「・・・・ 貴方、思い切ったわね....!」
「・・・・ 誰のせいだと思ってます....?」
「・・・・ 入部の希望は....貴方の決意なのよ?」
「・・・・ はい、覚悟しています....!」
「・・・・ はぁ、わかった! 私も協力してあげる! あの三人に貴方の正体がバレなければいいのよね」
「・・・・ はい。お願いします....」
お茶会が終わって、今日の『軽音部』の活動は終了した。三人で楽器を演奏してくれるところだったけど下校時間が迫っていたのでまた明日ということになった。今は山中先生と二人でここ旧校舎最上階旧音楽準備室、窓ガラスの向こうには....
『....おーう!』
『....またなっ!』
『....あしたね〜!!』
この校舎を離れていく三人の姿がある。その姿に軽く手を振りながら山中先生と今後について話し合っている。
「まあ、こうなった責任は私にもあるから! そうね....貴方たちはクラスは別々なのよね?」
「はい、選択科目も重なることもありません」
「一年間なら、なんとか誤魔化せそうね....! あとはなるべくここ以外であの三人には会わないこと! すれちがいも危険ね....ここはひとつ!」
「....なんです?」
「ここの物置に隠し置いていた私のコスプレコレクション! を着て授業中を過ごすの! もちろんこれなら廊下もOK!」
「センセイ....」
「まあ真面目な話、私以外の助けも必要ね....! ユイ! 唯さんなら協力してくれるんじゃない?」
「姉ちゃんですか....ウチのユイにはそんな器用なこと出来ませんよ....部活の斡旋まで弟の俺がやらされてるんですから。でも....『のどか』なら!」
「のどか? あの真鍋 和さん? うん! あの子ならしっかりしてるし生徒会役員だし! お知り合いだったの?」
「俺と唯の幼馴染です」
「こころ強いじゃない! じゃ、私も教師仲間の誰かに協力をお願いしようかしら! でも、私はまだここでは一年目、なのよね〜。まだまだ教えられる事ばかりでこんなの私から頼むのって....」
「....生徒指導室の白百合先生....」
「え? なに?」
「....いや! たしか生徒指導の先生に煙をパコパコ吸っていたヒトがいたような....」
「ああ! あの『ヌシ!』ね! ええと確か名前は....」
「「んんん???」」
俺たち二人に名前を憶えられていない可哀想な先生....でもあの先生も結構世話焼きっぽい人だし。
「話だけでも聴いてもらえそうね....! そう! あのヌシ先生! 格好イイわよね〜〜っ!!」
「はあ....」
俺、そのカッコいいセンセにいきなり腹パン喰らったんですけど....
「他には? 誰か心当りは?」
「他ですか....奉仕部の先輩方....」
「奉仕部....て、あの雪ノ下雪乃....さん?!」
「ええ、そうです。俺の部活巡りの訪問先をリストしてくれた先輩です」
「あなた! 凄いじゃない!! あの雪ノ下雪乃さんと面識があるなんて!!」
「そんなに....すごい人なんですか?」
なんか、教師であるはずの山中先生が興奮気味に喋っている! 教師のあいだでも一目置かれている先輩なのかな?
「私、ここ一年目だからまだ会ったことないのよ〜! 何か入学以来成績学年トップで! 超美人で! 近寄り難いオーラ! を出している! なんて聞かされたらお知り合いになりたいじゃないのよ〜!! ウフフフフ〜〜〜!!!」
ああ、この先生もわりかしミーハーなのね。でもあの先輩、ものすごく綺麗だったし。あの先輩を前にしたら俺たち一般男子はお呼びもされないただのモブだよな〜。そんなすごい先輩に相談にのってもらってたのか。
「まあ、私の出来る事はなんとかするから! 貴方も! こうした以上やれる事はやるのよ! ....でも一番手っ取り早いのは、貴方が『男』である事をあの三人に正直に打ち明ける事なのよねー....」
「それは....そうなんですけど....」
そう....正直に明かせばすぐに解決すること。でも、あの三人が必要としてくれたのは『ユイ』
....三人とも女子だし、新しい仲間も女の子のほうがすんなりとけ込めて部の活動がうまく運ぶ
はず。でも、オレ....なんでだろう....あの三人の中に割り込んでいきたい....! そういう想いに
かられているんだ!....姉ちゃんに嘘をついてでも....
