◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄に許可を取って二課からの着信に出た響は、ノイズの出現を受けてすぐに出動の準備をする。珱嗄も察して行けとジェスチャーで言ってくれたので、響はそのまま走り出した。鞄は自宅に置いてきたので都合が良い。
そして電話の向こうから伝えられた出現場所は――
「えっ……!?」
――この場から直ぐ近くだった。
広場から直ぐ近くにある地下鉄の通路へと繋がる階段から、ノイズの姿が見えた。後方にはまだ珱嗄の姿も全然見える位置、これでは響も変身することができない。なにより、珱嗄がノイズに巻き込まれてしまう。
響はどうすればいいのかと躊躇してしまい、動きを止めてしまった。
その隙にノイズが蠢き、響を見つけて動き出す。
幸か不幸か、空も暗くなってきていたからか広場に珱嗄以外の人影はない。ノイズに襲われる人は響と珱嗄以外にはいなかった。
「っ……珱嗄! 逃げて!」
「!」
響は後方にいる珱嗄に聞こえるよう大きな声で避難を促し、自分はノイズと戦うべく胸の
こうなっては仕方がない。珱嗄と未来だけは自分の置かれている状況に巻き込みたくはなかったし、機密上知られたくもなかったけれど、命を守ることが最優先。
響は歌った、シンフォギアを纏う詩を。
――"
橙色の光が響を包み込み、その光が弾けた時、響はその身に聖遺物ガングニールのシンフォギアを纏っていた。歌を歌い、響はノイズの集団へと飛び込んでいく。
珱嗄の方へは視線を向けない。彼がどんな顔をして自分を見ているのか知るのが、怖かったからだ。
♪撃槍・ガングニール
歌いながらノイズに拳を、蹴りを放って倒していく。
珱嗄に教わったことを実践するように、動きを止めることはしない。立ち回り方までは教わっていないので無駄な動きは多くても、視野を広く持ち、動きを止めずに自分なりに流れを作っていく。
目の前のノイズを倒しながら次の動きを考え、実践。
そうすることで、響は拙いながらも今までとは少し違う立ち回りができていた。そもそも頭で考えるより身体で実践する方が向いているのだろう。実際に実践することで、響自身感覚で珱嗄の教えを吸収していた。
「(珱嗄のおかげで、少しだけ思考に余裕ができてる! ノイズの動きがよく見える!)」
歌の力で身体能力が向上している響の攻撃は、一撃でノイズを破壊することができる。殴り、蹴り、時に躱す。生まれてしまう隙に放たれるノイズの攻撃も、視野を広く持つことで対応することができていた。
『今翼もそちらに向かっている! どうにか持ちこたえるんだ! 無茶はするなよ』
通信で弦十郎から指示が出る。
翼が向かっている――到着すればこのノイズたちをすぐさま掃討してくれるだろう。けれど今この時は、自分が戦わなければ珱嗄が命を落とすのだ。
「わかってます――私は、私に出来ることをするだけです!」
弦十郎の声に、響はそう答えて地下通路へと飛び込んでいった。
◇
空を見上げる。
満天の夜空には雲一つなく、澄み切った空気が星々をよく映し出してくれていた。流れ落ちる星の線が、一つ、二つ、重なるように増えていく。
今日は流星群が見られる日。
未来は独り、綺麗な流れ星を見ていた。
こんな状況だから、響や珱嗄と流れ星を見る約束なんてしていない。けれどこんな状況でなかったのなら、未来はきっと響や珱嗄と三人でこの流れ星を見ていただろう。
そう思うと、より一層今の孤独が胸を締め付けた。
「……どうしたらいいの」
ぐるぐると胸の中を暴れまわる不安と恐怖心は、全く消えることがない。
今この瞬間に珱嗄と響が何をしているのか、それを知らない自分が嫌だった。二人に何かあったのではないかと思うと、何も手に付かない。
