◇終 戦姫絶唱シンフォギアにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第二十五話 自動人形、そして十六夜

 某所、薄暗い建造物の中に、球磨川禊はいた。

 玉座の間の様な空間。玉座の前には四つの台座があり、そこには四体の人形がそれぞれのポーズを取って立っている。球磨川はその四つの台座の中心に立ち、玉座にいる人物へと向き合っていた。

 そして玉座に座っていたのは、まるで魔法使いの様な恰好をした金髪の少女。癖のある髪を長い三つ編みで括っており、少女の外見に似合わずキリリと冷たい瞳を細めて球磨川を見下ろしていた。

 

 球磨川はバツが悪そうに頬を掻きながら口を開く。

 

「『いや、ごめんごめん』『正直あそこまでやるつもりはなかったんだけど』『新キャラが登場した時はインパクトが大事じゃない?』『それに、あまりにも正義(プラス)な奴ばっかりだったから』『久しぶりにはしゃいじゃったんだよね』」

 

 ヘラヘラと笑いながら謝罪する球磨川。

 全く悪いと思っていなさそうなその言葉に、玉座の少女は短く溜息をし、身体に対してかなり大きい玉座に頬杖をついた。

 

「過ぎたことは仕方ないし、挨拶代わりと思えばさして問題はない……だが、今後は少し自重しろ。オレ達の目的を達成するためには、お前は少々暴れ馬過ぎる」

「『はーい!』『キャロルちゃんみたいな美少女を乗せられるなら』『僕は喜んで馬になるよ!』『野を駆け山を越え川を飛び越えて、時には大海原に駆け出す勢いだよ!』」

「馬じゃ海に沈むだけだろうが」

「『そこはキャロルちゃんがどうにかするでしょ?』」

「わかった、お前が馬ならオレは乗らん」

 

 キャロルと呼ばれた玉座の少女は、ああ言えばこう言うとばかりに球磨川の言動に呆れかえる。心底面倒くさそうにしているが、それでも球磨川という存在は重要らしく数々の無礼な言動を容認しているのが見て取れた。

 

 キャロル・マールス・ディーンハイム。

 

 稀代の錬金術師であり、フィーネのリインカーネーションシステムとは別の手法、錬金術の秘奥によって精製したホムンクルスに自身の記憶を転写することで長い時を生きてきた錬金術師、それが彼女の正体である。

 彼女が数百年を生きてなお達成したい目的とはなんなのか、そしてそんな彼女に従う球磨川禊の正体とはなんなのか。それは未だに不明となっているが、キャロルの纏う雰囲気からは憎悪や怒りといった感情は見えない。

 

「『そういえば』『この子たちはまだ起動しないの?』」

 

 すると、球磨川が四体の人形に視線を向けながらキャロルに問いかけた。

 この四体の人形は、キャロルが錬金術を用いて制作した自動人形(オートスコアラー)である。この人形たちは錬金術によって生み出されるエネルギーを素に自我をもって動かすことが出来る代物であり、キャロルがその気になればすぐにでも起動できるのだが、未だに起動していなかったのだ。

 

 キャロルがその問いかけにフン、と鼻を鳴らすと、球磨川の視線がキャロルの方へと戻る―――と同時、球磨川の胸を赤い水晶が貫いた。

 

「『え』」

 

 ズルリとその水晶が抜き取られると、球磨川の胸に空いた大穴がごぷりと血が流れ出た。がくっと膝を着いて後ろを振り向くと、球磨川の背後には先ほどまで台座の上でポーズを取っていた人形の一体が、歯を見せて笑みを浮かべて立っている。さらにその後ろにも、残る三体の人形が各々のポーズを取りながら動いていた。

 そしてそれを確認すると、言葉もなく球磨川は絶命した。

 

「コイツ、すっごい弱っちぃゾー!」

「地味に死んだな」

「不穏な気配を感じたので別段止めませんでしたが、良かったでしょうかマスター?」

「良いんじゃないの? そこにボケッと立ってる方が悪いんだし☆」

 

 球磨川の問いの返答が、そこにあった。

 オートスコアラーたちは既に起動しており、キャロルの為に動き出している。

 

