◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
球磨川禊が現れ、二課を急襲した翌日。
一機の飛行機が日本へと到着した。
どこから来たのかは極秘とされており、誰が乗っているのかも内密に日本へと到着したのだ。その裏には日本政府との交渉はあったものの、その交渉自体がありとあらゆる組織に対して隠蔽されている。
それほどまでに重要人物なのか、はたまた表立って言えない事情を抱えているのか、その半ば密航のような形で入国した者たちが今、リディアンの地へと向かっていた。
高速道路を走る黒いボックスカー。
日本製の車でありナンバーも偽造されたその車は、何の変哲もない車という姿で風景に混ざっている。
その車の中に、運転手を含めた五人の人間がいた。
「それにしても大袈裟ね、こんなに厳重に隠れて入国するなんて」
「仕方がありません。レセプターチルドレンには戸籍や出自というものが抹消されている以上、下手に目立てばこちらの動きが悟られます」
桃色の髪が猫耳のように癖付いた大人びている少女が呟いたことに、年配の女性がそう答える。社内にいる五人の内三人は、まだ年端も行かぬ少女たちだった。
「悟られるって、誰に?」
「フィーネに、です……外部の協力あってレセプターチルドレンはフィーネの管理下から保護され、今は安全な施設で過ごせていますが……それでもフィーネの器となる可能性がある子たちには変わりありません……我々の動きがフィーネに悟られれば、再度あの子達が奴の手に落ちる危険性が高まります」
「……フィーネのいる特異災害対策機動部も日本政府の組織、だから国家機密以上の機密として私達の入国を隠蔽したってことね」
年配の女性の説明に、桃色の髪の少女は納得した様子で溜息を吐いた。
その話を聞いて、それぞれ隣に座っていた金髪の少女と黒髪ツインテールの少女は対照的な表情を浮かべていた。金髪の少女はちんぷんかんぷんといった表情で、黒髪ツインテールの少女は大体理解した様子で頷いている。
その証拠に、黒髪ツインテールの少女は疑問に思ったのか年配の女性に質問をする。
「でもマム、私たちレセプターチルドレンを研究していた米国連邦聖遺物研究機関……『F.I.S』はフィーネが設立した組織なんでしょ? マムもそこに所属していた……フィーネから私たちレセプターチルドレンを解放したのならマムはF.I.S.を裏切ったってことになる……なのにこんな隠蔽操作ができるとは思えないんだけど……」
「確かにそうですね、組織を欺いて勝手な真似をしたのであれば組織の力は使えません。ですが、そもそもF.I.S.という組織を支配していたのはフィーネではないのです」
「……どういうこと?」
「今は知る必要はありません……ともかく、我々は今、国家を超越した場所で動いています。私達の持つシンフォギアは四つ……先んじて入国したメンバーもこれから向かう拠点で既に準備を始めています」
「セレナとウェル博士ね」
「そう、唯一『LiNKER』を必要としない適合係数を持つあの子は貴重な戦力ですからね。これから始まる戦いのために、少しでもこちらの空気に慣れてもらわなくては」
車が高速道路を下り、普通の道路へと入る。
マムと呼ばれた女性は、マジックミラーとなっている車窓から外を眺めた。これから始まるのは、彼女にとってはあまり気の進まない戦いである。
彼女の裏に存在するのは、国家よりも強大な存在だ。組織を裏切りレセプターチルドレンたちを解放するよう彼女を唆した人物でもあり、フィーネを欺きF.I.S.という組織の力を支配している人物。
自分たちの意思でやっていることでも、利用されているのかもしれない、と思わされるほど強大なその人物を思うと、マムと呼ばれた女性は不安を消しきれない。
「……さて、今後の動きを確認しますよ。マリア、切歌、調」
「イエス、マム」
改めて三人の少女たちに向き直り、気を取り直す年配の女性。
姿勢を正した三人の姿勢を受け、女性は説明する。
「まずこれから、セレナとドクターの待つ拠点に着き次第、準備を整えます。三人ともドクターからLiNKERを受け取り、シンフォギアの最終調整に入りなさい……くれぐれも体に負荷の残らない範囲で、です」
「わかった……マムは?」
「私はドクターと共に二課の情報を整理します。主にフィーネの動向ですが、先ほどドクターから連絡があり、我々の移動中にまた何か変化があったようです」
「……それらが終わったら?」
女性の説明に頷き、その後のことを尋ねたのは黒髪ツインテール……調と呼ばれた少女だ。自分の首にぶら下がった赤い結晶を握りしめ、不安を押し隠すように女性を見つめている。
そしてそれはマリアと呼ばれた桃色の髪の少女も、切歌と呼ばれた金髪の少女も同じようで、揃って同様に女性の返答を待っていた。
女性は少し間を置いてから、それに答える。
「我々の目的は、フィーネの確保……つまり、二課に接触します。場合によっては……戦闘になることも頭に入れておきなさい。現在、フィーネは完全聖遺物を保有している上、シンフォギアの設計者です……シンフォギアの弱点も彼女なら全て把握しているはず。油断すれば全てが一気に瓦解する可能性も十分にあります……いいですか? どんな時でも冷静に、考えて行動しなさい。我々の肩に、残してきた子供たちの未来が掛かっていることを忘れないように」
フィーネとの接触、そして戦闘になる可能性。
