◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第十五話 正体不明の黒幕

 あの後のことは、目が覚めた後に聞かされる形で知った。

 

 デュランダルを手にした瞬間、私は暴走状態に移行し、その無尽蔵のエネルギーを解き放ったのだという。薬品工場は大爆発、あの辺一帯は崩壊の波に呑まれて酷い有様だったみたい。

 私が蹴り飛ばしたネフシュタンの少女は確保されたみたいだけど、確保する時にネフシュタンの鎧はなくなっていたそう。おそらくはあの子の裏にいた人物が回収していった可能性が高いらしい。

 あの子の持っていた銀色の杖は、これも完全聖遺物で『ソロモンの杖』という代物なんだそう。バビロニアの宝物庫を開く鍵? だとかで、ノイズを召喚、操作することができる聖遺物らしい。過去のノイズ事件も、おそらくはこの聖遺物で呼び出されたノイズで間違いないと見られている。

 そして私の使ったデュランダルもまた、無事に回収されたとのことだ。

 

 まぁ、そんな経緯は正直どうでもよかった。

 

 目を覚ましてから、私の心が不安定になっていることに気がついていたからだ。

 

「……」

 

 私はあの日の自分がとても恐ろしく思う。

 珱嗄を傷付けた相手とはいえ、私は容赦なく人体の急所を撃ち抜いた。正直ネフシュタンの鎧があったとか、そんなものは一切頭に無かった―――ただ、力いっぱい痛くしてやりたかったんだ。珱嗄の感じた痛みを、そのまま味合わせてやりたいと思って。

 そんなことを思っていた自分にも、容赦なくソレを実行した自分にも、心底嫌気がさした。こんなことがしたくて、強くなりたかったわけじゃない。

 

 だからかな、私はこの拳を振るうのが、とても怖くなった。

 

「お、元気そうだな」

「師匠……」

 

 病室で検査結果を待っていた私。

 デュランダルのせいとはいえ、二度も暴走した私の身体に異常がないか、了子さんがしっかり調べてくれている。何もないといいけど、何かあっても別にいいかと思ってしまっていた。

 

 そこへ、師匠が私の様子を見にやってきた。

 その手には定番なフルーツバスケットがある。入院するわけじゃないから、すぐに食べられそうなミニサイズ。ありがたいけれど、なんとなく食欲はなかった。師匠の纏う空気も、どこかいつもと違ってピリついている。

 

「これは見舞いだ、あとで食うといい」

「ありがとうございます……」

 

 師匠はベッドの横のミニテーブルにソレを置くと、横の椅子に腰を下ろした。

 

「で、だ……まぁ、その後のことは聞いていると思うが……俺も、了子君から響君が件のネフシュタンの少女を打倒した時のことを聞いた」

「! ……はい」

「その様子なら自覚しているようだが……響君、俺が君に戦い方を教えたのは、人を殺めるためではない。ネフシュタンの鎧があったから彼女も無事だったものの、ソレがなければ君の攻撃は確実に彼女の命を奪いかねなかった」

「……」

「鳩尾への一撃、こめかみへの蹴り……どちらも急所を的確に抉る攻撃だったと聞いている。実際、ネフシュタンの鎧で再生されていなければ彼女の頭蓋骨は砕けていただろうし、鳩尾への一撃も内臓を破壊していてもおかしくない……覚えておいてほしい、実質君は人一人を殺めたのだと」

「はい……ごめんなさい」

 

 シュンと肩を落とした響に、弦十郎は大きく溜息を付いた。

 今回の事は、師匠として彼女を導くことができなかった自分の責任でもあると、弦十郎は思っている。あまり響ばかりを責められない。

 

「君が焦る気持ちもわかるつもりだ……珱嗄君が失踪してから、未来君の状態も良くなかったようだしな……」

「! ……はい」

「彼の行方は、我々の方でも追っている最中だ。ただ米国政府の動向的に見ても、珱嗄君が他国の政府機関に拉致された可能性は低いと考えている……とすれば、あの少女の裏にいる人物が怪しいが……その辺りは彼女が目覚め次第尋問するしかないな」

「そうですか……わかりました」

「まぁ、今はゆっくり休め! 響君のおかげでデュランダルも無事、敵側のノイズを操る手段も奪い、戦力であり敵に繋がる情報を持つ少女を確保することができた……諸々行き過ぎた部分はあったが、これは大手柄だぞ」

 

 師匠が私の背をポンと叩いてそう言ってくれる。

 大手柄、か。確かに、これで向こうの戦力と選択肢を大幅に削ることができたはず。あの子も二課の手の内にあるわけだし、珱嗄に繋がる情報が何か得られるかもしれないと考えれば、状況は全然悪いわけではないかも。

 

 気持ちは重たいままだけど、私は少しだけ希望が見えたと思うことにした。

 

「さて、と、それじゃあ無理はするなよ……ああそうだ、翼だけどな……危険な領域からは脱したそうだ。意識も戻ったようだし、じきに戻ってくるだろう」

「! 本当ですか? 良かった……」

 

 翼さんが戻ってくる。

 私の未熟のせいで意識不明の重体に陥らせてしまったから、本当に無事で良かった。戻ってきたら、きちんと謝らないといけない。そして、これからはきちんと翼さんを支えられるように成長すると、私の意思をちゃんと伝えよう。

 そして師匠は私の表情が緩んだのを見て、少し安心したような表情を浮かべた後、病室を去っていった。

 

 私一人の空間が戻ってくる。

 

「……」

 

 翼さんが戻ってくるのは嬉しい。

 あの子から珱嗄の情報が得られるかもしれないという希望が出てきたのも嬉しい。

 でも、私の中のどこか冷静な部分が師匠の言葉の中に引っ掛かりを覚えていた。

 

 どうして師匠は、未来(・・)のことを知っているんだろう?

