◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第十一話 三兆年の待ち時間を

 轟音が響く。

 光が生まれ、地面が爆発したような音が連続して響く。風鳴翼を中心に広がるその光は、暴走した響とネフシュタンの少女を巻き込んで周囲を吹き飛ばした。

 倒れ伏す珱嗄はソレを見て、その光の威力に目を丸くする。何が驚きだったのかといえば、目の前の光景に然程驚いていない自分に驚いていた。

 まるでこれ以上の超高火力砲撃でも見たことがあるような、大した威力ではなさそうだなという考えが浮かんでしまう。今目の前で起こった光の攻撃以外に、こんな魔法のような攻撃を見た記憶などないのに。

 

 音が止み、光が収まった時、そこには何も残ってはいなかった。

 暴走していた響は元の姿に戻り、気を失って倒れている。ネフシュタンの少女は意識はあるようだが、響の拳と今の翼の攻撃によってダメージは大きいようだ。

 けれどどうにか身体を動かし、ネフシュタンの少女は撤退していく。

 

「……」

 

 すると珱嗄は、だんだんと失われる血液のせいで視界が掠れ、意識がぼんやりしていくのを感じていた。後方から車の音が聞こえ、人の声が増える。

 おそらくは二課の面々が来たのだろうと思った所で、珱嗄の意識は途絶えた。

 

 

 ◇

 

 

「翼! 大丈夫か!?」

 

 珱嗄が意識を失った直後、現場に到着した弦十郎が翼に駆け寄った。

 現場は酷い有様で、芝生は絶唱の範囲攻撃によってめくれ上がり、響は意識不明、民間人である珱嗄も重傷を負って倒れている。二課の面々はその有様を見て表情を歪ませた。

 声を掛けられた翼はゆっくりと振り向く。身体の至る場所から血を噴出し、顔も大量の流血で赤く染まっていた。絶唱によるバックファイアが翼の身体を傷付けているのが一目で分かる。

 

「私は国を守る防人です……この程度で……折れる剣ではありません……」

 

 掠れた声でそう言った翼は、力が抜けたように倒れた。

 弦十郎がそれを咄嗟に受け止め、抱き抱える。

 

「救護班を此処へ! 急げ!! 一人も死なせるな!」

 

 瞬時に指示を出し、負傷した三名の治療を急がせる。重傷者二名、意識不明一名、誰がいつ死んでもおかしくない。しかもその全員が自分よりもまだまだ幼い子供たち。

 弦十郎は、大人である自分が何もできないという悔しさに歯噛みする。歯を食い縛りすぎて血が出るくらいだった。

 

 まず響と翼が医療班に連れられて搬送されていく。

 珱嗄に関しては応急処置が必要と判断した緒川が、的確に腹部の傷に手当てを施していた。流血は酷いものの、幸い死に至る傷ではない。ネフシュタンの少女が手加減したのか、内臓は傷付けられていなかった。

 

「彼の搬送もお願いします!」

 

 響たちの搬送班と入れ替わるように担架をもって駆け寄ってくる医療班に、緒川が負傷者はここだと声を掛ける。応急処置はしたし、何もなければ彼も無事に治療することができるだろうと少しだけ安堵した――その時だった。

 

「うんうん、流石はプロだね……応急処置も完璧だよ」

「!?」

 

 珱嗄のすぐ傍から女性の声がした。

 振り向きざまに銃を抜き、すぐさま構える緒川。

 そこには長い髪を黄色いリボンで括った女性がいた。

 訓練を受けた自分でも近づいてきた気配に気がつけなかったことに、緒川は冷や汗を流す。まるでたった今そこに現れたような、そんな気さえした。

 彼女の纏う異様な雰囲気に、緒川は恐怖すら感じる。明らかに自分とは違う人種だと、言葉を交わさずとも理解できた。

 

「貴女は……何者ですか?」

「僕? 僕は珱嗄の母親さ。いつもみたく馴染み深い口上を出せないのは非常に心惜しい所ではあるけれど、そこは勘弁してほしいな」

「彼の、お母様ですか……?」

「おいおい君はプロだろう? 最近珱嗄の周りをウロチョロと調べ回っていたんだし、僕のことだって当然知っている筈だぜ?」

 

