◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第十三話 歪んだ太陽の共依存

 ―――珱嗄がいなくなった。

 

 その現実は少なくとも、対ノイズ組織として活動している今の二課にとって、大打撃になりうる事態だった。何せ風鳴翼が絶唱を使用したことで行動不能になった今、ノイズと戦うことのできる戦力はガングニール装者である立花響のみ。

 その立花響は失踪した泉ヶ仙珱嗄の幼馴染であり、小日向未来と同様大の仲良しだった。ノイズとの戦闘に巻き込んだ上、重傷を負わせたことの罪悪感を拭えないまま、謝罪することすら出来ずに珱嗄が消えてしまった。

 響にとってそれは、精神的ショックの非常に大きい現実である。

 もっと言えば、珱嗄は親友である小日向未来の恋人でもあるのだ。自分が守れなかったせいで消えてしまったのだとすれば、未来にもどんな顔をして会えばいいのかわからない。

 

 立花響は今、大切な幼馴染と親友を同時に傷付けてしまったことで、精神的にとても不安定になっていた。

 

「……響君の様子はどうだ?」

「はい……あれから一度ノイズの出現がありましたが、戦闘に関しては特に問題なくこなしてくれています……ですが……」

 

 響のいない司令本部にて、弦十郎は響の戦闘映像を見ていた。

 オペレーターである藤尭がその映像を映し出しながら響の戦闘にこれといった被害や問題はないと言うが、その表情は何処か痛々しいものを見るようなもの。

 弦十郎もその表情と映像を見て、その理由を察する。

 映像の中の響は、とてつもなく巨大な不安をどうにか振り払うようにノイズを殴りとばしている。立ち回り方は以前と違って少しだけ余裕が生まれているようだが、攻撃の一つ一つが我武者羅で、力任せに暴れていると言った方がまだしっくりきた。

 

 表情は何か焦っているようで、雄叫びなのか、悲鳴なのか、シンフォギアを起動させる歌の声量もかなり大きい。まるで叫ぶように歌っていた。

 

「やはり、珱嗄君の失踪が大きいか……平穏な日々を送ってきた彼女には、少し残酷すぎる現実だな」

「正直……このまま響ちゃんを戦わせるのは、あまり良いことだとは思えませんね」

「かといって、彼女以外にノイズと戦える人材がいないのも事実……俺で力になれるかはわからんが……少し、話をしてみようと思う」

「お願いします……」

 

 弦十郎は一度響と話をすることを決め、映像の中の響をどうにかしてやりたいという気持ちを胸に、両の拳を握りしめた。

 

 

 ◇

 

 

 響と未来はリディアンの寮で同じ部屋を使うルームメイトだ。

 どうしたってそこが帰る場所になるし、どうしたって毎日顔を合わせることになる。それは珱嗄がいなくなった今も、同じこと。

 

 珱嗄が消えてからもう一週間が経っていた。

 当然未来もそのことは既に知っている。何度電話を掛けても応答がない現状に酷く憔悴し、今ではベッドの上で塞ぎこんでいた。響が声を掛けても虚ろな返答を返すのみで、食事もまともに取っていない。時折さめざめと涙を流す彼女を姿を見て、響は胸が張り裂けそうだった。そして寮にいる時はいつも、心の中で謝ることしかできなかった。

 

「……」

「……未来」

 

 できることなら全てを話して心から謝りたい。

 けれど話してしまえば未来も失うかもしれないという恐怖が、響を寸での所で引き留めている。

 

 響は未来を死なせないよう、無理矢理にでも食事を取らせた。放っておけばいつまでも水も食事も口にしない彼女は、響がいなければ餓死してもおかしくなかったのである。学校には未来は体調不良で休むと伝え、響は学校に通いながらもベッドから動かない彼女の世話を一生懸命やった。

 時折ノイズと戦ったり二課でミーティングをしたりもあったが、それ以外では常に未来の傍にいる響。そうすることで罪滅ぼしをしているのか、それとも純粋に未来を想ってのことなのか、響自身もうわからなくなっている。

 

「ほら未来……ご飯だよ、食べよ?」

「……ぃぃ……」

「……ごめんね未来……でも食べないと未来が死んじゃうから……ごめんね……」

「っぐ……いや! もご……! ぅ、ぅぅ……!!」

 

 響は未来に謝りながら、未来の口に食事を無理矢理入れていく。生きるのを拒否しているような彼女の抵抗を抑え込んで、口に突っ込んでいく。そうしている最中で、響の瞳からは無意識に涙が流れていた。

 

 小日向未来は響の陽だまり――親友なのだ。

 

 そんな親友を憔悴し切った姿にしたのは自分だ。

 そんな親友に嘘を吐いているのは自分だ。

 そんな親友の大切な人を守れなかったのは自分だ。

 

 そして、そんな親友が嫌がっているのにこうして無理矢理食事を摂らせている自分は、果たして正しいのだろうか。

 

