◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第十四話 憎悪に呑まれて

「弦十郎さん、私に戦い方を教えてください」

「……俺の修行は厳しいぞ?」

「もう何もできないのはいやなんです」

「わかった……時に響君、君はアクション映画とかは見る方か?」

 

 ―――……

 ――

 ―

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 珱嗄が消えてから二週間が経った頃、立花響は風鳴弦十郎に戦い方の師事を乞うた。珱嗄という師匠がいなくなった以上、その代わりを務められる人材は彼しかないと考えたのだ。

 未来が塞ぎこんでいた時はそんなことを考える余裕もなかったのだが、今の未来は大分落ち着いており、多少響が離れてもきちんと家に帰るようにすれば問題ない状態にまで回復している。故に、響は今自分ができることを探し出したのだ。

 

 感覚で行っていることを分析し、噛み砕いて分かりやすく説明してくれていた珱嗄と違って、弦十郎の修行方法はかなり感覚的なものだった。

 なにせ、男の修行は『飯食って映画見て寝る、それで十分』と言い放つ人物である。

 

 その言葉通り、響は弦十郎に師事してからというもの、彼の自宅にあるかなり大きい液晶テレビでアクション映画の数々を視聴し、その映画内で行っていた武術や戦い方、立ち回りを覚えて真似するという日々を送っていた。

 無論、中国拳法さがらな肉体改造は同時進行で行ったうえでだが、ランニングや筋トレ、サンドバック打ち、ミット打ちなど、視聴した映画のジャンルがそれぞれ違うからか、武術形式も全然違っている。

 結果的には、中国拳法を中心に、ボクシングや空手などの要素も取りいれるという中々ハードというか、何でもありな修行になっていた。

 

「ふー……ふー……」

「今日はここまでだな」

「……はい、ありがとうございます!」

 

 弦十郎から見て、響はとても筋が良かった。

 元々頭で考えるより身体で覚える方が向いているタイプだ、弦十郎の感覚的な修行は響には合っていた。また、何も考えずにイメージに沿って身体を動かすだけでいいという種業は、現実から目を背けるには丁度いい時間でもあったのである。

 だから結果的に、ではあるが、

 

 響は弦十郎の予想よりも遥かに早いスピードで成長していた。

 

「シャワーを浴びて、身体を冷やさないようにな」

「はい、じゃあ失礼します!」

 

 弦十郎の気遣いに笑顔を浮かべて去っていく響。その響の背中を見送りながら、弦十郎は少し微妙な気分だった。

 成長しているのは確かだ――しかも驚異的な速度で。

 このままなら、戦力的に翼と並ぶほどの強さを手にするのもそう遠い話ではないと思える。それが響の才能なのか、融合症例としての力なのかはわからない。

 

 けれど、弦十郎はそれだけではないと考える。

 

「(普段の様子は以前と同じだが……修行中の響君の集中力は、凄まじい。それこそ、時折彼女が映画のイメージ通りに動いている瞬間があるくらいだ……)」

 

 修行中、響の表情は暗く、冷たく、深い海の底に沈んでいくような雰囲気がある。

 一挙手一投足に没頭するような響の集中力は、一時間の修行でも開始時と終了時で見違えるほどその動きを磨き上げるのだ。

 現実から目を背けるためとはいえ、余計なことは一切考えず、ただイメージと弦十郎の言葉を体現することに全神経を尖らせることができている現状は、弦十郎をして背筋が凍る思いを感じている。

 

 脳領域の限界を超えて動いているような、そんな気さえした。

 

「それだけ、彼女にとってあの二人が大事ということか……」

 

 今の響はただひたすら力を求め、強さに飢えている。

 大切な存在を脅かす者を悉く排除できるように、守りたいものを守れるように、これ以上何も奪われないように、彼女は拳を固く、固く、固く握りしめていた。

 

「情けないな……大人として、子供を導くこともできないとは……」

 

 響の師匠として選ばれた以上、自分自身が彼女を導く立場にいる。

 戦い方を教える以上に、その力を正しい方向へと導くのも自分の役割だ。ならば、今の響の危うさを解消するのもある意味自分の役割でもある。

 

 いつかその危うさが響を壊してしまう前に、弦十郎は師として改めて気を引き締めた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 翼が倒れてから、ネフシュタンの鎧を纏う少女も出てこず、ノイズの出現件数もかなり減っている。これはノイズの出現に人為的な意図があるという何よりの証拠だろう。

 であればノイズを用いて何かをしようとしている敵陣の目的を探ることが、何よりの対策になってくる筈だ。なにより、珱嗄の行方もその過程で見つけることができるかもしれない。

 

 そしておそらくではあるが、その目的は二課本部最奥区画にて保管している完全聖遺物『デュランダル』。

 

 二課だけではなく、政府の考えでもそういう結論が出ているのだ。

 なにより、この二週間の間で二課を支えていた政府要人……防衛大臣が殺害された。複数の犯罪組織からの犯行声明も出ている中、その詳細は不明。

 だが二課の活動を支える人材を狙ったと考えるなら、以前ネフシュタンの少女が個人を狙ったということも含め、二課の中に内通者がいる可能性がある。

 