 緒川は珱嗄の母親と名乗る彼女の言葉に、ハッとなった。

 確かに、珱嗄の身辺調査をしていく中で家族構成に関しても目を通している。その中には間違いなく彼女の情報もあった。

 銃口を下ろし、緒川は一度呼吸を整える。

 

「申し訳ありません……事情は後程説明致しますので、今は彼の治療を優先しても?」

「心配いらないよ、珱嗄はこのまま僕が連れて帰るから。ああ、大丈夫さ……僕にも医療の心得くらいあるからね」

「なっ、いけません! 彼はちゃんとした設備の整った場所で手術をしなければならない重傷です。一般家庭でどうにかなる負傷ではありませ――」

 

 何処にそんな力があるのか、自分よりも大きい珱嗄の身体を持ち上げた彼女を止めるべく緒川は焦って説得をするが、途中で言葉を飲んだ。

 自分を見る彼女の目が、自分を人間として認識していないことに気がついたからだ。まるで路傍の石ころを見るような、そんな視線に緒川は圧倒されてしまう。

 

特別(スペシャル)の分際で粋がるなよ、僕としては可愛い一人息子が誰かの不始末でこんな目に遭っている時点で、うっかり世界を滅ぼしちゃいそうなくらいなんだ」

「……!」

「ま、いいか……医療班は立花響と風鳴翼の二名を搬送し、仕事を完遂。珱嗄は多少負傷したものの、地力で家に帰れるレベルだったので後日話を聞くということで家に帰った……今回の事の顛末はそういうことになるから、君も余計なことはしないことだ」

「な……っ……!?」

 

 彼女がそう言うと、緒川は一瞬眩暈がしたようにクラッと視界が揺れた。

 そしてそれが正常に戻ってきた時、目の前には珱嗄も、珱嗄の母親の姿もいなくなっていた。地面を濡らしていた珱嗄の血液も消えており、周りにいた二課の職員も響と翼の搬送を終えて事後処理に務めている。

 誰も、珱嗄が消えたこと、珱嗄の母親がいたことに気がついていない。

 

「緒川」

「! ……指令」

「どうした? 顔色が悪いようだが……」

「いえ……なんでもありません」

「そうか……まぁ無理はするなよ。響君と翼は既に搬送され、治療に当たっている……俺達も一度本部へ戻るぞ」

「……はい、わかりました」

 

 話しかけてきた弦十郎に緒川は違和感を覚えながらも頷き、指示に従う。

 珱嗄の母親と名乗った彼女は、明らかに普通ではない。訓練を受けた裏の人間というわけでもない。そんな生易しいものよりもずっと強大な何かを緒川は感じていた。

 

 アレはどう考えても異常だった。

 人間としての枠に収めてはいけない、収められない存在。

 アレは最早、

 

「……人を外れている」

 

 先に行く、と言って歩き去った弦十郎の背中を見ながら、緒川は誰にも聞こえないような声でそう呟いた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 珱嗄の自宅に着いた母親は、背負った珱嗄をそのまま運んでベッドに寝かせた。

 ジャージに染みついていた血は綺麗さっぱり消えており、珱嗄の腹部にあった怪我もまるで最初から無かったかのように消え去っていた。

 母親は眠っている珱嗄に優しく毛布を掛けると、自分はそのベッドに腰掛ける。

 

「……以前の君なら、こんな怪我を負うなんてありえなかったのにね」

 

 ポンポンと毛布越しに珱嗄の胸を叩き、珱嗄の目に掛かっていた前髪を横に流す。その口調はとても優しく、そして悲しみに満ちていた。

 眠っていて、珱嗄は何も答えない。

 今の彼女は、珱嗄の母親というよりは、もっと違う顔をしている。まるで母親であることは偽りであるかのような、そんな姿を見せていた。

 

「あのままだと少し都合が悪かったからね、ちょっと強引に動いちゃったけど……まぁ大丈夫だろう、いざとなったら僕がどうにかするし」

「……」

「もどかしいね……君の傍に居られるのは嬉しいのに、君の傍に居る気がしない」

 

 彼女は、いや少女は、珱嗄の顔の横に手をついて珱嗄に覆い被さる。

 間近で見る珱嗄の顔は、少女がよく知っている少年の顔。どこからどう見ても彼は彼だったし、その魂は何一つ変化していない。

 

 それでも違う。

 