「うげっ……ぅえ……!!」

「未来……!」

 

 響が突っ込んだ食事を吐き出す未来。遂に未来は無理矢理口に入れても飲み込むことをしなくなってしまった。響は泣きながら、床を汚す未来の姿に心が折れそうになる。

 

 けれど、それでも、だとしても――

 

「ごめんね未来……それでも私はッ……!」

「げほっ……ひびんむっ――!?」

「ちゅ……んぐ……ぇぉ……」

「ん……んん……!?」

 

 響は食事を口の中で咀嚼すると、口移しで未来の口に食事を流しこんだ。

 突然キスしてきた響に驚いた未来は、直後口内に入ってくる響の舌と流動化された食事に更に驚き、ソレを飲み込んでしまう。

 

 そして唇が離れると、未来は呆然とした表情で響の顔を見た。

 

「……ごめんね、初めてのキスは珱嗄とが良かったよね……私のことは、幾らでも嫌ってくれていいよ……憎んでくれてもいい……それでも、だとしても……」

「響……」

 

 泣いている響の顔は、とても痛々しい。

 今まで、彼女がこんな風に涙を流す所など、未来は見たことがなかった。二年前の事件で苛烈なバッシングを受け、虐めにあっていた時でさえ涙を見せずに耐え続けた彼女が、ボロボロと涙を流している。

 顔をぐしゃぐしゃに歪めながら口に食事を詰め込んで、咀嚼して、また未来の唇にキスをした。自分の口の中に入ってくる食事を、未来は呆然と飲み込んでいく。

 

 そして何度も、何度も、響の唇を受け入れて、未来はその食事を全て飲み込んだ。

 

「はぁ……はぁ……」

「ひび、き……」

「だとしても……私は、私は……未来に生きてほしいんだよぉ……」

「ッ……!?」

「未来……お願いだから、これ以上は何も望まないから……どうか、生きるのを、諦めないで……」

 

 その言葉で、未来はこみ上げてくる涙を抑えられなかった。

 いつもへいきへっちゃらと言って、自分の傷をひた隠しにしてきた響が、弱弱しく涙を流しながら自分にただ懇願している。励ますでも、慰めるでもなく、憔悴し切った自分を生かす為に涙ながらに懇願している。

 

 彼女にはもう、ソレ以外に取れる方法がないということの証明だった。

 

 未来はそんな親友の姿に、自分はなんてことをしてしまったのだと思った。

 未来は今まで、珱嗄がいなくなったのは、他国に珱嗄の秘密を知られてしまい、誘拐されてしまったのかと思っていた。故に未来は、最悪の場合珱嗄が死んでしまっているのだと考えていたのだ。

 だから塞ぎこんでいた。だから生きる希望を失っていた。

 けれど、響の姿を見て未来の心はほんの少し力を取り戻す。

 

「……ごめ、ごめんね……ごめんね響……ごめんね……!」

「未来……ぅぅ……ごめんなさい……私、私……ぅぅぅ!」

 

 床に吐き出された食事、お互いの顔もべちゃべちゃになっていて、お世辞の綺麗な空間とは言えない中で、二人はお互いを思い、泣いた。

 汚れるのも構わず、お互いの身体を抱き、お互いの服を涙で濡らした。

 

 一頻り泣いた後、二人は部屋を片付けてから一緒にお風呂に入り、同じベッドで寄り添うように横になった。そして何を話すわけでもなく、手を繋ぎ、抱きしめ合いながら眠りにつく。

 お互いの存在を確かめるように、生きていることを感じ合うように……。

 

 二人はお互いの秘めた悲しみや秘密を知らないまま、お互いの存在を失いたくないという想いを伝え合ったのだった。

 

 

 ◇

 

 

 翌日、未来はいつもの調子を取り戻し、未だ暗い表情はあるものの、響と共に学校へと登校した。仲良く手を繋いで登校する二人の姿は、傍から見ればとても微笑ましいものに見えたことだろう。

 だがそれは少し違う。

 

 彼女達はお互いにお互いの心の安定を求めて、お互いに依存しているのだ。そうすることでしか、自分の心を保つことができなかったから。

 それほどまでに彼女達を襲った現実は残酷で、堪えがたいものだったのだ。

 

「未来、今度フラワーにいかない?」

「うん、いいよ。響の奢りでね♪」

「ええー! もう、仕方ないなぁ」

「うふふっ!」

「あははっ!」

 

 悲しみから目を逸らすことは、果たして彼女達にとって良い方向へ繋がるのか、それとも崩壊の道へと通じるのか、それは誰にもわからない。

 

 それでも珱嗄が消えたことは事実。

 そして響が戦わなければならないことも変わらぬ現実。

 

 ならばこの共依存はいずれ壊れる―――二人をこうした残酷な現実が、ソレを壊す。

 

 その時響は、果たしてその拳を握ることができるのだろうか……。

 

 

 




どんな人間でも、大切なものが増えれば壊れやすくなる……。

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