◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
―――ふざけた展開だと思う。
ここまで綿密に進めてきた計画が、よくわからない変な家族によってめちゃくちゃにされかけている。
クリスが二課に捕まったことは正直想定外ではあったが、『ネフシュタンの鎧』はまだこちらの手にある。裏で上手く動けば『ソロモンの杖』も取り戻すことは可能だが、下手を打てば一気にまずい状況になるので動くことはできない。
少なくとも、『カ・ディンギル』の準備が整うまでの間は、不用意に動くことはできなかった。故に一月ほどの時間、膠着状態に陥ってしまったのだが。
おかげで二課の戦力は増すばかり。
クリスが風鳴翼の絶唱を引き出したおかげで、二課の戦力は素人のガングニール装者だけになったと思ったのに、それも束の間だったな。時間を空けたことで風鳴翼は復帰を果たしたし、立花響も驚愕するスピードで成長を遂げていた。
正直クリスが捕まっていなかったとしても、一人では太刀打ち出来ない戦力が二課にはある。
だがそんなことはどうでもいい。
問題はクリスが捕まったことでもなく、二課の戦力が増したことでもない。
泉ヶ仙珱嗄およびその母親の存在が問題なのだ。
なんなのだあの化け物は。息子はノイズを素手で軽く捻る特異体質を持ち、母親は現実を改変する能力を保有している。事実私と立花響以外の記憶が改竄されており、一部の事実がなかったことにされていた。
クリスには泉ヶ仙珱嗄を攻撃した記憶があるようだが、改変されたのはその後のことだ。記憶改変や事象改変が不完全であることから、正確に辻褄を合わせるような能力ではないのかもしれないが、この不完全さも意図されたものである可能性は否定できない。
「それに、あの
忌々しい、このリディアンの地でだけでなく、私の保険にまで妨害の手を伸ばしてくる。致命的とまではいかないが、少々厄介なところまで私は追い詰められている。
彼女たちを殺す気がないのであれば、問題はない。
「……だが、カ・ディンギルの準備は整った……そしてこの『ネフシュタンの鎧』も」
二度の暴走を見せた第三号聖遺物ガングニールのシンフォギア装者、立花響。
二年前ツヴァイウィングの戦いに巻き込まれ、天羽奏のガングニールの破片が胸に突き刺さり、身体と融合したことでガングニールのシンフォギアを纏うことができた少女。
つまり聖遺物との融合症例第一号。
彼女のデータは私の研究に大いに役立ってくれた。
おかげで私の計画も破綻せずに済む。
「忌々しいバラルの呪詛……この世界は――あと少しだ」
あと少し―――あの家族さえいなくなれば。
◇ ◇ ◇
翼とクリスの戦いは、結局響という標的を見失ったクリスが撤退するという形で決着がついた。元々脱走したばかりで状況的にも分が悪く、このまま翼と戦ってダメージを負うよりは、一度撤退して態勢を整える方が効率的だと判断したのだ。
珱嗄の母親の登場で動揺はしたものの、その辺りの冷静さを失わない点は、やはり戦場に立つ者としての心構えはできているということなのだろう。
そして裏にどれだけの人物が待ち構えているかわからない以上、深追いもしなかった翼。
弦十郎の判断的にも、クリスの反応を追跡して黒幕の居場所を探ってからでも遅くはないとなっていたので、一旦はそこで状況終了となった。
そして未来を避難させた響の元へと向かった翼は、下校中の道だったからだろう、リディアン音楽院の傍で響と未来の姿を見つける。
シンフォギアを解除し制服に戻った響は俯いて立ち尽くしており、その視線の先には地べたに座り込んで項垂れている未来の姿があった。二人の関係で友人以上の情報を知らない翼から見ても、二人のその姿はあまりに痛々しい。
「立花」
「! ……あ、翼さん……」
声を掛けるとびくりと響の肩が跳ね、おそるおそる振り向いた彼女は翼の姿を確認し、力なくそんな声を上げる。
最初に出会ったときの元気いっぱいな響の方が印象に強い翼は、今の響の姿は正直看過できなかった。戦場に立つと選んだのは響ではあるが、それを強制する権限は翼にも、二課にもない。あくまで彼女は協力者なのである。
だから、戦場に立ち続けることがいずれ立花響を壊すというのなら、
「……これで分かったでしょう。戦場に立つということは、自分の日常を多少なりとも犠牲にしなければならない……生半な意思では何かを守るどころか、全てを失うことになる」
「……私は、ただ……」
「困っている人を助けたいという貴女の思いは決して間違いではないわ、それはとても尊い意思ではあるし、貴女の美点なのだと思う……けれど、戦場には向いていない」
翼は今、奏のガングニールを響が纏うことの抵抗感や響の覚悟の有無は関係なく、響という
「貴女の身体に聖遺物が埋まっている以上多少生活に制限がつくとは思うけれど、戦場から身を引いた方がいい。機密を守る限り、今なら何気ない日常に戻ることができる」
「……っ」
「彼女の傍にいることが、今の貴女のすべきことではないの?」
「……未来」
「自分で決めたことでしょ……だから、これも自分で決めなさい」
翼はそう言うと、リディアン音楽院の方へと歩いていく。
地下にある二課の指令室へと降りるのだろう。歩きながらシンフォギアを解除し、元の服装に戻った翼は振り返らない。
響はその背中を見ながら、自分がどうすべきなのかをぐるぐると考えていた。へたり込んだ未来は動く様子を見せず、自分の秘密を知ったことに未だショックを受けているようだった。
戦わなくてもいい。
秘密が暴かれ、親友から拒否され、戦場外通告を受けた。
