◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
何が起こったのか、響にはわからなかった。
未来の目の前でシンフォギアを纏うわけにはいかないと思っていたのにも関わらず、珱嗄の母親が手を叩いただけで勝手にシンフォギアを纏っていたのだ。バレるわけにはいかない秘密が白日の下に晒されてしまっている。未来の驚きに見開かれた両目を見て、響の心は猛烈に恐怖を感じた。
未来も響のその姿を見て、察したくはない真実を察してしまう。
その姿の詳細は理解できなかったが、その姿が何を為すためのもので、どういうことができる物なのかは、容易に理解できてしまったのだ。
なにせ同じような恰好をしているクリスが、先ほど地面を爆散させる攻撃を仕掛けてきているのだ。響の手に武器はなくとも、それと同様のことができることは明白。
そうつまり、響の身に纏っているそれが何かと戦うためのものであるという真実を、未来の優秀な頭脳は導き出していた。
「響、その恰好は……そんな」
「未来、違っ……!」
「違うことはないだろう、響ちゃん。僕はなんでも知っているよ? その恰好は対ノイズのバトルアーマー、通称シンフォギアだろう? 未来ちゃんに内緒にしていたのかな? 駄目だよ幼馴染を心配させたら。じゃあ君が二課に協力して度々ノイズと戦っていたことも、珱嗄がいなくなった日の前日、ノイズとの闘いに珱嗄を巻き込んだことも内緒にしているのかな?」
「ッ……それはっ、その……!」
未来の信じられないといった表情になんとか弁明しようとする響だったが、そんな響の弁明を許さないというように、珱嗄の母親は響が秘密にしていた真実を明かしていく。
明かされる真実の一つ一つに未来の表情は青くなっていき、信じたくないというように頭を抱えた。
未来からすれば、珱嗄は対ノイズ性という秘密がどこかに露見してしまい、その結果拉致されてしまったものと考えていた。それを響が支えてくれ、どうにか普段通りにふるまうだけの精神的余裕を得ることができていたのだ。
恋人を失った悲しみから目を逸らして、響という存在に依存することで。
それが一気にひっくり返る。
響が密かにノイズと戦っていた。珱嗄の対ノイズ性のように、自分の理解の及ばない力を使って、危険な戦場に赴いていた。自分の知らないうちに死んでしまっていたかもしれないのに、それを秘密にして。
なにより、響は珱嗄がいなくなる直前、彼がその戦場にいたことも秘密にしていたという。いかに自分が珱嗄の秘密を黙っていたからといって、そんな大事なことを隠していたのは、未来にとっては信じられなかった。
「響、貴女……全部、知ってたの?」
「違うの未来、私はっ」
「珱嗄がいなくなった原因を知っていたのに、黙ってたの……?」
「そうじゃなくて……私は、違くて……」
未来の問い詰めるような淡々とした言葉に、響は上手く言葉が出てこない。一気に秘密が明るみに出たことで、響はパニックに陥っていた。この状況で何が一番大事なのか、何をするべきなのかの判断が全くついていない。
そうして出た断片的な言葉を聞いて、未来の感情が爆発する。
「違くないでしょ!? 私がどれだけ珱嗄を思っているかも知っていて、それでも私に内緒でノイズと戦ってて、私に珱嗄のことを黙ってた! どうして!? 私に生きていてほしいって言ったじゃない! 私のそばにいるって!! だったらどうして隠したのよ!!」
「それはっ……!」
「響の噓つき!!」
「未来!!」
未来の言葉に響は何も言えなかった。
未来が何を秘密にしているのかはわからない。けれど未来の言っていることは正しかった。いかに二課に協力して機密を守らなければならない立場だったとしても、死にたがっていた未来の命を救い、彼女のそばにいると約束した以上それを裏切ってはいけなかったのだ。
嘘はつかない、そう言った覚えはなくとも、未来を無理やりにでも救った響という人物そのものが、嘘だったとなればそれはもう裏切りだ。
未来にとってはその救いや友情が、なにもかも嘘だったのだから。
生きていてほしいと言いながら、自分は命がけの戦場にいた。