 

 珱嗄のことを知っているのはわかる。あの一件に巻き込まれたのだから、その身辺調査をするのは当然だと思う。

 けれど未来はこの件には一切関係ない筈だよね?

 珱嗄と私の幼馴染だから存在を知っていることはありえないことではないけれど、師匠の口振りだと知識としてではなく、未来自身のことをちゃんと知っているように感じた。

 

 どうして?

 

「……わかんないや」

 

 考えてもわからない。私は馬鹿だから。

 けれど、少し前……未来が何かに悩んでいたようだったのを思い出す。

 未来は私なんかよりもよほど頭が良いし、基本的にある程度なんでもできる優等生だ。そんな未来が、私にも言えない、自分でも解決出来ない様な悩みを抱えていたとするなら―――もしかして二課と何か接触があったんじゃないの?

 

 珱嗄があの子に狙われたのは何故?

 

 珱嗄が聖遺物関係でなんらかの形で関わっていた? そして未来もそれを知っていたんだとすれば? そしてその件で事前に二課と接触していて、機密事項だって言われたんだとすれば、未来が私に言えなかったのも納得がいく。

 私は二課に協力していることを未来や珱嗄に言っていない。未来からすれば、私も聖遺物に関与していない一般人だったはず。言えるわけがない。

 

「……」

 

 根拠なんてない。

 これは私の想像でしかないし、実際未来の悩みは普通の悩みだったかもしれないし、珱嗄も聖遺物に関与しているわけではなく、あの場にいたから攻撃されたのかもしれない。この想像を否定することは幾らでもできる。

 けれど、想像してしまえば止めれらなかった。

 

 二課の皆さんを悪く思う訳ではないけれど、もしも未来や珱嗄と接触があったのなら、それを私に隠していたということになる。

 

「……はは」

 

 私の口から、怖いくらいに感情のない笑い声が漏れた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 それから少しして、ネフシュタンの少女が目を覚ます。

 響によって打倒され、確保された少女の名前は雪音クリス。

 風鳴弦十郎も記憶にある少女で、かつて歌で世界を平和にしようとした両親に連れられていった紛争地帯にて爆弾による被害を受けた少女だった。両親を爆弾によって失い、自身も捕虜生活を送っていたところを国連軍に救助されたのだが、そこから突如行方不明になっていたところ、今回姿を現した。

 

 弦十郎は何故彼女がこうして聖遺物を扱いながら姿を現したのか、ことの経緯を問いたい所だったが、今は彼女のことではなく事件の黒幕について訊くのが先決。

 拘束されながらも、強い反抗的な瞳で睨んでくるクリスに、弦十郎は向かい合っていた。

 

「君の身柄は一先ず我々二課が預かることになっている……しばらくは此処で拘束させて貰うぞ」

「ハッ、にしては監視が緩い気がするけどな」

「ネフシュタンの鎧も、他に武装も持たない君は今、非力な子どもでしかないからな。過剰な監視は必要ないと判断したのさ」

「チッ……」

 

 弦十郎の何を言われても動じない態度に、悪態をつくクリスは舌打ちをする。

 確かに、現時点でネフシュタンの鎧を持たないクリスに、この拘束を破って逃亡する方法はない。何をどうしようが、クリス単身では手の打ちようがないことは明白だった。

 

「それで、君の目的はなんだ? 君に指示を出していた人物について吐いて貰いたい」

「そう言われて誰が吐くんだよ……アタシはなにも言わねぇ」

「……そうか。それならばそれでもいい、ネフシュタンの鎧は奪われたままだが、ソロモンの杖と君がこちらの手にある以上、戦力を失った黒幕を突き止め、確保するのもそう難しくはない。時間の問題だ……君が吐いてくれれば手っ取り早いんだが、此方としては別段それにこだわる必要もないからな」

「! ……お前ら大人はいつだってそうだ!! 人の気持ちも考えず、そうやって人が大事にしてるもんを奪ってく!! 気に入らねぇ! 気に入らねぇ気に入らねぇ! 大人なんて大嫌いだ!!」

 

 弦十郎はクリスの声を無視して、部屋を出ていく。

 少々嫌味な対応ではあったが、クリスの感情を逆撫でするような発言も狙ってのことだ。現に、クリスはその言葉にキレて荒々しく暴言を吐いてくる。

 

 その中には、クリスと黒幕の関係を仄めかすような発言もあった。

 

 おそらくではあるが、クリスからすれば黒幕は大切な人物なのだろう。それは彼女の言葉から汲み取ってもわかる。考えられる可能性は、行方不明になったクリスを保護していた人物か、行方不明になってから行動を共にしていた人物か、だ。

 だが今までのことから、黒幕はクリスに対してそこまで思い入れはないように思う。彼女が確保される際、彼女を回収せず、ネフシュタンの鎧だけを回収したことからもそれが伺える。

 

「(彼女は何者かに利用されているだけであり、その何者かは彼女を見限った……というこことだろうか?)」

 

 弦十郎は廊下を歩きながら考える。

 今後起こりうること、敵が取るであろう行動、二課にいるとされる内通者、そういった情報を全て頭の中で整理し、あらゆる可能性を思考する。

 

「くそっ……」

 

 考える、分からなくても。

 限界まで考えて多くの人々を守るための策を練るのが、大人の役割だからだ。

 

 

 




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