空に憑かれた者たちへ   作:砂岩改(やや復活)

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第3話

 

「オーシア連邦大統領府は非常事態権限法を発令。ユージア大陸派遣停戦監視軍含むオーシア陸海空軍に対し、ただちに反撃準備に移るよう命令を下しました。国民の皆さん、我が国は戦争状態に入りました。繰り返します」

 

 フォートグレイス基地の食堂に設置されたテレビに生き残ったものたちは食い付きニュースを耳にする。改めての宣言に固まるものもいれば緊張で喉に食事が通らない者たちもいる。

 

(戦争が始まった…)

 

 ブラウニーもその中の一人であったがトリガーは相変わらず黙々と食事を口に放り込み関係ないとばかりに食事を続けていた。

 

(次の出撃は何時だろう…)

 

 彼女にとって空を飛べるか飛べないか。それだけが重要だった。そこに戦争もなにも関係ない。相変わらず彼女は変わっていなかった。

 

ーー

 

「今回の目的はレーダー車両だが対空兵器や軍用車両も存在している」

 

 トリガーたちの次の任務は言葉通りすぐやって来た。軌道エレベーター奪還作戦の先遣隊に加わったのだった。

 スコフィールド高原に展開する敵部隊を退け進撃する味方の援護をすると言うのが今回の任務だった。

 

「目標を破壊せよ。ただしHQからは民間人、民間設備に対する損害は絶対に出さないように申し付けられている」

 

「しかし…撃墜された機体が民間区域に落ちる可能性もありえます」

 

「ゴーレム2、つべこべ言うなこれが今の戦争だ」

 

 ブラウニーやノッカーたちがなにか話しているがトリガーにとってはどうでも良いこと。目の前の敵を落とし任務を忠実に実行する。それが空を駆けられる唯一の手段だ。

 

(また飛べた…)

 

 そんな感慨と共にトリガーは地上に展開しているレーダー車両を黙々と破壊していく。

 

「全てのレーダー車両を破壊。良くやった」

 

(いた…)

 

 レーダー車両を破壊と同時に敵の前線基地に差し掛かったトリガーはミサイルと機関銃でタキシング中の輸送機を破壊。先頭でタキシングしていた輸送機が火の玉になったおかげで他の輸送機が足止めされる。

 

「流石だなメイジ2、手が速い」

 

「どうも…」

 

「相変わらず可愛げかないのも相変わらずだな」

 

 メイジ3の軽口を流しつつ迎撃に上がったMig-21の後ろに陣取る。

 

「くそっ、後ろに着かれた!ブレイクする!」

 

(遅い…)

 

 Mig-21が回避行動を取る前に落としそのままの軌道を取り立ち往生している輸送機を片っ端から破壊する。

 

「良いぞ、メイジ2…っ!?」

 

「!?」

 

 トリガーが破壊した輸送機から巨大な爆発が発生、その余波で機体が揺れる。突然の出来事に彼女も二度見する。

 

「射出準備完了。ロックボルト解除、いつでもどうぞ」

 

「よし、15メートル離れろ」

 

「UAV射出用意、射出!」

 

 基地の端に展開していたトラックから飛翔体が射出。猛スピードでこちらに迫ってきた。

 

「状況報告!」

 

「不明機が複数出現。近いぞ!」

 

「何かから発進。いや、射出された模様」

 

「交戦せよ。敵機である可能性が高い」

 

 ヘッドオンで仕留めるために加速したトリガーだがロックオンしたはずの敵機は猛スピードを維持しながら急激な軌道を取りあっという間にロックオン範囲どころか視界からも一瞬で消える。

 

(速い…)

 

 シミュレーションでも体験しなかった圧倒的な機動性にトリガーは息を飲んでさらに加速する。

 

「あの戦闘機の機影。あの動き、あいつら無人機じゃないのか?」

 

「目が良いなクラウン。間違いない、UAVだ」

 

 無人戦闘機。エルジアが戦力として採用した切り札。その力は凄まじく、ゴーレム、メイジ共々その機体の圧倒的な機動性に翻弄される。

 

「だがやる事は変わらん。多少賢いデコイのような物だと思え、全機撃ち落とすぞ!」

 

「後ろに着かれた!」

 

 UAVに後ろに張り付かれ雲の中を逃げ回るブラウニー。他の機も他のUAVの相手に手一杯だ。

 