そばにいると言いながら、未来が一番そばに居てほしい人のことを隠していた。
珱嗄の抱えていた秘密と同じような力を、よりにもよって響が持っていた。
未来の心の中はぐちゃぐちゃだった。
どうしてこうなるのか。
珱嗄の持つ秘密が珱嗄の命を脅かすもので、それだけでも心臓が止まるような思いだったのに、響もノイズと戦える力を持っていた。それはつまり珱嗄同様、彼女の力も各国が狙う力であることに他ならない。
いつか響も珱嗄のように消えてしまうかもしれないということだ。
「どうして……どうしてよりにもよって珱嗄なの? どうして響なの? 何十億人っている中で、どうして私の大事な人ばかり!! もういや!!」
未来はボロボロと涙を流し、狂ったように声を荒げて蹲る。
そしてゴツン、ゴツンと地面に額をぶつけて、自分を傷つけだし、響が慌ててそれを羽交い絞めにして止める。よほど強くぶつけていたのか、ドロリと額から血が滲んでいた。響が羽交い絞めにしたことで上体が起きるが、目は虚空を見つめており、正気ではないことが分かる。
クリスはそんな未来の姿を見て、ゾクッと背筋に悪寒が走った。
自分が傷つけた珱嗄が消えたことで、ここまで一人の人間が狂ってしまうなんて思っていなかったのだ。いや、頭では分かっていたのだろう。それでも目の当たりにした瞬間、その罪を受け入れる覚悟ができていなかったことを思い知らされた。
「さて、まぁ君たちのあれやこれやはどうでもいいとして……いろいろ動いていたとはいえ、僕としては待ちくたびれたんだよね。そろそろ、ライトノベル一巻分くらいのストーリーにはなっているだろうし、アニメだとしても起承転結の転くらいには進んでほしいところなんだよ」
「何を言って……」
「ああ、ようやくキャストが揃ったかな?」
「!?」
だが珱嗄の母親が空気を壊すように話し出すと、クリスはその意味の分からない言葉に首をひねる。そしてどういう意味かを問おうとした瞬間、珱嗄の母親が視線を別の方向へと移動させた。
クリスがそちらを見ると、そこにはバイクでこちらへ向かってくる風鳴翼の姿がある。移動中に聖詠を唱えていたのか、すでにシンフォギアを纏っていた。
そしてクリスたちを認識した瞬間、バイクを足場に空高く飛び上がり、空中で一回転。その手に持った大剣から青い斬撃が飛んできた。
―――青ノ一閃
「はぁああああ!!!」
「ッチィ……!」
その一閃はクリスと珱嗄の母親の間に落ち、クリスが飛びのくことで二人の距離が空く。そしてその二人の間に入り、クリスから珱嗄の母親を守るように翼が立ちふさがった。
「ご無事ですか?!」
「ああ、今のところ無傷だよ。ありがとう翼ちゃん」
「翼さん……知り合い、なんですか……!?」
「話す必要はないわ……」
翼が珱嗄の母親と知り合いであるような振る舞いに、響は驚きの声を上げるが、翼はその問いかけに対して冷たくつっぱねる。
響が現場で機能するだけの実力を努力で獲得していることは、報告で知っている。だが翼が目覚めてからその目で見た響の戦場での姿は、あまりにも見ていられないものばかりだったのだ。
叫ぶような焦りと恐怖の混じった歌声、立ち回りこそ上手くなっているものの、八つ当たりのようにノイズを攻撃する戦い方はけして見られたものではない。まして『デュランダル移送計画』の際は、雪音クリスを殺しかけたという。
防人としても、戦士としても、戦場に立つ者としては失格としか思えなかった。
努力は認めているが、それでも天羽奏の意思を継いでいるとは到底思えない。故に翼と響の心の距離は、未だに埋まっていないのだ。
「説明は後程……貴女は安全な場所へ逃げてください」
「うん、そうするよ。ありがとうね、翼ちゃん」
そして翼が珱嗄の母親に逃げるように促せば、珱嗄の母親は素直にそれに頷き、響たちを一瞥しながらその場を去っていく。当たり前のように小走りで、一般人のように逃げていく。
だが響たちにはその姿がどう見てもまともな人間には見えなかった。これから翼を混ぜて、クリスと戦うことになるのだろうと想像もつくというのに、響には今この現実が現実である実感が全く沸かない。
