◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
立花響、風鳴翼、雪音クリス、三人の装者がそれぞれの胸に何かを抱えて思い悩み、この先どう進むべきなのかを探し始めた時―――事態が動いた。
それは二課の中から始まる。
立花響が雪音クリスと行動を共にし、二日が経過した。
一先ず二課の監視下には置いているので心配はない。小日向未来にもそのことは伝えており、立花響が無事であることは承知済みだ。二課としても、彼女には考える時間が必要なのだろうと考え、立花響と雪音クリスの動向は追いながらも、手は出さないようにしている。
そんな状況で今日、ある人物の声で急遽ミーティングが行われることになった。
二課の指令室にて集まったのは、風鳴弦十郎をはじめとする二課の面々、風鳴翼、そしてこのミーティングを開くことを進言した櫻井了子である。
「それで、どうしたんだ了子君。急にミーティングとは」
全員が集まったところで、弦十郎がそう言う。
全員の視線が櫻井了子に集まる。今日皆を集めた当の本人は、普段のおちゃらけたような様子もなく、かなり雰囲気も違った。表情も真剣で、少し緊張しているようにも見える。
そんな彼女がこれから発する言葉から、現状の均衡は崩れ始める。
「雪音クリスを使い、ノイズを操って事件を起こしていた黒幕は私よ」
突然の自白。
指令室の中が一気にざわつき、また一気に緊張感に包まれた。
それもそうだろう。仲間だと思っていた、しかも自分たちの扱う技術の全てを知る技術者が、突然全ての事件の黒幕だと言い出したのだから。
櫻井了子は結っていた髪を解き、ブルーライトカット機能でも付いているのか色の付いた眼鏡を外す。
「私の真の名前はフィーネ……超先史文明時代から生きる巫女よ」
そう言うと、彼女の髪の色がクリーム色へと変化していき、瞳の色も変化する。完全に櫻井了子の面影を消し去って、全くの別人へと変貌してしまった。
弦十郎もその姿を見て流石に驚愕を隠せず、若干目を大きく開いてしまう。櫻井了子という人間がそもそも偽物であったのかと、誰もが事態を理解できずにいた。
「フィーネ……"終わり"の名を持つ者……」
「いや、だが了子君はずっと昔から研究者として仕事をしていた。一体いつから君は……」
「私は超先史文明時代から生き永らえてきた、その方法は……私の遺伝子を持つ器を介してあらゆる時代の刹那に転生すること。リインカーネーションシステムと呼んでいるが……これによって私の遺伝子を持つ人間がアウフヴァッヘン波形に触れた時、私はその人間の身体で蘇ることができる。十二年前、櫻井了子も立ち会っていた『天羽々斬』の起動実験の際、そのアウフヴァッヘン波形に触れることで櫻井了子の内に私は目覚めたのだ」
ミーティングのためにと用意していたホワイトボードを使って、櫻井了子――否、フィーネは自身のことを説明していく。自身がどのようにして生き永らえてきたのか、そして櫻井了子という人間は確かにいたことも。
つまり、フィーネは櫻井了子という人間の中で目覚め、その身体を乗っ取ったということである。魂と遺伝子に刻まれたフィーネとしての器が、彼女をあらゆる時代の刹那に存在させてきたのだ。
思いもよらない壮大な話に指令室は数秒の間静まり返ってしまう。あまりにも話の内容が壮大過ぎて理解に時間が掛かっているのだ。
だが弦十郎は理解が及ぶかどうかは別として、何故今になってそれを打ち明けたのかを考えだす。
「それを俺たちに話すことで、何が目的なんだ?」
「ハッ、私だって出来ることならこんな行動に出るつもりはなかったさ」
「なら何故だ」
弦十郎の問いかけにフィーネは自嘲するように笑った。
それこそが彼女の纏う緊張感の理由でもあるのだろう。敵同士であったのに、アドバンテージでもあった匿名性を手放すような真似をする理由―――真っ当に考えるのなら、それは攻撃にはなりえない。みすみす敵の手中に落ちに行くようなものだ。
だがそうしなければならない理由が彼女にあるというのであれば、弦十郎にも多少の答えは容易に想像がつく。
「私たちで争っている場合ではなくなったからよ」
「……泉ヶ仙珱嗄の母親、か?」
「その通り……アレは、私たちが想像しているよりも遥かに桁外れな人外だった……だから私は正体を明かしたのだ。私の手中にあるネフシュタンだけでは、到底敵うとは思えないからな」
「彼女について、何か知っているのか?」
フィーネはホワイトボートに書いた自分の転生システムについての図解を消していく。そして再度ボードにサラサラと何かを書き始めた。
弦十郎の問いかけに対して、口頭での説明を交えながら見覚えのあるようなイラストを描いていく。
「私も詳しくは知らない。事実、奴の名前もつい先日知ったくらいだからな……ご丁寧にご本人が会いに来て自己紹介をしていった」
ボードに描かれていたのは、宇宙創成の成り立ちのようだった。
「現状この宇宙が生まれた時から現在まで、およそ138億年という時間が経過していることは、既に幾多の観測と計算によって算出されている。地球が生まれたのは今から46億年前、そこから生命が誕生したのは40億年前だ。つまり、この地球上において生命の歴史が生まれたのは40億年前ということになる……そこから現在に至るまでの間、我々地球生物は数多の進化を遂げてきた」
「一体何を……」
「未だに地球外生命体が存在する確信は得られていないが……もしもいたら? 我々の歴史を遥かに上回る年月を積み重ねてきた生物が存在するとしたら?」
「!?」
フィーネが語る宇宙創成からの歴史、生命の起源、人類の歴史。超先史文明時代より永く生きる彼女が語るその疑問は、まさかと思わせるものだった。