事実戦力にはなるが、戦場に立たなくてもいいと言われたのなら同じことだ。
響は何故自分が戦っていたのか、何を守りたかったのか、わからなくなっている。ただ困っている人がいて、自分が力になれるのならまっすぐに助けに行きたいと思っていただけだったのに、懸命になって戦った結果―――何もかもを失ってしまった。
「未来……私、どうすればよかったの……」
問いかけたわけではなかった。
ただ、ぽつりと口から零れたようなそんな言葉。響自身の頭の中がぐちゃぐちゃだったからこそ出た言葉だった。
だから返答は期待していなかったし、今の未来から何か返ってくるとも思っていなかった。
だが未来は力なく、でもゆっくりと立ち上がる。響はそんな未来に対して弱々しい表情で縋るような目を向けた。依存していたからこそ、こんな時ですら未来に縋ってしまった。
そんな響の目を、未来の冷たい瞳が睨みつけた。
「そんなの、私に聞かないでよ……この噓つき」
今まで未来が自分に対してここまで冷たい声を出したことがあるだろうか、と思うほど、未来の声色には感情がなかった。ただただ冷たく、拒絶するような声に、響は心を八つ裂きにされたような気持ちになる。
心臓を抉り出されたと思うくらい、胸が痛かった。
未来を守るために、珱嗄を取り戻すために、不幸な人を助けるために、戦いに身を投じたのに、守るどころか何もかもを傷つけてしまった響。
未来は響を両手で軽く突き飛ばし、一人去っていく。おそらく寮へと戻るつもりなのだろうが、その背中は響に近づくなと言っていた。
響はよろけて尻餅をつくと、目を丸くして去っていく未来の背中を見る。そうして拒絶されたことを理解して、慌てて声を上げた。
「ま、待ってよ未来! 話を聞いてよ……お願い! 私は、未来を守りたくて! 待ってよ、未来……未来ぅぅぅぅぅぅ!!!」
必死に手を伸ばして必死に悲痛な声を張り上げても、未来は一切足を止めることなく、振り返ることもなく去っていく。
もはや響の言葉を聞くつもりはないと、未来の背中は言外に告げていた。
立花響の日常はこうして、崩壊していったのである。
◇ ◇ ◇
とある国の某所にて―――
協会の様な見た目の建物の中で、わいわいと賑やかな声が溢れていた。
食事時なのかかなり長いテーブルに人数分の食事が並んでおり、それぞれの食事の前には子供たちがお行儀よく座っている。子供たちの数はかなり多く数百人、まるで学校の様な空間がそこにはあった。
その中で、食事を作った人物なのか大人の姿が二人。
車椅子に座って子供たちの姿を眺めている初老の女性と、エプロンを付けた身長の高い男性。二人は並んで子供たちの楽しげな姿に笑みをこぼしていた。
すると食事が行き渡ったのを確認した男性が前に出て声を出す。
「ほら、全員食事は行き渡ったな? まだないって奴はいるか?」
男性が話し始めると、素直におしゃべりを止めてきちんとそれを聞こうとする子供たち。素直でお行儀良く育てられたというわけではなく、単純に子供たちがこの男性のことを慕っているからこその態度だった。
男性の問いに子供たちから手が挙がることはなく、男性はうんと頷く。
「今日はこっちで一緒に食べる」
「デース! 席を確保しておいたのデスよ!」
すると子供たちの中から黒髪ツインテールの少女と金髪ショートヘアの少女が駆け寄ってきて、男性の腕を両サイドから掴んで連れていく。
これはいつもの光景なのか、男性は慣れたように困ったような笑みを浮かべながら連れられて行くと、そこには男性の分の食事と席が用意されている。
「切歌、調、そんなに引っ張らなくても行くから」
「ダメ、折角のごはんが冷めちゃう」
「早く席に着けば、その分長くお話できるのデス! さぁ!」
自分の胸くらいの背丈しかない少女たちにぐいぐいと引っ張られる男性を見て、子供たちはおかしそうに笑う。切歌と呼ばれた金髪の少女は手で押すのではなく、抱き着くようにして体でぐいぐいと押し、調と呼ばれた少女は男性の両手をもって引っ張っていく。
スキンシップの激しさはそのまま信頼の高さなのだろうが、男性はわかったわかったと言いながら席に着いた。
すると男性の両隣に切歌と調が座り、にひひ、ふふふ、と幸せそうな笑顔を向けてくる。まるで父親に娘が甘えるような二人の態度に、男性は苦笑しながらわしゃわしゃと二人の頭を撫でた。
「全く、いつまでたっても甘えん坊だな」
「私たちは子供だからいいの」
「デスデス! これは子供の特権なのデスよ?」
男性の言葉に悪戯に笑う二人の言葉は、背伸びせず、素のままの自分を曝け出している。男性に対して、全幅の信頼を寄せていることが見て取れた。
「ほら、いい加減食べるぞ。みんな、手を合わせろー」
だが男性がそう言うと、切歌も調も一度甘えるのを止めて素直に手を合わせた。子供たちもそれに倣ってきちんと手を合わせる。この辺りは男性や車椅子の女性の教育の賜物かもしれない。
そして、男性が全員に聞こえるような声で、
「いただきます」
『いただきまーす!』
そう言うと、それを数百人の子供たちが揃って復唱した。
「(さて……そろそろかな? 全く、嫌な役割だな……本当、手間かけさせる奴だよ、お前は……珱嗄)」
男性は一斉に食事に手を伸ばす子供たちを見ながら、そんなことを考えて自分も目の前の食事にありつく。
そんな彼のエプロンについている名札には、彼の名前が書いてあった。
―――"
鬱展開続いてますが、ハッピーエンドになるのでご安心くださいませ汗
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