」

 

 そのはず、だったのだが、どうやらそれは後回しになることになりそうだった。

 

「そして、これはセレネ。あなたも同様に、です。オルクス大迷宮でついうっかり大魔法をポンポン放ちすぎて魔力痛になっている以上、今のあなたにも無理をさせられません」

 

「はーい……」

 

 魔力痛。

 要するに筋肉痛の魔力版。

 セレネは久しぶりの”自分が魔法で延々と殲滅できる”という感覚に張り切りすぎて大魔法を連発した、と聞いた。

 そのせいで壁が崩落してこれまで見つかってなかった部屋が見つかることになったり、トラップ部屋と呼ばれていた部屋が消し飛んだり、色々と迷宮の地図班(マッパー)が頭を抱えることになったらしいのだが、その辺りは実際に見てはいないので、なんとも言えない。

 

「あ、そうだ。それなら、集合がかかるまでの間、私マルドゥクの家にいてもいい?」

 

「それは……別にいいけど……」

 

 そうなると、家で待っているだろうヌルには伝えておかないといけない。

 イシュタルには伝えなくても別に問題ない。

 どうせ伝えたとしてもあいつが何かするわけでもないし。

 

「それにしても……」

 

 そんなことを考えていると、セレネがこっそりとこちらの耳元で囁いてきた。

 ちょっとくすぐったい。

 

「いつも無表情なノイントさんがみーたん呼びしてるのって、なんか不思議な面白さがあるね……」

 

「何か?」

 

「あ、なんでもないです、はい」

 

 氷のような表情で睨まれた、怖い。

 

「ああ、それと、マルドゥクの壊れた武器に関しては、修復が終了次第そちらの家に送りますので」

 

「了解でーす」

 

 

 

 

「そういえばさー」

 

「ん、どうした?」

 

 たった二人を乗せるにはあまりにも広々とした大型馬車は、神の使徒を乗せるという大業のために用意されたもの。

 本来ならば王侯貴族だけが乗るような代物なのだが、”お前らには任せておけねえな”なんて意見が出ることを封殺するためのものらしい。

 十人乗りの馬車ながら、二人だけしかいないのでかなり空間が余ってしまっているのに、話をするためなのかセレネはこちらに近づいてきて、この大きさの意味が本当に消えてしまっている。

 

「オルクス大迷宮から帰ってくる最中に聞いたんだけど、エヒト様がなんか呼び出そうって考えてるみたいよ」

 

「また……?」

 

「そうそう。……って、まだ一回も何か呼び出されたって話は出てないわよ?」

 

「おっと、そうだった……」

 

 一回目は俺の魂である。

 まだその辺りについては話していないので、どうにかごまかす。

 

「ほら、一応”神の使徒”ってことで私たちが訓練されてるわけだけどさ。そもそも私たちだけじゃ戦争地域全部を同時にどうにかすることはできないし、私たち含めて六人のパーティーになる予定の人たちが全員バラバラに戦ってても手は足りないから、”もしもこの世界が魔人族に敗れたら”って未来を見て、その後に攻め込まれる予定の”チキュウ”って世界から勇者を呼ぶらしいの」

 

「ほーん……」

 

「……なんか興味なさそうね」

 

「そりゃ……なぁ……関わったら文化の違いとかで面倒なことになりそうだし……」

 

 そんな言葉を口にして、地球から呼び出されるという勇者について考える。

 とはいえ、考えるまでもなく原作組のことだろう。

 この世界ではそういう形で原作連中が呼び出されることになったらしい。

 

 と、なると気になるのは一つ。

 

「で、それっていつやる予定なんだ?」

 

 原作(召喚)まで、後どれくらいの時間があるのかということだ。

 

「まだそこまでは決まってないって。エヒト様も相手側の神の妨害しながら準備しないといけないらしいし、多分十年単位の事業になるって話だよ」

 

「うーん、気が長い」

 

「まあ、ずっと昔から生きてる神様だからねー。その辺りの時間感覚は私たちとは違うんでしょ」

 

「それもそっかー」

 

 そうして馬車に揺られること数日。

 ようやく、自分が育った家が見えてきた。

 

「あ、あの子が前から言ってたヌルちゃん?」

 

「え、どこ?」

 

 まだ、家がどうにか見えてきた程度の距離。

 それなのに、ヌルが家の前に立って待っているのが見える、とセレネは言う。

 

「うわぁ、本当に目と髪の色がノイントさんそっくり。姉妹だって言うのは本当だったか……」

 

「あ、それならヌルだ」

 

 ヌル以外の神の使徒が前に立っていたら、そっちの方が恐ろしい。

 一応、服装についても聞いてみたが、こちらの教育係ということで目立たないようにと着ていたワンピースを着用しているらしく、これでヌルだということが確定した。

 家の前にまでたどり着けば、確かに言っていた通り、ヌルがそこに立っている。

 

「おかえりーマルドゥク。それと、あなたがセレネちゃん、なんだよね。いらっしゃい」

 

「ただいまー」

 

「どうも、お邪魔します。……自分よりも小さい子にちゃん付けで呼ばれるって不思議」

 

 ちなみに、見た目的にはヌルが4、5歳ぐらいから一切成長しておらず、セレネは12歳ぐらいでステータスプレート曰く実年齢は128歳。

 ヌルの実年齢はステータスプレートにすら表記されてなかったので誰も知らない。

 

「マルドゥクの武器に関しても私が専属になることになったから、武器の修復が終わるまではここから出られないと思ってね?」

 

「え、大丈夫なのそれ」

 

 そして、そのステータスプレートには、彼女が再生魔法を使えたり、錬成関係の技能を使えるという情報は一切なかった。

 なのにいきなりそんなことを言い出すので、ちょっと不安になってくる。

 

「心配ご無用! ついでに、セレネちゃんも何か欲しい武器があったら言ってねー。概念魔法を使って金属を生み出すところからスタートするから時間はかかるけど」

 

「おい」

 

 なんだかとんでも無いことを口にしたぞ、今。

 ……概念魔法を、自分は使えない。

 そもそも、あれを使用できるほどの”極まった意思”を持たないから。

 なので、”魔法を組み合わせる”ところまではできても、それで新しい概念を生み出すことはできないのだ。

 

 なのに、それをヌルは使えるようになったという。

 

「その辺りはあれ。私の主に色々とお願いして、アップデートしてもらったから」

 

「……なるほど」

 

 納得はできないけれど理解はできた。

 少しだけ問い詰めるような形になってしまったので、目をパチクリとさせていたセレネは、こちらの会話が終わったとみて、ヌルに返事をしている。

 

「あはは……はい、ちょっとまだ武器をどうするのかは悩んでるので、決まったらよろしくお願いします」

 

「お任せあれ、ってね!」

 

 そう言って、ヌルはパチンとウインクをした。

 顔立ちは整っているので、それがとても似合う。

 そんな彼女はくるりと反転して、ちゃんとご飯も用意してあるよ、とそのまま家の中へと入っていった。




初っ端で剣道三倍段について語ってますが、実際は”素手と剣の間の比較”ではなく、”剣と槍の間の比較”です。
主人公は間違って覚えているだけなので、気にしないでください。

ヌルは概念魔法の資格を得ただけで、実際に使用するには極限の意思が必要なことには変わりないのです……はて、それでどうやって使うのやら……
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