◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
病室で目を覚ました響が最初に頭に浮かんだことは、気を失う直前のこと。
珱嗄は無事なのか、自分は一体どうなったのか、そして真っ暗な中に聞こえてきた翼の声、一度に色々なものが頭に浮かんで急激に意識がハッキリする。
自分の身体の状態など気にせず勢いよく起き上がり、掛布団を跳ね飛ばした。
「珱嗄!?」
あの時意識を失っていたからか、響は珱嗄が重傷を負ったことを覚えているらしい。妙な倦怠感にフラフラしながらも病室を飛び出すと、二課本部の施設内の病室だったようで、響はそのまま司令室へと向かった。
そして辿り着いて扉を開くと、そこには弦十郎やオペレーターの面々がいる。
彼らは入ってきた響に気がつくと、少々焦った表情で声を掛けてくる。
「響君!? 動いて大丈夫なのか?」
「あの、珱嗄は……珱嗄は大丈夫なんですか!?」
「あ、ああ……彼は無事だぞ、軽傷故に一時帰宅したが、後日話を聞かせてもらうことになっている」
弦十郎の心配の声に応える余裕もなく、響は珱嗄の安否を訊いてくる。あの後どうなったのか、彼は生きているのか、それだけが今の響にとって大事なことだった。
けれど返ってきたのは珱嗄は帰宅したという答え。軽傷であり、特に急ぎ治療が必要な怪我は負っていないという。響はその返答に目を丸くして困惑した。
「軽傷……? そんな! そんな筈、だって、お腹を貫かれてたのに……!?」
「腹を貫かれていた……? そんな報告は……おい、彼の負傷の詳細は?」
響が漏らした言葉に弦十郎が顔色を変えて、珱嗄の負傷の詳細を探る。
その指示に対してオペレーターである藤尭がデータを探るものの、中々その詳細が出てこない。いつもならすぐにレスポンスを返す優秀さを見せる彼には珍しい反応。弦十郎もそんな彼に困惑していた。
「どうした?」
「すみません……彼の負傷に関する情報が軽傷以外に見当たらなくて……他の情報は過去のデータの取り方と違いはないのですが、これに関する情報だけが一切詳細を取れていません……」
「どういうことだ……?」
「意図的にデータが消されているのか、何かの要因で隠蔽されているのか……定かではないですが、響ちゃんの記憶が正しければ今回我々の彼に関する記憶が改変されているとしか」
「むぅ……」
ここに来て謎が増えたことで、弦十郎は唸り声を上げる。
現れたネフシュタンの鎧、謎の少女、絶唱を使用し意識不明の翼、響に起こった謎の暴走状態、珱嗄に関する記憶改変等の隠蔽操作……考えなければならないことは山ほどある。
それに、おそらくネフシュタンの鎧を纏った少女の言動から、裏には別の人物がいると考えられるし、ノイズを生み出していた杖状の聖遺物も厄介な問題だ。
弦十郎は少し思案を巡らせる。
「今回、ネフシュタンの少女側と珱嗄君は完全に別個のグループだろう。少女が珱嗄君を攻撃した以上ソレは明白だ……だとすれば、珱嗄君の負傷データが隠蔽されているのはそれが何者かにとって悪い状況を生むからだろう」
「悪い状況……?」
「響君の言う通りの負傷を彼が負っていたとすれば、当然我々二課が治療の為に彼をこの本部まで搬送した。そして了子君や医療チームが最新の医療技術により、全力で治療に当たっただろう……だが、それが何者かにとって都合が悪かったとすれば……珱嗄君の身体を調べられては困るということだ……特に、我々二課を警戒したのなら、彼の身体には聖遺物由来の何かが隠されている可能性がある。響君のように、聖遺物との融合症例であったりな」
「そんな……珱嗄の身体にも、私と同じように聖遺物が混ざっている……?」
弦十郎は僅かな情報から可能性を組み立て、あくまでそういう可能性があるというだけだが、今回の件に関する考察を述べた。響はそれに対して少し信じられないような表情を浮かべたが、否定はできない。
弦十郎は更に思考を巡らせながらも、言葉を続けた。
「響君の暴走に関しては、おそらくガングニールと融合していることが原因だろう」
スクリーンに響の暴走状態の映像が出た。ここでも珱嗄が重傷を負っている描写がない。これでは何をきっかけに響が暴走したのか繋がりが感じられなかった。
「詳しくはまだ調査中だが、了子君の考えでは、響君の暴走は感情の昂ぶりによって理性を失い、ガングニールの破壊衝動に身体を支配されている状態だろうと言っていた。それが本当であれば、珱嗄君が重傷を負ったことが引き金になったとすると説明がつけられる」
「そう、そうです、私あの時、血塗れで倒れてる珱嗄を見て、頭が真っ白になっちゃって……それで気付いたら、病室で寝てました」
「だが、だとすると了子君は……いや、なんにせよ、翼の復帰はしばらく時間が掛かる。その間のノイズ出現は響君に出動して貰う以外に手がないのが現状だ……ガングニールの暴走は気掛かりだが、感情さえコントロールできていれば問題なく戦闘が可能なのはこの一月で証明されている。そこは訓練次第といっただな」
響の肩に手を置き、申し訳なさそうな色を見せながらも弦十郎は響に託すしかない現状を再確認する。
響もその言葉に深く頷き、今度こそは大事なものを守れるように強くなろうと決意した。珱嗄に師事するのも、覚悟を決めるのも、なにもかも遅すぎたのだ。何もかも弱い自分が悪いと、自分を責める。