「わかったわ....何か面白くなってきたし! 次は! 貴方のする事は!!」
「....はあ、まさか、あなたが入部するなんて....」
「....ごめん、のどか」
「....まあいいわ、こんなことを頼んだ私のせいでもあるし。でも、メイ!がねえ....!あなたは
まだユイよりは自分の事をこなすことができるとはいえ、部活とか、そういうのには積極的じゃ
なかったから少し驚いたわ。どういう心境の変化なのかしら?」
「....俺にも、わからない....で、のどかにも助けて....協力してもらおうと思ったんだけど....虫が
よすぎるかな....」
「流石に....『女装!』して部員になる! ....なんて突拍子もいいとこだわ! はあ、要するにこの
事はその....『軽音部』の三人には....てことね?」
「....のどか〜〜〜!!....」
今朝、学校の授業が始まるまでの間、俺とのどかは例の渡り廊下で密談をしている。
昨日の『軽音部』での一件をのどかに説明して協力を仰ぐためなんだけど、のどかから
したらオレの女装があの『軽音部』の連中にバレないように、止むを得ず入部するための
『裏工作』のように見えるのかも....確かに、半分は俺にもそういう想いがあるのかもしれない。
でも....半分以上はやはり、俺自身の『決意』のつもりなんだけどな....どちらにしても、
のどかには頼りっぱなしだなー....
「はいはい! たく....貴方たち姉弟は! フフフっ!....じゃあ私、先輩方に頼んで制服のお古が
あるか聞いてみるから! それと....」
「なに?」
「唯は生徒会で預かるわ。私と一緒に色々と手伝わせるつもり。それに....」
「ん?」
「ウチの会長....この前奉仕部で会ったわよね....一色会長というんだけど....なぜかユイととても
ウマが合ってるのよ....!」
「ふーん?」
ああ、あのフリフリ....うん、べつに珍しいことじゃないなー。ウチの姉ちゃんならそんなの
お茶漬け前だし。でも生徒会かー、ウチのユイにはなんの縁もゆかりも無さそうなところだしー。
「ここの会長....男子には受けがいいけれど....女子たちの間では....なの。まあ私は一年だし、
そういう面倒な事には巻き込まれはしないけど、でも唯だけは、どう言う訳か会長も気に
入っちゃって、毎日手作りのお菓子やら紅茶やら率先して唯に振舞ってるの! もう唯も
喜んじゃって....他の役員さん達も唯のこと可愛がってくれてるし」
「おお」
おお、さすがはウチの姉! 生徒会なんてお堅たそうな所まで周りをトロかしてしまうとは!
姉ちゃんて俺たちが何もしなくてもちゃんとやっていけるんじゃん?
「あとは....問題が発生する度に対処することかしら? どんな事態が発生するかわからないけど。
あと、放課後は唯をうちで預かるとして....」
「あとは?」
「あなたの放課後での仮りの居場所ね。いくらユイ相手にも本当の事は言えないし....こんな事、
あの先輩に頼めるかわからないけど」
「ん?」
「・・・・ はぁ・・・・ まさか貴方が・・・・ 女子として・・・・ あの『軽音部』に
入部だなんて・・・・ 前代未聞もいいところだわ・・・・」
「え〜〜〜〜! スゴいじゃんっ!! おもしろ〜〜いっ! ねえねえ! 女子の制服で! 髪も
女の子みたいに!! うわ〜〜! わたしもソコ入るし〜〜〜っ!!!」
「由比ヶ浜さん? 貴女ももう三年生、もう受験の対策を優先する処なの。 貴女....アノ男と同じ
大学を受験する! て息巻いて居なかったかしら?」
「....わっ! わ〜〜〜っ!! わああ〜〜〜〜っ////!!! ゆきのんナニを言うしっ!! こんな
人前で....!! メイメイ! これは秘密だし! ヒッキーにはナイショだし〜〜〜っ!!!」
「は、はあ....」
のどかが昼休みの間にここ『奉仕部』での相談依頼をセッティングしてくれた。俺の話を聞いた
雪ノ下先輩は自分がお膳立てした部活訪問の提案の『想定外の結果』に呆れ果ててしまったのか....