響は学校が終わった後すぐに何処かへ行ってしまったし、珱嗄に連絡しても応答がなかった。無事を知りたい、声が聞きたい、会いたい。
未来は流れ星に願いを込める。
「なんでもいいから……二人を、珱嗄と響を助けてください」
その願いは果たして、天に届くのだろうか……。
◇
取り残された珱嗄は、響が地下へと姿を消した後、一人荷物をまとめていた。
そして先程の響の姿を思い出し、笑みを浮かべる。歌と光が形作った、ガングニールのシンフォギア……アレがノイズと戦うための力なのかと確信して。
見た限り、アレを纏ってから響の身体能力が飛躍的に向上していた。立ち回りも自分の教えを実践しているのか拙くも余裕を感じたので、おそらくは大丈夫だろうと判断する。
ノイズを拳一発で破壊することができるのなら、油断さえしなければ知能を持たないノイズの集団を掃討すること自体そう難しくない。
とはいえそんな状況の幼馴染を置いて帰るのも、常識的に考えてどうかと思う珱嗄。感情的に言えば帰った方が面倒も少ないのだろうが、そうするのも気が引ける。
「―――こんな夜遅くに出歩いてっと、あぶねぇぞ?」
瞬間、背後からそんな声が聞こえてきた。
そしてその声の主を確認するより早く、風を切る音が珱嗄の耳に届く。脇腹に鋭い痛みが走った。
「……」
見れば自分の脇腹を貫くように、紫色の結晶が連なった鞭がそこにある。
ソレを伝って視線を動かせば、その鞭の先には一つの人影があった。そこにいたのは、白を基調としたぴったりとしたインナーに上半身を覆うプロテクター、両肩から伸びる結晶の鞭を手にした一人の少女。
ずるり、と珱嗄の脇腹を貫いていた結晶の鞭が引き抜かれた。ドクドクと溢れる血がジャージを濡らし、芝生を赤く染め上げる。
「……」
「声をあげねぇたぁ肝が据わってんな……痛くねぇのか?」
「いや、めちゃくちゃ痛いけど……なんて言えばいいんだろうな、慣れてる感覚?」
「腹ぶち抜かれて慣れてるで済まされちゃ、こっちがなんて言えばいいのかわからねぇよ……」
それでも珱嗄は悲鳴をあげたり、苦悶の表情を浮かべたりはしなかった。
自分でも驚いているのか、脇腹を抑えながらも、珱嗄は傷を負う感触を何処か懐かしく感じていた。遥か昔に、戦いの中で傷を負った記憶があるような、そんな懐かしい感覚。
傷を負わせた少女の方が、動揺を隠せずにいた。
「で、なんだお前?」
「教える義理はねぇ……アンタに恨みはねぇが、ちっとばかし痛い目に遭わせろって指示なんでな。心配しなくても殺しはしないし、もう何もしねぇよ……それに、アタシの目当ても来たしな」
珱嗄の問いに少しバツが悪そうにそう答えた少女が、ふと空を見上げる。
珱嗄もその視線の先に目を向けると、そこには流れ星のように煌めく青い輝きがこちらに向かって振ってきていた。
よく目を凝らしてみれば、それは星ではなく――
♪絶刀・天羽々斬
――青く煌めく剣だった。
「はぁっ!」
そしてその剣から放たれた青い斬撃が、いつのまにか地下から出て来ていた少し大き目のノイズを一刀両断した。
遅れて着地したその剣……風鳴翼は、珱嗄を攻撃した少女を見て目を見開く。少女を、というよりも、正確には彼女が身に纏っている白いプロテクターを見て、だが。
「ネフシュタンの鎧……だと!?」
「へぇ、アンタこの鎧を知ってんのか」
「……二年前、私の不始末で失われたものを、忘れるものか……っ! アナタ、なにを……!?」
少女の纏う鎧をネフシュタンと呼んだ翼だったが、少女の近くにいた血塗れの珱嗄を見て息を飲むように口を抑えた。彼の対ノイズ性を知ってはいたが、あくまで彼は一般人。その一般人が大怪我を負っている。
そしておそらくそれをやったのが鎧を纏った少女だと考えた時、珱嗄の怪我は自身の不始末の結果だと理解した。