彼女が何を言いたいのか、弦十郎は察してなお信じられない。
「彼女が、そうだというのか?」
「そうだ。奴の名は"安心院なじみ"……宇宙誕生よりずっと前からこの世界に存在してきた、まさしく神話以上の化け物だ」
「宇宙誕生よりずっと前から……!? 最低でも138億年の年月を生きるような存在が、本当にいるというのか!?」
「そんな程度で収まらないかもしれないけどな……ともかく、奴は埒外の怪物だ。最早全人類が手を取り合って尚奴をどうにかできるかもわからない。そんな化け物が今、我々に干渉しに来ているのだ―――敵対している場合ではないと判断した」
フィーネの言はとても理に適っていた。
本当にそれほどの怪物が自分たちに干渉してきているというのであれば、その目的がどうであれ危険視すべき存在だろう。まして自分たちが扱っている聖遺物が誕生するより以前に存在していたような存在だ、手に余りすぎる。
そこまで話を聞いて、ようやく弦十郎たちにも理解できた。
フィーネがどうして自白まがいなことをしてきたのか。それはより強大かつ最強の存在が現れたから。
フィーネの目的がなんだったのかはさておき、下手をすればノイズによる被害以上の何かが起こる可能性が十分にあるこの状況で、ネフシュタンの鎧一つ、身一つで対抗できると思うほど愚かではないということだ。
「つまり、協力関係を結びたいということか」
「というよりは休戦だな。こんな状況にあっては少しでも戦力が欲しい。私の目的を教える気はさらさらないが、一先ず奴をどうにかするまではお前たちと協力しよう……奴をどうにかできた瞬間から休戦破棄、その時は私を捕まえるなり殺すなり好きにすればいい。その時は私も抵抗するがな」
「なるほどな……だが休戦に応じず我々が君を捕まえるとは思わなかったのか?」
弦十郎の言葉で緒川を含む職員が銃を構えてフィーネを取り囲む。
だがフィーネはそんなことには動じる様子もなく、不敵な笑みを浮かべた。
「いいのか? シンフォギアを含め、聖遺物を活用する方法は私の生み出した『櫻井理論』をおいて他にない。誰よりもこの私が聖遺物について膨大な知識を保有している……お前たちは私以上の強大な存在と戦うかもしれない状況で、私という価値を見出せない愚か者か?」
「……」
「シンフォギアなど私の技術の一部を用いて作った玩具でしかない。時間と労力、そして私の技術の粋を尽くせば、もっと凶悪な兵器を作り出すことだってできるのだ……それでも、私を捕らえるか?」
フィーネは確信しているのだ。
自分抜きでは二課に今以上の戦力は期待できないこと、自分がその気になれば多くのものを与えることができるということを。
それを捨ててフィーネを捕らえたあと地球が消し飛ばされようものなら、その絶望は計り知れない。弦十郎もそれはわかっているはずだ。
もはや国防どころの話ではない。
人類を守るどころの話でもない。
この宇宙規模での話なのだ。
ならばどうするべきなのか、誰にでもわかることだ。
「……銃を下ろせ」
弦十郎の指示で全員銃を下ろす。
そして弦十郎がフィーネの方へと一歩近づくと、フィーネと弦十郎は互いの拳が届く距離で目を合わせた。
「君がフィーネであろうと、俺にとっては今まで一緒に戦ってきた仲間だ。そんな君が俺たちを頼ってきたんだ、断るわけにはいかないな」
「フン、相も変わらず甘いな」
「全てが終わったら、君との決着は付ける。それまでは、よろしく頼む――了子君」
「……仕方ないわね、この天才老古学者の私に任せなさい♪ 弦十郎君」
フィーネとの決着は全てが終わってから。
それまでは今まで通り二課の櫻井了子であること。それが弦十郎とフィーネの間で暗黙の約束となった。
互いに握手を交わすと、フィーネの姿は再度櫻井了子の姿へと変わっていく。
そうして休戦が決定したところで、具体的に今後どのように動くべきかの話し合いへと移動しようとした、その瞬間のことだ。
―――パチ、パチ、パチ
どこからともなく拍手の音が一人分、聞こえてきた。
全員の視線がその音の方へと移動する。そこは普段オペレーターである藤尭が座っている椅子だった。ミーティング故に全員が立っていたことで空いていたその椅子に、一人座っている人物がそこにいた。
いつから其処に居たのか分からなかった。
最初からいたようにも思えたし、突然今現れたようにも感じられる。
それでも、誰も気が付かなかったことが驚きであった。
「『いやいや』『感動的だね!』『敵同士だった者が』『より大きな巨悪を前に手を組むなんて』『まさに週刊少年ジャンプみたいな熱い展開!』『僕は感動したよ』」
そこにいたのは、この場において誰よりも浮いていて、気が付いてしまえばどうして気が付かなかったのか本気で分からないくらい異質な少年だったからだ。
学ランを着た少年はワザとらしくハンカチで涙を拭う仕草をしながら、括弧付けたような喋り方で大袈裟な物言いをする。この場にいる誰もが、その少年を前に気持ち悪いと思った。
「君は……何者だ?」
「『僕?』『あ、そうそう』『自己紹介しないといけないね』『なんせ初対面だし』」
少年は椅子から立ち上がると、何かを紹介するように片手の手のひらを見せるポーズを取ると、こう続けた。
「『初めまして』『週刊少年ジャンプから来ました』『球磨川禊です』『よろしくね!』」
背筋に走る悍ましさ、混沌よりも這いよる
かつて泉ヶ仙珱嗄と安心院なじみによって人生唯一の勝利を手にした絶対敗者。
球磨川禊が、そこにいた。
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