弦十郎はそんな響を見て、あまり気にし過ぎないでほしいとは思うが、時には自分を戒めるのも大事なことだ。長引くようであれば、それこそ大人の出番だろう。
「……」
だがそれとは別で、弦十郎は自分の推測を詰める。
「(……珱嗄君が重傷を負ったことは、あの場で意識を失っていた響君以外の人間は覚えていない……だが了子君が出してきたガングニールの暴走条件は、響君の感情の昂ぶりによる理性の喪失……何故そう思った? 了子君は珱嗄君が重傷を負ったことを覚えているとしたら、説明が付けられてしまう……そうなると俺と同じくこの司令室にいたというのに、何故彼女だけが覚えているのか不明ではあるが……)」
謎が謎を呼ぶ状態に、弦十郎は頭を掻いた。
考えても確証は得られない。だが現状に説明が付けられる仮説に限って、あまり考えたくない想像ばかりで辟易してしまう。
とりあえず弦十郎は抜け出してきた響に、病室に戻るよう指示を出す。
身体スキャナによる体内検査、体内のガングニールに何らかの変化が起きているとすれば、その影響も調べなければならない。要は絶対安静だ。
「……ふー、考えなきゃならんことは山積みか」
弦十郎は目の前の問題に向かい合うため、また一つ深呼吸する。
◇ ◇ ◇
目が覚めた時、真っ先に違和感を感じた。
嫌に眼球を刺激する日差しに目の奥がジワリと悲鳴を上げて、ソレを紛らわせるように目を擦りながら上体を起こす。
そうして目が正常に機能し出すと、ここが自分の部屋であることがわかった。服装はジャージのまま、身体にこれといった異常はない。腹を貫かれたのに、何もなかったかのように綺麗さっぱり、傷跡もなく消え去っている。
電子時計の日付を見れば、一晩程度の時間しか経っていない。時刻は正午を超えているから、学校は完全に遅刻だろう。もしかしたら母が学校に休みの連絡を入れているかもしれないけれど。
「……」
傷が治っていることもそうだが、この状況もやはりおかしい。
ぼんやりと、脳内に覚えのない映像が浮かびそうな感覚があった。聞き覚えのあるような、ないような、そんな声が複数聞こえてくる。前後の繋がりもなく、言葉として認識できないままに脳内を反芻されていた。
ここまでくると、自分という存在が普通の男子高校生ではないのだろうと思える。
いや、おそらく俺は普通の人間じゃない。
根拠はない――だが、その方が面白い。
「面白い……か」
昔からの口癖でもあったが、今になって考えればやけに馴染む言葉だった。
「響ちゃんや未来ちゃんのことは少し気になるけど……これはこれで興味深い」
今までは普通の生活を送ってきたけれど、こうなってくると様々なものに違和感を抱いてしまうな。
そもそも
聖遺物やシンフォギアなんて超常の力はあったか?
俺の怪我が消え去ったのは、何故だ?
立花響、小日向未来、そしてツヴァイウィング、二課、シンフォギア、なんだこの漫画みたいな設定の数々は? この世界は本当に
「……この期に及んで俺に何か隠してるな?」
それもこの世界そのものか、それに類するレベルで俺自身を偽らせている何かがある。生まれてからずっと感じていた自身に対する違和感の数々は……そのせいだと考えれば説明が付けられる。
ま、下手すりゃ中二病だけど、面白そうだからそういうことにしておこう。
となると、怪しいのは俺の両親だけど……まぁあの母親のことだから、俺がいずれこう考えつくのは予想している筈だ。急いで追及する必要もない。
「全部自分の直感に従って動くのが一番シンプルでわかりやすそうだな」
珱嗄はジャージを脱いで着替える。
クローゼットの中に入っている服から、直感のままに服を選んだ。今更学校に行くのも面倒臭いので、私服を着ることにする。珱嗄はそこそこ大人びているのでこの時間に外を出歩いていても大学生くらいには見える筈だ。
グレーの長袖シャツに深い青のラインが入った白いオーバーシャツを着る。下は黒いスキニーを履いた。
「さて……」
部屋を出て、玄関へと向かう。
母は買い物にでも出かけているのか家にいないらしい。都合が良いのでそのまま家を出るために靴を履いた。学校に行くには不向きだからあまり履いていなかったが、この際だからと黒いハイカットブーツを選んだ。
ドアを開いて外へ出ると、快晴の空が出迎えてくれる。空の太陽は眩しいくらいに輝き、日向と日陰の差をくっきりと分断していた。
「良い天気だね、面白そうなことがありそうだ」
歩きだす。
行先なんてない、ただ直感に従って道を選んで、自由気ままに歩くだけ。ここまで俺の直感は外れたことがない……それはきっと、俺の正体に起因する何かがあるからだろう。
なら、歩いていった先で何かに辿り着けるはずだ。不思議なことにそこに不安はない。心配もしていない。ただそうなるという確信だけがある。
「んー……! はぁ、良い気分だ」
自分の感覚と行動が合致したような、そんな気がする。
とても、とても、久しぶりに、良い気分だ。
◇
その日から、珱嗄は家に戻って来なかった。
未来が何度電話しても応答せず、学校にも来ていない。監視に付いていた二課の職員もいつのまにか姿を見失い、消息が断たれた。
彼が何処に行ったのか、何をしているのか、それを知る者はどこにもいない。
そして、彼が次に姿を現した時―――立花響は新たな選択を迫られることになる。
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