自身の不手際で失われた命を、翼は忘れていない。
にも拘らず、また誰かを傷付けてしまったことに歯噛みした。
「っ……そんな、嘘……珱嗄ぁぁ!?」
「ッ!?」
そして地下から戻ってきた響が珱嗄の姿を見て悲鳴をあげる。絶望に歪んだ表情と大切な人を傷付けられた悲痛な叫びが、翼の胸を締め付けた。
「くっ……! 二年前、奏の命と共に奪われたネフシュタンの鎧と……再び現れたガングニール……この残酷……この私には相応しい……だが、もう何も奪わせるわけにはいかない!!」
「ハッ! 逆上せあがるな人気者!」
翼は全ての後悔を振り払うように少女に斬りかかり、少女もそれを迎え撃つ。
戦いが始まった。
響がすぐさま珱嗄の下へと駆け寄ると、珱嗄は大きく息を吐きながら地面に座り込んだ。流石に出血が激しいのだろう、表情的には平気そうだが、身体が悲鳴を上げている。
「アナタは彼を安全な場所へ!」
「は、はい!」
翼が響に指示を出し、響は慌ててそれに応える。珱嗄に肩を貸して立ち上がらせ、そのまま珱嗄を背負った。自分よりも大きな身体の珱嗄ではあるが、ガングニール纏った今の響であれば、人一人背負うことなど容易い。
「珱嗄……ごめんね……すぐに安全な場所へ運ぶから!」
「……悪いね響ちゃん」
「……っ……少しだけ揺れるかもだけど、我慢してね」
響は珱嗄の弱々しい声に泣きそうになるが、グッと堪えて走り出す。できるだけ揺らさないようにしているのか全速力とはいかないが、珱嗄に無理をさせないよう気を遣いながら、でもできるだけ速くという意思が感じられた。
しかし、
「悪ぃがそういうわけにはいかねぇんだよなぁ!」
「何!?」
翼と交戦していたネフシュタンの少女が、腰に付けていた銀色の杖を取り出し、そこからノイズを生み出した。珱嗄を背負う響を取り囲むように現れたノイズが、二人の行く手を阻む。
「(狙いは彼か……!? もしくは、あの子も……?)」
翼はその行動に少女の目的を察する。
元々自分が来る前に珱嗄を攻撃していた少女。ここ最近頻発するノイズを操っていたのが少女であれば、ノイズではなく直接個人を狙って少女が現れた今回の件、その目的が珱嗄である可能性は高い。もしくは響も目的である可能性も捨てられない。
ノイズが響たちを攻撃する。
珱嗄を背負った響はその攻撃を避けることができず、吹き飛ばされた。地面を転がり、倒れた響だったが、その衝撃で背中にいた珱嗄と離れたことに気付く。
見れば自分よりもノイズに近い場所に珱嗄は倒れていた。脇腹から今もじわじわと血が流れ出ているのが見える。
ノイズが珱嗄に向かって粘液の様なものを出し、珱嗄を拘束した。
「やめっ……やめてっ! 珱嗄!」
「っ痛……あ、これ動けないな……」
響はすぐに立ち上がりノイズに飛び掛かっていくが、精細を欠いた響の動きはノイズに反撃を許してしまう。同じように粘液を浴び、拘束されてしまった。
「あぐっ……!? 珱嗄! 珱嗄!!」
「そんなに呼ばなくても聞こえてるよ……」
「ぐっ……こ、のっ……!」
どうにか粘液から逃れようと力を込めるが、拘束から逃れることができない。こうしている間にも珱嗄はどんどん血を失い、最後には命すらも零れ落ちてしまう。響は焦っていた。
翼を見てもネフシュタンの少女との交戦で手一杯なようで、此方を気にしてはいるが助ける余裕は感じられない。
どうすれば、どうすれば、どうすれば!!!
――響の心臓が大きく鼓動する。
「誰が、珱嗄をコンナメニ……?」
珱嗄を助けなければ、という感情が、誰が珱嗄をこんな目に遭わせたのかという思考に変化していく。
「……」
響の目が、ネフシュタンの少女を捉えた。
―――オマエか!!!!!