「というわけだ、こいつらは既に起動済みだ」

「『なるほどね』『なら僕のこともちゃんと伝えておいてほしかったけど』『皆かわいいから許してあげるよ』」

「オレを見縊るな、ちゃんと伝えておいた」

「『あ、伝えてたの』『なのにこの仕打ち?』『キャロルちゃん僕のこと嫌い?』」

「ああ」

「『何の躊躇いもないじゃん』『ショックぅ~』」

 

 オートスコアラー達の自我はキャロルの人格をベースに作られているので、ある意味彼女たちはキャロルの一部が実体化したようなものなのだ。

 ならばキャロルが生理的に嫌いなものは彼女たちも嫌いだし、キャロルが無条件に好むものは彼女たちも好む傾向がある。故に、キャロルが協力者として球磨川を紹介していたとしても、彼女たちは球磨川を攻撃することに躊躇いがない。

 

 球磨川が隅の方で体育座りをしていじけだしたので、キャロルは無視して話を進める。

 

「ミカ、ガリィ、ファラ、レイア……直に出番がくる。用意をしておけ」

「了解だゾ!」

「はーい、ガリィにお任せです☆」

「マスターの御心のままに」

「お任せを」

 

 四体のオートスコアラーたちは、マスターであるキャロルの言葉に各々のポーズをもって頭を垂れる。球磨川の存在感など一切無かったかのように完成された主人と人形たちの構図に、球磨川は場違い感を感じて更に落ち込んだのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ―――一方、そうして様々な陣営がリディアンの地に集まってきている中で、リディアンから遠く離れた海外の地で、とある人物達が顔を合わせていた。

 どこにあるのかも分からない、あらゆるものから秘匿された薄暗い空間。生活感のある部屋ではあるのか、ソファやテーブル、ベッドなども用意されている空間であり、その場には四人の人影があった。

 部屋の中にはかなり重たい緊張感が走っており、位置取り的には一人に対して三人の人影が向かい合っている形。

 

 一人側は不敵な笑みを浮かべており、三人側が警戒心を剥き出しにして武器を構えている。

 

「……それで、お前は一体何者だ? 此処はありとあらゆる国家、機関、組織から秘匿された我々のアジト。一般人が迷い込む可能性は欠片もない場所だ」

「それに、配備していた筈の警備を堂々と潜り抜けてきたのだから、一般人という言い訳も聞かないワケだ」

「素直に話せば無暗に殺したりはしないけど……抵抗するなら力づくで投降してもらうけどね?」

 

 男装の麗人と呼ぶに値するプラチナ色の長髪を靡かせる女性が拳銃を構えて問いかけ、その背後で黒髪に眼鏡をかけた少女と、青い髪の女性が同様に身構えていた。

 対面にいるのはぱっと見拳銃を持つ女性より若いが、どこか格の大きさを感じさせる青年。何処で買ったのか、ブルーの民族衣装の様な服を着ており、青黒い髪と妙にマッチしている。

 

 青年の瞳がすぅっと細められると、その視線に三人は思わず一歩引いてしまった。完全に気圧されてしまっているのが自分達でも理解できる。

 

「まぁ、一般人ではあるけど……一般人かどうかは俺自身もよくわかってないんだよ」

「……どういうことだ」

「直感に従って密航したりヒッチハイクしたりショッピングしたり観光を楽しんでいただけだけど、気づけばよく分からないトコに来てたんだよね」

「そんなワケが……」

「でも事実だ……で、お前らはどういう秘密結社のどちらさん?」

 

 青年の言葉に嘘があるようには思えない三人。

 それでも気圧されているばかりではいけないと思ったのか、強気に一歩前に出た拳銃の女性がキッと眼光を強くして言い返す。

 

「質問しているのはこちらだ、お前は誰だ? 言語と見た目からして日本人のようだが」

「……ま、いいか。俺の名前は泉ヶ仙珱嗄、面白いことが大好きな―――……今は一般人だよ」

「泉ヶ仙珱嗄……? お前が?」

「! 俺のことを知ってるのか?」

 

 女性は拳銃を下ろして驚いたような声を上げる。背後にいた二人もまさかといった顔で呆気に取られていた。

 青年――珱嗄からすれば、彼女たちとは初対面であり、今までの人生において一切関わったことのない相手だ。そんな相手が何故か自分の名前を知っているというのは、奇妙な話だろう。