 ならば、未覚醒とはいえ完全聖遺物である『デュランダル』を二課の職員の手の届く保管場所に置いておくのは危険極まりない。

 故に、二課は急遽『デュランダル』を別の保管場所へと移送する計画を立てた。

 

「防衛大臣殺害犯検挙の名目で検問を設置した。『デュランダル』移送のため、新たな保管場所『記憶の遺跡』まで、一気に駆け抜ける!」

「名付けて、天下の往来独り占め作戦♪」

 

 弦十郎の指揮で、その計画が開始される。

 響も含め、護衛車に乗る職員たちに詳細の説明を終えた後、了子と響を乗せた移送車を入れて、五台の車が発車した。

 

 弦十郎は、内通者がいるとするのなら、この移送計画の間に『デュランダル』を奪おうと必ず襲撃を仕掛けてくると考えている。いや、間違いなく仕掛けてくる筈だ。

 そこを抑え、あわよくば情報を獲得できれば上々と見ているが、相手の戦力や目的が見えない以上その場の判断が重要になってくる。移送車とは別で、ヘリから全体を見られる場所で指揮を出すポジションに着いた弦十郎は、いつもよりも神経を尖らせていた。

 

 ―――Balwisyall nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

 

 すると発車して間もなく、無線から響の歌声が聞こえてきた。

 

「ッ! まさか……!」

 

 弦十郎はその歌声に視線を彷徨わせ、遅れて下水道から護衛車の一台を吹き飛ばしたノイズを視認した。移送車の中で橙色の光が放たれるのを確認し、響がシンフォギアを纏ったのを確認する。

 ヘリから状況を見ることができる弦十郎よりも早く、響がノイズの出現を察知したということに驚愕を隠せないが、即座に意識を切り替えた。

 

「敵襲だ! ノイズは下水道から襲撃している! 注意しろ!」

 

 無線にて全車に注意喚起をする。

 

『弦十郎君、これ不味いんじゃない? この先の薬品工場で爆発でもあったら……デュランダルは……!』

「わかっている!」

 

 下水道からマンホールを通って護衛車を狙い撃つかのように襲撃を仕掛けてくるノイズに、弦十郎は敵方の意図を読み取る。そして即座に対応策を考えた。

 

「敵の狙いはデュランダルだ! 先程から護衛車を狙い撃つ襲撃が、デュランダルの破損を割けるためのものなら、敢えて危険地帯に潜り込むことで敵の狙いを絞り込むぞ!」

『薬品工場の方へ向かえってことね……勝算は!?』

「思い付きを数字で語れるものかよ!!」

 

 臨機応変に現場の判断を下さねばならない以上、どうしたってその場の思い付きの策にはなってしまう。時間がない現状、他に策も無ければそれに全賭けするしかない。

 了子は車を動かし、全速力で薬品工場の方へと行く手をシフト。ノイズの襲撃を避けながら進めば――最後の護衛車をノイズが襲った。これで敵陣の狙いがデュランダルであることは確定、あとはコレを守り抜けば敵の狙いを阻止することができる。

 

 だが薬品工場は道路ではない、了子の運転する車は何かにぶつかって横転してしまった。

 

 ―――♪撃槍・ガングニール

 

 しかし響はその事態に焦ることなく、信じられない反応を見せる。

 横転した車の窓から手を出すと、シンフォギアの力で向上した身体能力を遺憾なく発揮し、地面を殴ったのだ。それにより転がろうとしていた車は上空へと押し上げられ、その隙に窓から飛び出した響が、落ちてきた車を受け止めた。

 

 正しい向きで車を地面に下ろせば、了子が軽く目を回した様子で出てくる。デュランダルは無事、了子もシートベルトのおかげか怪我は無いようだ。

 

「了子さんはデュランダルをお願いします」

「え、ええ……わかったわ」

『大丈夫か!? 二人とも!』

「ええ、大丈夫よ弦十郎君……響ちゃんのおかげでね。でも、ちょーっと不味い状況かも?」

 

 見れば既にノイズに囲まれている。二人に逃げ場はなかった。

 

 だが、その状況に反して響の表情がすーっと冷たくなっていく。鋭く研ぎ澄まされていくような響の雰囲気に、了子はゾッとした。

 

「――♪」

 

 歌いだす響に、ノイズが襲い掛かってくる。

 正面と上空から三体、背後から二体―――それを、響は的確に対応してみせた。

 背後から迫る二体を体勢を低くして躱すと、自分の上を通り過ぎようとしたノイズを打ち上げるように掌底にて二体同時に破壊、そのまま上空から飛び掛かってくるノイズを掴むと、正面から迫っていたノイズに振り下ろした。

 

 ズドン、という音と共にノイズが塵と変わる中、振り下ろした勢いのまま響は前へと飛び上がり、前転宙返りを一つ入れて、そのまま一体のノイズに踵落としを決める。

 地面が軽く割れ、周囲のノイズに破片が飛んだ。ひるんだノイズに迫る響は、一歩進むごとにノイズを拳で、蹴りで打ち砕いていく。

 