「このままだと!」

 

 最悪の考えが頭をよぎった瞬間。F-16CがブラウニーとUAVの間に割り込みながら機関銃で牽制、二機を引き剥がす。

 

「トリガー!」

 

 助けたファルコンは尾翼に銃を咥えた犬のマークが描かれていた。ブラウニーは歓喜の声を上げながらも彼女の後ろに追随していたUAVに向けてミサイルを撃ち込む。

 

「かわされた!?」

 

「UAVは機動性が高い。ハイGターンをうまく使え!」

 

 完璧な位置取りからのミサイルを軽軽と避けられて驚くブラウニーをよそ目にトリガーは宙返りで背後に回り込み至近距離で機関銃をお見舞いし撃ち落とす。

 

「す、凄い…」

 

「敵TAVを撃墜、良くやったな。ゴーレム隊、メイジに手柄を全部持っていかれるぞ!」

 

「良くやったぞ、メイジ2!」

 

「メイジ3、ミサイルだ!」

 

「っ!?」

 

 一瞬の隙を突いた無人機がメイジ3にミサイルを直撃させる。ファルコンは耐えきれずにそのまま爆散、パイロットも絶命する。

 

「メイジ3!」

 

 クラウンの叫びと共に爆炎から飛び出す無人機。それを見逃さないトリガーはそのままヘッドオンで撃ち落とす。

 

「トリガー…」

 

 味方が撃ち落とされたと言うのに動揺すら見せないトリガー。むしろその爆炎を利用して無人機を落とす行動は一種の恐怖すら感じさせられる。

 

「トリガー、メイジ3が殺られた…」

 

「…はい」

 

 一切の感情が乗せられていない返事にクラウンは密かに戦慄する。その一方、トリガーは微かな怒りを感じていた。

 

(狭い…)

 

 無人機に追いかけ回され周りの奴等は群がってやっと無人機と戦っている。必然的に無人機を数機、トリガーが掛け持つ形になってしまった。

 

(狭い狭い狭い!)

 

 完全に行動を制限されたトリガーは初めてこの大空を狭いと感じさせられた。大きくて自由な空を汚されたトリガーの心中は穏やかではなかった。

 

ーー

 

「あのバイパー、動きがいいな」

 

「あぁ、無人機2機相手に粘ってやがる」

 

「俺は奴を仕留める。お前たちは無人機に群がっている奴等を殺れ」

 

「了解しました!」

 

 基地守備隊のMig-21、3機は隊長機がトリガーの元に向かい他の機はゴーレムとクラウンが戦っている戦域に向かう。

 

「もう一機…」

 

「無人機相手に疲れているだろうが。これも戦争だ」

 

 無人機相手にドックファイトをしていたトリガーは意識外からの攻撃に周囲を見渡す。ミサイルはなんとか回避したが機関銃の攻撃を少し貰う。

 

「流石に3機相手じゃ辛かろう」

 

「メイジ2!…くっ!?」

 

 トリガーの危機に駆けつけようとするクラウンだが他のMigに阻まれ近づけない。

 それと同時にトリガーは機主を起こして急上昇、雲に突っ込む。それを追う3機。

 

「悪あがきを…うお!?」

 

 雲から出た瞬間ファルコンが目の前に迫ってきていた。それを避けるMigと無人機。

 

「特攻か…違う!」

 

 視界が開けた瞬間に失速したファルコン3機の後ろに回った瞬間加速して姿勢を維持、その瞬間にMigからは警告が鳴り響く。

 

「実践で木の葉落としだと!?」

 

「……」

 

 3機をロックオンしたトリガーは4AAMを発射。3機は避けられずにミサイルが直撃、3機同時に撃墜されるのだった。厳密には違うのだが隊長がそう錯覚してしまうほどのマニューバに流石の無人機も対応できなかった。

 

「ナイスキルトリガー!敵機の全滅を確認!」

 

「ピクチャークリア、各隊良くやった!ミッションコンプリート RTB」

 

 メイジ3が撃墜されたが無人機の奇襲を掻い潜った者たちは安堵の表情を見せる。

 

「認めるよ、クラウン」

 

「ノッカー…」

 

「アイツは化け物だ。とんでもない逸材が来たものだ」

 

とんでもない活躍を見せたトリガー、二人は先程と変わって静かに飛んでいる彼女を見つめることしか出来なかった。

 

 

 


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