 

 直感に従ってここまで来たが、よくわからない秘密結社らしき人物たちが自分のことを知っているとなると、やはりその直感は正しかったらしい。

 

「武装解除……どういうわけだ? 警戒を解くなんて」

「貴方を傷つけることを、我々の組織では一切禁じられている。出会うことがあるとは思っていなかったけれどね」

「組織?」

「我々はパヴァリア光明結社―――人類の歴史の裏で暗躍してきた錬金術師の組織よ」

「錬金術……なるほど、新しい要素が増えたな。それはノイズとも関係あるのか?」

「直接的には関係ないけれど……ノイズを打倒することもできる。聖遺物同様の異端技術であり、人が人の身で神の領域へ至る術になると、私達は確信している」

 

 錬金術、聖遺物、異端技術、そして神の領域――珱嗄の中で新たな情報が増え、立花響たちの纏っていたシンフォギアのことも思い返しながら、整理する。

 この世界で自分がどういう存在なのか、それを探して行方を眩ませた珱嗄であったが、それを見つける前に様々なものが珱嗄の前に現れてきている。

 更には、自分の正体を知る者が裏で暗躍しているらしいことも判明した。

 

 ますます興味深いことになってきている。

 

「面白いな、それ……それで? お前たちはこれからどうする?」

「貴方が去るというのなら止めはしない。ただ、ここに留まると言われても我々は何も関与しない……貴方への無用な干渉は我々にとっても何の利益にもならないから」

「なるほどね……じゃあ、立ち去るとしようかな。面白い話も聞けたし……興味深い存在にも会えたしね」

 

 珱嗄はそう言って部屋を出ていく。

 不敵な笑みを浮かべて、部屋の出入り口である扉とは逆に設置された扉の方を一瞥しながら。

 

 三人の錬金術師は珱嗄が去るのを見送りながら、その姿が見えなくなったことで大きく息を吐き出した。丸腰の相手だったにもかかわらず、その圧倒的な格の差に圧倒されていたのだ。緊張感からの解放により、三人は各々ソファや椅子に腰を落とす。

 

「あれが……泉ヶ仙珱嗄……別格だな」

「だが聞いた話ではあれでまた未覚醒なんだろう? 完全に覚醒したらどうなるか……想像もつかないワケだ……」

「……こっわーい」

 

 三人ともが戦慄を隠せないようにそんな言葉を零す。

 パヴァリア光明結社として、一錬金術師として、目指すべき目的はあるものの、その目的を大きく塗り替えてしまいそうな存在の登場に、内心では恐れを禁じ得ない。

 

「まぁ、珱嗄はマジで別格だからな」

「……今にして思えば、お前が出てくる時点でおかしいと思うべきだったな」

 

 そこへ部屋の奥から一人の人物が声を掛けてきた。

 拳銃を持っていた女性が視線を向けると、そこには金髪の髪をヘッドホンで抑え、学ランを着用した少年が立っている。笑みを浮かべ、腕を組んで壁に寄りかかっていた。

 

「逆廻十六夜……お前の様な規格外を見て、当時は人生で一番驚いたものだが……そのお前をして別格と言わすのか?」

「ああ、俺はサシでアイツに一度だって勝ったことはない。仲間と勝ったことはあったが、それだって珱嗄に手加減されていたから勝てたようなものだからな……ま、今の珱嗄は何の力も持たねぇ凡人に成り下がってるから、俺どころかお前らの足元にも及ばねぇ」

 

 逆廻十六夜と呼ばれた少年は、まるで珱嗄のことを知っているような口ぶりでそう説明する。組んでいた手を放し、ポケットに手を突っ込みながら悠々と部屋を横断していくと、珱嗄が出て行った扉を開けた。

 

「ま、時が来るのを待てって言われてるからな……俺も馬に蹴られて死ぬつもりはないさ」

「……何が起ころうとしているというのだ」

「さぁな? ただ……下手に手を出すと怖い奴がいるんだよ……お生憎サマ、この世界はもう一つの物語じゃ済まないとこまで来てるぜ」

 

 女性の問いかけに対して十六夜はそう言うと、後ろ手に手をひらひらと振りながら部屋を出て行った。

 

 




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