「凄い……」

 

 了子は、一月以上前の響と比べて、今の響の強さに驚愕していた。

 弦十郎が戦闘技術を叩きこんでいることは知っていたが、ここまで成長が早いとは思っていなかったからだ。

 

 このままなら、響がノイズを掃討せしめるまでにそう時間は掛からない。

 

 だが、そこへノイズではない攻撃が響を襲う。結晶を連ねた鞭が迫り、響はそれを躱す。視線を向ければ、そこにはネフシュタンの鎧を纏った少女がいた。

 珱嗄を傷付けた張本人、響にとって許しがたい敵である。

 

「今日こそはモノにしてやる!」

「―――良かった……来てくれて」

「!?」

 

 鞭を後方へ跳び上がることで躱した先で、響は接近してきた少女の蹴りを食らってしまうが、その表情は笑みを浮かべていた。ノイズを倒すこと、デュランダルを守ること、そのことは忘れていない――けれど、この移送計画の中でネフシュタンの少女が姿を見せてくれたら、そう思ってもいたのだ。

 

 珱嗄を失ったことも、未来を傷付けたことも、自分の未熟さのせいだ。

 

 けれど、それはそれとして、響はネフシュタンの少女を許せはしなかった。

 

「はぁあああ!!」

「んなっ……あぐぁ……っ!?」

 

 蹴られた状態はそのままに少女の足首を掴んだ響は、その場で回転し、少女を地面へと叩き付けた。

 痛みと衝撃で声をあげる少女だったが、響が更なる追撃を仕掛けようとしていることに気がつき、転がることで距離を取る。遅れて先程まで少女のいた場所へ響の拳が刺さった。地面が割れる。

 

「(なんつー馬鹿力だ……! しかも、こいつ……信じられねぇ速度で戦えるようになってやがる……!)」

「珱嗄を傷付けたこと、後悔させてやる……!」

「この……!」

 

 完全な私怨を剥き出しにして、響は血走った瞳で少女を見ていた。

 少女はその瞳に気圧され、一歩後退ってしまうが、反抗心から気を取り戻す。鞭を振るって響を攻撃するが、それでも冷静な響は両の手で鞭を掴み取った。

 そしてそのまま鞭を力いっぱい引き寄せれば、ネフシュタンの少女の身体は勢いよく響に向かって引っ張られる。足が宙へと浮き、抵抗できない状態で響の方へと向かう自身の身体に、少女は酷く焦った。

 

 だがもう間に合わない。

 

「ぁぁああああああ!!!」

 

 響の力いっぱい引き絞られた拳が、少女の鳩尾を抉る。

 くの字に曲がった少女の口から、体内の空気が全て吐き出されるが、響は即座に拳を引くことで少女が吹き飛ばないようにした。その理由は――

 

「ふっ―――せぇぇいッ!!」

 

 ――重力に従って落ちる少女の身に、追撃を加えるため。

 

 鳩尾への衝撃で視界が点滅する少女は、その追撃をまともに躱す余裕がなかった。

 結果、響の回し蹴りは、少女のこめかみを精確に撃ち抜く。今度こそ少女は吹き飛んでいき、地面をバウンドして転がり、ガリガリと削るような音と共に止まった。

 

 響が珱嗄から戦い方を教わったのはたった一度だけ。

 けれど、そのたった一度で教わったことが、今活かされていた。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

 すなわち、人体の壊し方。

 ネフシュタンの鎧という完全聖遺物を纏っているとはいえ、鳩尾とこめかみという人体急所を精確に撃ち抜いた響の攻撃は、少女の意識を完全に奪い取ることに成功していた。

 意識を失った少女に近づき、腰にあった銀色の杖を取り上げると、響は周囲にいたノイズに向けてソレを振るう。

 使い方がわからなかったので少女の使い方を真似しただけだったが、消えるように念じていたせいかノイズが全て杖から放たれた光で消えた。

 

「これは……!?」

「?」

 

 すると、背後にいた了子が声をあげた。

 響が振り向くと、そこにはケースを突き破って出てきたデュランダルがあった。空中で静止し、金色の光を放っている。

 

「響ちゃんの歌で、覚醒……起動……?」

 

 美しい姿を見せるデュランダルだったが、響には触れてはならない危険を感じた。

 

「了子さん、これ何が……」

「! ……ええ、少し動揺しちゃって……どうやら響ちゃんの歌でデュランダルが覚醒しちゃったみたいね」

「え、と……どうしたらいいんでしょう?」

「とりあえず、襲撃はどうにか防げたみたいだし……デュランダルを回収しましょうか」

「わ、わかりました……了子さん、これお願いします」

 

 響は了子に銀色の杖を渡すと、空中のデュランダルを回収すべく跳躍する。

 そしてその柄を握りしめた瞬間―――

 

 

 響の意識がドス黒い何かに埋め尽くされ、消えた。

 

 

 




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