ドクン、ドクン、ドクン! 心臓が一際大きく鼓動する。
瞬間、響の思考がどす黒い感情に支配された。シンフォギアごと身体が黒く染まり、まるで獣のような唸り声をあげる響。
粘液の拘束を力ずくで引き千切り、ノイズを暴力で蹴散らした。結果的に珱嗄も粘液の拘束から逃れるが、獣と化した響は止まらない。
「ァァァアアアア!!!!」
「なんだ、こいつはッ……!?」
「ッ!?」
突如変貌した響の姿に、翼もネフシュタンの少女も動きを止める。
そして襲い掛かってきた響にネフシュタンの少女はハッとなって鞭を振るうが、響はソレを片手で振り払い、ネフシュタンの少女の懐まで踏み込んだ。
そしてその拳をネフシュタンの少女の腹部へと振り抜く。
ズドン、という大きな音と共に少女の腹にめり込んだ響の拳は、メキメキと音を立てて少女の身体を吹き飛ばした。
かはっ、と少女の口から体内の空気が吐き出され、近くの木を一本薙ぎ倒しながら地面を転がる。規格外の威力に少女の纏う鎧が一部砕かれていた。
「嘘だろ、ネフシュタンの鎧が……なんだこの威力は……!」
「ガァァァアア!!」
「このっ、調子にのんな!!」
尚も襲い掛かってくる響に少女は鞭を振るいながら立ち上がり、距離を取りながら鞭で攻撃していく。鎧が砕かれて素肌の見えた腹部に、神経のようなものが浮かんでメリメリと修復されているのが見えた。
翼はそれを見て、ネフシュタンの鎧が持つ回復能力だと理解する。
「(ネフシュタンの鎧……私やあの子の持つシンフォギアと違ってそのままの形で見つかった完全聖遺物……! その力はやはり規格外か……!)」
完全聖遺物――シンフォギアと違い、一度起動してしまえばその力を常時発揮し、誰にでも使用できるというぶっ壊れ性能を持った聖遺物。
その完全聖遺物であるネフシュタンの鎧は、二年前の事件の際ツヴァイウィングの歌から生まれたフォニックゲインによって起動しており、そして何者かに奪われた。
それが今少女の纏っているソレ。
シンフォギアよりも性能は格段に勝っている。それを使いこなしている少女も相当の使い手なのだろうが、元々の性能差を翼は感じていた。
「(しかし今は暴走している彼女も止めなくては……それに、彼をこれ以上放置しては命が危ない……ならば……)」
できることなら翼は今、ネフシュタンの鎧を奪還し、ガングニールを纏う響がいなくともこの剣が戦えることを証明したい。片翼でも、飛べることを。
けれどそうも言っていられない状況。
翼は荒れ狂う感情とは別で、頭は冷静だった。
常在戦場、その身を剣と見立てて磨き上げてきたというのに、何たる恥さらし。
「ならばアナタに見せてあげる……戦場に立つということが、どういうことなのか……私の覚悟を」
翼は歌う――一度奏でれば己を滅ぼす、滅びの歌を。
響とネフシュタンの少女が翼の近くに飛び出したきた瞬間、翼は小刀を取り出し二人の影へと投擲した。
――"影縫い"
するとその小刀に固定されたように、二人の動きが止まる。
「んなっ……この……!」
「ゥゥゥゥ……!!」
ネフシュタンの少女は急に止められた自分の身体と、ソレを行った翼に気がつき歯噛みするが、どう足掻いても動くことができない。
そして動けない状態のまま、その歌を聴いた。
"♪Gatrandis babel ziggurat edenal―――"
「!? まさか、歌う気なのか……
"♪Emustolronzen fine el baral zizzl―――"
「グゥ、ゥゥ……!」
"♪Gatrandis babel ziggurat edenal―――"
そして最後の一節が奏でられたその瞬間。
"♪Emustolronzen fine el zizzl――……"
「……これが、私の覚悟よ――立花響」
この場の全てが衝撃と共に消し飛んだ。
まるで、流れ星に込められた願いを打ち消すように……。
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