 彼は彼であっても、彼ではない。

 彼は少女を覚えていない。彼は彼を覚えていない。今まで何千、何万、何億、何兆と過ごしてきた日々の一日だって覚えていない。

 どんな人間だったのか、どんな繋がりがあったのか、どんな生き様だったのか、彼は欠片ほども覚えていない。

 

 今はただの男子高校生で、ただの人間で、自ら普通になった人外の成れの果て。

 

「それでも君は君だよ、珱嗄……人の世の全てを娯楽と称して生き抜いた君は、普通になっても変わらない」

 

 少女と彼の唇が重なる。

 今まで何回そうしただろうか、その全てを少女は覚えている。

 今まで何回そうしただろうか、その全てを彼は覚えていない。

 

 彼がそれを思い出す時を、少女は――いや彼女は待っている。

 

「待つことに関して、僕以上に長けた存在なんていやしないんだ」

 

 母親の顔を作った彼女は、ベッドから立ち上がって悲しげに笑う。

 その笑みは悲しく、そしてとても苦しそうだった。辛いと今にも泣きだしてしまいそうな笑みだった。

 

「何せ僕は一度……三兆年待ってみせた人外だからね」

 

 部屋の扉を開けて、部屋の電気を消す。

 

「もう一度君が僕の名前を呼んでくれるなら、もう三兆年くらい安いものさ」

 

 パタン、と部屋の扉が閉められた。

 

 

 ◇

 

 

 ―――とある場所で、二人の人影があった。

 

 片やほぼ全裸の女性と、片や何やら大がかりな機械に拘束され、項垂れた少女。

 全裸の女性は拘束された少女へと視線を向けながら苛立ったように爪を噛んだ。

 

「どういうことだ……? あの時クリスは間違いなく彼に負傷を負わせた筈……本来なら治療の為に二課の医療班によって搬送されていた……にも拘らず何故彼は地力で帰ったことになっている……?」

 

 女性は困惑していた。

 先の件でクリスと呼ばれた少女――ネフシュタンの鎧を纏っていた少女との戦いは、女性も見ていたからだ。少女は女性の指示で珱嗄を攻撃し、そしてすぐには死なない程度に重傷を負わせた。女性の目的は半分成功した筈だったのだ。

 もう半分は一先ず仕方ないとしても、それだけで十分収穫だと考えていた。

 

 なのに戦闘が終わって蓋を開けてみれば、珱嗄は地力で帰ったということになっており、二課に搬送されたのは響と翼の装者のみ。これでは女性の目的は何も達成されていないということになる。

 

「……搬送された奴の身体を治療ついでに隅々まで調べあげるつもりだったが……何が起こった……? 一体何が私の邪魔をしたのだ……?」

 

 女性にはこの現状を理解するには、不明なことが多過ぎた。

 珱嗄自身が負傷を治せる力を持っているとは考えにくい。流石にそこまでの力を発揮すれば、聖遺物はアウフヴァッヘン波形を発するだろうし、聖遺物でなければ力の発動は目に見えるはずだ。

 仮に自分の認知していない未知の力が作用しているのであればまた別の話だが、女性は自分の生きてきた時間と蓄えてきた知識に自信を持っている。故にソレはないと断定した。

 

 ならば、珱嗄とはまた別の存在が関わっている可能性が有力だろう。

 

「……まぁいい、状況が悪くなったわけではないからな」

「ぅ……」

「あら、目が覚めた? クリス」

「ふぃー、ね……」

「完全聖遺物であるネフシュタンの鎧を纏っていながら、私の指示を一つも完遂できないなんて……悪い子ね」

 

 フィーネと呼ばれた女性は目が覚めた少女にそう言うと、ガシャンと何かスイッチのようなものを入れた。

 

「ぎぁああああああああ!!!!?!?」

 

 瞬間、バチバチと電流が流れ、少女は拘束された状態のまま叫び声をあげる。

 そして数秒の後スイッチを落とすと、少女は放熱される機械音の中で息を荒げた。

 

「はぁ……はぁ……次は、次はちゃんとやってやるよ……!」

「当然よ……次失敗したら、もっとキツイお仕置きをするからね」

 

 少女の強きな言葉に鼻を鳴らした女性。

 少女は言われた通りに事を為し、目的を達成した。それでも失敗に終わったのは少女のせいではないのだが、行き場のない疑問をぶつけるように彼女はそう言う。

 

 そして、またスイッチをいれた。

 

 少女の悲鳴がまた、空間に響くのだった。

 

 

 

 

 




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