フィーネがシンフォギアの設計者である以上、如何に四つのシンフォギアがあろうと、確実に勝利を収められるわけではない。まして向こうにもシンフォギアがあり、完全聖遺物すら手中にあるのだ。
より慎重に動かなければ、一気に全てが台無しになる。
自分たちの背に乗っている責任の重さに、三人の少女たちは不安でいっぱいになりながらも自分を奮い立たせる。負ければ子供たちの未来は失われ、勝てば平凡な幸福を掴み取ることが出来るかもしれない。
「そしてフィーネを確保したのち、F.I.S.の解体とレセプターチルドレンの完全解放の交渉をするつもりではありますが……もしも交渉が行えない、もしくは決裂した場合……切歌、わかっていますね?」
「……私のイガリマで、フィーネを消し去るデスね」
「そう、貴女にしかできないことです……そしてその時は、私達も共に罪を背負います」
ぎゅ、と握りしめられた胸の結晶。
強く握りすぎて白くなった切歌の手を、調がそっと両手で包んだ。その上から、マリアも同じように。
「大丈夫だよ切ちゃん……どんな未来が待っていても、私たちはずっと一緒」
「調……」
「そうよ、それに……言いなりになるしかできなかった私達に、ようやく自分自身の手で、足で、未来を掴み取るチャンスがきたのよ。絶対に勝つ」
「私達が一緒なら、出来ないことなんて何もないよ」
「……そう、デスね! ……えへへ、二人の手、あったかいのデス」
二人の言葉で頬を緩ませて安心したように笑う切歌の手が、それぞれ調とマリアの手と繋がれる。
「そろそろ着くぞ」
そこへ運転席にいた男性から声が掛かる。
運転していたのは黒瀬だ。
その声に全員が前を見ると、目の前にはパッと見た感じでは廃墟と化した工場地帯があった。車はその工場地帯にある建物の一つの中へ入っていく。
そしてその中には地下通路への入り口が開かれており、その中へ車を走らせると、入り口が閉まり、一瞬暗くなった通路に電灯が灯る。
廃墟となった地上と違って、そこは綺麗に整備された研究施設だった。
その通路を進んでいき、突き当りで車を停止させる。
「ここだ」
黒瀬の言葉で全員が車から降りると、止まった車の正面には厳重な扉が存在しており、黒瀬が扉横のモニターを弄ると鈍い音と共に開いていく。
扉の奥には最新鋭の研究設備がいくつも存在しており、信じられないほど広い空間が広がっていた。驚愕に絶句するマリア達だが、黒瀬が歩き出すと慌ててそれについていく。マムと呼ばれた女性は車のバックトランクに仕舞われていた折り畳み車椅子に座り、調がそれを後ろから押していた。
そして空間を抜けて一室へと入る。
「おや、来ましたね」
「長旅お疲れ様でした」
そこには白髪の若い研究員と、明るい髪色の少女がいた。
黒瀬達の到着に気づくと、二人とも歩み寄って声を掛けてくる。
「時間通りか、調子はどうだ? ウェル、セレナ」
「ええ、非常に素晴らしい研究施設ですよここは。必要なものが全て揃っている……LiNKERも潤沢に揃えられましたし、すぐにでも動ける状態です。指令室としても使えますし、街中の監視カメラやネットワークに接続して情報収集も可能ですよ」
「私も時差の調整は出来てますし、シンフォギアの調整もばっちりです」
二人の名前は、研究員がウェル博士、少女がマリアの妹でセレナ・カデンツァヴナ・イヴだ。
「了解……じゃ、俺も次の仕事に取り掛かるから……あとはナスターシャとウェルに任せるぞ?」
「わかりました」
「よし……じゃあ、皆まずはしっかり身体を休めて疲労を取ってくれ」
黒瀬はセレナ、調、切歌、マリアの順にポンと頭を軽く撫でて労うと、部屋を出て行った。彼に対して全幅の信頼を置いている少女たちは、その手を拒否することなく受け入れ、軽く笑みを零す。
そして黒瀬がいなくなって一拍後、ウェル博士とナスターシャと呼ばれた女性は動き出した。
二人は情報の擦り合わせに、他の三人はセレナの案内でそれぞれの部屋へと案内されていった。
◇ ◇ ◇
席を外した黒瀬は、部屋を出てから再度車へと戻ってきていた。
運転席に座り、ふぅと息を吐く。
そして軽く座りなおしてからシートベルトを締め、車を発進させた。バックで通路を戻っていき、最初に入ってきた地上出口から廃墟となった建物へと出る。そこで車の向きを反転させて、建物の入り口から外へと出た。
工場地帯を抜けて一般道へと戻ると、適当に車を走らせる。
「で、ここからどうすんだよ」
誰もいない車内で、黒瀬は誰かにそう問いかけた。
何も返ってくるはずのないその問いかけに、果たして返答はあった。
「もちろん、計画は進めていくよ」
「……ほんと、どこにでもいるよなぁアンタ」
助手席から返ってきた声に隣を見れば、そこには先ほどまでいなかったはずの珱嗄の母親――安心院なじみがそこにいた。
「僕はどこにでもいるからね。今のところ僕の予想通りに事は進んでいるし、もうじき役者も揃う……だからまぁ、君は良きタイミングでこっちに合流してくれていいよ」
「良きタイミングっていつだよ」
「君が良いと思ったタイミングでいいよ……既に必要な種は撒かれている」
安心院なじみはうっすらと笑みを浮かべ、隣にいる黒瀬がぞっとするほどの冷たい雰囲気を放つ。そして冷や汗も出ない緊張感の中で、安心院なじみは淡々と言い放った。
「あとは芽が出るのを待つだけでいい」
その後はただ、無言な二人を乗せた車が悠々とドライブするのみだった。
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