響は今、たった数分で自分が待っていてくれる日だまりを失い、戦う意味すら見失わされてしまったのだ。
珱嗄がいなくなり未来の心が離れた今、立花響は、何のために戦うのか、何をすべきなのか、自分の心を見失ってしまっていた。
「立花、その子を安全な場所へ移動させて……立花?」
「っ、は、はい……わかりました」
「……頼んだぞ」
結果、翼の指示に反射的に従い、脱力してぐったりとしている未来を抱え上げる響。その姿はまるで初めてシンフォギアを纏った時の響そのもので、戦場に立つ覚悟もなにもない、そんな弱弱しい姿だった。
翼はそんな響の姿に若干の心配をするものの、目の前にクリスという敵がいる中でそこに踏み込む余裕はない。短く頼んだと言って、未来を連れてこの場を離れる響の背中を見送るしかできなかった。
そしてクリスの方へと刃を構え、戦いへと意識を集中させる。
「まさか、ネフシュタンだけでなくイチイバルまで所有していたとはな……だが大人しく檻に戻ってもらうぞ」
「ハッ……そう言われて大人しく戻るバカはいねぇよ!」
「だろうな、だからこそ……力ずくで大人しくしてもらう!!」
瞬間、二人が地面を蹴った。
戦闘が始まる。
◇ ◇ ◇
―――翼とクリスの戦いの場の近くの建物、その屋上から、二人の戦闘を見物する人影があった。珱嗄の母親である。
屋上の縁に腰掛け、まるで水槽の中の熱帯魚を見るような目で翼たちの戦闘の行く末を見守っている。そこには二人に対する興味も、愛着も、信用も何もない。ただの観測、それ以外の感情がなにもなかった。
退屈そうにその戦いを眺める彼女の後ろから、一人の少女が近づいてくる。
「ようやく折り返しって感じなのかな? ちょっと胸が痛いけど……」
軽くウェーブの掛かった金髪の髪の少女。両目が虹彩異色で色が違い、珱嗄の母親と違って翼たちの戦いを見て少し心苦しそうな表情を浮かべている。
「うん、まぁ必要なことだからね。僕としては、正直死ななければ彼女たちがどうなろうとどうでもいいんだけど」
「うーん……そういう所、やっぱりパパの恋人だよねぇ」
「君も大概だけどね……さて、あっちも上手くいってるといいんだけど?」
少女の言葉に対して珱嗄の母親がシレッと返した言葉に、少女は微妙そうな表情を浮かべて苦笑した。似たもの同士だという感想を抱いたのか、流石とばかりに小さくため息をつく。まるで長く慣れ親しんだような言動に呆れているような様子だった。
だが『パパの恋人』という表現は中々よくわからない表現であったにも拘らず、二人の間ではそれが自然なことであるように話が進む。
「ああ、ついさっき『お父さん』から連絡あったよ。とりあえずは問題ないって」
「それはなによりだよ」
少女が携帯を掲げながらそう言うと、珱嗄の母親はゆらりと笑みを浮かべてそう言い、立ち上がる。
少女の言う『パパ』と『お父さん』というのは、別人のような口ぶり。だがこれも、二人の間では自然な表現として罷り通っている。珱嗄の母親主導で、何かしらのプランが動き出しているようだった。
少女は珱嗄の母親の隣に立つと、再度翼たちの戦闘を見て心苦しい表情を浮かべる。
「大丈夫なんだよね? 『お母さん』……全部、上手くいくよね?」
「わはは、こんなくだらねー世界の中にいる以上、僕に『できない』ことはないよ」
少女の不安げな問いに、珱嗄の母親はどこか聞き覚えのあるような笑い方で一笑すると、冷たい瞳でそう言い切った。このくだらない世界において、自分にできないことなど何もない、その言葉の意図することはなんなのか。
少女は珱嗄の母親のそんな様子を見て、大きく深呼吸する。
「……それはパパの恋人だから?」
「わはは、今の僕はあくまで珱嗄の母親だよ……まぁといっても――」
珱嗄の母親は少女にビシッと指を立てると、まるでコミックの見開きページであるかのような決め顔でこう言い放つ。
「―――せいぜい、世界を掌で転がす程度のことしかできないけどね」
バーン、というオノマトペまで付け足した母親に、少女は慣れた様子で呆れ顔を見せたのだった。
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