頭を抱え込んでしまったし....由比ヶ浜先輩はこの話に俺以上に興奮してはしゃぎ出すし....それに
ここって授業をする校舎から結構離れてるとこなのに二人とも昼食をわざわざここに来て食べて
るのね。今日はナゾの現象は起きないのかな....んで、『ヒッキー』てナニ??
「つまりは....貴方が放課後、この部室に来て、奉仕部活動を行う、という設定をする。早い話が
『幽霊部員』という事ね」
「《ビクっ!!》幽霊....ですか....あの....」
「お断りするわ」
「....チョっ! ユキノンっ!!」
「はあ....」
....この先輩、真面目でかなりお堅い、て話だったけどやっぱり....まあ、こんなムシのいい依頼、
引き受けてくれるのはのどかぐらいなモンだからな....
「....わかりました。ここは自分で何とかします。雪ノ下先輩、由比ヶ浜先輩。相談に乗ってくれてありがとうござい....《カタっ》」
「....その、待ちなさい、平沢....君。まだ....話は終っていないのだけれども」
「はい?」
椅子から腰を上げたら雪ノ下先輩が俺を軽く制止した。話がつづくのかな?
「....幽霊部員であるならば即却下よ。でも、正式な部員であるならば....ここに在籍しているという正統な事由になるわね」
「ほんとっ! ゆきのん!!」
「えーとお....」
「....つまり、例え週一日でも、部活動に参加しているという実績があれば、部員としての正統な
資格が得られる、そういう事」
「週一! ですか?」
「例えば....そうね....週一日でも、この部室に来て、部員達と昼食を共にする....というのも....有り! で....いいのかしら....?」
「....うわあああっ!! ソレっ! それあるーーっ!! ヤッターユキノ〜〜ン!! これから毎日!
メイメイとお昼だしーーーっ!!!《ダキツキーーーっ!!》」
「....ちょっ! 由比ヶ浜さんっ!!??」
「ゆ〜きの〜〜〜んっ! えへへへへ〜〜〜〜!!!!」
うわああああ・・・・ こりゃボリューミー! だあ・・・・ オレより背の高い高三の女子同士が
頬擦りあってイチャイチャするなんてコト・・・・! オレたち三兄弟とはレベルが違いすぎる!
・・・・ ん?『・・・・ エへへへへ~~!!』 由比ヶ浜さん? 今度はオレを見て、ニカ〜っ!
としてません??
「....わ〜〜〜メイメイ〜〜っ!! 毎日ここでお昼を食べようねーーっ!! メーイメイっ!!!
《ムーギュギューっ!!!》」
ああ・・・・ 今回も・・・・ そのボリューミー! なナイスバディ!! ・・・・ に抱きつかれてしまいました....前回は椅子に座った状態だったけど、今日は全身だあ・・・・
「はあ、二人とも、程々にしておきなさいね....それに、平沢君には平沢君の付き合い、という
ものがあるのだから、週に一度よ。由比ヶ浜さん?」
「えぇえ〜〜〜っ!!!」
「ハイ・・・・ ! ありがとうございます・・・・!!」
「はあ....私も甘くなったものね・・・・ フフフ!」
・・・・ というわけで、俺もはれて! ....奉仕部部員(昼食要員....)! とあいなることとなりました! ....おかしい....俺は軽音部! に入部しようとしているだけなのに....(この高校は部活の掛け持ちOK! てことだけど...)さて、今日の放課後、正式な軽音部部員!! としての初めての部活動となるのだが! さて、どうなることやら・・・・